【金融緩和】鶏が先か、卵が先か。でも、結局イノベーション!
2012/11/30
のれんは飽きた、という方のために、今回はこのブログでは珍しく旬の話題を取り上げる。「日銀がもっとお金を刷れば景気が良くなるか」(=金融緩和)という問題だ。なお、実際に紙幣を刷るのは財務省の造幣局(独立行政法人)であり日銀ではないが、日銀は、市中銀行にお金を供給することができる。その方法の一つが、マーケットにおける国債の買取であり、ご存じの通り自民党総裁の安倍氏の発言をきっかけに、この議論が盛り上がっている。
期待インフレ率が高まると経済成長率も高まる。このプロセスは、次のように説明されている(Diamond onlineの高橋洋一氏の記事より)。
金融緩和するとインフレ予想が高まるので実質金利が下がるからだ。実質金利が下がるということを確認できれば、金融緩和が需要不足を補うことも確認できる。実質金利が下がると、資産市場である為替と株式市場は早く反応する。円安になって、株高となる。円安は輸出を増加させ、株高はいずれ消費を増加させる。また実質金利の低下は後になって設備投資を増加させる。こうしてタイムラグはあるものの、金融緩和は輸出、消費、設備投資という有効需要を増加させる。
貼り付け元 <http://diamond.jp/articles/-/28610?page=2>
即ち、期待インフレ率上昇→実質金利低下
→円安→輸出増加 →経済成長
→株高→消費増加 →経済成長
→設備投資増加 →経済成長
経済学を勉強された方は、期待インフレ率と失業率のトレードオフ関係を示すフィリッピス曲線を思い出すと良いかもしれない。(下記はWikipediaからの転載)
期待インフレ率が上昇すると、名目賃金には硬直性があるため、実質賃金(=名目賃金/予想物価水準)が低下する。完全雇用が達成されていない短期においては、この労働力価格の低下を受けて雇用量が増加し、失業率が減少する。そのため、期待インフレ率と失業率の間には右下がりの関係が描ける。そして一般に、期待インフレ率が変化すると実現するインフレ率もそれに応じて変化するため、実現したインフレ率と失業率の間においても右下がりの関係が表れることとなる。
即ち、期待インフレ率上昇→実質賃金低下→雇用増→失業率低下
高橋氏は財/サービス市場から、そしてフィリップス曲線は労働市場から、期待インフレ率が上昇した場合の経済波及効果を説明している。「即ち」に続く赤い文字の部分は、(日本という国を想定した話ではないが)一般的な経済学の定説だと思う。なんて素晴らしいストーリーだろうか。
だが、庶民としては、次の2点が心配だ。
① 金融緩和が期待インフレ率の上昇につながるか?
② 経済成長率が高まっても、(日本人の)給料が上がるとは限らない。
①については、一応瞬間的には、マーケットが円安と株高に動いた。しかし、これが上記のような経済効果に至るには、一定の期間この傾向が継続し、経営者や消費者が円安や株高が定着すると信じるようになる(=期待を持つ)ことが必要だ。今までデフレや円高が長かったので、このイメージを変えるのは時間がかかるかもしれない。インフレ率の差が為替レートを決めるという考え方自体、比較的長期を想定したものだ。短期では、米国の財政の壁問題や欧州のギリシャ・イタリア・スペイン問題のような各局面で大きく振れるから、そういうものを超越できる期間が必要。果たして、金融緩和の効果が、そこまで強力で持続的なものかが問題になる。
②については、既に1990年代からの米国や最近の日本で見られたように、企業業績が良くなっても、必ずしも、国内の雇用が増えたり賃金が上昇するとは限らないことが懸念される。企業は生産性の向上に貢献する生産要素に資金を配分する。ということは、例えは、海外生産が企業業績を改善させたなら、その報酬は海外の労働者が受け取るし、海外への設備投資が増えることになる。生産設備が貢献するなら資金は給料・賃金ではなく、設備投資へ向かう。社員全員の給料が上がるほどの良い環境になるのは難しいので、貢献の大きい人のみが報われる。
①の金融緩和の効果の程度については、鶏が先か、卵が先か、みたいな神学論的な難しさがあるが、今回の衆議院選挙で争点になりそうなので関心を持たざるえない。しかし、重要なのは、この無制限の金融緩和を主張している人たちも、金融緩和だけで問題が解決できるとは言ってないことだ。付加価値を生み出しやすくする政策との組み合わせが必要と言っている。そして、付加価値を生み出すのは政府ではなく企業だ。日本経済が良くなるには、結局、日本人が活躍して(=貢献して)国内企業の業績を向上させる必要がある。結局、国内でどれだけイノベーションを起こせるかが、問われるのだと思う。
このブログを読んでいるみなさんも例外ではないかもしれない。即ち、イノベーションを起こせないと報われないかもしれない。企業の会計関係者であれば、過去の実績を集計するだけの仕事は、既にかなりコンピュータに置き換えられているだろうし、その延長線上にいては大きな貢献は難しい。経営に役立つ情報(≒社外関係者との利害調整にも役立つ情報)は何かを追求し、将来予想を取り込んだ“現状”を如何に表現するか、そしてそういう情報を生成するプロセスを如何に(経理部はもちろん、それ以外の)経営組織に埋め込むかを考え、実現していくのが、一つのイノベーションの方法だと思う。そして、それにIFRSを利用するのは面白いアイディアだと思う。
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