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2012年9月20日 (木曜日)

【製造業】ゴーイング・コンサーン経営って?

2012/09/20

今回からは「ゴーイング・コンサーン経営」の意味を考えてみたい。僕には、この用語は突然出てきた印象があって、その内容が良く理解できていない。IFRSが日本(の製造業)に合わないという主張がなされたときに、日本企業の経営姿勢の説明として用いられる用語だが、具体的にはどういうことなのだろうか。

 

困った時のWikipediaには、「継続企業の前提」の項に「企業理念用語としての継続企業の前提」という見出しに、次のような説明がある。

 

主に、倒産せず発展し続ける事を目指す経営という意味で用いられる。この場合ゴーイングコンサーン(going concern)という英熟語で呼ばれる事が多い。これは上場企業の経営者にとっては会計監査を意識したものといえる。そうでない会社であっても後継を意識するために使われている。

 

また、反義語は「清算企業の前提」とされている。

 

どうやら、会計公準(会計原則の前提となるもの)の「継続企業の前提」、即ち、「企業は継続するものとして会計処理を行う」と、あまり大きな違いはなさそうだ。だが、企業が存続を図ることは極めて当然のことだから、それが「日本企業の経営姿勢」として説明されることに不思議さがある。そこで、実際の使われ方を見てみよう。代表的なものが、2011/6/20の経団連会長米倉氏の発言だ。経団連のHPより下記に引用する(「記者会見における米倉会長発言要旨」より)。

 

【国際会計基準について】

国際的な基準の統一を目指すことはよいが、日本の産業界、特に製造業は、投資判断となる一時点の企業価値よりも、ゴーイングコンサ―ン(継続企業の原則)に重きを置いている。IFRS導入に対する米国のスタンスも変化してきていることもあり、わが国でも時間をかけて検討していく方向になっていることは望ましい。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/kaiken/2011/0620.html

 

そして、オックスフォード・レポートでは、次のように記載されている。

P122

さらに深刻な懸念が表明されている。・・・全体として、製造業の立場からすれば経営はゴーイング・コンサーンの前提のもと投資回収・再投資というサイクルの中で業務が遂行されるのであり、IASB の推進する期末時点で解散した場合に企業の価値がいくらであるかというような印象を与えかねない会計が推進されることは製造業の持続的成長・発展を阻害するとの懸念である。

 

どうやら極端に表現すると、次のようになりそうだ。

 

  • 一時点の企業価値を高める経営が海外企業で、それにフィットするのがIFRS(短期志向の経営)。
  • 日本企業(特に製造業)は投資、回収、再投資という長期志向の経営をしており、IFRSはフィットしない。

 

すると正確には、継続企業か清算企業か、ではなく、短期志向か長期志向か、という話のように思われる。企業が存続を目指すのはどの国でも当たり前のことなので、そこに差がつくのは考えにくいが、経営者が意識する将来期間が相違するということなら可能性がありそうだ。

 

それともう一つ、IFRSが短期志向の経営にフィットし、長期志向の経営にフィットしないという主張が含まれている。この2つの点を確認することが、IFRSは日本企業(特に製造業)に合わないという主張を理解するポイントになりそうだ。

 

これらを読んで思い出したのが、昨年読んだ本『「国際会計基準はどこへいくのか」田中弘著』だ。同時に『「変わる会計、変わる日本経済」石川純治著』も読んでおり、このブログでは後者の石川教授の本の内容を紹介した(昨年7月)。どちらも同じ方向の主張だったが、石川教授の本は大変興味深く読むことができた。

 

前者の田中氏の本を紹介しなかったのは、論理より印象に訴えるセンセーショナルな表現を多用しており、あちこちで論理が飛んでいるように感じたからだ。その一つが「IFRSは即時清算価値会計」とか「IFRSは即時解散価値会計」という主張だ(どっちだったか記憶に定かでない)。当然首を傾げたくなる内容だった。

 

例えば、IFRSで金融商品等に適用されている公正価値評価を、意識的に有形固定資産などB/S項目全てに適用したごとく話を進めているとか、会計的には「公正価値≠解散価値」とされているのに、それを無視して両者を同一のものとして扱っているとか、突っ込み始めると切がなくなりそうだった。断定口調で主張がはっきりしていて読みやすいが、内容が不正確で、読み手を誤解に導く。したがって、ブログで紹介することは躊躇われた。

 

だが、IFRSに関連して「長期志向経営」ではなく「ゴーイング・コンサーン経営」という表現が使われていることには、どうもそういう誤解が含まれているし、新たにそういう誤解を生み出しそうな気がする。僕は経団連会長や金融大臣がこういう表現を使う裏には、一部の学者がいると感じている(例えば2011/7/9の記事)。どうして学者がそういう大雑把なことをするのだろうか。企業や監査人がそんな財務報告をしたら、関係者から袋叩きにあうと思うが。

 

いずれにしても、上記の2点(日本企業は長期志向の経営か、IFRSは長期志向の経営にフィットしないか)について、次回から検討してみたい。ただ、僕にこれらの問題を検討し、結論を出す能力があるかは疑問だ。このブログが怪しいことはみなさん承知されていると思うが、気を付けてお読みいただきたい。僕もそういう学者以上に大雑把だ。

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コメント

こんばんは。
「B型が苦手」と申します。はじめまして。

こちらのブログは1年位前から毎日のように閲覧しています。
更新頻度とそのボリュームは、すばらしいと思います。

さて、昨今の議論では、「公正価値」=「短期志向」と「取得原価」=「長期志向」は、対立し相容れないものであるかのように言われています。

また、ゴーイングコンサーンについては、2011年10月17日の企業会計審議会において、公認会計士協会の山崎会長が、「ゴーイングコンサーン概念を取得原価主義と結びつける考えについては、前も申し上げましたけれども、これは既にどちらかというと主役を降りた考え方であります。」と発言されていて、ゴーイングコンサーンと取得原価主義を結びつけるのは時代遅れのようです。

これらのキーワードに関心があったので、今回のテーマである「ゴーイング・コンサーン経営」と【製造業】シリーズの更新を楽しみにしています。

はみだしさんの検討プロセスと結論を、ぜひご教示ください。

B型が苦手さん、コメントをありがとうございます。
そして、このブログを読んでいただいてありがとうございます。日々のアクセス数が僕の報酬ですから、毎日のように来ていただけているのは大変心強いです。

これらのキーワードについてお書きいただきましたが、おっしゃる通りです。
そういう主張をする方々の根拠や理屈がわからなくて苦しんでいます。そういう方々はイメージで語って批判はしますが、根拠や理屈を言わないのですよね。それでそれを推測しなければならないのです。困ったものです。もしかしたら、おっしゃる通りの時代遅れを自覚しているからなのかもしれません。

いつものとおり、怪しい、既成の枠組みからはみだし気味の議論をしていきますが、本人は真剣です。どうぞ、お楽しみにしてください。

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