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2012年12月 6日 (木曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(9)自己創設のれんの裏口入学

2012/12/12

12/11の記事の末尾に記載した修正(蓋然性の規準関係)を行いました。削除すべき個所にはグレーアウトして取消線をつけ、追加した文言は赤字としました。

 

2012/12/06

前回(12/4予告したように、今回はのれんの資産性の問題と減損会計に共通点があることに着目し、減損会計の側から、自己創設のれんの資産計上禁止について整理したい。

 

今回のタイトルの「裏口入学」というのは、IAS第36号「資産の減損」のBC190項に記載されている『自己創設のれんの「裏口」からの資産化』を、さらに崩したものだ。同項によれば、(2004年改定前のIAS第36号が、一定の場合にのれんの減損戻入れを要求していたことに対して)一部の人々は、減損テストは自己創設のれんの資産計上を認めることになると批判し、このように呼んだ。即ち、「正規のテストをパスしてないのに資産計上を許された=自己創設のれんなのに資産計上された」ということだ。IASBはこの人々の意見も参考にした結果、のれんの減損戻入れは、直接的な自己創設のれんの計上になるとし、現在では禁止している(IAS第36124項)。だが、他に裏口入学しているものはないのか?

 

何度も書いてきたが、自己創設のれんの資産計上は、IFRSでも禁じられている(IAS第38号「無形資産」48項)。だが、一方でIASBは、企業買収時の自己創設のれんについて、概念フレームワークの資産の定義に照らして資産計上を認めている。すると、企業買収以外の自己創設のれんは、概念フレームワークの資産の定義に合わないのだろうか? そして、本当に資産計上されていないのだろうか?

 

ということで、今回は、自己創設のれんが資産計上される場合とそうでない場合の境界を探ろうという試みだ。

 

 

僕の知る限り、以下の各IFRS、IASで、自己創設のれんが、資産に紛れているのではないかと議論されている。

 

・IAS第36号の固定資産の減損テスト(後述の使用価値、上記のれんの減損戻入禁止)に関する議論

・IAS第28号「関連会社に対する投資」の減損戻入れに関する議論

・IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」の減価償却停止に関する議論

 

このうち、固定資産の減損テストに使用する使用価値に関する議論の記述が最も詳しいと思う。ここでは、自己創設のれんに関連した2つの議論がある。

 

一つ目の議論でIASBは、減損テストに使われる回収可能額の見積りは、「使用価値」ではなく「公正価値」を使うべきだ、という主張を退けている。その公正価値論者の主張は、使用価値を算定する将来キャッシュフローの見積りには自己創設のれんが含まれるが、公正価値にはそれはないとしている。以下にその概要を紹介する(BCZ14~)。

 

・公正価値論者:使用価値には自己創設のれんが含まれる

 

使用価値は、企業が見積もる将来キャッシュフローの割引価値だ。それが(基本的には市場が決める)公正価値より大きい場合は、経営チームのアイディア・能力が考慮された自己創設のれんが付加されている。自己創出のれんの資産計上は禁止されるべきだから、使用価値より公正価値が良いと主張。

 

・IASB(正確にはIASC):市場価値ではなく、その企業が考える価値の方が適切

 

市場より、その資産を保有している企業の方が、価値を生み出す良い方法を知っているのではないか。もし売却した方が有利と企業が考えれば、正味売却価値を見積れば良い。また、他の資産との相乗効果を含めることが実態と合っているし、目的適合性が勝る。

 

この議論は、IASBに改組される前のIASC(国際会計基準委員会)が行ったものを、IASBがそのまま引継いでいる。IASCは、当時のIAS第36号が、企業の見積りの仮定が十分合理的になるように整備されており、そうであれば使用価値も公正価値も大差ないと考えていたようだ。

 

しかし、IASBは、使用価値に企業独自の創意工夫や他の資産との相乗効果による価値を見積ることを認めている。自己創出のれんの存在を確認しながらも、使用価値を否定せず、むしろそれを積極的に認めている。その方が目的適合性(概念フレームワークの質的特性)に勝るという。

 

 

ではもう一つの議論も見てみよう。ここでは、使用価値を見積るための将来キャッシュフローに「当初の資産」から生じるもののみを含めるべき、という主張を退けて、あとからその資金生成単位に追加された資産から生じるキャッシュフローも含めるべきだと結論付けている(BCZ43~)。

 

ここで、「当初の資産」が主張された理由は、追加された資産が「当初の資産」を改良したり、拡張したりするものなので、追加された資産から生じる将来キャッシュフローにも自己創設のれんが含まれる。したがって、それを排除すべきというものだった。

 

これに対してIASB(正確にはIASC)は、次の点からこれを却下した。

・当初の資産と追加された資産の将来キャッシュフローを区別することが実務上は不可能と考えたこと。

・投資が回収できるかどうかが重要なのであって、回収に自己創設のれんが含まれるかどうかはそれより軽い。

・減損会計は、現状における資産を評価するものであって、「当初の資産」のみを対象とするものではない。

 

自己創設のれんの資産計上禁止規定は、どうやら絶対的なものではなく、他に優先するものがある。それは実務的に投資の回収を管理することだ。そしてそれは、将来キャッシュフローによって回収可能なもの、即ち、お金を生むものは資産であるという概念フレームワークの資産の定義にも合致する。

 

 

以上の2つの議論から見えてくるのは次のようなことだ。

 

11/23の記事にも記載したように、IASBは企業買収で発生したのれんが資産かどうかを判断する際に、概念フレームワークの資産の定義を使った。このIAS第36号では明記されていないが、同様のことを行ったようだ。それによって一貫した規準を作っている。

 

しかし、一方で、コアのれんの①の要素である企業が創業時から積上げてきた価値(11/17の記事)については、企業買収の対象になった場合は資産計上を認めるが、そうでない場合は、上述のIAS第36号48項で禁止している。だが、企業買収時に概念フレームワークの資産の定義に合致しているなら、買収前でも合致しているはずだ。

 

そこで、改めて概念フレームワークの資産の定義に戻ってみると、将来キャッシュフローの予想は4.38項の蓋然性の規準を満たさねばならない(4.5項)としており、その4.38項では、可能性が高く(=蓋然性の規準)、かつ、信頼性をもって測定できなければならないとされている。そして、IAS第38号の49項では、「自己創設のれんは、信頼性をもって原価で測定できるような、企業が支配する識別可能な資産ではないことから、資産として認識されない。」とされている。即ち、①ののれんは、信頼性のある原価を実務的に集計できないために、資産計上されないということだ。しかし、企業買収時には、経営者が回収可能と判断した買収額から買収される企業の純資産額を差引けば算定できる。そのため、この蓋然性の規準が満たされ、資産計上の対象となる。

 

 

ん~、まあ、IASBはそう考えてるってことだが、何か釈然としない・・・。

 

伝票を書くには、最低でも、認識と測定の2つの問題をクリアしなければならない。認識は(いつ)記帳するかを判断をすることで、測定はいくらで記帳するかを計算することだ。蓋然性の規準では、その測定に関して、高い可能性(=蓋然性の規準)と信頼性を要求にしている。

 

自己創設のれんは、この測定に係る蓋然性と信頼性を満たせば資産計上されるのだから、認識としては資産として記帳すべし、という判断なのだろう。ただ、信頼性をもって金額を計算できないので、資産計上されない。だが、減損会計では、企業買収で生じたのれんについて毎期使用価値を見積って減損テストをしなければならない。その見積りは合理的なものでなければならない、即ち、使用価値を合理的に見積れると考えている。

 

それなら、同じ方法で企業買収以外の自己創設のれんも使用価値を計算できるのでは? その使用価値以下の、顧客訪問の人件費・経費とか、企業や事業のイメージアップ広告とか、従業員教育などの費用の一部を資産計上してもよいのでは? ってことにならないだろうか。あとはIASBがその規準を作れば良い。

 

しかし、僕は、そういうものを資産として認識すべきでないと思っている。だが、上記のIASBの理屈では説明しづらいと思う。自己創設のれんの資産性を直接否定できる、もっと違った説明が必要ではないか。さて、みなさんはどう思われるだろうか。

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