« 脱線2~ルール運用の知恵 | トップページ | 脱線4~保守主義の本質はリスク管理? »

2012年9月 3日 (月曜日)

脱線3~リスク管理

2012/09/03

「リスク管理」というと、何か高級ブランド品のようでカッコいいが、ロゴさえあれば一定の価値が保証されるという形式的なものではないし、好きな人だけが持つ嗜好品でもない。マイナスの影響を想定して使われることが多い言葉だが、ある変化がプラスの影響を持つかマイナスかというのは紙一重で、マイナスだけ察知できればよいというわけでもない。不確実な将来に対して適切な備えをする。競争相手より良い備えをすれば、大きな利益につながる。誰もが欲しがるが、完璧にできる人はいない。だが、上手い人もいれば下手な人もいるし、企業における巧拙の差は意外に大きいように思う。

 

リスク管理は特定部署が担うだけで足りるものではない。確かに、リスク管理に関連して形として見えるもの、例えば、リスク管理規程だとか、事業計画、予算統制とか、稟議書、内部監査等々については、それぞれ管理を担当する主管部所がある。だが、それらを支え、魂を入れるのは、リスク管理意識というか、当事者意識という組織構成員一人ひとりの精神的な態度やそれを重要なものとして扱う組織の雰囲気、即ち、統制環境だ。

 

ちなみに、あの内部統制の3点セットを思い出せる方は思い出してほしい。その3点セットの中心をなすリスク・コントロール・マトリックス(RCM)という表の各行は、内部統制目標だとか、リスク、アサーションといった単位で細かく作成したはずだ。うざい、と思われた方も多いと思うが、あれは各現場にリスク管理“意識”を高めるためのツールでもあった。(細かくし過ぎると形式的になり、逆に形骸化する。みなさんのところは大丈夫ですか?)

 

あらゆる部署が、それぞれに直面している事業環境の変化を察知し、影響を評価し、対応行動を立案する。だが、今のままで良いと高を括っている人が多い部署ほど、変化への感度が低く、外部や関連部署と摩擦を起こし、のちのち組織全体に迷惑をかける。もし、経営者がそうであれば、その企業は悲劇だ。そういう人がトップになるはずがないと思われる方もいると思うが、組織全体に変化を嫌う雰囲気が強ければ起こりえることだし、経営者が、営業面の関心は強くても管理には無関心(あるいはその逆)という場合でも、無関心な分野で起こりえると僕は思う。

 

そういう組織・分野では、ルールは細則に至るまで遵守が最優先され教条主義的に運用されるか、逆に無視されて、低レベル・ご都合主義での組織間の利害調整が行われやすくなる。ルールの運用に知恵がない。これでは長期的な展望、長期的視点に立った経営など期待できない。

 

では、どうしたらよいか。

 

僕の私見に過ぎないが、仕組みも大事だが、もっと大事なのは環境変化を察知できる人材を育てることではないかと思う。仕組みを作って安心してないか。それには、環境変化に敏感であれと言い続け、環境変化を察知しアクションを起こした人を評価し、逆に環境変化の認知能力の低い人にそれなりの評価をすることだと思う。察知したのにアクションを起こさなかった人にはそれなりの報いが必要だと思うし、察知できなかった人にも責任と限界を感じてもらわなければならない。ただ、繰返しになるが、完璧な人はいない。

 

この環境変化というのは非常に広い範囲を持っていて、すべてについて得意という人は少ないと思う。例えば、市場環境の変化を察知する能力と、目の前の顧客の表情の変化を察知する能力は違うと思うが、どちらも環境変化と言い得る。どちらも、予測(或いは期待)と実際に起こったことのギャップが変化を察知するきっかけとなる点は同じだが、前者では実際がデータとして入手できる場合が多く、後者は感覚で識別しなければならない。データを読む能力と顧客の表情を読む能力は鍛え方も異なる。得手、不得手ということもあるだろう。

 

ただ、予測(或いは期待)が重要という点については共通だ。予測がない場合はギャップもないので、変化を察知するきっかけをつかめない。予測をしない人、予測が甘い人は、改善ができるなら改善してもらう必要がある。改善できないなら予測ができる分野を探してもらうか、それなりの評価に甘んじてもらった方が良い。

 

人材を作るといっても、すべての人がそうなれるとは限らない。しかし、その過程で組織にリスク管理を重視する雰囲気ができることが重要だ。

 

この予測の企業経営レベルでの重要な例は事業計画や予算だが、「あれば良い」というものではないことは、建前でなくご理解いただけるだろうか。そう、ギャップから変化を察知・理解するためには、やはり精度が求められるからだ。

もちろん、すべての予測に同じ高い精度が求められるわけでもないが、少なくとも経営に与える影響の大きい、即ち、リスクの高い分野で、かつ、激しい変化が予測される分野・項目については精度を上げなければ役に立たない。

 

精度を上げることの意味は、予測と結果が一致するという意味ではない。致命的なリスクへの備えができることと、ギャップが測れる(識別・理解できる)という意味だ。もちろん、期待通りの成果が得られるに越したことはないが、予測レンジに達しなくても、或いは予測レンジを超えても、何故そういう結果になったのかを企業が理解でき、適切な対応行動へ繋げられることが重要だ。だがその結果、結果(実績)がついてくる可能性が高まる。それが企業の成長と事業継続につながると思う。

 

リスクの高い、変化が予測される分野・項目の代表例は、新規事業だろう。だが、経験のない事業で顧客や競合先がどう行動するかを予測するのは困難だ。だから、精度の高い予算策定は無理、鉛筆なめなめで良いと、諦めている方はいないだろうか。事前にどこまで徹底した顧客と事業の研究ができるか。

或いは、採算性が悪化している事業について、社内で大事にならないように楽観的な数字を出しておけ、なんて臭いがする予算案を見たことのある方はいないだろうか。きっと、たくさんいるでしょう。

 

頭の中の予測や期待を数字・金額にするのは大変な作業だ。だが、そこにこそ、事業を成功させたり、改善させる着眼点が転がっている。その精度を高めることについてどれだけ拘りを持てるか、そして、その拘りが社会と企業の両方の利益になるという目的に合っていて、その目的へ向かおうという姿勢・意思が強ければ、目の付け所がシャープですと言い切る根拠が生まれる。

 

この予測や期待が“会計上の見積り”に繋がっていくことは、容易に想像していただけると思う。そこに保守主義や重要性はどう関わるのか。これは次回以降に続くが、改めて今回のポイントをまとめておきたい。

 

  • リスク管理の仕組みも重要だが、人材の育成や組織の雰囲気がもっと重要
  • リスク管理は特定の部署の仕事ではなく、事業を遂行している現場が主役
  • 予測や期待の精度は、ギャップから原因分析ができ、適切な対応行動へつなげられるかで測る
  • 予測や期待はリスク管理に不可欠で、その精度を上げることへの拘りこそが重要

 

既に記載したように、リスク管理は企業の行動に合理的な説明を提供する。社会で、或いは企業内で、個別のルールより高次の目的への貢献が優先され、かつ、遵守か説明かというルール運用の知恵が働いていれば、活動しやすくなるに違いない。但し、企業にとっては社会へ貢献し対価を得ることが最も重要な目的であり、その存続ではない。この点を誤ると企業犯罪や経営者不正、粉飾へ繋がる。また、遵守か説明かで説明を選択した場合、社会一般に通用する説明が必要であることの根拠でもある。

« 脱線2~ルール運用の知恵 | トップページ | 脱線4~保守主義の本質はリスク管理? »

番外編」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/577176/55567590

この記事へのトラックバック一覧です: 脱線3~リスク管理:

« 脱線2~ルール運用の知恵 | トップページ | 脱線4~保守主義の本質はリスク管理? »

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ