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2012年11月29日 (木曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(7)不純物

2012/11/29

11/21の記事(のれんシリーズの4回目)で「のれんの資産性」に関して問題提起した事項のうち、IASBやFASB(米国財務会計基準審議会)の考えついては11/23日の記事に、日本での議論については前回(11/27)の記事に記載した。あと残っているのは、次の2つだ。

 

・不純物

企業買収プロセスの中で発生した過大支払額(11/17の記事の末尾の「IFRSの改善による不純物の排除ついて」の④にも、関連する説明あり)。本来のれんから排除され費用処理されるべきもの。

 

・自己創設のれん

コアのれんの②の要素(シナジー効果)は、買収後に創設されるものなので、資産計上が禁止されている自己創設のれんに当たるのではないかという疑い。

 

今回は、不純物をテーマにしたい。やはり僕は不純物をのれんから取り除きたい。しかし、それには企業買収に関わる色々な取引慣行や環境を改善する必要がある。

 

 

既に記載したように、“不純物”についてIASBは、のれんにはすべきではない(費用処理すべきだ)が、コアのれんを構成する①(企業が積上げてきた価値)や②(シナジー効果)と区別ができないことと、“不純物”についてもし過大であれば、翌期以降に減損されることから資産に含まれてもやむを得ないとしている。日本では、オックスフォードレポートの表現を借りれば「M&A に付随して発生する超過支払分であった可能性を含む得体のしれない抽象的な資産(支出)」(P114)とされているが、不純物がどう処理されるべきかという直接不純物の会計処理を対象とした議論は知らない。多分、含まれていても、日本では償却されるからまだマシ、と考えられているのではないかと思う。

 

しかし、みなさんはきっと次のような疑問を持ったに違いない。「ゴトビ監督(=11/21の記事で使った比喩)との交渉を、契約金の上限額も決めずにやるだろうか?」と。そして、「例えば、実際に話してみたら想像以上に素晴らしい人物だったから、期待値が高まって上限を超えた契約金の支払いに合意してしまった、などということはありえる。このように交渉で買収額が動くことはあっても、上限額自体は分かっているから、その超過分を費用計上すればよいではないか。」と。

 

僕もそう思う。しかし、実際の企業買収では、上限額にそれほどきっちりした根拠がない。また、上限額が買収相手の評価ではなく、買収する側の支払負担限度額だったりする。即ち、必ずしも「それを超えたら費用計上」という基準に相応しい金額ではないということだ。

 

もう少し詳しく書くと、特に②の部分(=シナジー効果による評価額)に対する試算は、買収相手の情報が限られているので信頼性が高いとはいえず、上下どっちにも振れる。ちょっとした仮定の置き方で、10倍にもゼロにもなる。また、コアのれんの①の要素(企業が積上げてけきた価値)の試算が簡単かというと、そんなことはない。「これは、買収される会社の過去実績のみから試算したので①の部分です。」などという説明を受けたとしても、鵜呑みにはできない。企業買収は、その事業の環境変化が激しい時に行われることが多いが、例えば、「環境変化へ対応するには、多額の投資負担が必要になる。現在の親会社がそれを回避したいので手放します。」などというケースで過去の実績を延長したら、投資負担を新しい親会社が行うという暗黙の前提が置かれたことになる。それでは②のシナジー効果が含まれてしまう。もし、「新しい親会社が投資負担をせずに、買収される会社だけでやり繰りした場合はどうなりますか。」と質問すると、「それでは将来キャッシュフローがプラスになりませんから計算できません。」などということにもなりかねない。というより、そういうケースは多い。

 

そもそも、企業が自らこのような試算をしないことさえある。FA(=ファイナンシャル・アドバイザー。企業買収の仲介者。主に証券会社や信託銀行)に試算をさせて、それに少々質問したり仮定を修正させたりして受入れているケースだ。買収調査(デューデリジェンス)も行うのだが、なぜかその結果を整理してから買収交渉を行うのではなく、買収調査に並行して、またある時は、先行して行ったりするので、買収調査の結果を反映させられない。FAがそういうスケジュールを組むのだ。

 

もちろん、致命的な問題が発見されれば合意を破棄することはできるが、総じて、売る側の、或いは、FAの都合が優先されているケースが多いという印象だ。FAは、買収する側が立てない限り、買収額連動報酬であることが多いようで、買収額は高い方が良い。もちろん、売る側にとっては買収額は高い方が良い。そして買収スケジュールは、なるべく短期間でやろうとする。買う側に考える時間を与えない方がFAも実績が上げやすいようだし、売る側の資金繰りにも貢献する。しかし、買う側はてんてこ舞いだ。秘密保持の理由は分かるが、買い手にとっては過大な負担だ。

 

とにかく、買収する側は、買収後のプラン作りや法的な対応、そしてIRもあるし、短期間に様々な非経常的な意思決定や作業が、ごく少数の人々に集中するのでバタバタしている。それで試算をやり直す暇がないらしい。FAに試算をやってもらった場合は、企業が中身を理解してないので、買収調査の結果で試算を修正できないことさえある。したがって、現状では不純物の見極めは難しい。

 

しかし、これは非常に不健全な状況だと思う。

 

企業買収額は多額となり、企業の屋台骨を揺るがすこともある。実際に僕が監査していた会社は、買収した会社が全く期待外れで、それが遠因(多額の減損損失計上)となって上場廃止に追い込まれた。瑕疵担保責任(=契約時にはわからなかった事実による買い手の損失を、売り手があとで保証する責任)による損害賠償も請求したが、実際に生じた損失には全然足りなかった。

 

そのときの買収スケジュールが正に、買収調査(デューデリジェンス)の結果が出る前に買収合意するパターンだった。そして当時、FAとなった証券会社から出ていた買収先企業の評価資料には、もっともらしい何とか法の計算値とグラフをいくつも並べてあったが、売り手の主張に乗った、実態と違う、地に足のついてない仮定・前提で作成された絵に描いた餅だった。もちろん、仮定や前提を含むとか、利用するのは自己責任などという警告文は付いていたと思うが。でも、それで買収交渉が行われた。

 

その買収の数か月後、この証券会社は、この会社に転換社債型新株予約権付社債を発行させて手数料を稼いだ(後述の空売りをしたかどうかは知らない)。しかも、当時既に評判が悪かった転換価格を修正できるMSCBだった(ライブドアが発行したものが証券会社に悪用されて、一般株主が損失を被ったとされる。証券会社は空売りと組合わせて低リスクで多額の売却益を得たが、株価は大きく下落したから、悪評がたっていた)から、既存株主には迷惑だっただろう。その時点ではまだ資金繰りも余裕があったから、それを銀行借入の返済に充てたように記憶しているが、銀行は気を悪くしたに違いない。もちろん、会社がそれを選択したのだから、証券会社の所為にしてはいけないが、その後、上場廃止に至るころの資金繰りの厳しさを思うと、つい頭に浮かぶ。当時、この証券会社を非難する関係者は多かった。とはいえ、上場廃止の直接の理由は監査人の意見不表明だから、一番評判が悪かったのは監査人である僕だったに違いない。

 

以上は極端な例だが、しかし、企業買収にはリスクも大きい。やはり相当な準備が必要だ。そしてその過程で、公開情報等からの買収上限値を企業が自ら計算し、買収調査等の新たに分かった事実によってそれを修正し、買収交渉で詰めた条件を反映し、それから意思決定を行う、こういうことができる買収スケジュールが必要だ。どんなところでシナジー効果を生み出すか、それがどの程度のキャッシュを生むか、そしてそのシナジー効果を生むためには、相手のどういうところにどんな経営資源を足していけばよいか(或いは引いていけばよいか)、そういうイメージをなるべく具体的に持って意思決定しないと、本当に博打になってしまう。

 

買収の成功事例が増えれば増えるほど、企業買収は盛んになる。そうすればFAの仕事が増えるはずだ。FAは、買収取引が成立すればあとは関係ない、というスタンスではなく(もちろん、FAはこれを否定するだろうが、傍から、特に買収側からはそう見える)、上記のような企業買収が成功しやすい取引環境を生み出すサービスを期待したい。そうなれば、買収する側も、買収される側も、FAも、みな幸せだ。ただ、売り手だけは、多少懐が寂しくなるかもしれない。

 

また企業も、「上手い話があれば乗るよ」みたいな軽いノリではなく、自らの強み・弱み、製品市場と競争相手の分析などから、買収対象の具体的な要件を、事業計画策定の一環として日頃から考えておく必要がある。そういう土台があれば、いざ良い話が舞い込んだ時に、適切な試算や判断が行いやすいのではないかと思う。

 

そして、企業によっては買収調査を、形ばかりの、IRでのアリバイ作りのように考えているケースがある。そのような場合、そうでなくてもFAは色々条件を付けて調査資料を制限するが、ますます資料が出なくなる。一方で、事業部現場の優秀な社員も駆り出して、買収後の事業運営に生きる情報を得ようと積極的な調査を行う企業もある。そのような場合は、FAも売り手側に、より多くの情報提供のプレッシャーをかけざるえない。リスクの大きさを考えれば、当然後者のような対応が必要だ。企業の姿勢次第でFAの姿勢も変えられる。

 

そういう土台、取引慣行になっていれば、「計算された上限値を超える買収額(不純物)の費用計上」や、その後の「試算の前提・予想と異なる実態が判明した場合のスムーズな減損処理」が可能かもしれない。しかし、こういうことができているのは、M&A慣れした一部の企業だけだと思う。残念だが、IASBの言うとおり、不純物をコアのれんから区別することは困難、というのが現状だと思う。

 

だが、後日記載するように、IASB(やFASB)は、不純物をコアのれんから取り除くことはできないのに、のれんの減損会計の実務には自信をのぞかせている。その分、日本より欧米の方が、このような企業買収関係の実務が進んでいるのかもしれない。

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