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2013年1月16日 (水曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(19)企業は生き物

2013/1/16

このシリーズの前回(1/10の記事)で、ようやく「のれん」がなんであるかについて、僕の結論を書くことができた。これで償却すべきか、非償却で減損のみにすべきかへ進むことができる。だが、ここまでお付き合いいただいたみなさんは、すっかり拍子抜けしてしまったに違いない。これだけ話を引っ張っておきながら、散々理屈を捏ねたあげくの果てに、インテルの長友選手を引合いに「のれんは人の評価だ」と言われても・・・と。

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全くその通りだ。説明能力の低さを恥じるばかりだ。

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そこで改めて記載するが、「のれん」は、その組織に関わる人々に対する評価だと思う。期末日時点で企業が支配するものや権利等は、財務諸表にすべて計上されている。計上されていないのは人だ。財務諸表に計上されていないもの、非財務情報が「のれん」なのだから、「のれん」は、もはや人しかない。しかも、過去の成果は損益計算の結果として純資産に含まれているから、「のれん」は、将来に向けた評価(将来情報)だ。企業が、激しい環境の変化、不確実な将来へ対応し、社会(顧客)から必要とされ続けること、即ち、今後も存続できるとすれば、それは、企業に関わる人々の力、経営目的への強い意識と対応力によるものだ。この最も重要な企業の経営資源を財務情報は表現していないが、それこそが「のれん」だと思う。

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さて、今回のテーマは、上記の考え方と、今まで説明してきた日本やIFRSにおける「のれん」の考え方が、うまく整理できるかどうかだ。

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日本では「のれん」を「超過収益力」と考えている(2012/11/27の記事)。これと上記の僕の考え方は、残念ながら基本の部分で相容れない。僕の考えは、その会社が「業界平均を超過する収益力」を持っているかどうかと無関係だから、「超過収益力」を否定することになる。たとえ業界平均以下であっても、人に価値は付きえる。

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一方、IFRSは「のれん」が何かについて明確でないが、計算上、「のれん」に含まれる可能性があるものを「のれんの構成要素」として6つ挙げ、そのうち2つを、「のれん」に含まれてよい項目「コアのれん」と称していた。そして僕は、その「コアのれん」を、以下のようなものだと説明した(2012/11/17の記事)。

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 ① 先達によって積上げられてきた会社の価値(継続企業要素の公正価値)

 ② 期待されるシナジー効果の価値(期待される相乗効果及びその他の便益の公正価値)

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①について、IFRS第3号のBC313(結論の根拠の段落番号)は、「被取得企業の既存の事業における継続企業要素の公正価値。継続企業要素は、当該純資産を別々に取得しなければならなかったとした場合に予想されるよりも高い収益率を、確立された事業が純資産の集合体に対して稼得する能力を表すものである。」としていて、その内容の例として「独占的利益を得る能力や、市場の不完全性に関する要因など」を挙げている。

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「それじゃ、2012/11/142012/11/17の記事の説明と違うじゃないか」と思われるかもしれないが、同じものを違う面から表現したに過ぎない。この企業の先達が、個々の企業資源を組み合わせたり、顧客へ働きかけたり、競争相手や仕入先と切磋琢磨した結果、独占や市場の不完全性の利用をなしえたのであり、一から事業を構築するより高い収益性を実現するに至ったのだから、BC313に記載されているものは、この企業の先達が積上げてきたものといえる。

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このIFRSのコアのれんと僕の考え方は、整理が付けられるように思う。僕の考えを当てはめれば、企業買収時に認識されるべき「コアのれん」の2つの要素は、次のように表現できる。

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 ① 買収される企業に所属する人々の(将来への対応力に対する)評価

 ② シナジーに携わる人々への期待(買収する側に所属する人々への評価も含まれる)

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①については一つ大きな相違点がある。それは、BC313の説明が「過去に取得したものの公正価値」という表現の仕方をしていることだ。即ち、この「過去に起因する事象を認識して、将来要素を取込んだ方法で測定をする」というパターンは、このシリーズの前回(1/10の記事)で紹介した資産の定義の形式を踏襲している。「既存事業」とか「確立された事業」は「過去に取得したもの」を認識の対象としていることを示し(、「公正価値」は将来志向的に測定することを示し)ている。

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しかし、僕の意見は、のれん(の内容)は「非財務情報=将来情報=人の評価」だから、「過去に取得したもの」に捉われてはいない。なぜなら、いくらで買収するかを決めた経営者(=買収する側の経営者)が、「過去に取得したもの」に捉われていないからだ。買収する側の経営者は、過去も未来も、財務情報も非財務情報も、知り得たすべての情報から、さらに推測も重ねて、すべて考慮して買収の判断をしているはずだ。したがって、「のれん」に含まれるもののすべてが「過去に起因する」かどうかは分からない。むしろ、過去を参考にして、将来の環境変化への対応能力を意識的に評価していると思う。だから、買収額から純資産額を差引いて計算される「のれん」の内容を「過去に起因する」と限定することは適切ではないと思う。さらに言えば、過去に起因することは既に財務情報に含まれている、即ち、純資産に含まれているのだから、買収額がから純資産を差引いた「のれん」には含まれていないのではないかと思う。

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また理屈っぽくなってしまった。そこで比喩を試みる。

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例えれば、企業を買うということは、ぬいぐるみを買うのではなく、生きている動物を買うことだ。ぬいぐるみは、買った時の状態がすべてだが、動物はそのあとも成長する。醜いあひるの子が白鳥になるかもしれない。その将来の成長や変化の可能性が「のれん」の評価だと思う。企業の場合は、その成長や変化を起こさせるのは人だから、「のれん」は人の将来へ向けた期待、評価になる。IASBは買った時の状態しか対価に含めていない、即ち、企業買収をぬいぐるみを買うがごとくに考えているが、企業は生きている。経営者は企業を生き物だと思っている。

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うまく伝わっただろうか? 長友選手の例よりは良かった?

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さて、IASB(やFASB)は、「のれん」を非償却と判断した理由として、「のれん」の償却方法や耐用年数が恣意的で、償却費が有用な財務情報とならないことを挙げていた(2012/12/23の記事)。しかし、このように、「のれん」の本質・実態は人にあると考えると、償却すべきか否か、償却方法や耐用年数をどのように考えたらよいかが見えてくる。それは次回としたい・・・が、ちょっと待った。

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IFRS第3号のBC176の前にある「集合的な人的資源」というタイトルが目に入った。なんだ、IASBも人的資源の評価をのれんに絡めて検討しているのか? では、次回はこれを見てみることにする。

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