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2012年12月29日 (土曜日)

監査人の「生の声」を聴きたい?

2012/12/29

恐らく、今日、土曜日から、多くの企業・大学は年末・年始の休みに入るので、このブログも寂しくなる。こんな時だが、監査報告書の話題を取上げたい。監査報告書といえば、定型文で、どの企業のものを見ても、どの監査人のものを見ても、変わり映えがしないから、継続企業の前提に問題がある場合など一部のケースを除いて関心を持たれない。でも、もし、監査人が必ず何か特別のことを書くとしたら、もっと注目を浴びるようになるだろうか?

 

僕は、「こんな定型文なら監査人が自署する必要はない」と、ずっと思っていたが、もしかしたら、自署することに意味が出てきそうな改革が検討されているらしい。それは今のところ「監査人のコメント」と呼ばれ、「利用者にとって最も重要な項目」を2個から10個程度、個々の監査人の選択で記載するイメージだという。まさに監査人個人のセンスが問われそうだ。

 

思えば従来も、僕が会計士なった頃は「特記事項」、その後「追記事項」、そして昨年度から「強調事項」などと名前は変わり、じわじわ内容の幅も広がってきた。しかし、基本的には会社が開示しているものを参照するとか、要約するものでしかなかったから、ほぼ定型文になっているといってよい。しかし、この「監査人のコメント」は、もっと内容の幅が広く、何を取上げるかの選択を監査人の自由意志に任せているようであり、もっと個性的なものになるような期待がある。

 

例えば、「監査で重点を置いた項目は何か」を記載する場合。

 

以前(7/19の記事)も触れたが、監査人がリスクアプローチで効率的に監査を実施する裏には、会社のビジネスの実態に対する深い理解が必要になる。初年度より、2年目、3年目の方が理解が深まるので、監査人のコメントの記載も変わってくるだろう。監査法人が交代したときだけでなく、監査責任者(監査報告書にサインしている人)が交代したときも同様だ。

 

だが、これも財務諸表の読者があまり関心を持たず、どんな記載をしても反応が薄ければ、もとの定型文に戻ってしまうに違いない。特に株主の厳しいチェックを期待したい。例えば・・・

 

「簡潔だが抽象的。もし、このような項目に監査の重点を置いているのであれば、焦点が絞り切れておらず、無駄が作業をたくさんやっているのではないか。」

 

「一般的で当たり前の重点項目だ。もっと会社の実態を踏まえた具体的なリスクを検証すべきだ」

 

「ビジネスの特徴を踏まえたところに監査の重点が置かれている。これなら監査報告を信頼できる」

 

こんな批評がなされるようであれば、監査人もより緊張感を持つに違いないから、読者・利用者との良いコミュニケーションとなる。だから、読者の側にも積極的に関心を持っていただけることを期待したい。

 

ちなみにこの動きは、国際監査基準(ISA)を開発している国際監査・保証基準審議会(IAASB)のものであり、まず2011/5にコンサルテーション・ペーパー「監査報告書の価値の強化:変更への選択肢の模索」が、次に今年6月に「コメント募集:監査報告書の改善」が公表された。そして、来年6月には、いよいよ国際監査基準(ISA)の公開草案(ISA700やISA706)を出す予定だという。そして、日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書(=実質的な監査基準)は、このISAに準拠・連動している(IFRSでいえばアドプション)。

 

以上については、会計監査ジャーナル1月号に、国際監査・保証基準審議会(IAASB)議長Arnold Schilder氏と日本公認会計士協会の山崎会長他との座談会という形で紹介されている。このSchilder氏の発言の中で、僕の印象に強く残ったのは次のような趣旨のところだ。

 

  • 現状維持という選択肢はない。

 

リーマンショック後の経済危機に関して行われた調査では、IAASBだけでなく、米国PCAOB、英国下院財務委員会の調査でも、監査人に対する同じような情報提供要求が寄せられたという。その結果を受けての改革であり、現状の監査報告に対する強い危機感が窺えた。

 

  • 監査人の見地からのコメントなので、二重責任の原則には抵触しない。

 

従来のような会社の開示事項と重ねた情報提供をするのではなく、監査人であればこその内容の情報提供が求められるという意味だと理解した。今まで二重責任の原則は、監査人に対する情報提供要求や監査人側の情報提供欲求をブロックしていた。しかし、その解釈を変更をして、二重責任の原則の範囲を狭めたようだ。

 

 

さて、多くの方は、この記事を正月明けに読まれるのだと思う。今のところ、ますますの円安・株高となっているが、その頃はどうなっているだろうか。日本は休みでも、海外マーケットは正月も動いていて、その流れを受けて国内取引が再開される。監査基準は既に国際基準に連動している。会計基準はどうか。海外に通用しない日本の中だけの議論、しかもそれさえ休んでいるが、それで良いのか。日本のIFRS導入論議は、もっと海外の規準セッターがもつ、顧客(財務諸表の読者・利用者、経営者を含む)志向の姿勢を学ぶ必要があるのではないだろうか。

 

そんなことを今年の締めくくりとしたい。このブログにお付き合いいただいたみなさん、今年はどうもありがとうございました。日本にとって、来年はいろんな意味で勝負の年になりそうだ。現状維持でなく、色々な場面で勇気をもって変化・改善を選択し続けましょう。

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