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2012年12月11日 (火曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(10)資産と費用の境界

2012/12/11

会計上、ある支出が資産か、費用か、という問題は、実務的にも理論的にもとても重要だ。経理部に配属されたみなさんが初めて伝票を起票したころを思い出して、或いは、想定してほしい。もしかしたら、上司から指示された科目を使っただけだったかもしれないが、暫くして自分が使った科目が、B/SとP/Lへ整理されて振分けられたのを見て、各々が全然違った役割を持っていることに気付かされ、妙に感動したのではないだろうか。

 

いやいや、そんな体験は僕だけかもしれない。僕は会計・簿記に全く素人なのに経理部へ配属された。文字通り、右も左も(=借方も貸方も)分からない状態だったが、みなさんは予め会計の勉強をされてから伝票に向き合った方が多いだろうから、単に想定通りだったかもしれない。

 

とにかく、資産に振分けられるのと費用に振分けられるのでは大違い。資産に振分けられるとその後も関心を持たれ続け、費用に振分けられると“費消”したとして消滅し、歴史になっていく。このように書くと、元ジュビロ磐田の中山雅史選手の現役引退のようで物悲しいが、費用の方はそうでもない。むしろ、何かが成就したようなホッとした雰囲気も感じる。

 

さて今回は、このシリーズの前々回(12/4)「着眼点」で予告した2つ目の問題を検討したい。即ち、資産と費用の境界をもっと深く考えたい。

 

 A.企業買収で取得したのれんは資産計上される。

 B.研究費は費用計上される。

それでは、中長期的な製品開発のために買収した企業ののれんは資産計上か? (この買収によって取得したのれんが収益に結び付く確率は研究費と同等程度と思われるが、それでも資産計上するのか。)

 

この問題を考えるに当たり参考になるのは、IAS第38号「無形資産」の結論の記載にある「企業結合で取得した研究開発プロジェクト」(BC78~)の記載だ。ここでは、企業結合のケースでは、買収される側の企業の研究費は、「分離可能か、又は契約上の権利又は法的権利から生じている場合」は、無形資産として資産計上されるとしている(BC81BC19Cなど)。そしてその理由は、概念フレームワークの資産の定義に合致するため、ということだ。

 

そうすると、10/30の開発費に関する記事の『資産計上されるのは、研究開発活動のうち「開発」に限定され・・・』という記載、即ち、研究段階の支出、即ち、研究費は資産計上されないという理解と矛盾することになる。

 

IASBはこの矛盾を認めていて、かつ、修正するのは、企業結合のケースではなく、研究開発費に関する規定の方だと考えている。即ち、企業結合以外の場合であっても、「分離可能か、又は契約上の権利又は法的権利から生じている」研究費は、資産計上する方向で将来の改正を行う方針だ(BC82)。即ち、研究費でも、概念フレームワークの資産の定義に合致するものは、資産計上するということだ。

 

そこで、実際に矛盾するケースを考えてみると、例えば・・・

 

・外部委託研究(契約上の義務と恐らく報酬も決まっているもの。これはいまでも資産計上されていると思う)

・関連特許が売れそうな研究

・特許以外でも収入を得られそうな研究 など。

 

12/6の記事「裏口入学」では、概念フレームワークの資産の定義を満たすには、その将来キャッシュフローの予想が「可能性が高く、かつ、信頼性をもって測定できなければならない」としていると書いた。これに関連して、IAS第38号の結論の根拠では、公正価値が計算できるものは、不確実性がその計算に織り込み済みなので、この要件を満たすと考えるとしている(BC17)。したがって、上記のような研究費が企業結合の際に見つかった場合、公正価値が計算できるものは資産計上されることになる。(その際に、売る意思があるかないかは問われない。ちょっと無理がある・・・)

 

さて、個別の研究案件の公正価値を見積れるかどうかという実務的な問題はさておき、ここで確認しておきたいのは、概念フレームワークの資産の定義に合致するものは資産で、そうでないものは費用という考え方を一貫させるIASBの姿勢だ。即ち、上記の、資産の定義の例外となっている「研究段階の支出は費用計上する」という規準を改める、としていることに注目していただきたい。

 

すると、上記に問題提起したAは資産の定義に従って資産と判定されたが、Bは例外規程で費用とされているものなので、Aが優先されることになる。すると、IFRSでは、研究開発のために買収した企業ののれんも資産計上されることになるというのが結論だ・・・

 

 

しかし、この結論には異議がある。いくら経営者の判断を尊重するといっても、M&Aの現場というのは11/29の記事「不純物」に書いたように、バタバタしてて、買収対象の情報も十分入手し整理できているとはいえない。経営者の神憑り的な直感力には恐れ入るが、いつも“当たる”わけではない。即ち、「取引の知識がある第三者間の・・・」という公正価値の定義とはちょっと違う状況にあると思う。仮に買収案件が相対取引でなく、入札で落札したものであっても同様だ。というか、入札の場合はさらに売り手側の立場が強まり、相手のFAが無茶を言ってくる。

 

このM&Aの現場・実務の改善が急務なのではないだろうか。多分この問題は、日本だけではないはずだ。

 

ここで、オリンパスの国内3社ののれんを思い出してみよう。あとから「ほとんど売上がないような会社を、数百億もかけて買収する価値があったのか」と疑問が呈された、あの件だ。特に監査人の立場から見れば、M&Aの実情が改善されないまま「とりあえず経営者の判断を尊重する」ことになっていると、頭を抱えざるを得ない。

 

IASB(やFASB)は、あくまで投資額を将来キャッシュフローによって回収できるか否かという普通の判断を経営者が行っている前提で、「企業買収額は公正価値」と考えているのだろうが、そうでないケースをどうやって区別するのか。また、ダメでもともと、当たればラッキー、一から研究するよりは安そうだから、とりあえず買収しておこうという企業買収は、必ずしも回収を前提としていないが、それはどうするのだろうか。

 

11/29の記事「不純物」に記載したように、M&Aの投資回収計画はないも同然のことが多い。だから、M&Aの時点では監査のしようがない。もし、オリンパスの監査人が、裏ファンドの損失を埋めるというM&Aの本当の目的までつかんでいれば、「このM&Aは投資額を将来キャッシュフローで回収する目的ではないので、のれんの資産計上はできない」と言えただろう。しかし、単に投資額が過大に思えるというだけでは、即ち、買収の本当の目的が特定できないと、M&Aがあった期は、資産計上を認めざるを得ない。それでいいのだろうか? オリンパスの件は確かに買収額が多額過ぎるが、それでは一桁買収額が小さかったらどうだろう? それならいいのか?

 

ここで、12/6の「裏口入学」の記事をもう一度思い出してみよう。あの「使用価値と公正価値は異なる」という議論だ。使用価値は、その企業のマネジメント・チームの能力や他の資産との相乗効果、即ち、自己創設のれんが含まれており、公正価値より大きくなるという主張だ。ここでもそれは同じではないだろうか。即ち、のれんには、買収される会社の自己創設のれんや、買収する会社とのシナジー効果によるのれんが含まれているので、「経営者が回収できると判断した買収額≠公正価値」ということだ。即ち、IASBやFASBの「買収額は公正価値」という考えは、現実に合っていない。おまけに、11/29の記事「不純物」に記載した不純物も入ることがあるのだから。

 

経営者が「投資額を回収できる」と判断したことを尊重するのは良いが、それは、経営者が回収を将来キャッシュフローで行えることを、投資回収計画をもって説明できる場合に限られる。そして、「研究費並みの実現可能性」だと自ら判断し、のれんを買収した期に損失処理する道を、会計基準上に残しておく必要もあると思う。それには「買収額は公正価値」と考えることを止めることが必要だ。短期間のうちに限られた情報で行われる買収額の判断には、不確実性の調整がなされていないリスクが含まれている。

 

IASB(やFASB)は、のれんの一部を損失処理することを認めると、損失額の測定に恣意性が入るというかもしれないが、買収額を公正価値と仮定して、議論だけきれいに見せても現実は変わらない。11/27の記事「日本の考え方」では、戦前からの学説を継承するだけの日本に対して、IASB(やFASB)は、実際を観察してそれを根拠にしていると、僕は評価した。日本に比べればそうだが、それで十分なわけではない。もっと現実の理解を進める必要がある。まだ足りないのではないだろうか。

 

ということで、この件に関しては、M&Aの実務とIFRSの両方に改善すべきところがあるというのが僕の考えだ。

 

ついでに言えば、研究費を資産に上げるかどうかについて、買収時とそれ以外(社内研究プロジェクトなど)で扱いを変えるべきではないが、容易に売却できない研究プロジェクトまで、公正価値評価しても、あまり意味がないように思う。どうも、のれんの償却を禁止して資産計上を要求したために、のれんを無理やり減らそうとしている、という感じにしか思えない。のれんの非償却がIFRSに歪みをもたらしている。IFRS第9号でも、公正価値評価するか償却原価かなどに関して、資産の保有目的(ビジネス・モデル)が重要になっているが、研究費にも、そういう面があってよいのではないだろうか。

 

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ところで、このシリーズの前回(12/6)について、「蓋然性」に関連した誤りに気が付いた。一部箇所で僕は、蓋然性の規準が「可能性が高いこと」と「信頼性をもって測定できること」の両方を含むように記載しているが、含まれるのは「可能性が高いこと」のみだ。近日中に訂正したい。

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