【製造業】(まとめ1)IFRSは長期志向
2012/10/18
ここのところ、超長文が多く、皆様には申し訳なく思っています。今日は簡潔に。
この【製造業】シリーズでは、日本の製造業にIFRSが合うか?という問題を扱っている。IFRS反対派・慎重派はIFRSは日本企業、特に製造業に合わないとする理由として、IFRSに保守主義がないことを挙げている(9/14の記事)。また、日本的経営がゴーイング・コンサーン経営だからIFRSは合わないと表現することがあり、その意味を考えてみると、日本的経営は長期志向だがIFRSは短期志向だ、という主張らしいことが分かった(9/20の記事)。
この数回、これらについての検討を行ってきて、僕の主張は次のようなものだった。
- 保守主義は、企業経営に必要なリスク管理の問題、会計基準以前の問題であって、IFRSに記述があるかないかは関係なく必要なもの(9/18の記事)。
- IFRS反対派・慎重派の主張に見られるトライアングル体制への回帰志向は、経営問題先送りを助長する取得原価主義の復活であり、おまけに、その頃の取得原価主義は全く保守的ではない(9/25の記事、9/28の記事)。
- 円高が日本経済の基礎条件を変えてしまったので、日本企業はもっと(事業)投資家的発想で事業全体のデザインを再検討し、かつ、投資の管理機能を高める必要がある。そのために、IFRSが前提とするような投資回収計画(B/S項目を含んだ事業計画)を利用することが考えられる(10/1の記事、10/15の記事)。
- IFRSや最近の日本基準に見られる会計上の見積りは、トライアングル体制下の取得原価主義の欠点である放置志向を改めるために導入されてきたもの(10/1の記事)。会計上の見積りは、経営におけるリスク管理(投資管理)機能から抽出されるべき(9/18の記事)。
そして、このシリーズ及びこれ以前から、下記のようなIFRSの受けている誤解についても時々触れてきた。
- 「IFRS=公正価値会計」
このイメージが、IFRSを短期志向の会計基準と誤解させているが、IFRSは金融商品系を除けば基本的には取得原価主義をベースにしているし、上記に見るように、逆に長期志向の事業投資を行う経営者にとって、有用なツールとなり得る。(単に減価償却しているだけでは、有効な事業投資管理にならない。)
- 「IFRS及び最近の日本基準は多額の退職給付債務を計上させる⇒退職金制度の改悪・後退」
このように思っている方には、昔の企業は倒産すると退職金をもらえなくなる人がたくさんいた事実を思い出してほしい。債務計上することが、従業員の権利を守ることに繋がっている。(適切な債務計上を伴っていなければ、いくら気前の良い退職金制度でも「絵に描いた餅」。)
ということで、このシリーズの冒頭(9/14の記事)で掲げた検討事項「(2)保守主義と持続的成長に関する懸念」については、これで区切りとしたい。経営視点で深掘りすれば、IFRSが短期志向と考えることはないと思うのだが、それでも短期志向と考えてしまう方が多いのは、「IFRSは解散価値会計」などという宣伝と、会計上の見積りをする際の、将来キャッシュフローを見込んで現在価値に割引く手法のイメージによるものと思う。宣伝はともかくとして、この手法については、上述のとおり、経営機能と結びついて事業投資を管理する長期志向のものであり、計算手法のイメージだけで短期志向と考えるべきではないと思う。
さて、あと積み残しているのは、日本的経営の特徴としてあげた「共同体意識の強さ」とIFRSの関係についてだ(9/22の記事)。ただ、昔は強く見られたこの特徴も、円高が進む過程で薄まってきているのは皆さんもご存じのとおり。とはいえ、企業が強くあるためには共同体意識が強く保たれるべきだと思うので、「思い」を共通項に、いまの時代に合った形で存続できる方法はないかと思うのだが、これはIFRSと関連しそうもないので、省略させていただきたい。それでもこの点にご興味を持たれる方は、こちら(ワタミ創業者の渡邉美樹氏の日経ビジネスのブログ)を参考に、ご自分なりに検討されてみてはどうだろうか。「思い」は経営にも、人生にも重要なものだと思う。現実との戦いは厳しいが・・・。
次回からは、9/14のシリーズ予告でピックアップした「(1)各勘定科目レベルでの懸念」の各項目について検討を進めていきたい。
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