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2012年12月 8日 (土曜日)

【番外編】強欲企業が生む格差問題と移転価格

2012/12/08

日本では総選挙を控えて国内問題に注目が集まっているが、ドーハで開催中のCOP18(第18回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では、日本がすっかり存在感をなくしているという。原発即時廃止など、部分最適の理想論を並べてどれがいいかなんて議論している間に、世界の動きから置いていかれる。TPPも、IFRSも大丈夫だろうか。

 

そんなことを心配されているみなさんに、今回は趣向を変えた話題を提供したい。米国の財政の崖問題とか、欧州の債務危機などには共通して、富の偏在、格差問題がある。そこには、我々一般人には想像もできない強欲な世界がありそうだが、隠されて見えてこない。ところが、そこに会計や税務の観点から光が当たることで問題が見えることがある。そんなことを思わせるニュースとドキュメンタリー番組を見たので、報告させてもらいたい。

 

一つ目は、みなさんもご存じのスターバックス社が、英国で、赤字でも納税をすると申し出たというニュースだ。これはNHKのワールドWave(12/7 7:00~)で見たBBCのレポート。

 

英国スターバックス社は、この3年間赤字なので法人税を支払っていなかったが、次の2年間(2013年、2014年)は、収益の如何に関わらず、£10m(約13億円)ずつの法人税を支払うことを決めたという。英国社会でスターバック社は、「法人税を支払うべきこれ以上の大企業は考えられないぐらい」の会社に見えるのだそうだ。そのため、法人税を支払っていないという事実は、厳しい批判にさらされたという。ちなみに同社の2011年度の売上は£398m(約500億円)。

 

同社は今後、日本でいうところの損金を少なく計上することで、課税所得をプラスにし、税金を支払うのだそうだ。このニュースを受けて、AmazonとGoogleも、「税金のルールを遵守して、英国経済に貢献する」と述べたというが、英国社会はそれに満足せず、これらの両社にも追随させようと圧力がかかっているらしい。この両社も英国法人は赤字なのだろうか。

 

NHKの補足によると、同社は1998年に英国に進出して以来、700を超える店舗を展開してきたが、その間殆ど法人税を支払っていないという。これについてイギリス議会などでは、税率の低いオランダのグループ会社に多額のブランド料を支払うことで、英国の法人税から逃れていたのではないかと問題視されているそうだ。

 

 

もう一つは、NHKのBS世界のドキュメンタリーで12/50時から放送されたアフリカ・ザンビアの銅山(の採掘権)を所有する多国籍企業による銅取引だ。これによると銅の国際取引価格は、LME(ロンドン金属取引所)で決まるが、その価格は2001年から2008年の間に4倍にも上昇したのに(=多額の利益が上がったはずなのに)、ザンビアの多国籍企業はほとんどザンビアで法人税を支払っていないという。ザンビアの銅は、タックスヘイブンにあるグループ会社へ(書類上)低価格で輸出された後に国際価格で取引されるため、ザンビアでは利益が上がらないのだという。そして、他のアフリカ諸国の資源や一次産品も同様の状況にあるのだそうだ。このようにして、本来はアフリカ諸国へ落ちるべき利益が海外へ流出する金額は、先進国からの経済援助額の10倍にもなる試算があるという。

 

この番組で取材対象となっていたのは、グレンコア社というスイスに本部を置く取扱高14~15兆円の(日本の総合商社に匹敵する)規模の商品取引商社だ(登記上の本社はジャージーというタックスヘイブン)。2011年にロンドン証券取引所に上場し、100億ドル以上の資金調達をしたというから、ご存じの方もいらっしゃると思う。ちなみに、この取扱高は、ザンビアのGDPの8倍だという。そのザンビアは、国民の8割が一日2ドル以下で生活しているらしい。国の財政も厳しいし、失業者も溢れている。だが、もし、銅を国際価格で輸出できたら、GDPは2倍になるそうだ。そうなれば、きっと多くの問題を緩和・改善できるに違いない。

 

番組では、グレンコア社の創業者であるマーク・リッチ氏(及びグレンコア社の前身であるマークリッチ社)が、過去に米国史上最大の脱税やイランとの石油不正取引で起訴され、同氏は海外逃亡したこと、グレンコア社は、現在も、ザンビアの環境基準が緩いのにたびたび環境問題を起こしていること、ノルウェー等の資金援助国の要請で行われた監査(意味合いとしてはザンビア政府による税務調査を監査法人に依頼)に協力せず、また、その監査報告に基づいて再計算された税額の支払いを拒否していること、そしてこれらの問題にも拘らず、上記の上場を果たし、さらに先月株主総会で、鉱山大手のエクストラータとの合併(グレンコアによる買収)を決め、ますます世界経済への影響力を増そうとしていることなどがレポートされている。

 

 

みなさんは、これらにどんな感想を持たれただろうか。

 

簡単な手口なのにどうしてもっと早く分からない?と思われた方は、少々誤解があるかもしれない。企業側は、当然、弁護士や会計士によって、(税法を含む)法律上の問題にならないようガードして取引をしている。例えばグレンコアのケースでは、スイスへの輸出価格を、OECD(経済協力開発機構)の勧告に反して親会社が決めているのか、それとも勧告通りに独立企業同士の取引価格と同一になるように決めているのかが問題になっていたが、表面上はLME価格をベースに取引されていた(即ち後者のように見える)ようだ。この手の問題は、状況証拠はいくらでも挙げられるが、はっきり白黒つけるのは難しい。また、ザンビアの税法の不備も考えられる。日本はODAで資金援助するより、税法を改善するコンサルを提供した方が良いかもしれない。(しかし、実際に銅の国際価格を課税所得に反映させるような税制改正を行ったら、外国企業は操業を停止してまで納税を拒んだという。)

 

スターバックス社も、当然、支払額に見合う価値のあるブランド料の支払いであることの裏付けを用意しているに違いない。

 

なるほど、こういうスキームなら節税できるのか、と思われた方もいるかもしれない。しかし、上述したように実際は高度な知識・ノウハウが必要で、決して簡単ではない。専門家集団に支払う報酬も多額だ。

 

一方で、海外たすけあい募金や、WFP(国際連合世界食糧計画)、国境なき医師団などに寄付をされている方は、いくら寄付しても欧米の(最近は中国も)強欲企業を助けるだけじゃないか、と無力感にとらわれたかもしれない。いくら支援しても、その10倍も搾取されているのでは、問題は一向に改善しない。COP18で、途上国が欧米に反発する心情や、資金援助を要求して議論がまとまらないのも分かる気がする。

 

スターバックス・コーヒーを愛飲されている方は、ドトール・コーヒーに変えようと思われたかもしれない。僕も気になってEdinetで調べたが、日本法人はちゃんと利益を出しているし、未払法人税も計上している。ちょっとほっとした。

 

また、こういう企業の経営幹部は多額の報酬を得ている。上記のグレンコア社の上場では、CEOのアイバン・グラセンバーグ氏の88億ドルを筆頭に、その他400名以上の社員が1億ドル以上を手にしたという(多分金額は、各人の持ち株数に株価を掛けた単純な計算によるものだと思うが、それでも桁違いに多額だ)。欧米で起こる格差拡大に反対するデモの激しさが分かる気がする。

 

このようにして、アフリカと欧米という国・地域単位の格差、経営者層と一般庶民との格差が拡大していくわけだ。

 

さて、僕はというと、IAS第24号「関連当事者についての開示」を思い出した。そこには「本規準は、単独財務諸表にも適用される。」(第3項)と、珍しく個別財務諸表の開示も対象とすることを明記している。即ち、連結であれば相殺消去されて開示対象にならないようなグループ内取引を、個別財務諸表(を開示する場合)に注記させようとしている。その背景には、上記のような強欲な企業行動に対する懸念も関係しているのかもしれない。まあ、といっても、問題の大きさに比べると圧倒的に非力だし、欧米ではそもそも個別財務諸表の開示が行われていないことが多いから、抑止力にはならないが。(ちなみに、日本でも会社法は、個別財務諸表に関連当事者取引の注記を要求している。)

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