のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(12)ここまでのまとめと、いよいよ償却問題
2012/12/18
みなさんには長らくお待たせしてしまったが、いよいよお待ちかねの償却・非償却の問題に入りたいと思う。だが、まだ先は長い。いや、前置きだけ長くて本論は意外とあっさり終わるかもしれない。まるで「近いうち」で引っ張っておいて、不意打ちで始まったが意外とあっさり終わった総選挙のように。或いは、各大陸で行われた長く壮絶なリーグ戦、トーナメント戦を勝ち残ったサッカー・クラブが一堂に会したクラブW杯のように。(チェルシーに勝利したコリンチャンスは素晴らしかったが、開票状況が画面の端に表示されるのには参った。気が散ってサッカーに集中できなかった。)
要するに僕にもはっきり結末が見えているわけではない。いや、そうではない。結末は「毎期規則的に減損する」のだ。でも、それに至るプロセスが問題だ。誰かは勝ち、引き分けはない。それは分かっている。だがいったいどうやって? どのくらい? そこはまだよく分からない。
ということで、ざっと復習をしてみたい。償却派も、非償却派も、それぞれの「のれんの資産観」(償却派は資産観というより、費用観の結果の資産観)からのれんを償却すべきか、非償却にすべきかを考えている。では、のれんとはどのようなもので、なぜ資産計上が認められたのか。(既に十分読んでこられた方は、赤文字のところのみをお読みください。)
のれんとなにかを検討したうえで、償却派、非償却派の意見の意見を紹介し、結論を得ていきたいとこのシリーズの方針を書いた。その中で、僕は償却派だが、非償却派の意見に良いところがあればそれをみなさんに紹介したいと書いた。(それはなんだったのか? もし、みなさんがこれを読む前より、「のれんって資産だなあ」と思われていれば、僕は満足だ。)
のれんという言葉の意味(英語では「Good will」)から説き起こして、のれんが創業以来の関係者の努力の積み重ねで創設された企業の信用、イメージ、他社と異なるところ、即ち、その会社の存在価値である旨を記載した。(存在価値がなければ会社は潰れる。そういう意味で、IASBは、「継続企業要素の公正価値」と表現している。)
そして、通常、このような自己創設のれんは会計上資産計上されない。企業買収時に買収の対価となったものだけが資産計上される。
IASB(やFASB)の説明を記載した。コアのれん(本来のれんを構成すべきもの)には、上記の継続企業要素の価値と、シナジー効果への期待の2つがある。特にシナジー効果については、買収日以降に創設される自己創設のれんに対する先払い、単なる期待に過ぎないが、資産計上される。
これら以外に計算上混入してくる可能性がある不純物があるので、IASB(やFASB)は、会計基準上の対応を行った。買収する個別資産・負債の公正価値評価や無形資産の認識の拡大、株式交換の株式評価時点を取得日にするなどだ。しかし、それでも改善しきれない、買収プロセスで発生する過大支払額という不純物があるのに、IASB(やFASB)は、この問題に目を瞑った。
ついでに、これらのコアのれんは“人の働きの評価額”ではないか、と僕の意見も付け加えた。
ここまでが、のれんの本質論。これ以降は、のれんの資産性について。
清水エスパルスのアフシン・ゴトビ監督招聘を例に、改めてのれんの構成要素を説明しながら、のれんを資産と考える時のポイントを説明した。それは、経営者が行った「それだけの価値が期待できる」という判断だ。
その過程で、今後の検討のポイントを挙げた。即ち、IFRS、日本基準の背景にあるそれぞれの考え方、不純物は本当に取り除けないのかという点、そして、自己創設のれん(特に買収時点では“期待”でしかないシナジー効果)を資産と考え得る理由、の4つだ。
IASBや(FASB)が、概念フレームワークの資産の定義に照らして、コアのれんが資産に該当すると判断したプロセスを記載した。そこでIASBや(FASB)は、「企業買収は、市場価格(=公正価値)で取引される」と考えることで、企業買収額(=11/21の経営者の判断)の正当性に理論的な裏付けを与えている。あとで異論を記載することになるが、とりあえずここでは、IASBや(FASB)の、観察しうる事実を会計基準の根拠にしようとする姿勢を好意的に紹介したつもりだ。
日本ではのれんの本質を「超過収益力」と考えていて、「平均的な同業他社より多くの(営業)利益を稼ぎ出す能力」の原価は、将来収益と対応して費用化(償却)されるべきだと考える。その結果、未償却額はB/S上翌期に繰越されて資産計上される。
頭で考えている分にはスッキリするが、実際には超過収益力のない企業を安く買収して、シナジー効果を狙うパターンの買収が多い。しかし、安いといっても大概のれんは発生する。超過収益力はないのになぜのれん?という疑問が沸く。日本では、現実に合わないのに、戦前からの理論が引継がれている。IASB(やFASB)とは好対照?だ。のれんは「超過」である必要はない。企業が存続していることだけで生じうる。
僕の知りうるM&Aの実態を紹介し、確かにのれんの原価に不純物が混入するのはやむを得ない。しかし、この現状は(企業にとっても、開示される情報も)不健全なのでその実務を改善し、なんとか不純物を排除できる体制を整えて欲しい、そういう会計基準にしてほしいと希望を述べた。
自己創設のれんは、IFRS第3号「企業結合」以外の、IAS第36号「減損会計」や第38号「無形資産」の「結論の根拠」でも話題になっている。それを見ることで、「自己創設のれんの資産計上禁止」というルールがどの程度厳密なものか、例外はないのかを見ていくという方針説明を行った。
12/06 (10) 自己創設のれんの裏口入学
今気が付いたが、(9)がない。早速この日以降の記事のタイトルを遡及修正させてもらった。(どこかで不整合が生じていたら申し訳ありません。) ということで、改めて、・・・。
IAS第36号「減損会計」等で、IASBは、自己創設のれんの資産計上禁止というルールを最優先ルールとは考えていない。むしろ、本来は資産と考えているようだ。ではなぜ禁止なのか?
そこで、概念フレームワークの資産の定義に戻ってみると、「蓋然性の規準(実現可能性)」と「信頼性ある測定」というキーワードがあって、自己創設のれんは信頼性ある原価測定ができないために資産計上禁止となっている。しかし、どうもこの説明はしっくりこない。直感的に自己創設のれんは資産ではないと思うのだが・・・。
IAS第38号「無形資産」では、買収された企業の研究プロジェクトのうち、公正価値評価が可能なものを資産計上するとしている。しかし、社内研究プロジェクトは、研究段階では研究費として費用計上で、開発段階になって一定の要件を備えたものだけが資産計上される。明らかに両者は矛盾している。これについてIASBは、後者(社内研究プロジェクト)を見直す方針だという。
「公正価値評価できる研究プロジェクトは、蓋然性の規準と信頼性ある測定の両方の要件を満たしているから、概念フレームワークの資産の定義に合致する」というが、「公正価値評価できるもの」の範囲を広く捉えすぎているか、計算される公正価値に信頼を与え過ぎだと思う。そして「買収額(経営者の判断)=公正価値」という仮定が理論的な支えとなっているが、そもそもこれに無理があると思う。
ここまで来て、次回の企業結合会計(日本基準)の改正で、FA費用がのれんではなく費用処理されるように改正されるという日経新聞の記事を思い出したので、なぜ改正されるのかを検討してみた。単にコンバージェンスするから、という以外に本質的な理由があるはずだ。そこでFA費用についてよく考えてみると、研究開発プロジェクトになぞらえると研究費に該当するし、資産購入取引に当てはめても費用処理するのが適切なこと(=FA費用は資産購入取引の付随費用には当たらない)が分かった。
シリーズが長いと、途中でまとめをしないと自分で混乱する。実際、書いてみて、だいぶ整理がついてきた。だが、読み手のみなさんは、なんら新味がなく、くどいだけ、と思われたかもしれない。そこで、今後の方針を少々記載したい。(それとも、すでに長文過ぎるとお怒りか?) 少々なので、記載したい。
大きく分けて2つ。
一つはこのシリーズ最初の11/12の記事に記載したように、償却派・非償却派の考え方を、ASBJのホームページに掲示されている論点整理(企業結合会計の見直しに関する論点の整理)を中心に、その他のネットに掲示されている資料を参考にしながら報告したい。
もう一つは、「毎期規則的に減損する」という僕の意見を記載することだ。その内容は、上記の赤文字のところがヒントになる。そして、11/5の記事「【製造業】人の評価の資産計上」がベースだ、と書けば、分かる人には分かってしまうだろう。僕は大真面目だが、一般的には戯言の域を出ない。戯言好きの方はご期待ください。
« 【金融緩和】英国メディアの記事から | トップページ | のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(13)償却と減損 »
「企業会計審議会(IFRS)」カテゴリの記事
- 463.【収益認識'14-04】“顧客との契約”~収益認識モデル(2015.04.22)
- 396.【番外編】会計の本質論と公認会計士の立場(2014.09.14)
- 394.CF-DP67)純損益とOCI~まとめ~益出し取引はどうなる?(2014.09.09)
- 393. JMISに対するIASBの反応と日経のスクープ(2014.09.07)
- 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング(2014.08.06)
「IFRS全般(適正開示の枠組み、フレームワーク・・・)」カテゴリの記事
- 576【投資の減損 03】持分法〜ドラマの共有(2016.08.16)
- 573【CF4-29】債務超過の優良企業〜ソフトバンクのARM社買収で考える(2016.07.21)
- 572【CF4-28】(ちょっと横道)ヘリコプター・マネー(2016.07.14)
- 571【CF4-27】“債務超過の優良企業”と概念フレームワーク(2016.07.12)
- 570【CF4-26】債務超過の優良企業(2016.07.08)
「IFRS個別基準」カテゴリの記事
- 579【投資の減損 06】両者の主張〜コロンビア炭鉱事業(ドラモントJV)(2016.09.13)
- 578【投資の減損 05】持分法〜“重要な影響力”の意図(2016.09.06)
- 577【投資の減損 04】持分法〜関連 会社、その存在の危うさ(2016.08.23)
- 576【投資の減損 03】持分法〜ドラマの共有(2016.08.16)
- 575【投資の減損 02】検討方針(2016.08.02)
この記事へのコメントは終了しました。
« 【金融緩和】英国メディアの記事から | トップページ | のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(13)償却と減損 »
コメント