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2012年9月 4日 (火曜日)

脱線4~保守主義の本質はリスク管理?

2012/09/04

保守主義というと、一般には政治的な立場を表す言葉で、「保守主義は伝統に倣い、これを墨守することを重要視する政治思想である。(Wikipedia)」とされる。だが、改革を否定するものではなく、例えばイギリスのサッチャー政権は保守党だが、国営企業の民営化や、それまでの労働組合の立場を尊重した社会・経済システムを市場重視へ大幅に改革した。何を「守るべき伝統」と考えるかで、保守主義の内容は様々だ。極端に言えば、労働組合の立場を「守るべき伝統」と考えれば、社会主義政党が保守と言われるのかもしれない。もしかしたら、政治的な保守主義は、漢字の意味とあまり関係のない言葉かもしれない。

 

では会計上の保守主義が守ろうとしているのは何だろうか。下記のように、企業会計原則では7つしかない一般原則の六番目に保守主義が規定され、さらに注解もついている。

 

六 企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。(注4)

 

〔注4〕保守主義の原則について(一般原則六)

企業会計は、予測される将来の危機に備えて、慎重な判断に基づく会計処理を行わなければならないが、過度の保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。

 

会計上の保守主義が守ろうとしているものは一般原則に示されている「企業財政上の健全性」だ。そして注解4では、そのために慎重なリスク判断に基づいた会計処理を行いなさいと言っている。この趣旨で、保守主義は「慎重性」という言葉で、置き換えられたり、補足されることがある。

 

ところが保守主義は、「たくさん費用を計上すると節税でき、財務的健全性が高まる」という意味に誤解されることも多い。しかし、これは保守主義の一側面ではあっても、すべてではないし、本質でもないと僕は考えている。

 

税務上加算調整しなければならない費用でも、計上すべき費用は計上すべきだ。しかし、この考え方だと加算調整する項目は、費用計上しても節税にならないので、費用処理してもしなくてもどちらでもいいことになってしまう。むしろ、加算調整するだけ面倒だから、費用計上を止めようということになりかねない。だが、それでは“保守的な会計処理”にはならない。そもそも、企業会計原則がわざわざ「節税しましょう」なんて基準を設けるわけがない。

 

本質は「予測される将来の危機に備えた慎重な判断」にあると僕は考えている。楽観への戒めだ。「予測される将来の危機」というと、今年2月にこのブログでも取上げようとした『「予測できた危機をなぜ防げなかったのか?」(マックス・H・ベイザーマン、マイケル・D・ワトキンス著、東洋経済新報社)』という本を思い出す。人間には楽観を信じやすく悲観を遠ざける本能があるという。この本能はこの本ばかりでなく色々なところで取上げられ指摘されているから、みなさんもご存じだろうし、具体的に思い当る方も多いはずだ。

 

例えば、「年末ジャンボ宝くじは10万本に1本5千万円以上が当たる」などと聞くと多少期待する。だが、それより高確率の「毎年1万人に一人交通事故で死ぬ」と言われても、自分のことだとは思わない。楽観できることは、困難に立ち向かって人生を生き抜くうえでは欠かせない本能だが、経験を積上げるとこの“保守主義”という知恵が生まれる。その知恵、慎重さに欠ける人を「まだ青いね」などという。(他人事ではないが・・・)

 

即ち、会計上の保守主義とは、将来の不確実性を伴う事象について、放っておくと楽観的な会計処理がなされやすいから、それを戒める原則だ。人間の本能に関することなので、節税云々より根が深く対処が難しい。企業は、或いは、企業経営者は、外部環境の変化に適用するため困難に立ち向かっていくわけだが、そこに慎重さが欠けると企業財政を破壊しかねない。保守主義は、困難に立ち向かうことを否定するものではない。だが、その際にしっかり研究して予測を立て、最悪の事態を避け、また予測と現実のギャップに適切に対処できる準備をするよう慎重さを求めている。もうお気づきだと思うが、これはリスク管理だ。すると会計上の保守主義の本質は、リスク管理の精度を上げよ、ということになる。

 

しかし、やはり疑問が晴れないという方が多いように思う。それでは会計処理の話ではなくなってしまうではないかと。もっと単純に「費用(負債)はなるべく早く、多く。収益(資産)はなるべく遅く、少なく。」が保守主義ではないかと。

 

そこで、もう一度注解4に戻ると、「過度に保守的な会計処理で真実な財務報告を歪めてはならない」との趣旨が述べられている。真実な財務報告とは企業会計原則の一般原則第一の真実性の原則のことだが、ここから次のいずれか(或いは両方)の意味を読み取ることができる。

 

  • 保守主義は真実性の原則の範囲で認められるもの
  • 保守主義は真実性の原則に従属するもの(真実性の原則を満たすための手段)

 

どちらが本質だろうか。前者であれば真実性の原則には一定の幅があり、その幅の範囲で利益少なめの処理をすることが保守主義であり、後者であれば正しい利益額を計算する(=真実の報告をする)ためには慎重な判断に基づく会計処理が必要ということになる。

 

恐らく、一般には前者の解釈がなされていると思う。それを全く否定するつもりはないが、それで十分とも思われない。というのは、一定の幅がそれほど大きなものになるとは思われないし、その程度のもので企業財政の危機が救われると思われないからだ。やはり後者の真実の報告をするために慎重な判断をせよ、というのが保守主義の本質ではないだろうか。

 

例えば、・・・

在庫を見て、それが販売可能かどうかは将来事象で不確実性がある。資産計上するにあたっては品質劣化がないか、流行遅れになってないか、数は正しいか、慎重に判断せよ。現場にその意識を徹底させ、実地棚卸を行え。

 

もし、契約で購入量が一定数量に達しない場合はペナルティが課されているとすれば、簡単に達成できるなどと考えず、達成できない可能性に意識を向け、可能性が高まれば速やかに対応できるよう準備をせよ。ペナルティを請求されてから慌てないように。

 

一定の金額の幅で在庫の品質やペナルティに気をつけよ、ということではないし、そんな幅の制約があったら逆に企業のためにならない。やはり保守主義の本質はリスク管理と思った方が良い。だが、ますます不思議になる。なぜこんな会計と離れたことが企業会計原則の一般基準にあるのか? 帳簿や仕訳以前の話ではないか。

 

残念ながら、この疑問に僕は答えられない。それどころか、9/1の記事に記載したように、会計原則は通常、企業とその外部利害関係者との関係で語られるものなのに、企業財政上の健全性は企業自身、企業内部の管理の話だ。なぜ企業会計原則の一般原則にこのような異質な規定があるのだろうか。謎は深まるばかりだ。

 

ただ、あまりにポジティブな経営者に、心配性の経理部長や会計士が「ちょっと待ってください」と言うための根拠が欲しかったのかもしれない。とすれば、ガバナンスの話にもなる。ん~、本当に保守主義というのは奥が深い。

 

あと一つ考えられるのは粉飾の防止だ。意図的に実態より楽観的な会計処理を行えば、粉飾になる。粉飾をすれば、そのときは良くてもいずれは企業財政が破たんするリスクを背負込む。だが、それは真実性の原則でカバーされているはずなので、重ねて規定するとダブってしまう。それともダブらせて強調するほど粉飾が心配だったのか・・・。それは分からないでもないが、そうだとする確信は持てない。

 

さて、何とも歯切れの悪いことになってしまったが、とにかく保守主義は、会計と一線を画す帳簿以前のリスク管理の話で非常に重要だが、会計基準の中での位置づけが難しいという僕の意見が一応お分かりになっただろうか。

 

一方で、現在の会計は見積りというリスク管理の予測・期待に当たるものを会計処理の対象にしている。即ち、会計上の見積りでは会計と保守主義が直接関連している。既に発生し、確定した事象を仕訳するのに保守主義はいらないが、将来事象、不確実性のあるものを見積もる場合は、仕訳を起こす前に、リスク管理がしっかりできているかに注意を向ける必要がある。したがって、会計原則の理念たる一般原則に、リスク管理をしっかりやれという保守主義があることにはなんとなくしっくりこないものを感じるものの、個別の見積り項目の会計基準に保守主義が具体的な姿になってビルト・インされているならば、僕は自然に思える。(だが、リスク管理は企業の任意の形があるので、あまり細かい規定の仕方は願い下げだ。)

 

ちなみに、IFRSはそういう形になっているように思う。概念フレームワークから保守主義も慎重性もなくなってしまった。既に記載したようにオックスフォード・レポートでもそれが批判の対象になっていた(オックスフォード・レポートは、恐らくこのことばかりでなく、公正価値による評価益の計上が保守的でないという点も含めて批判しているのだと思う)。これについてはまた別の機会に検討してみたい。

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