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2012年12月15日 (土曜日)

【金融緩和】英国メディアの記事から

2012/12/15

投票日を明日に控えてこのテーマだと、総選挙目当ての記事と思われてしまうかもしれないが、そうではない。(このブログは土日のアクセス数がとても少ないので、今日・明日に読む方は少ない。だから選挙には間に合わない。) それより「不景気は日銀のせい、円高のせい」みたいな妙な“楽観論”が気になる。政府・日銀がうまくやれば景気が浮揚するから国民はそれを眺めていればよい、みたいな誤解がないだろうか。どんな政権が誕生しようとも、世論が(或いはマスコミが)誤解すれば、それに引きずられてしまう。誤解が心配だ。僕は金融緩和論者のいうような簡単な話ではない、もっと極めてデリケートな問題だと思っている。

 

「現在の日本の不況は循環的なものだから、政府が財政政策や金融政策できっかけを作れば回復する」と思っている人はいない。もっと構造的なものだ。にもかかわらず、「大胆な金融緩和と国債増発による公共工事で景気を回復できるので、消費税の増税に間に合あう」みたいな主張が大手を振っている。気は確かだろうか。

 

ビジネスの前線(製造業でも、サービス業でも)にいらっしゃる方々は、この手の“うまい話”をそのままは信じないと思うが、より冷静になるために、次の2つの記事を紹介したい。ポイントは記載するが、興味をそそられた方は、各記事をお読みいただきたい(いずれも、日本ビジネスプレス社ホームページの日本語記事)。

 

1.円安ウォン高に沸く日本株の強気筋/(英)Financial Times

最近の円安傾向にもかかわらず、今後の道のりを平坦なものではないとしている。各国金融当局との競争なので、円安傾向を継続させるには、外国資本から日本の当局に対し「かつてないほど積極的な対応」が要求される、と結んでいる。

 

2.回復が見えないブラジル経済/(英)The Economist

ブラジルは為替レートを20%も切り下げたが、経済成長率の低下は止まらない。これを回復するには、投資家(=経営者、起業家)の前向きな姿勢を引出すことが必要、としている。

 

日本国内だけで議論していると、見失いがちな海外要因の指摘や、日本がやろうとしていることの海外での実例は、(そのまま日本に当てはまるわけではないが)大変参考になると思う。

 

 

(円安の要因)

Financial Timesは、現在の円安傾向の要因について、まず「政府による日銀への圧力強化」への期待を上げている。そして、現在は「投機筋」が動いていると考えているようだ。一般的な市場参加者は「4月に新たな日銀総裁が誕生する見通しと並び、新政権による日銀への圧力強化がもたらす影響を投資家が見極めようと」している状況らしい。

 

しかし、円安傾向の要因はこれだけではないとしている。「基本的な需給バランス」の変化があるという。その例として「貿易赤字、持続的な対外直接投資のフロー、ミューチュアルファンドや生命保険会社による円資産の売却増加の可能性などを引き合いに出し、来年は円相場に影響を与える5大要因のうち4つがマイナスになる」という意見を紹介している。(多分、残るもう一つの要因は、海外からの投資収益だと思う。これが貿易収支の赤字を打消し、経常収支を黒字にしている。)

 

僕が気になるのは、対外直接投資以外の要因は、円安になると増々円安効果を増幅させることだ。貿易赤字も円資産の売却も、円安になればさらに増え、それがまた円安を誘発する。その円安循環は、海外からの投資収益で断ち切れる範囲で終わらせないと大変なことになりそうだ。円安が進み過ぎて、石油やLNG、食料も買えなくなりかねない。少なくとも、投資が国内へ振り向けられ、国内に工場が新設されたり拡張されたりして、貿易黒字が見込めるようになるまでは、その循環が緩やかでなければならない。急激な為替レートの下落は禁物だ。上手にコントロールする必要がある。

 

ご存じの方も多いと思うが、この20年間で日本経済の構造が変わったので、円安より円高の方が有利、と主張する経済学者もいる。これには説得力がある。少なくとも、円安がすべての面で良いわけではないということだ。

 

(インフレの難しさ)

以前も書いたが(10/15の記事)、インフレ率1%上昇で、1000兆円の国債の利払いが単純計算で10兆円増加する。そして国債価格は相当下落する。これらは国家財政を圧迫し、ますます追加の国債発行が必要になるのと、国債を保有する金融機関の財政を直撃する(そうなると、金融機関は意外と簡単に資本不足になる)。為替レートの引下げ競争は、インフレ期待を通じて行われるが、期待だけで実際にインフレにならない場合はインフレ期待がしぼんでしまうから、実際にインフレになることを覚悟しなければならない。競争しながら、どこまでインフレ率を上げられるのか、冷静に見極める必要がある。3%などと軽々といえる問題ではない。そんなにあげたら国債の利払いで少なくとも30兆円が毎年追加で必要になる。税収は40~50兆円しかないのに。そうなれば、年金に税金を投入したり、インフラを整備することはできなくなる。

 

為替レートが下落してから、「輸出増加→投資と雇用の増加→消費増加」と景気回復循環に結び付くには、恐らく数年が必要だ。(しかも、この期間に2度にわたって消費税を上げようとしている。まるで曲芸しながらの綱渡り。危ない賭けだと思う。)

 

企業が、下落した為替レートが長期間続くと信じるようになるまでに、そして消費税率上昇の影響を見極めるまでに時間がかかるし、設備投資にも、新入社員の育成にも時間がかかる。数年かかる。だが、インフレとなれば、名目金利は瞬時に上がる(両者はリンクしている)。インフレ期待を持たせながら、実際のインフレ目標の達成は、これらの時間より相当長い年数をかけて穏やかに行わなければ、景気回復循環に至る前に国家財政が破綻するかもしれない。政府・日銀の舵取りは、本当に微妙なものになると思う。(しかも長期金利は、インフレ期待だけで上がってしまう可能性もある。)

 

だから、「かつてないほど積極的な対応」を、本当に「繊細さ」な手綱さばきで長期間続けることが必要だ。政府と日銀が目標を共有するのは良いが、それを実行するプロセスで政府やマスコミなどの素人が変なプレッシャーを与えると怖い(特にマスコミは怖い)。しかも、競争相手は手強い外国政府・中央銀行、審判は金の亡者の投機筋を含めた市場参加者で、かつ、これは24時間休みなく戦うゲームだ。

 

それともう一つ、政府と日銀の(外部から見た)一体感が崩れると、たちまち競争相手からだけでなく、審判からも執拗に攻撃される。このゲームに勝つために要求されるスキルとマインドの高さ、勝負度胸の良さの程度は、僕には想像もつかない。きっと政府・日銀にも、適任者は少ないだろう。サッカーでいえば、ちょうどいま日本に来ていて、明日のクラブW杯の決勝に勝ち残ったチェルシーやコリンチャンスと堂々と渡り合えるほどの実力が必要だ。

 

(リスクを下げるには)

The Economistのブラジル経済の例でも分かるように、本当の成長は投資がきっかけとなる。そして投資を呼ぶのはイノベーションだ。イノベーションは人々がその気にならないと起こらない。変革を嫌って過去の延長で良いと思っていると、折角のチャンス(もしかしたら最後のチャンス)を見逃す。

 

為替レートの下落が景気の好循環につながるまでの期間に大きなリスクがあるから、少しでもそれを短くしたい。それには、特定の人々だけでなくなるべく多くが、工夫しよう、新しいものを見つけよう、自分本位でなく顧客の欲しがるものを発見しようと、積極的に考えるようになりたい。しかし、日本の家電メーカーの業績を見ても分かるが、日本はそういう状況ではなかった。もし、政治のリーダーシップがそれを変えてくれるならありがたいが、基本的には、自分で気づくしかない。それができるか。もし、みんなが気づけば、景気の好循環までのタイムラグを最短にできる。政府の役割としては、イノベーションを邪魔しないこと(既存の制度を見直すことは有益だ)、そしてもし可能であれば、イノベーションを促すような施策を打つことだろう。

 

もう一つ、景気回復循環へのタイムラグを短くできる方法がある。それは政策的に消費を促進させることだ(しかし、政府は消費税率を上げて、逆のことをしようとしている!)。普通、所得が増えれば消費も増えるといわれるが、もう一つ、貯蓄が減れば消費が増える。インフレにはこの効果があるとされている。しかし、インフレには一般庶民の生活水準の低下という痛みを伴うし、上述したような極めてセンシティブな期間を過ごさなければならない。これ以外の方法はないだろうか。

 

僕が思いつくのは、相続税の強化だ。金融資産は隠退世代が大半を保有するといわれているが、多分、普通に生活していては使いきれない額だ。恐らく、子や孫に残そうと思われているのではないだろうか。しかし、それを当てにして相続税の税収を増やそうというのではない。あくまで消費を促進するのだ。

 

金融資産課税も消費を促進させる効果があるが、生きていくために必要な分にまで課税が及ぶ可能性があるし、金融資産を持つお年寄り全員が裕福でもない。だから、もっと穏やかな方法がよい。それが相続税の強化だ。それも、「これじゃ、子や孫に相続しても意味がない」と思わせるほどの大胆な課税強化をすることだ。これなら、生活に必要な分に触ることなく、かつ、大いに消費を楽しんでもらって経済を活性化できる。(できれば、単なる乱費ではなく、経験を活かして良いものを高く買っていただきたい。また、相続がなくなると子や孫との絆が心配という方は、子や孫と一緒に消費を楽しんで、良い思い出をたくさん共有していただきたい。)

 

但し、消費が進むにつれ預金が減少するので、金融機関が国債を保有する原資が減る。即ち、国債が売られて価格が下落する。不動産も売り物が増えるかもしれない。すると、金融機関の財政状態悪化及び金利の上昇という副作用を生む可能性がある。金融政策を上手にやれば痛みは緩和できるとはいえ、このことは、この策が日本病を全快させる特効薬でないということを示している。単なる時間稼ぎの麻酔薬か、カンフル剤だ。高齢者の金融資産にも限りがあるし、国産品が良くなく、舶来品ばかり消費されたら、景気への効果は半減してしまう。だから、高齢者が気前よく消費してくれる間に、イノベーションを起こして我々の製品を買ってもらい、本当の景気回復につなげなければならない。やはり最後は我々一人ひとりが起こすイノベーションが鍵になる思う。

 

 

こうして考えるとこの窮地を脱するには、政府・日銀だけでなく、民間の我々も連動して、一体として頑張らなければならないことが分かる。他人事ではない。我々も、地道な努力をもっと積重ねて、大きなイノベーションへつなげることが求められている。我々も、チェルシーやコリンチャンスと渡りあう日本チームの一員だ。

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