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2012年10月20日 (土曜日)

【期待ギャ】「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」(企業会計審議会監査部会)の「不正の端緒」

2012/10/20

金融庁のHPに「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」という資料が、10月18日のところに掲示された。実際には9月25日に開催された企業会計審議会監査部会で提示されたものらしい。これはオリンパスや大王製紙等の事件を踏まえた監査基準改正の骨子に当たる。そして、そこで目を惹くのが監査人に義務付けられようとしている「不正の端緒」に対する新ルールだ。

 

従来の監査基準では、「不正リスク」という概念があって、監査計画時にこれを識別・評価し、発生可能性が高く財務諸表に対する影響も重要になりそうと判断すれば、「特別な検討を要するリスク」に格上げし、そのリスク内容に応じた詳細な監査手続を実施するという考え方になっている(国際監査基準も同様)。これに対して、監査部会は以下のことを提案している。

 

  1. 「不正リスク」の識別・評価の扱いに、より厳格に枠をはめる。どうも一部「不正リスク≒特別な検討を要するリスク」となったように読める。(といっても「特別な検討を要するリスクへの対応」は、実施可能な限り無限大に広がる可能性あがるので、イコールではない。しかし、その点を除いても、単に不正リスクがあるというだけで、これだけ画一的な枠をはめられ、監査調書を作る実務は大変! 監査を受ける側の監査対応も!!)。

 

  1. 「不正の端緒」という概念を新たに導入し、不正に対する監査人の対応をより確実なものにさせるよう枠をはめる。

 

  1. このような枠を前提とした監査事務所のガバナンス強化を求める。

 

国際監査基準の趣旨を強調しただけ、という感じのところも多いが、一方で、1の部分は、従来監査人の専門能力に任されていた部分(特に上記の事件当時の日本基準では)に、国際監査基準以上の枠をはめようとしている。これは、国際監査基準を先取りする意図か、若しくは日本の監査人の能力は国際レベル以下なので、追加の枠が必要と判断したかのどちらかだろう。

 

 

いつも長文になってご迷惑をおかけしているので、簡潔に2点感じたことをリストアップしたい。

 

  1. 日本の監査人の能力を国際レベル以下とするのは、一つの“判断”であり、「あり」なのかもしれないが、一方で不正を起こした企業経営者、それを許した企業のガバナンスのシステムについてはどのように考えるのか(会社法改正による改革はほとんどなきに等しい)。企業会計審議会の監査部会の担当範囲ではないかもしれないが、それでも、それについて言及しないのはバランスに欠けるのではないか。

 

  1. 監査部会の提案を読んで感じるのは、「監査人を国際レベルに引き上げよう」という意図より、「監査人や監査法人の検査がやりやすいように枠にはめよう」という意図だ。個々の監査人の判断領域を狭め、その代わりに形式な調書を作らせ、ルールに合わさなければ罰するぞ、という構えが見えている。そして、結局これらの負担は監査を受ける企業側に及ぶことになる。直接の負担もあるし、監査事務所の間接コスト増大の影響も企業に及ぶだろう。(それとも、IAASB=国際監査・保証基準審議会=で、こういう方向の議論がされているのだろうか。或いは、この一年で国際監査基準にそういう改正があったのか。)

 

 

いや、これはやはり今回も長文になりそうだ。

 

僕は監査基準が増々細則化するのではないかと危惧を抱いている。細則化すると、無駄が増殖し、企業にも監査人にも負担になる。細かいルールや形式を知っているだけで、現場に出ないのに偉そうに振舞う人がでてくる。コストの高い監査事務所の間接人員が増える。しかし、昔のドラマの名セリフのように「事件は現場で起こっている」のだ。現場で適切な判断できる人が一番偉い。その代り事件になれば、一番重い責任を負うべきだ。

 

ということで、監査基準を細かくするのではなく、以下のように、「不正の端緒」以降のステップを監査人から切り離し、かつ、情報開示によってプレーヤーの責任の明確化し、自然淘汰で質の向上を高めるのが良いと思う。

 

  • 監査人、監査事務所には、有罪であろうが無罪であろうが、或いは、まだ未決着の段階であっても、関わった粉飾事件の概要と対応を、長期間にわたり自ら開示することを義務付ける(期間は10年とか20年とか。自己紹介する場合に必ず書面で説明を要するとか、監査契約書に添付させるとか。もちろん、調査報告書等で開示されている事実の開示であって、自分の主張を入れてはいけない。)。

 

  • 監査人は、経営者が関与している可能性がある不正、影響の大きな不正の端緒を掴んだ場合、或いは可能性が高いと判断した場合、速やかに監査契約を破棄を通告(契約解除)する。契約解除しない場合でも、下記の調査を監査対象の上場会社に要求することができる。

 

  • 上場会社は、監査人から契約破棄の通告を受けたら、第三者(東証か監督官庁か)の指名による調査委員会を起ち上げて不正の有無及び内容の解明を行い、結果を速やかに公表する。

 

  • 監査人及び監査事務所は、結果的に不正がないと判明した場合でも上場会社やその株主に対し責任を負わないが、専門家としての判断の失敗として上記の開示を行わなければならない。解除した監査契約は、上場会社が望めばその期に限り復活できる。

 

監査事務所は、能力のない人を監査人(監査責任者)にした場合、長期間不名誉な自己紹介を強いられる。それがいくつもあれば、営業上不利なので衰退していく。だから、そういう監査人、監査事務所は減っていくに違いない。或いは、安い単価でしか受注できなくなる。一方、経営者が不正を行った、或いは大きな不正を防げなかった上場会社は、調査委員会によって、いまより早い段階で実態解明が進められると思う。これは結果的に不正の抑制にもなると思う。見つかりやすくなるのだから。

 

ただ、結果的に監査人が間違った判断をして調査委員会が起ち上げられてしまった会社は、調査に関する外部的・内部的負担で迷惑を被ることになる。これはこの提案の欠点だ。しかし、そういうフライングを必要悪として認める価値はあると思う。

 

というのは、実際には不正の端緒を掴んでも、それを不正の確たる証拠へ繋げるのが容易ではないことが、不正の発覚を遅らせ、不正をやりやすくしているからだ。不正が進めば進むほど損害額が膨らんで、取返しがつかなくなる傾向があるから、企業の側にもメリットがあるのではないだろうか。監査人が不正の証拠をつかむのを待っていては数年かかることもある。例えばオリンパスは、2011/11に第三者委員会が起ち上げられ、早くも翌月報告書が公表されたが、これ以前に次のように数回不正に迫る機会があり、その段階で適切な調査委員会の手に掛っていれば、もっと早く実態解明ができていた可能性があることが、同報告書により明らかにされている。

 

  • 監査人は2000/3期に飛ばしの端緒を掴んでいた。

 

  • 監査人は2008/3期に行われた国内子会社の買収をおかしいと気付ける可能性があった。

 

  • 監査人は2009/3期に行われようとした海外子会社ののれんの計上をおかしいと気付ける可能性があった(後任監査人は2010/3期に認めてしまったが、前任監査人はおかしいと指摘して止めていた)。

 

監査人(監査責任者)は、限られたスタッフと力を合わせ、基本的には報酬の範囲で業務を遂行しようとする。だが、不正の証拠までを掴んで来いと言われると、マンパワーも予算も足りないというのが率直な感想だ。僕も、売掛金の滞留の仕方がおかしいなあと思い始めてから、(社長ではないが)営業トップの役員の不正を焙り出すのに2年半もかかった経験がある。そしてその間、監査報酬の倍ほども監査コストを使い続けた。当時はまだ主査だったが、今思えば、気前の良い上司(監査責任者)と監査法人だ。

 

そこでこの提案では、不正の可能性が高いと判断する段階や不正の端緒を掴むところまでを監査人の責任として、その先を調査委員会に委ねている。よって、上記の「不正の端緒」への監査人の対応へ厳しく枠をはめようとする企業会計審議会監査部会の提案とは、全く違う。一方で、監査人個人に長期間、直接責任が付いて回るようにすることで、監査人の自覚、即ち、職業的懐疑心の強化を図って、質の向上を狙っている。気が付いて契約解除するところまでが監査人の責任で、そこに見逃しがあって過失だとされるなら、監査事務所はその人をもう監査責任者にはしないと思う。自己紹介するだけで仕事を逃してしまうから。

 

監査人は不正の可能性を指摘したがり、監査を受ける側は、簡単に不正にされては外部の調査委員会が入ってきて大事になるから、両者の間で緊張感が高まっていく。程度にもよるが、結局求められているのはそれだと思う。そして大きいのは、大袈裟な検査が不要になることだ。うっかり者の監査人や監査事務所は自然淘汰されていくのだから。

 

さて、みなさんはどのように感じられるだろうか。僕は、このような情報開示を行い、不正の端緒以降のステップを監査人から切離した方が、良いプレーヤーが残るし、不正の防止効果もあって、実のある監査制度になると思うのだが。

 

 

ん~、結局また長くなってしまった。本当はこんな世迷言の提案まで書くつもりはなかったが、今まで以上に検査対応、後ろ向き、内向きの作業に追われるのかと、昔の仲間のことが気になった。それに、監査制度の大事なところが変わっていくので、僕が“監査人”としてブログに書けることもなくなっていくだろうな、と思ったら、つい力が入ってしまった。くどいが、問題は現場にある。監査事務所は、検査をクリアできる監査調書を整えるため、ではなく、現場にいる監査人が適切な判断ができるようにサポートしてほしい。そして、それが当たり前の監査制度であって欲しいと切に願う。

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