のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(8)自己創設のれん:着眼点
2012/12/04
お気づきの方もいらっしゃると思うが、昨日、この「のれん」シリーズのタイトルを過去に遡って変更した。記事は変えてないが、タイトルが長くなるので「製造業」を削除し、その代わりに記事の内容を示すキーワードを追加した。
さて、自己創設のれんは、企業が創業以来自ら積上げてきた価値であるが、通常は資産計上されない。しかし、企業買収の支払対象となったものに限って資産計上される。一方、企業買収の支払い対象となるべきのれん、即ち、コアのれんには、この「①企業が創業以来自ら積上げてきた価値」と、もう一つ、「②シナジー効果による期待」の両方が含まれる(11/17の記事)。
この②の特徴(=①と異なる特徴)は、11/17の記事に箇条書きしたように、企業買収時点では単なる期待に過ぎず、買収後に(買収する企業によって意図的に)作り出され、買収される企業だけでなく買収する企業の業績にも良い影響が期待される点だった。即ち、②の部分は買収する企業にとって自己創設のれんの特徴を有している。しかも、現時点ではまだ存在しない将来への単なる期待に過ぎない。
そして、資産か、資産でないかを決める境界線について、11/21の記事の「期待が実現する確からしさ」のところで、研究費とのれんを比較して検討した。そこでは、研究費は事業性が明らかでなく、将来キャッシュフロー(≒収益)を生むと期待するにはまだ確率が低すぎて資産性がないが、のれんの方は経営者の判断を尊重してその期待を認めると結論付けた。
さあ、ここからが今回の検討事項だが、実はさらに突っ込んでいくと、②の中にもかなり実現可能性の高そうなケースから、言葉は悪いが博打要素の強いケースまであり、期待が実現する可能性は一様ではない。例えば、買収によって自社の弱い地域の市場占有率を上げ、物流コストや管理コストを効率化できるといった期待は、かなり実現性が高いと思う。一方で、5年後や10年後の製品開発をにらんで、関連しそうな技術を持つ企業を買収するような博打要素の強いケースは、研究費と変わらないような気がする(研究費は資産計上されない)。
そこで、博打要素の強いケースも、本当に資産計上してよいのか、その根拠は何か、というのがここからのテーマだ。今回は減損会計(IAS第36号の結論の根拠)と比較しながら検討する。即ち、IFRSにおける資産と資産でないものの境界線をさらに厳密に理解しようという狙いだ。
(減損会計との類似点)
「えっ、のれんの資産性の話と減損会計にどういう関係が?」と疑問を持たれた方のためにも、まずこの類似点を検討したい。即ち、②(シナジー効果)が資産かどうかという問題と、ある資産(減損の兆候がある資産)が減損されるかどうかという問題が比較の対象になるというのは、両者に類似点があるからだ。果たして比較対象になるほどの類似性はあるだろうか。僕の考えは以下のとおり。
両者とも、
A.将来キャッシュフローで回収されると見込まれれば減損しない(=資産計上する)。
B.その見込みには、自らのがんばり部分が含まれている(=自己創設のれんを含んでいる)。
C.過去実績だけでは、回収を見込めない可能性がある(=兆候あり/②要素ののれん)。
以上からは、次のような特徴が共有されている姿が見えてくる。即ち、資産性が怪しいうえに自己創設のれんが含まれるが、将来キャッシュフローで回収されるかという観点で資産にするか否かが判断されている。(但し、減損会計では企業が判断するが、②はIASBが資産と判断している)。
もう少し具体的に書くと、両者は、上述のコアのれんの②の特徴(=①と異なる特徴)を共有している。即ち、減損テスト時点〔=企業買収時点〕では期待を含み〔或いは、期待に過ぎず〕、今後意図的に改善され〔或いは、作り出され〕、その後の企業の業績に良い影響が期待される。ちなみに、減損会計では「資産の機能の改善や拡張を含まない現状での見積り」が要求されるため(IAS第36号44項)、②に比べれば症状は遙かに軽いものの、厳密に自己創設のれんが排除されているわけではない(IAS第36号の結論の根拠BCZ44など。詳細は次回)。
ということで、一応、類似点がありそうだと思っていただけたと思うが、しかし、それでは自己創設のれんの資産計上禁止はどうなっているのか? という疑問が残る。 これについては、今回は問題提起にとどめ、続きは次回とする。
(減損会計との相違点)
一方で、両者には相違点もある。相違点があっても結論が同じになる(減損しない/資産計上する)場合、その相違点は、資産か費用かを決める本質的な条件ではないということだろうか。具体的には、IFRSでは、②(シナジー効果)についても、常に研究費より確実な実現可能性の期待を持てるようになっているのだろうか?
相違点は、将来キャッシュフローの見積り方にある。即ち、
a.減損会計では現状における見積りが要求されるのに②は丸ごと将来の改善。
b.減損会計には予算等承認された計画の基礎が求められるが、②には必ずしもない。
c.減損会計の対象資産(資金生成単位)には過去実績があるが、②にはない。
明らかに、減損会計より②の方が緩い将来キャッシュフローの見積り方が許容されている。この差は、減損会計が、取得してから2年目以降の既存資産に対する評価・測定の規準であるのに対し、②が投資初年度の資産の認識に関わる規準であることに起因すると思う。新規事業のリスクが高いからといって、投資したら即減損ではおかしいのと同じだ。
だが、上記の博打要素の強い例を考えれば、それだけで研究費の資産計上が否定されていることとの均衡が取れるわけではないと思う。この点をもっと深く考える必要がある。これも続きは次回(以降)。
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