のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(16)“再”のれんの本質
2012/12/27
このシリーズの第2回(11/14)で「のれんの本質」、第3回(11/17)では「のれんの構成要素」を書いた。のれんは創業以来の関係者が積上げ、現役世代に引継がれてきた企業の存在価値であり、企業買収時に算定されるのれんには、この他に、買収後に積上げていく企業価値(シナジー効果)への期待(以上がコアのれん)と、本来はのれんに含まれるべきでない不純物がある。しかし、これだけの説明だと、何故のれんが減価するのか、どのように減価していくのかを説明することができない。これが償却派の最大のウィークポイントとなっている。
一方非償却派は、ジェンキンス・レポート(1994年)などによる企業情報開示改善要求(無形資産など)を踏まえた非財務情報開示の拡充の流れの中で、財務情報においても、のれんを含む無形資産の会計処理・開示の改善に努めてきたようだ。具体的には、別個に認識できる無形資産をのれんから分離してB/Sに表示するとともに、のれんの減価プロセスが不明だとしてその償却を禁止した。しかし、のれんの構成要素は示したが「のれんが何か」を説明したわけではない。だから、「減価しないものも含まれているから償却しない」というのも説得力がない。
さて、今回で16回を重ねるこのシリーズを無駄にしないためには、改めてのれんの本質を問い直し、どのように減価するかを記述することが必要だ。今のところ、僕は2つのポイントがあると思っている。
① 「買収額-純資産=のれん」の意味を問い直すこと
② 財務情報と非財務情報の垣根を考えること
買収額は、買う側からみたその会社の価値だ(正確には「その会社の価値以下の金額のはず」だが、面倒なのと議論の本質に関係しないので「その会社の価値」とする)。一方、純資産は財務情報の範囲で認識・測定された会社の価値だ。では、この差(=のれん)は何かといえば、非財務情報となるのではないか。即ち、のれんは非財務情報から予想されるその会社の価値。
な~んだ、そんな単純なことでのれんの何が分かる?と思われるかもしれないが、その単純なことを僕は今まで考えたことがなかった。
恐らく、僕の結論としては、「『企業は人なり』なのに、財務諸表に人の価値は計上されない」から、「のれんは人の要素に関連するもの」と説明することになると思う。そして、買収時に在籍していた人が退職していけば、のれんも減価していくと。新しい人によって引継がれた価値は自己創設のれんだから資産計上されるべきでないと。
だが、そうなると、なぜ財務諸表に人の価値が計上されないかをじっくり問いたくなる。以前も書いたように、スティーブ・ジョブズ氏でさえB/S計上されなかった。一応、11/5の記事にこの問題を記載したものの、突飛なのに説明が足りない気がするし、はみだし過ぎているかもしれない。
それに、それなら、非財務情報と人の評価はどのように関係するのか、本当にイコールになるのか?と新たな疑問も湧いてくる。さらに、非財務情報と人の価値という、会計ではない企業情報を考えることで、逆に、会計がなんであるかという根本的なテーマに触れられるかもしれない。これはもしかしたら、僕の会計観を変えるとか、大掃除してシンプルに整理してくれるとか、そんなことにつながりそうな気がする。期待が膨らむ。
この忙しい、そして一年でも特別な期間である年末・年始にこんなことを考えるなんて、なんてもの好きなやつだと、みなさんは呆れられるかもしれないが、どうもこの誘惑に勝てそうにない。とはいえ、所詮、戯言にしかならないが、結果は、正月明けにみなさんへ報告できると思う。僕とご同類のみなさんは、お楽しみに。
なお、このブログはもう1つ番外編の記事を書いて、この2012年を終える予定だ。多分、監査関係のこと(不正対応の公開草案か、監査報告書に革命?)になると思う。
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