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2012年11月27日 (火曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(6)日本の考え方

2012/11/27

“決められない政治”という問題は、日本だけでなく米国でも起こっていた。米国でも議会にねじれがあり、与党と野党が妥協できずに重要な意思決定が行えなかったという。そういえば、企業会計審議会でもIFRSの導入に関して結論が先送りされた。「政権交代の可能性があって決められない」とか「米国が決めないと決められない」などいう話も聴く。しかし、それでは(政治と独立した)専門家による「審議会」で意思決定する意味がないではないか。また、会計基準をIFRSにすると米国が文句を言うのだろうか。むしろ、日本基準を維持すると決めたら米国が文句を言うと思う。米国の投資家も、日本基準よりIFRSの方が馴染みやすいだろうから。

 

(来年の)企業会計審議会ではIFRS推進派と反対派が歩み寄って合意できることを願いつつ、今日は、のれんの資産性に関する日本での議論を紹介することにしたいと思う。

 

日本の主流派は、のれんの資産性を認める意見で、だいたい次のようになると思う。

 

のれんの本質は超過収益力であり、のれんは企業買収時にのみ認識される(=買入のれん)。超過収益力とは、平均的な同業他社より多くの(営業)利益を稼ぎ出す能力だから、のれんは、その将来収益に対応して期間配分(=償却)される。結果として、償却終了まで未償却残高が資産計上される。

 

それに対して、のれんの資産性を疑う意見は、ざっと次のようになると思う。

 

のれんの資産としての実態は不明確であり、換金価値も(それ単独では)認められない。企業買収時に買収額と純資産額の差額として出てきてしまうので、会計基準上、消極的に資産計上しているに過ぎない。もし、のれんの本質が超過収益力であり、積極的に資産計上すべきものであるなら、同様の性質を持つ自己創設のれんも資産計上すべきだが、それは否定されている。本来、企業買収時に認識されたのれんも、資産計上すべきではない。

 

 

みなさんは、どちらの意見がしっくりくるだろうか。僕の結論は「資産性あり」だ。買収を決める経営者の判断は、僕から見ると神秘的でさえある実に高度な判断だ。もちろん失敗もあるが、僕がまずいと思った事案が、成功することもある。やはりそれを尊重して資産計上する方が良いと思う。M&Aは、企業成長の元になるイノベーションを起こす重要な手段だ。資産計上しない場合、その機会を得にくくなるに違いない。

 

ということで結論は同じだが、主流派の論拠となっている「超過収益力」は、どうもしっくりこない。せめて「超過収益力」って言葉を使わなければ、まだ賛成しやすいのだが・・・。

 

 

(「超過収益力」について)

 

企業買収の現場で、上記の「のれん=超過収益力(業界平均以上の収益力)」説をそのまま受け入れる人は少ないと思う。なぜなら、大抵「超過収益力のない会社」を買収するからだ。だが、それでものれんは発生する。これを見て「のれん=超過収益力」といえるだろうか?

 

買収される会社といえば、例えば、不振にあえいでいる企業とか、強み(立地、特定の資産、技術力など)を生かせない企業とか、業界再編で強い方が弱い方を飲み込むなどが多いと思う。問題を抱えた企業とか、競争力の弱い企業に、常に超過収益力があるとは思えない。したがって僕はこの「超過収益力」説はしっくりこない。

 

加えて、監査人の立場でM&Aの現場を垣間見た経験では、「ダメな会社でも我社が手を入れれば良くなる」とか、「相手が持っている経営資源を我社で利用してコストダウンを図りたい」とか、「買収でシェアを高めたい」といったコアのれんの②の要素(11/17の記事)、即ち、シナジー効果に対する期待で買収が行われる印象が強い。むしろ、企業買収は②のために行われるとさえ思う。逆に、単に「あの企業は同業者より業績が良い」(=超過収益力がある)から買収するという、まるで株式投資など資産運用の一環みたいな企業買収の事例は、少ないと思う。株主が資金繰りの都合で手放す会社を購入する時ぐらいか。だが、そんな出物はあまりない。

 

しかし、日本の会計の世界では「のれん=超過収益力」説が根強く語られている(例えば、「企業結合に関する会計基準」の結論の背景106項にも出てくる)。それは、この説をのれんの償却を主張する根拠に利用しているからかもしれない。でも、現実ののれんは上述の通りであり、僕も償却派だが、のれんが超過収益力である必要は感じない。

 

創業以来の関係者によって積上げられてきた企業価値(11/17の記事の①の要素)は、競合他社より業績が良いから発生するわけではない。業績がよかろうが悪かろうが、存続してきた企業には、①の要素がある。また、買収時には②の要素(シナジー効果)がより重視される。だから、赤字会社でも債務超過会社でも(①の価値がゼロかマイナスでも)、買収の対象になり得る。

 

それとも、会計学者は②も含めて超過収益力といってるのだろうか? だが、企業は単に追加的な将来キャッシュフローの獲得、投資額を超える将来キャッシュフローの増加を期待して買収しているのであり、収益力が業界平均を超えるかどうかは関係ない。

 

減損会計でも業界の平均収益力は考慮されないから、業界の平均収益力を“超過”していなくても減損されない(割引率に考慮されている? しかし、同じ割引率を使うのれん以外の固定資産にも影響してしまうから、それはないでしょう)。即ち、会計基準上も、収益力が業界平均を超過しているかどうかは、のれんと実質無関係だ。“超過収益力”は、会計学者の議論で用いられているだけで、のれんの本質とは関係ない。

 

ちょっと調べてみると、どうやらこの「超過収益力」説は、戦前(第二次大戦)からのもので、輸入品らしい。その頃は、資産運用みたいな買収が多かったのだろうか? しかし、現在はそうではないので、この言葉のイメージでいくら議論してもらっても現実感が乏しく説得力がない。この辺りは、前回(11/23)の記事で紹介したFASB(米国財務会計基準審議会)やIASBのスタンスと好対照だ。彼らは実際に起きていることを観察し、根拠にしていた。

 

日本はこのままで良いのだろうか? 事件は現場で起こっているのだが。

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