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2013年1月10日 (木曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(18)ついに「のれん=人の評価」!

2013/1/10

大雑把に言って、下記のようになるということに異論のある人は少ないと思う。

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将来情報 = 非財務情報

実績情報 = 財務情報

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加えて、「将来情報 = 非財務情報 = のれん」となることも、これまでの議論でなんとなく感じていただけたのではないかと思う。

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さらに「のれん=“人の評価”」と言ってよいだろうか?

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さて、前回までの「統合報告」の議論で、実績情報の位置づけは、将来目標の実現可能性を推し量る資料であり、将来目標への進捗状況の報告であるように見えた(IASBの「経営者による説明」は、若干この色が薄く、「財務諸表を含む財務情報が主役」のイメージが残っているように思われるが、会計基準設定主体としては、そうなるのだろう)。

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「統合報告」と「経営者による説明」で共通しているのは、企業の情報開示をより目的適合性を持たせてシンプルにしたいという動機があることだ。闇雲に情報開示をするのではなく、最大公約数にフォーカスしようとしている。その最大公約数こそ、ジェンキンス・レポート等で指摘された無形資産だ。長期目標およびそれを達成する戦略、環境認知能力、実現能力(この中に、コーポレート・ガバナンスの良否や持続的社会への関わり方が含まれてくる)。それは、財務諸表には未だ表れていない企業価値の源泉であり、早い話が企業価値から会計上の純資産を差引いた「のれん」ということになる。

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しかし、IASBとしては、非常に大きな矛盾を抱えてしまったことになる。企業の利害関係者の最大の関心事は理解できるし、より目的適合性のある情報開示の必要性も分かっている。しかし、それは非財務情報だ。では財務情報はどうすればよいのか。できるところから、財務情報に将来志向的な要素を取り込んでいくしかない。期末日時点の財政状態や業績に、将来を反映させる工夫をして、少しでも目的適合性のある情報開示に向かわなければならない。

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ところが、会計では古くから「客観性・確実性」が重要なテーマとなっていて、積極的に将来の不確実性を会計の対象から排除している。例えば売上計上基準である実現主義の要件が、この「客観性・確実性」だ。未確定な将来事象を排除するために、「引渡し(および対価の受取り)」というイベントを設定して、期間帰属の境界を引いた。また、貸倒引当金を設定する際には、得意先の支払いの遅延とか銀行取引停止という事実をイベントとした。そして、測定の難しい自己創設のれんの資産計上を禁止した。「事実しか記帳しない。」 これが会計の伝統的なスタンスだ。しかし、それを崩さなければ、将来要素を反映させられない。どうやって崩す?

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ヒントは、IFRSの概念フレームワークの資産の定義にある。過去に起因する「事実」を会計の対象とする(=認識する)のは従来通りだが、測定(=金額の計算)は将来の経済的便益の流入額に基づく(=将来要素を取込む)という崩し方だ。そういう目で、改めてこの定義をお読みいただきたい。

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資産とは,過去の事象の結果として特定の企業が支配し,かつ,将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう。

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実際には取得原価主義(+減損会計)で処理される資産も多く、そういうものは過去の支出額でひとまず資産計上される。しかし、少なくとも年に1回の減損テスト(主に将来キャッシュフローによる価値の下落のテスト)が行われるから、将来流入が期待される経済的便益に金額的な制約を受ける。

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ん~、理屈っぽくてついていけない、という方が多いかもしれない。

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そこで、伝票を書くことをイメージすると、期末日前に何か起こらないと伝票を起票しない。何かが起こった場合に初めて伝票を起票するが、そこに記入する金額は、「いくら支払ったか」ではなく「これからいくら稼げるか」になる、或いは、その金額を上限に支払額を伝票に記入するということだ。「これからいくら稼げるか」を考慮することで、将来要素を取り込むことになる。

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もう少し説明すると、利害関係者は、現状から目標に至る道筋、工程表、行動一覧を見たいので、その行動一覧で期末日までに着手したものについては、財務情報に示し、未着手のものは非財務情報として示すというイメージになるのではないか。そうすることで、進捗状況が表現できる。また、金額については、目標値と整合する方法で算定しないと目標との比較ができないから、目標から逆算するかのように将来キャッシュフロー等で測定する。こうすることで、「目標に対する実績額」を示すことが可能になる。

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だが、みなさんもお分かりの通り、このようにしても財務情報は「実績」の表現であり、利害関係者が最も注目する(長期的な)企業価値の表現(≒のれん)には至っていない。企業の長期目標とそれに至る行動一覧の未実施項目は、依然として非財務情報だ。結局、利害関係者は、その目標が持つ価値と実現可能性を非財務情報から読み取って評価し、企業の品定めをすることになる。

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さて、その「非財務情報である目標の価値と実現可能性を評価する」という点だが、これは「人の評価」といえるだろうか、それとももっと別のものだろうか。即ち、のれんは人の評価か、それとも人以外の物や権利などに関係するのか。

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ここでふっと思い浮かぶのは、セリエAで活躍するインテルの長友佑都選手だ。「世界一のサイドバックになりたい」、とか、「サイドバックといえば誰もが思い浮かべるような選手になりたい」と目標を語っている。この長友選手には、最近、プレミア・リーグの複数のビッククラブから高額移籍金(15億?)のオファーがあったと報道された。しかし、インテルのストラマッチョーニ監督は「チームの将来を担う選手」と、長友選手に最高の評価を行い、手放さなかった。結局インテルは、長友選手と2016年までの長期契約を結んだと、先週5日に公表した。年俸も倍増したと推測されている。

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ストラマッチョーニ監督には、これまでの彼の成長の軌跡と共に、上述の目標とそれに至る道筋がはっきりと見えていたに違いない。そして、インテルもそこに15億円以上の価値を感じていたのだろう。彼の価値はそんなもんじゃないと。今後の活躍への期待がそれだけ高いということだが、そこでは、彼の目標に対する評価と、それを達成するための戦略、即ち、現時点の技や身体能力の高さだけでなく、向上心やコミュニケーション能力といった今後の成長要素、メンタル的な強さが評価されたに違いない。

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果たしてこのような評価を物や権利に対して行えるだろうか。物や権利は、“人”にうまく使われてこそ価値が出るものだ。それに、このような目標を持つことができるのは人だけではないだろうか。企業も目標を持てるが、それは企業にいる“人々”に共有されてこそ、意味がある。そして、目標を達成するために必要となる、激変する外部環境に対応するための戦略を立案するのも、それを実行するのも“人”なのだから、企業評価の究極は、そこに関係する“人の評価”になるのではないだろうか。

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将来は不確実であり、それを会計処理の対象(=財務情報)にすることには限界がある。だが、その限界の向こう側で、“人”はイノベーションを起こして不確実性を乗り越え目標へ向かっていく。そういう“人々”に対する期待こそが、本当の、のれんの本質だと思う。

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やはり、「のれん=“人の評価”」なのだ。(少々、強引だが・・・。)

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