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2013年1月21日 (月曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(21)IASBの誤解

2013/1/21

僕は、いま、昨日(1/19)購入した新しい椅子に嬉々として座っている。僕は少々腰が弱いので、ん? 腰が弱いというと、交渉で腰が引けているとか、弱気だとか、“弱腰”と思われるかもしれないが、そういう意味ではない。僕は在職時代に(そして退職後にも)、当時お世話になったみなさんに仰っていただいたのは、「ハード・ネゴシエーター」だ。まあ、それはいいが、言いたかったのは“腰痛持ち”ということだ。そのため、座るときに少々前のめり気味で背筋を伸ばした格好になりたいのだが、そういう姿勢に座りやすい椅子というのは、意外に少ない。それを見つけたのだ。

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しかし、驚いたのは値段だ。僅か11千円ほど。定価は確か15千円ほどだったが、店員さんが値下げの値札を付けた椅子を売り場へ展示しようとしたところを見逃さず購入した。監査法人時代に、同じような座り心地で、同じような背もたれ、肘付のものが、この10倍以上もしたことを覚えている。まだ十年は経っていない。もちろん、定価ではなく半額に値切ったのだが、それでも5倍だ。この数年のうちに何が起こったのか。それとも、当時の値切りが足りなかったのか。ん~、半値、八掛け、2割引きか。この業界のマークアップ率は知ってるつもりだったが。

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いずれにしても、もう、監査法人時代のパートナー席にあったような心地よい椅子には座れないと諦めていた。それなのに、以前に勝るほどの椅子を安価に入手できて、とても嬉しい。だが、同時に、パートナーの椅子が随分安くなったなあ、なんて、全く関係ないことを少々寂しく思ったりもしている。まごまごしていると価値が下がるのは、デフレの影響ばかりではあるまい。立ち止まって進歩を止めるのは怖いことだ。だが、この椅子があれば、僕はもっと良いものが書けそうだ。(ほとんど自己満足だが。)

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さて、前回(1/17は、IASB(やFASB)が、財務情報(≒会計処理の対象)の範囲を決める認識と測定の規準を「過去・将来」の組み合わせで考えており、「のれん」についても、この考えに則っているのに対し、僕は「のれん」は「将来・将来」の組合わせと考える点が異なると説明した。なぜ、このような相違が生まれたのか。

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IASBの考えは推測するしかないが、僕にいわせると、少々理論的な型にこだわり過ぎて、誤解をしている気がする。これから書くことは意外に単純な話なので、自分でも少々信じがたいのだが、一応書いてみて、それが当たっているかどうかはみなさんの判断に委ねようと思う。

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何度もくどいが、改めてIFRSの概念フレームワークの資産の定義を下記に転記する。

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資産とは,過去の事象の結果として特定の企業が支配し,かつ,将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源をいう。

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これを「のれん」について考えてみると、後半の将来志向の測定をする部分はIASBと同じなのだが、前半の「過去の事象」について認識するところの状況の捉え方が違う。

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企業買収によって相手企業の「のれん」をある企業が支配する。僕の言う「将来・将来」も、買収という事象が発生した後に上記の定義に当てはめれば「過去・将来」になる。即ち、買収額を支出し、相手企業を支配したという事実によって、「のれんの支配」が過去の事象になるため、「のれん」が財務情報の範囲、会計処理の対象に入ってくる。これはIASBと同じだと思う。

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じゃあ、何処が違うか? 買収をする際に、その相手企業に対して持つ“期待”の内容が違う。

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買収額は、理屈としては、その相手企業の財務情報と非財務情報の両方を考慮して、相手企業によって、および、相手企業と自社とのシナジーによって、将来生み出されるキャッシュフローの期待値以下になる。そのうち、財務情報からの期待値は相手企業の財務諸表に現われているが、それを超える「のれん」、特に「コアのれん」に相当する部分は、非財務情報からの期待値になる。非財務情報は、基本的には相手企業の将来情報であり、その期待値は将来事象からの期待値のはずだが、IASBは実質的にそれが過去であることを求めている。そこが違う。

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IASBがそこに過去を求める理由は、恐らく、「のれんから何が分離できるか」という発想で「のれん」を眺めているからだろう。「のれん」から分離して独立科目で表示するには、「過去・過去」パターンであることが必要になる。これは、「のれん」に含まれているものの中に「のれん」ではないものを探そうとしているに等しい。だから、「のれん」そのものでなく、小さなものしか発想できない。それが前回(1/17の集合的な人的資源が、取るに足りないものと結論付けられている理由だと思う。

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ん? いや、もしかして・・・。

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もしかしたら、これが日本的経営とIASB(やFASB)が発想する経営との差だろうか? 即ち、IASB(やFASB)は、経営者以外の企業構成員の生み出す価値は取るに足りないもので、人的資源の価値のほとんどは企業経営者によるものという発想があるのだろうか。だから、集合的な人的資源にあまり価値を見出さないのだろうか?

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だとすれば、長々4ヶ月も検討してきて、初めて、IFRSが日本の経営風土と相容れないという問題を掘り当てたのかもしれない。もちろん、日本でも経営者が卓越した手腕で企業価値のほとんどを生み出すケースは考えられる。しかし、多くの企業にそれが当てはまるとはだれも考えないだろう。

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いや、ちょっと待て。例えばドイツでは職人が非常に尊敬されている。これはドイツで現場の価値が認められている証拠だ。他の欧州諸国でも、ドイツほどではないが、職人の果たす役割の重要性は理解されている。ちょっと切ないが、製造業がドイツに適わない理由として。

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また、かつてスティーブ・ジョブズ氏は、国内雇用を増やしたいと願うオバマ大統領に「3万人のエンジニアを雇用できるが、国内には不足している」という趣旨のことを言ったという(ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』)。これは中国でアップル製品の生産等に携わっている70万人の労働者をサポートする要員としてだが、アップルが外注先に決して丸投げしない姿勢を見て取れる。また、日経ビジネスオンラインの11/20の記事『日本の電子部品メーカーが支える「iPhone 5」』では、日本企業の供給するキー・デバイスに依存しながらも、アップルは製品価値を生み出す主導権をより強固に維持するための仕組み作りに余念がない。これらはいずれも、アップルが現場の力を認識している証拠だ。

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したがって、これが日本の風土とIFRSが合わない例の一つと断定することは、まだ控えよう。

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それより、IASBに、「のれん」は「将来・将来」だと理解してもらえるようなアイディアを考えた方が良いかもしれない。僕がいかに「ハード・ネゴシエーター」でも、この英語力でIASBの誤解を解くよう説得するのは無理だ。しかし、ボード・メンバーにリラックスしてもらい、IASBと異なる意見でも抵抗なく聞け、議論がスムーズになる環境を整えることはできるかもしれない。

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例えば、この椅子を16脚、ボード・メンバーにプレゼントするのはどうか。この座り心地ならリラックスも集中もできる。これはGoodかもしれない!(ん~、でもちょっと高いから議長だけにしとこうか・・・、それとももっと値切ろうか・・・。)

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