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2012年10月 4日 (木曜日)

【製造業】成功するまで止めない人材育成

2012/10/04

「日本企業は、もっと事業を長い目で育てるのだが、最近の会計は損を早く出し過ぎる。」

この言葉の中には、「続けていけばいずれは利益を出せるようになる」という考えが潜んでいる。続けていけば成功するというのなら、続けていくと何かが変わるに違いない。それが業績に良い影響を与えるということだろう。それは何か。

 

と、ここまで書いて、昨年、スティーブ・ジョブズ氏が亡くなった時のクローズアップ現代の追悼番組で流された、昔(10年前)のインタービュー・シーンが頭によぎった。確か「どうしてそんなに成功できるんですか」みたいな質問に対して、「成功するまで止めないこと」と答えていたような気がする。

 

気になってネットで「成功するまで止めない」を検索すると、なんと松下幸之助氏もそう言っていたという。それを、鳥羽博道氏(ドトール・コーヒーの創業者)が、経営に悩んで相談に来た人に紹介するのだという。(名言DB:ビジネスで使える名言集 http://systemincome.com/10799 より)

 

元監査人の僕には驚きのコメントだ。なぜなら、そんなことをしたら泥沼にはまって身代を潰してしまうと思うからだ。確かに「成功するまで止めない」のだから、失敗することはない。しかし、それは言葉遊びだ。実際には資金など経営資源が尽きて止めざるえなくなる・・・。

 

と、考えるのは凡人なのだろう。天才たちが言いたかったのは、「探せば必ず道があるという信念を持って簡単に諦めない」ということなのではないだろうか。

 

いやいや、天才の言うことを簡単に理解できるはずがない。前後関係も含めたもっと正確な天才たちの発言が分からないか。そう思ってもう一度検索してみると、なんと、そのスティーブ・ジョブズ氏へのインタビュー(放送日2001/3/29)が、NHKのホームページに掲載されていて、現在も見られる。

 

http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_1403.html

 

これによると、インタビュー冒頭の国谷キャスターの「途中で止めようと思ったことはありませんか。」という質問に対する回答の中で、「大変な時もありましたが、諦めようと思ったことはありません。・・・成功する人としない人との一番の違いは、途中で諦めるかどうかということです。失敗する人は途中で諦めてしまうのです。必要なのは強い情熱です。」と言っている。さらにそのあとで、「・・・まず必要なのは、世界に自分のアイディアを広めたいという思いです。それを実現するために会社を立ち上げるのです。」と、その情熱の中味を説明している。僕の記憶とは大分違うが、諦めないという解釈だけはなんとか共通しているようだ。

 

話題を元に戻そう。続けていくと何が変わるのだろうか。もしかしたら、「何を続けていくのか」という問いの方が本質なのかもしれないが、とりあえず、変わることを探してみよう。

 

結論から書くと、「思い」以外のすべて、ということになりそうだ。思いを実現するために、あらゆる工夫、努力をしていくということだ。その結果、「思い」以外のすべてが変わる可能性がある。実際、ジョブズ氏は創業者なのにアップルから一度追い出されているから、会社さえも変わった。でも世界を変えるという「思い」は変えなかった。

 

僕はこれについて次の2点に注目した。

 

  • 「思い」以外のすべてを変えて良い、ということに気付くのはいつか。

 

  • 「思い」は、いつ、どうやって、自分のものになるか。

 

みなさんが、事業責任者に抜擢されたと仮定しよう。いや、もう私は事業責任者どころかもっと偉いです、という方もいるかもしれないが、初めて事業責任者を任された時のことを思い出してほしい。ほとんどの人が、既存の得意先、製品やサービス、監督官庁など行政上の規制、業界団体による自主規制・慣習、社内慣習、競争状態、組織のガバナンスの特徴、予算内容、過去の事業責任者のやり方などについて、自分の知識を正しいか確認したり、深めたりするだろう。そして、自分の「思い」を実現するための問題点を抽出し、変化を起こす戦略を検討する。

 

だが、いざそれらの戦略を検討し始めると、呆然とすると思う。なぜかというと、変えられないことばかりだからだ。簡単に変えられるなら前任者が変えている。それができないから問題事業になっている。

 

しかし、実際には変えられるし、答えは見えないだけで存在している。

 

このことに気付けるのは、その困難を克服する過程においてだ。自分の限界を自分で乗越えたとき、と言ってもよいかもしれない。ジョブズ氏であれば、ガレージで友人と手作りしていたPCを大量生産するためにアップルを設立し事業を開始するプロセスとか、そこを追放されても新しい会社・分野で実績を上げるまでのプロセス、さらには、アップルに復帰してiMacをヒットさせるプロセスにおいてかもしれない。

 

では、その困難を克服する精神的エネルギーである「思い」はいつ自分のものになるか。偉人伝などでは子供のころの体験でそいういう「思い」を持つようになった、みたいな話があるが、僕には残念ながらそういう体験はない。僕のような人間には「思い」は持てないのか? だが、僕だけでなく、そういう人は多いのではないか?

 

それは社会に関わりを持つようになって、自分が役立ったとか、人から感謝されたとか、そういう実感を持てたときに、「これだ」と思えることに出会えるのではないかと思う。要するに何か成功したときだ。それでも遅くはない。ジョブズ氏であれば、友人のために作っていたPCが、もっと広く一般の人にも売れると分かったときとか、多くのユーザーを獲得し、また彼らがマッキントッシュを愛していると分かったときとか。上記のインタビューで語っている、子供を撮影したビデオを3分に編集して字幕を付けたものを奥さんに見せたら、奥さんが涙を流して感動したときも、そうかもしれない。確かにそれが本当の話なら、グッとくるに違いない。

 

 

さて、今回のテーマはこれだった。

 

「日本企業は、もっと事業を長い目で育てるのだが、最近の会計は損を早く出し過ぎる。」

 

みなさんは、日本企業の話なのに長々とジョブズ氏を持ち出してどうするのか、と思われていたかもしれない。長々なのは反省するが、決して筋違いというわけではないし、このテーマを忘れていたわけでもない。ただ、ジョブズ氏ではなく、松下幸之助氏をメインにした方が良かったかもしれない。

 

まあ、そういうことは止しにして話を戻すと、僕は、日本企業が問題事業の改善を、「人材育成の場」として利用している気がしていたのだ。少なくとも昔は。営業利益や経常利益、ましてや売上高の目標達成ばかりが強調されるような冷たい世界ではなかったと思う。もっと人間としての成長が注目されていたように思う。

 

「成功するまで止めない」というのは、結局、社会に貢献しようという強い使命感で自分の殻を破ることだから、自分が成長するまで頑張ることだ。今は聞かれなくなった精神論、根性論による人材育成論といってもよいかもしれない。かつては巷に精神論が溢れていたように、その対象は「世界を変える」などといったデカい思いだけでなく、もっと日常的で身近な思いも対象になる。伝統的にOJTやインフォーマルな人間関係で人材育成を行っていた日本企業にとって、事業の立直しは、事業責任者はもちろん、その事業に関わる従業員の人材育成の場でもあったのだ。かといって、万全のサポートをするわけではない。かなり放任主義だ。その代り、時間を与えていた。それが合理的かどうかは別として。

 

実際、それで人材育成ができるのであれば、安い投資なのかもしれない。数年赤字が続いたとしても、その後黒字で挽回が見込めるし、成長した人材は、同程度のチャレンジなら別の案件を成功させる確率が高い。より大きなチャレンジをさせることもできる。だが、減損等により巨額の赤字を出してしまっては、そこまで待てないから、人材育成もできない。この言葉には、そういう意味が含まれているように思う。

 

このように書いてくると、やはり「最近の会計は損を早く出し過ぎる」ということになってしまうのか。「いや、そうではない。問題は会計が変わったことではなく、時代が変わったことだ。外部、内部の環境が大きく変化した。」という話を次回に書きたい。

 

ところで、上記のインタビューは、2001年に行われたものと思うが、今見ても素晴らしい。というか、今になってようやく僕のような凡人にも理解できるようになったというべきか。18分ほどかかるがご覧になることをお薦めする。ジョブズ氏の企業家精神の内容、PCマーケットの変化の整理(第一段階~第三段階)、製品化・組織化の手法、Think Differentの広め方、仕事へのモチベーションなど、短時間なので限界はあるが、幅広く興味深いテーマについてジョブズ氏の考え方の一端を見ることができる。

 

例えば、この当時、人間の感情面をデジタル化してPCで扱う第三段階が到来するとしていたジョブズ氏と、そこまでする人は一般にはいないのではないかという国谷キャスターが議論している。また、10年後に何をしているかという質問に対して、ジョブズ氏でも環境変化が激しく5年後でも見通すことはできないと答えている(最後の方)。恐らくジョブズ氏も複数シナリオ、オプションを持ちながら柔軟な対応ができるよう工夫していたに違いない。加えてこのインタビュー映像は、2001年に放送されたものなので、国谷祐子キャスターのファンには必見のお宝映像だ。

 

ただ、残念ながらなぜか日本語のナレーションには含まれていないのだが、ジョブズ氏は、第三段階は日本から来たといっている。具体的にはデジタル・カメラやビデオ(ハンディ・ビデオ・カメラ)のことを指している。改めて日本企業による既成概念を打破る活躍を期待したい気持ちになった。

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