« のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(1)問題提起 | トップページ | のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(3)のれんの構成要素 »

2012年11月14日 (水曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(2)のれんの本質

2012/11/14

今回は、「のれん」が何かについて考えてみたい。それが分かると、非償却を主張する人の背景が理解しやすくなると思う。

 

例えば、「あなたは、青が好きですか、赤が好きですか」という質問に対して、「青は落ち着いているから好き」という人もいれば、「エネルギーに溢れた情熱的な赤が好き」と答える人もいる。だが、昨季英国プレミアリーグを制したマンチェスター・シティのサポーターは、チーム・カラーの青にエネルギーと興奮を感じるかもしれない。先日再選を果たした米国大統領オバマ氏を応援した米国民主党の人たちも、そして今夜、オマーンとW杯最終予選を戦うサムライ・ブルーのサポーターたちも同じだ。「青」が何を想起させるかは、それに纏わる体験によって影響を受けると思う。さて、みなさんは「のれん」で何をイメージするか。みなさんは「のれん」にどのように関わってきたか。それが償却・非償却の判断に影響を及ぼすように思う。

 

「のれん」は、英語では「good wil」。日本語の「のれん」は、店の入り口に架かっている暖簾から転じて、企業の看板、企業イメージ(の良さ)、企業の信用などの意味がある。さらに「のれん分け」といえば、ビジネスの一部譲渡。即ち、「のれん」は、ビジネスや企業そのものの意味としても用いられる。

 

goodwill」も、同様にビジネスや企業そのものを表す言葉として用いられるが、元の意味は店の軒先に架けられた布ではない。「好意、善意、親切、親善」といった意味だ。日本語の「企業の信用」とか「企業イメージ」に近い。何か良いことをやってくれそうだという周囲からの好意的な期待を表している。

 

元の意味は違っても、この日本語と英語の差は僅かであり、これが償却・非償却に影響を与えているとは思えない。むしろ、会計で議論されるときの「のれん」と、上記のような本来の「のれん」や「goodwill」との間にイメージの差があると思う。会計で議論される「のれん」は、単に投資額と買収した企業の価値との差額という計算上のイメージしか持たれてないような気がする。しかし、「のれん」にはもっと重要な経営的な意味がある。

 

そこで、もう少し本来の「のれん」の理解を深めていこう。

 

「のれん」はどうやって作られていくのだろうか。まずは、日常の事業活動によって顧客からの良い評判を積上げていくことだ。顧客に良いアイディアと製品やサービスを提案し、提供し、評価を受けるという当たり前の日常活動が積み上がって「のれん」になっていく。他に、自社のイメージアップを直接の目的として行う企業トップの言動、広報活動、慈善事業なども「のれん」を形作っていく。

 

かつて、日本で「のれん」が経営上の重要事項としてクローズアップされていた時代があった。その当時は、多くの企業がこぞって、CI(コーポレート・アイデンティティ)戦略に力を入れていた。これは正に「のれん」を作ろう、その価値を高めようとする活動だ。今でも外資系企業などを中心に「ブランディング」が行われている。

 

日本ではCIやブランディングというと、広報部門やマーケティング部門が担当部門になって、ちょっと狭く捉えられがちのように思う。しかし、その本当の姿は、経営活動全般に及ぶといってよいほど広いものだと思う。

 

みなさんの会社に経営理念や行動指針のようなものがあれば思い起こしてほしい。企業の目標として、世界経済、地域経済、顧客などへの貢献が、明確に宣言されているはずだ。即ち、「のれん」の価値を高めること、社会からより多くの「goodwill」を獲得することが、経営目標になっている。その目標を達成するために、各社それぞれの強みを生かせるように、中長期の経営計画を策定し、研究開発や設備、人材などの投資計画を立案し、年度予算を策定し実行する。特定部門だけでなく全従業員・役員が、あらゆる場面で、共通意識の下に事業活動を遂行していく。CIとかブランディング戦略は、この経営活動に一定の方向性を与え、「のれん」の価値を高める活動の効率を上げるが、この活動の主役は、事業の実行者として社会や顧客に関わりを持つ全従業員・役員だ。

 

どんな会社も、例えばCIとかブランディングなどを意識してない会社も、また、経営理念や行動指針がない会社も、すべての会社が顧客の満足を高め、社会に貢献するために、日常的に活動しているはずだ。そういう全員の努力の結果積上げられたものが「のれん」だ。しかも、現役従業員・役員の努力だけでなく、企業創業時の諸先輩方の努力から始まって、代々受継がれてきたものだ。だから、それを簡単に毀損してよいと考える人はまずいない。また、企業が事業継続できているということは、その企業が社会から必要とされている、即ち、「のれん」の価値が社会から認められているということであり、「我社ののれんの価値はゼロである」など公言する人は、普通はあまりいないはずだ。みなさんの会社の「のれん」はいかがだろうか。会社だけでなく、大学や役所といった非営利の組織でも同じような「のれん」はある。みなさんにも非常に関連の深いものだ。

 

もし、この「のれん」を資産計上したら、簡単に償却してよいだろうか。また減損はどうだろうか。先達も含めた全員の力で積上げてきた努力の成果、創り上げてきた価値、そして後進に伝えていくべきもの。それを簡単に減額してよいだろうか。しかし、そう思う一方で、この「のれん」はちょっとしたミスや裏切りで、簡単に崩れやすいデリケートなものであり、維持し高めていく困難さも容易に想像される。伝統を守るというだけでは維持もできない。

 

さて、みなさんは、この「のれん」をどのように思われただろうか。償却するだろうか。そしてその前に、一体いくらで資産計上したらよいだろうか。

 

「ん~、難しい。困った。」と思われた方はご安心戴きたい。上記のように自社で積上げた「のれん」は、会計上、そもそも資産計上しないことになっている(自己創設のれんの資産計上禁止。IASBは「

internally generated goodwill」と呼んでいるが、やはり資産計上を禁止している)。上記のような「のれん」を創設するコストは、日常的な事業活動の費用に含まれ、通常、費用処理され資産計上されない。例えば、顧客のニーズを探る営業活動に係るコストも、CIやブランディングに直接かかわるコストも期間費用処理だ。資産計上されないので、基本的には、償却や減損の問題は存在しない。

 

では、どういう時にこの「のれん」の問題が発生するか。それは、主として、他社が積上げた「のれん」を企業買収や営業譲受で取得した場合だ。企業や事業を丸ごと買った場合は、当然、このような「のれん」もついてくる。買収額には「のれん」の対価も含まれている。それを一括費用処理するか、資産計上するか。そして資産計上したら償却するか、それとも非償却で減損のみにするか。その前にいくらでのれんを認識し、資産計上するか。色々な問題がある(そもそも、なぜ自己創設のれんを資産計上しないのか、と思われる方もいるかもしれない)。これらについては長くなるので、次回以降に繰越したい。

 

ところで、昨日(11/13)、11/5の記事「【製造業】人の評価の資産計上」に、記載を追加した。この11/5の記事では、自分でも聞いたことのない、ふっと頭に浮かんだユニークな主張をしてしまったが、そのことを書き忘れた。もしかしたら、それを通説と誤解する方がいるかもしれないと思い、念のために注意喚起をさせてもらった。追記した部分は赤字にしているので、気になる方はご覧いただきたい。

« のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(1)問題提起 | トップページ | のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(3)のれんの構成要素 »

企業会計審議会(IFRS)」カテゴリの記事

IFRS個別基準」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/577176/56108503

この記事へのトラックバック一覧です: のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(2)のれんの本質:

« のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(1)問題提起 | トップページ | のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(3)のれんの構成要素 »

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ