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2012年11月21日 (水曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(4)資産性のポイント

2012/11/21

今回から何回か、のれんの資産性をテーマにしたい。のれんを企業を買収した期の費用にすべきという意見もあるが、現行制度ではそうなっていない(日本基準も、IFRSも)。なぜ資産に計上するのかを検討していきたい。(償却や減損の話は後日。) そしてこのテーマは、会計の根本に触れる非常に重要なポイントがいくつもあるので、今回はIASBや日本の(従来の)考え方の概略を書いておき、次回以降、中身の個別論点を検討しようと思う。

 

ところで最近の清水エスパルスのサッカーを見ていると、自分の会計観への自信が揺らぐ。なぜかというと、若手の活躍が素晴らし過ぎるからだ。会計では将来を見積もる際に過去実績を大事にする。楽観論を排して、基本的には「これからこういう改善をします」とか「今度投入する新製品が大ヒットします」などという話は、眉に唾をつけて聴く。それと同じ目でサッカーを眺めていると、何の実績もない若手がこれほど大活躍するのは、嬉しい方向での想定外だ。それほど、この2年間のエスパルスの成績は素晴らしい。

 

というのも、昨年アフシン・ゴトビ監督が就任したときには、チームの主力が抜けてしまい、戦力に不安を感じていたからだ。日本代表級の岡崎慎司選手や藤本淳吾選手、本田拓也選手、そして、その他のコンスタントにスタメンだった主力がほとんど移籍してしまい、若手+小野伸二選手・高原直泰選手の布陣となってしまった。昨年のリーグ戦が始まった段階では、良くて残留争い、悪ければ早々に降格が決まってしまうのではないかと心配した。しかし、昨年もリーグ前半戦は7位、終了時も10位と降格争いには無縁だった。今年はナビスコ・カップで準優勝だし、リーグ戦でも一時は2位まで順位を上げた(現在は残り2試合で、3位と勝ち点4差の7位)。選手の頑張りはもちろんだが、ゴトビ監督の手腕は素晴らしい。チーム・スタッフ、フロントとも息が合っているのだろう。(だが、ここからが壁なのだ。前監督長谷川健太氏のときもここまでは来た。)

 

さて、このエスパルスのチーム編成を企業経営に例えると、ゴトビ監督を連れてきたのは企業買収と思えなくもない。ゴトビ監督は数名のスタッフを引き連れてエスパルスに参加し(=ゴトビ株式会社を買収し)、新思考で選手(特に若手)やチーム・スタッフ、フロントにイノベーションを起こした。もし、ゴトビ監督に契約金を支払っていたら、それは、このようなゴトビ監督(=ゴトビ株式会社)のエスパルスへの貢献の経済効果への期待、即ち、ゴトビ株式会社の“のれん”への対価と考えられなくもない。エスパルスはこれを資産計上しただろうか?(実際のエスパルスの決算上は、法人税法基本通達8-2-3に従って契約金は資産計上され、契約期間か3年の短い方で償却されていると思う。しかし、ここではその契約金を“ゴトビ株式会社”の「買収資金」とし、ゴトビ株式会社には資産・負債がないから、「買収資金=のれん」と考えている。)

 

 

(のれんの構成要素)

前回(11/17)の記事では、コアのれんには次の2要素が含まれるとした。そしてそれが、ゴトビ株式会社買収の例えにどのように当てはまるかを見てみよう。

 

 =コアのれんの構成要素=

 (買収される)会社が積上げてきた企業価値に対する対価

 買収によるシナジー効果によって生まれる新たな価値に対する対価

 

そしてこれに、本来は損失計上すべきだが、コアのれんと区別できないためにのれんに含まれてくるものがある。「買収プロセスで起こる買収額の変動額(特に過大支払額)」という不純物がのれんに混入してくる(以下ではこれを単に“不純物”と呼ぶ)。

 

上記の例えでいえば、ゴトビ監督の過去の実績(韓国代表チーム・コーチやイラン代表監督での成績など)についての評価額が①、ゴトビ監督と若手選手、チーム・スタッフ、フロントが混じり合うことで期待されるシナジー効果の評価額が②、そして、もしゴトビ監督(やその代理人)が交渉上手で、(限度を超えて)報酬を吊上げたり、ドルベースで契約金の合意をして実際の支出までに円安に振れて多額の為替差損が出ていたりしていれば、それらは“不純物”となる可能性がある。そして、IASBは、これら①~②と“不純物”が実務上区別が困難で、一体として考えざるを得ないとしている。

 

 

(“期待”による資産計上)

・IASB(やFASB)

IASB(やFASB)は、①や②については、フレームワークの資産の定義に照らして、コアのれんに資産性があるか否かを検討している。その結果、コアのれんは、将来キャッシュフローを生むと期待できるので、資産の定義に該当するとしてのれんの価値を認め、資産であると判断している。

 

・日本の考え方

日本の考え方では、費用収益対応の原則から、のれんの原価は買収後の収益と対応させて費用配分すべきものなので、効果が継続する期間に渡って前払費用のように費用の期間配分がなされる。その結果として、未配分の原価が資産計上される。

 

IASBはのれんの価値を認めて資産計上、日本の考え方は収益費用対応の原則によって結果的に資産計上と、その考え方のプロセスは異なっていても、結論は同じだ。IASBは、のれんに将来キャッシュフローの流入を増加させる効果があると期待し、日本ではのれんに将来収益の獲得効果があると期待している。

 

IASB(やFASB)と日本の考え方の詳細は次回以降に譲るとして、今回検討しておくべき重要なポイントは、上記の考え方のいずれも、コアのれんが将来キャッシュフローや 将来の収益を増加させるという“期待”があることだ。もし、その期待ができないのであれば、IASBでも日本の考え方でも、資産計上という結論にならない。したがって、“期待”については掘下げる必要があるだろう。

 

そして、もう一つ“不純物”の問題がある。買収する側にとって、この部分は予定外だ。そこに、このような期待があるとの前提を置くのは困難だ。可能であれば不純物とコアのれんを区別したい。本当にコアのれんと区別ができないのだろうか。これについても後日検討する。

 

(ゴトビ株式会社への期待)

さて、上記の例えに戻って“期待”について考えてみよう。ゴトビ監督への契約金、即ち、ゴトビ株式会社買収に係るのれんに資産性はあるのか。

 

ほぼ2年間の実績を目の当たりにした今なら資産性があると納得ができるが、2年前はどうだったのだろうか。ゴトビ株式会社はエスパルスのJ1残留に貢献してくれると期待できたのだろうか(=J2に落ちることで起こるであろう収益の低下を防げると期待できたのだろうか)。もちろん、エスパルスの経営者は契約金に見合う期待ができると考えたからこそゴトビ氏に監督就任を要請した(ゴトビ株式会社を買収した)のだろう。もし、期待がなければ契約をしなかったに違いない(=ゴトビ株式会社を買収しなかった)。即ち、契約した(=買収した)ということは、上記の資産性を判断する“期待”が存在したことの証明になる。

 

企業買収に実感がわかない方のために、ゴトビ株式会社の例を書いたが、サッカーに興味がなく余計分からないとお怒りの方もいらっしゃるだろう。そういう方には大変申し訳ないが、各々何か具体的な例を思い浮かべてもらうと良いと思う。例えば、ご子息・ご息女に家庭教師をつける際に、月謝以外の一時金を最初に払うこと想定することなど。その一時金を支払うということは、その一時金以上の効果をその家庭教師に期待できるとか、一時金を月謝に割り振って均してみて、そんなもんだと納得できるなどということだろう。そういう時は一時金には資産性があるし、納得できない場合は費用処理する(実際には契約を断るので支出しない)などと。

 

繰返しになるが、買収時点では、或いは、ゴトビ監督や家庭教師と契約する時点では、買収額や契約金にその価値がある、或いは、均せばそれぐらいが相場だと納得している。そこで納得しなければ、そもそも契約しない。価値があるとか、均せばこんなもんだと納得しているなら、それはその時点で会計上の資産だ。確かに賭けではあるのだが、買収を決断したのだから、勝算があると判断したことになる。だから、のれんには資産性があると考える。IFRSにも日本の考え方にも、こういう単純な発想が根底にあると僕は思う。

 

 

(期待が実現する確からしさ)

結果から見ると、ゴトビ株式会社ののれんには確かに価値があった。しかし、他のJリーグの監督たちは必ずしも成功しているとは限らない。実際、期待が実現しないので、シーズン中でも監督が何人も交代させられている。

 

それなら、「研究費にだって価値がある。将来の貢献を期待して支出しているから資産ではないか」と思われた方もいらっしゃると思う。しかし、研究というものは、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授も言われたように、十に一つうまくいけば良い方で、成果が上がる確率は相当は低い。さらに大きいのは、そこから事業化という大きな壁を乗り越えなければ将来キャッシュフローは見込めないことだ。そこまでたどり着く確率は、さらに低いので、研究時点での期待値は小さい。まだ勝算があるとは言えない。そして、具体的な収益の獲得、事業化が見えて期待値が上がってくれば、開発費として資産計上されることになる。その時点でようやく、上記のコアのれんと期待値のレベルが合ってくると考えられているということだと思う。

 

一方で、のれんを費用処理すべきと考える人は、買収を決断したとしても、それは一種の賭けであり、勝算は十分でない、即ち、買収した事業が成功して将来キャッシュフローや収益を生むとは限らないから、早めに費用計上しておこうと考える。研究費に対する期待と大差ないレベルと考える。しかし、上記で見るように、経営者の判断を尊重し、経営者がいけると判断したなら勝算があることにしようというのが、現在の考え方のベースにあると思う。

 

実は、この経営判断を尊重するという部分は、IFRS第3号の結論の根拠に記載があるわけではない。それを、IASB(やFASB)が、どのように表現しているかは次回に譲ることにする。

 

 

(自己創設のれんの問題)

ちょっとおまけだが、もう一つ問題提起しておきたい。11/14の記事に記載したように、自己創設のれんは資産計上が禁止じられている。結論の根拠では、自己創設のれんが、実質的に資産計上される疑いを、償却か減損かというテーマの中で論じている。しかし、僕は、コアのれんの構成要素の②(シナジー効果)については、買収時点から自己創設のれんの疑いがあるように思う。そこで、のれんは資産か費用かというこのテーマの中で、少し触れてみたい。それも次回以降になる。

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