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2012年9月22日 (土曜日)

【製造業】日本的経営の特徴

2012/09/22

「監査人であったに過ぎないお前に日本的経営の何が分かる」と思われている方、それはもっともな疑問だ。そこで、僕の主観からスタートしないように、いつもの通り困った時のWikipediaに頼ることにした。下記はWikiから、「日本的経営」の項目にある「日本的経営の特徴」をコピペしたものだ。これを手掛かりに、日本企業(特に製造業)の長期志向性について検討を進めていきたい。

 

=特徴=

・企業間関係

メインバンク制、企業グループにより長期安定的な取引関係を結び、株式持合により部外者の経営介入を防ぐ。

・雇用制度

新卒一括採用、終身雇用年功序列により幹部社員の忠誠心を確保し、企業別組合により労使協調を図る(ユニオン・ショップ制)。

・市場慣行

官僚統制、官民協調、業界団体内調整による規制の強い市場。金融界における護送船団方式が典型例。

・情報公開

緩い企業会計原則の下で、短期的な経営悪化に左右されない、長期的な視点での経営が可能になった。

・収益

長期的収益、永続的発展のために福利厚生施設の設置、社員研修の充実を図る。

・意思決定

稟議制度に代表される、集団主義的・ボトムアップ方式の意思決定。

 

Wikiの執筆者は自説を展開しているかもしれないし、参考文献に記載された本の内容を客観的にまとめていているのかもしれない。後者なら良いが前者なら割引かねばならないので、まずそこを考えてみよう。

 

参考文献に上げられたものは、最も新しいもので1985年で、まさに日本的経営が素晴らしいと賞賛されていた時代のものだ。僕もこの時代に学生をしていて、ゼミは経営学を希望した(が試験で落とされた)。そういう目で見ると、上記は、日本的経営の特徴を否定的に表現しているので、恐らくWikiの執筆者の自説か、執筆者が最近の論調のニュアンスを加えて書いたものだろうと思う。ただ、特徴として挙げられた項目については、セピア色の古い色彩が見えるので、これらの参考文献から拾い出されたものに違いない。

 

それともう一つ、「長期的視野に立った経営」という言葉から思い起こされる「戦略的経営」の要素が入っていない。企業が達成しようとする理念や10年後など長期の目標や理想像を掲げて、それを達成するための長期的な計画・イメージを持って、現在の舵取りをするという臭いがない。戦略的経営には市場環境の変化を予測し、かつ、受動的な対応に終始するというより外部環境へ能動的に働きかけていくイメージがある。環境変化の激しいなかで、零細企業ならまだしも、大企業はもちろん、中小企業でもそういう発想や活動なしに長期の存続は困難な時代になったと思う。だから、上記にこの要素を付け加えたい。

 

確かに「戦略的経営」という概念の発明は海外で行われたものだが、日本企業になかったわけではない。そうでなければ、一発屋で終わってしまう。トヨタやホンダ、ソニーや松下(パナソニック)などがあれほど発展できたはずがない。

 

僕はソニーの前身である東京通信工業の設立趣意書を読んだことがある。感動ものだった。ソニーのHPに今も掲示されているので、ご存じの方も多いと思う。ご存じでない方は、お時間があれば是非お読みいただきたい。日本に戦略的経営があった証拠になると思う。

 

http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html

 

ただ、戦略的経営があったとしても、戦略実現のための戦術が、欧米企業と日本企業で差があった可能性はある。そこに日本的経営の特徴がみられるかもしれない。例えば企業買収だ。IFRSの批判として、IFRSは会社をモノのように売買するための会計基準というような言い方がある。逆に言えば日本企業はそうではないという主張だ。

 

ということで、挙げられた項目は良いが古く、その説明のニュアンスには注意が必要。そして経営の戦略性という要素も考慮の対象に付け加えることにしたい。

 

 

例によって前置きが長くて申し訳ないが、ここで漸く内容の検討に入ることにする。だが、今回は、検討項目をリストアップするにとどめ、内容については次回以降に順次記載したい。

 

まず、長期志向に関係しそうな箇所を太字にしてみた。すると一見して目を惹くのは、「情報公開」という項目の「緩い企業会計原則の下で、短期的な経営悪化に左右されない、長期的な視点での経営」という言葉だ。まさか、これが「ゴーイング・コンサーン経営」の正体のなのだろうか。如何様にも読める微妙な表現だが、これが損失の先送りを意味するのであれば問題だ。それを金融大臣や経団連会長が望んでいるとなると、世の会計監査人はいらなくなるが、株式投資する人もいなくなるのではないか?

 

まあ、これは1980年代、精々会計ビックバン以前(1990年代以前)の古い会計基準、企業開示制度を前提にしたセピア色の記述だと解釈し、まともに反応しない方が良いとも思うのだが、一つ気になることがある。それは、その時代がまさに、例の会社法、税法、会計のトライアングル体制が機能していた時期と符合するからだ。

 

ということで、1点目はトライアングル体制の時代の(緩い)会計基準は長期志向で、IFRSは短期志向かというテーマにしたい。

 

次に、挙げられた項目全体からのイメージ、共通要素として「共同体意識の強さ」を挙げたい。企業内・外での結束に特徴があると思う。

 

  • 企業内
              長期雇用、終身雇用、企業別組合、社員教育、福利厚生、ボトムアップによる従業員の経営参加
  • 企業外
              長期取引関係…系列・協力工場など、メーンバンク制、規制市場(法的規制の他、業界団体のルールというものもある)

 

経営戦略を推し進めていくうえで、共同体意識を醸成するこれらの仕組みが個別企業の戦術として採用されたと考えるべきか、それとも共同体の存続こそが経営戦略なのか、この辺りも含めて考えてみたい。特に、企業売買とIFRSの相性がよい、というか、「IFRSは企業売買のための会計基準」のような言われ方をするので、共同体意識と企業買収という点についても検討してみたい。

 

 

ちょっと大風呂敷を広げ過ぎて、手に負えるか心配もあるが、とりあえずこんな形でスタートする。

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