のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(17)統合報告書の内容要素
2013/1/7
このシリーズの前回(2012/12/27の記事)には、次のように記載した。
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「投資額 - 会計上の純資産 = のれん」であるので、
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- 「企業は人なり」であるとすれば、会計上(の純資産に)考慮されない「人の評価(の一部)がのれん」と言い得る。
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- 会計上の純資産が財務情報による企業評価であるとすれば、のれんは非財務情報による企業評価となる。
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- では、「人の評価(の一部)= 非財務情報による企業評価」か?
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このように考えると、財務情報と非財務情報の垣根が問題になる。それを年末・年始にじっくり考え、その結果をみなさんに報告する。
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年末・年始は実家でゆったりと過ごさせていただいた。言い訳になるが、あれも喰え、これも喰えで、お腹いっぱいで身動きが取れず、そのように過ごすしかなかったのだが、とにかく「食べる・寝る・テレビ見る」で過ごしてしまった。お腹いっぱいになることは予想していたし、それでも思考を巡らせることはできると思っていたのだが、どうやら僕には、この幸福感の中で会計のことを考えられるほどのストイックさはないらしい。
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というわけで、結論とはいかないが、途中経過の報告をさせていただく。
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非財務情報と財務情報の境界を知るには、非財務情報が何かを知る必要がある。非財務情報は、その会社に関連する財務情報以外の情報だ。それが何かというと、例えば、有価証券報告書の経理の状況以外の項目がある。そして有報等では足りないとして、この数年話題のCSR報告書、環境報告書、そして統合報告書が思い起こされる。統合報告書については、このブログ(2012/12/23や上記2012/12/27の記事)でも触れたように、最初はジェンキンス・レポート等によって、既存の事業報告では企業価値を評価するのに重要な(無形資産等の)情報が不足していることが問題視され、最近のCSR報告書や環境報告書、統合報告書では、別の確度(企業と、持続可能な社会との関わり)からの情報提供が要請されている。
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具体的に項目を挙げてみると次のようになる。
有報(経理の状況の前まで)
- 企業の概況
主要な経営指標等の推移、沿革(企業の歴史)、事業内容、関係会社の状況、従業員の状況
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- 事業の状況
業績の概要、生産及び販売の状況、対処すべき課題、事業等のリスク、経営上の重要な契約、研究開発活動、財政状態・経営成績・キャッシュフローの状況(いわゆる経営者による財務分析)
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- 設備の状況
設備投資の概要、主要な設備の状況、設備の新設・除却等の計画
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- 提出会社の状況
株式の状況(種類株式やストックオプション、株式に関する情報(主要な株主・株主分布・自己株式・議決権、配当政策、株価情報など)、提出会社の役員、企業ガバナンスの状況等々)
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統合報告書
統合報告書については、内容がまだ具体的に定義されていない。現時点では2012/7に公表された「Draft Framework Outline」によるしかないが、その日本語による説明がKPMGあずさサステナビリティ㈱のHPに掲示されているので、これを利用にする。それによると「第7章 内容要素」は次の通りとなる。
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- 組織概要及びビジネスモデル:
- 組織は、どのように短期、中期及び長期的に価値を創造し維持するか
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- リスクと機会を含む、事業コンテクスト:
- 組織が影響を受ける重要な資源と関係、組織が直面する重要なリスクと機会も含め、組織が事業を営む環境について
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- 戦略目標及び当該目標を達成するための戦略:
- 組織が向う先と、どのようにしてそこへ辿り着くか
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- ガバナンスと報酬:
- 組織のガバナンス構造、ガバナンスがどのように組織の戦略目標を支え、報酬に関する組織のアプローチに関係しているか
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- 業績:
- 組織が戦略目標・戦略を達成するために行った活動
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- 将来の見通し:
- 戦略目標を達成する際に、どのような機会・課題・不確実性に遭遇する可能性が高いか、戦略と将来の業績に対する結果生ずる影響が何か
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僕は、両者(有報と統合報告書)の相違点、即ち、統合報告書の特徴を2つ識別した。
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一つは、有報が現状の企業の状況を説明しようとしているのに対し、統合報告書は、長期も含めた将来を示そうとしている。現状の説明も将来の目標や戦略に絡めたものであり、過去(=実績)の説明は、「e. 業績」に限られる(この「e. 業績」が有報でいうところの「経理の状況」、即ち、財務報告に当たる部分と思われる)。
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もう一つは、統合報告書は、企業が創造する価値に焦点が当たっていることだ。この「企業が創造する価値」とは、財務報告上の純資産というより、無形資産たる「のれん」を意識したもの、「のれん」に近いものではないだろうか。
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統合報告の示そうとする「短期、中期及び長期的に創造し維持する価値」が、金額で表現されるのか、文章表現に留まるかは分からないが、これらはいわゆる「財務報告」ではない。だが、統合報告書は、投資家を含めた企業の関係者が主に知りたいのは、将来生み出される価値であると考えている。そして、それを生み出すために、持続可能な社会へ企業がどのような働きかけをするのかを表現させようとしている。財務報告(e. 業績)は、それらに説得力がどの程度あるかを推し量るための実績の説明、という位置づけだと思われる。
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現状の有報の記載事項では、あまり「非財務情報=のれん」というイメージは湧かないが、統合報告書の内容要素を見ると、みなさんは、どう感じられただろうか。僕は、ますます「非財務情報=のれん」という感じを強くした。
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そして、統合報告書の内容要素は、組織目標及び経営戦略とその達成・実行状況を示すものであり、組織、即ち、人的能力の説明、或いは、判断材料でもあると思えてくる。成果主義的な人事評価と思ってもらえばよい。即ち、人が環境や経営資源をどのように認知(≒状況判断)し、それを将来の価値創造に生かすか、或いは、生かすことができるかを利害関係者が判断する材料を与えていると思う。
以上、非財務情報の内容を見ることで、「非財務情報=人の評価」、即ち、「のれん=人の評価」に近付けたような気がする。
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さて、次回は、財務情報と非財務情報の境界について、さらに「現状説明」と「将来情報」という観点からも検討し、それが「人の評価」とどう関わるかを考えたい。
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