のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(13)償却と減損
2012/12/20
償却派も非償却派も、減損会計を前提としている。「償却+減損」か、「減損のみ」かという違いだ。では、「償却のみ」とか「(償却も)減損もしない」という方法、即ち、「減損なし」は考えられないのだろうか。そして、減価償却と減損は何が違うのだろうか。
◯「減損なし」について
現行の会計基準(日本基準でもIFRSでも)で、減損しない資産にはどんなものがあるかを考えてみよう。
現金預金、市場性のある有価証券、デリバティブ・・・
いずれも、時価評価(公正価値評価)される資産だ。これらは期末の時価が付されるので、評価損益が毎期P/Lに計上される。「資産は金を生むもの」なので、その時価評価額で資産計上する。
一方、以前(2011/11/30)も書いたが、公正価値評価されないすべての資産(=取得原価や償却原価で評価された資産)には、減損会計が適用される。「金を生むので資産には違いないが、B/Sに計上されている金額ほどは生まない」場合に、金を生む範囲(=回収可能価額)までB/S価額を切り下げるのが減損会計だ。公正価値で計上されない資産は、資産の定義上、この投資回収のチェックである減損テスト(少なくとも減損の兆候の有無のチェックまで)を受ける必要がある。
以上のことをのれんについて考えてみよう。
B/Sに計上されるのれんは、企業買収価額から買収される企業の純資産の公正価値(=資産・負債の公正価値額の差額)を控除したものだから、もし、IASB(やFASB)のように「買収価額=公正価値」と考えれば、公正価値(買収額)から公正価値(純資産)を差引いた結果得られるのれんの金額も、公正価値ということになる。したがって「取得時は公正価値でB/S計上される」というところが上記資産との共通点だ。(まあ、基本的にはすべての資産がそうなのだが。)
しかし、IASB(やFASB)が悩んだように、のれんはそれ単独で交換や換金手段にならないし、将来経済便益を生むこともできない(11/23の記事)。このことは、たとえ取得時は公正価値であったとしても、その後ののれんを公正価値評価することができないということを示している。なぜなら、交換や換金されないということは市場価格がないということであり、それ単独で将来キャッシュフローを見込めないので、見積計算で公正価値を求めることもできないからだ。
したがって、いったんB/Sに計上したら、その後は決算時にのれんを公正価値評価することはできない。公正価値評価しない資産には、減損会計が適用されることになる。ということで、のれんにも減損会計が適用されざるを得ない。
ちなみにIASBも、後日で記載するように、①定額償却+減損、②非償却で減損、③いずれかの選択、という3つの方法を検討しているが、減損がないパターンは検討の対象にもなっていない(IAS第36号「資産の減損」BC131~)。
◯「減価償却」と「減損」の相違
減価償却といえば、最近、公開草案「認められる減価償却(償却)方法の明確化(IAS第16号及びIAS第38号の改訂案)」が話題となった。そこでは「収益を基礎とした減価償却・償却方法は認められない」ことがポイントになっているが、これは減価償却の性質をよく表している。
減価償却は、取得原価を期間損益計算に反映させる手続(=原価を期間配分する手続)であり、適切な損益計算のために行う。その結果、未償却残高がB/S計上額となるが、この金額はその資産の価値を表すものではない。単に、まだ損益計算に反映されていない計算上の金額がある、という事実のみを示している。
これに対して減損は上述したように、B/S価額が、金を生む(と予想される)金額(=回収可能価額)以上になることを防止する手続だ(=含み損の発生を防止する手続)。その結果、回収可能価額を超える部分は、減損損失として損益計算に反映される。そして、減損損失を計上した資産グループや事業は、(計算上は)その後の期の損益がトントンになることが予定されている。(それで損益管理はやりやすくなるし、財務諸表の読者も経営実態が分かりやすくなる。しかし、トントンというのは調整された損益であり、本来の期間損益ではないのかもしれない。)
投資の回収管理のためであれば、収益が発生するパターンに合わせて減価償却するのも良いが、損益計算のためであれば、用役が費消されるパターンでの減価償却が良い。減損会計が導入されて、投資回収管理は減価償却の役割でないことが明確になったので、実務上残っていた収益パターンを基礎とした償却方法の選択を否定しようというのが、上記公開草案の趣旨なのだろうと思う。この結果、「毎期安定して発生する収益に対応するため賃貸資産に定額法を採用する」みたいな注記は書けなくなる。代わりに、賃貸資産がどのように用役を提供するかを意識した記載になる。
これらから、「適切な期間損益計算」のためには、減損より減価償却の方が目的に合っていると考えることができる。減価償却だけでは含み損が発生するケースにおいてのみ、やむをえず減損損失を計上するが、そうでえなければ減損損失をP/Lに計上することはなるべく避けたい。
さて、このことをのれんについて考えてみよう。
のれんのB/S計上額をどのように損益計算に反映させたら適切な損益計算になるか、即ち、のれんの費消パターンを明確に示すこと、そして、それに適合する償却方法を提案することが、非償却のIFRSの規程をひっくり返す重要な武器になるだろうことが想起される。
もう一つ、(非償却で)減損のみとすることは、損益計算の質を下げることになる。なぜなら、のれんは金を生むとされていながら、収益獲得へののれんの貢献が損益計算に考慮されないからだ。それに、上述のように投資回収の観点から計上される減損損失は、厳密な意味での期間損益計算とちょっと違うような気もしないではない。毎期償却していれば減損テストに引っかかる可能性が低下するから、減損損失が計上される可能性も低下し、その分期間損益計算もより良くなる。
ということで、このブログは、とりあえず、IFRSにおける「のれん償却の復活」を主張することを目指すことになるが、その前に(次回以降)、非償却派と償却派の主張を見ていく。
ちょっと話が横道にそれるが、上記の、「全ての資産は、公正価値評価か、減損会計の対象のいずれかになる」、「減損会計の対象になった一部の資産に減価償却が適用される」というのは、会計ビックバン以降の制度会計の非常に重要な特徴だと思う。減価償却より減損会計の方が基本的な位置づけとなっている。そして、事業用資産の多くが減損会計の対象になることを考慮すると、減損会計を組込んだ経営管理の方法を各社で具体的に模索していくことが重要だと思う。過去に何度も記載しているが、損益管理ばかりで「投資の回収管理」があまり意識されていない会社は、この機会に見直すと良いのではないだろうか。
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