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2012年9月14日 (金曜日)

【製造業】「ものづくりとIFRS」のシリーズ予告

昨年来、「IFRSは製造業に合わない」という主張の根拠が分からず悩んでいたが、オックスフォード・レポートにある程度の記載があったので、これから暫くの間、このテーマを検討してみたいと思う。

 

主な内容は下記の通りだが、「(1)各勘定科目レベルでの懸念」ついてはある程度具体性があるものの、「(2)保守主義と持続的成長に関する懸念」は、保守主義の問題として一括して?考えざるえないかもしれない。以下は原文の一部をコピ&ペーストしたもの。

 

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(1)各勘定科目レベルでの懸念 P116

 

・・・、原価計算や原価低減に関する機能不全、企業の長期的視点に立った経営の阻害、および企業の規律や内部統制機能の弱体化に関する懸念

 

・特に毎期の原価計算の基礎が不安定になる(非原価化が問題)P116117

 

・「のれん」や「開発費」に関する懸念(裁量に基づく費用化・非費用化)

 

・その他 P116117

退職給付債務の数理計算上差異については、従来は残存勤務期間等の合理的な期間で配分して製造原価に算入する方法がとられていたが、IAS 第19 号(2011 年6 月改訂、2013 年1 月適用)によると、即時にOCI(その他の包括利益)に計上し、リサイクリングを行わないために純利益計算に反映されないこととなる。多くの企業でこの処理は従来の原価計算、投下資本コスト回収、利益性評価という体系を崩すものとして経営管理に資さないものとして理解されている。企業によってはその際の処理が相当金額(多くの会社で200-600 億円単位)に上り、原価計算、財務諸表、および価格設定への不都合が指摘された。

 

退職給付のフェーズⅡで、IASB はキャッシュバランスプランについて、金融商品のように毎期末に公正価値評価して、退職給付債務の期首と期末の差額をP/L に計上するか、OCI に計上することも検討するようである。

OCI に計上する場合は、上記の問題が増幅するだろう。P/L に計上することになると企業の損益のボラティリティが大きすぎることになり、企業は、キャッシュバランスプランのような確定給付年金を廃止して、確定拠出年金に移行せざるをえなくなる可能性もある。

 

・全国レベル労働組合関係の幹部

・・・日本の優れた労働力を長期に確保することによる利益、すなわち資産は認識されない・・・

 

・おまけ

・・・有給引当金の話をすれば、これはきちんと従業員が有給休暇の消化をするようなインセンティブになる・・・

 

 

・再評価モデル

製造現場での地道な原価低減・改善活動の役に立ちません。取得原価を規則的に期間配分して製造原価に算入するようにすべきであると考えます。

 

減損の戻入れ処理 P119

開発費や有形固定資産の減損の戻入れ処理が必要となるが、これは事務作業を複雑にし、新たな減価償却を通じて原価計算・投下資金回収・マークアップ計算等に影響を及ぼすなどの影響は考えられる

 

・IFRS 第9 号による毎期末の非上場株式の公正価値評価

非上場株式への投資の差し控えや、同様にOCI に影響を与える持合株式や海外への投資を控えることを懸念

 

以上のように表明された意見に関し、UNIASプロジェクトは全てに一定の真があるものと考える。IFRS の影響はそれぞれの企業が置かれるその時々の状況によってかなり異なり、個別勘定科目を判断の単位とした場合には、「IFRS が適用された場合の日本全体への影響」という形で評価することは非常に困難である。

 

 

(2)保守主義と持続的成長に関する懸念 P120

根本的なレベルでは、IASB が保守主義を排し、公正価値会計と貸借対照表アプローチによる包括利益を計算することで、特に投資家に資する会計を推進していることに対する懸念が表明されている。

 

まず、長期開発、投資資金回収、再投資を得意とする日本の製造業には、それを可能にせしめてきた合理的な経済行動としての保守主義的会計行為が実務として定着しているが、こうした行為がIFRS では認められないのは不合理であると表明された。

 

また同様に、IFRS 下のセグメント情報ではマネジメントアプローチがとられ、企業内部の管理・報告方法に基づいたディスクロージャーが要求されるが、各事業分野や地域の業績管理が保守的な思想のもとになされているにもかかわらず、IFRS がそうした保守的な思想を排除するのは矛盾していることも指摘された。

 

P121

ここで明らかになったのは、どちらの立場が正しいとか間違っているということよりは、投資家としては公正価値を基礎とした情報がほしい、製造業としては(適切なレベルの)保守主義を内包する会計行為によって企業を管理したいという異なった要求の衝突である。

 

P122

さらに深刻な懸念が表明されている。・・・全体として、製造業の立場からすれば経営はゴーイング・コンサーンの前提のもと投資回収・再投資というサイクルの中で業務が遂行されるのであり、IASB の推進する期末時点で解散した場合に企業の価値がいくらであるかというような印象を与えかねない会計が推進されることは製造業の持続的成長・発展を阻害するとの懸念である。

 

(このあと、色々な方の証言が続くが、一応、下記がそのまとめのようだ。)

 

P124

・・・IFRS 慎重派と推進派のコミュニケーションのミスマッチの原因は二つのレベルで考える必要がある。まずは、IFRS 推進派の関心は投資家のため会計の推進という点(或いはもっと狭義にIFRS という投資家のための会計とその技術論)に限られているのに対し、IFRS 慎重派は会計が投資家のためのものになっていること自体に懸念ないしは不満があり、そもそもの議論のスターティングポイントが異なる点が指摘できる。

 

(このあとは、もはや製造業やものづくりと離れた話になっていくので、ここでコピペを止める。)

 

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とにかく、一番大きな問題はIFRSに保守主義がないということで、そこから投資回収、再投資に支障があって、ゴーイング・コンサーンが危うくなるという理屈のようだ。それを色々な方が色々な表現をしているという感じがする。まずは、この保守主義から始めることになると思う。(但し、脱線シリーズで僕の保守主義のイメージはすでに書いてしまったが。)

 

「なぜ保守主義がないと考えるのか。IFRSに書いてなければないことになってしまうのか。」というのが僕の大きな疑問だが、P124に書いてある「スターティングポイントが異なる」という指摘は面白い。まさにその通りだ。IFRSは企業経営の道具であるべきだ(実際多くの部分はそうなっている)と思う。

 

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