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2013年1月24日 (木曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(22)のれんの減価・減損の意味

2013/1/24

実に、単純なことになってきた。今まで長々と書いてきたことは、概ね以下の式に現わされている。

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非財務情報=将来情報=のれん=人の評価

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この式の意味として主張したいのは次のことだ。

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  • のれんは将来情報なので通常は財務情報にならない(自己創設のれんの資産計上禁止)。
  • M&Aではこの将来情報も評価されて買収額が決まる(のれんが発生、会計処理の対象になる)。
  • M&Aの将来(=成否)を左右するのは、買収後のそれに関わる人々の判断や行動だが、その“人々”には、買収される会社の人々に加え、シナジー効果を出すために関わる買収する側の人々も含まれる。
  • 将来情報で企業評価をするということは、上記の人々が将来行う判断や行動を予想して、その時点で評価することに等しい(これは神業。のれんは人の評価)。

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では、のれんが人の評価であるとすれば、何によって減価(=費用化)したり、減損したりするのだろうか。

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それは、買収時に掲げた目標達成に向かって人々が貢献していれば費用認識し(=減価償却)、目標達成から遠のけば評価の見直し(=減損)が必要になるだろう、ということだ。

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というわけで、いずれにしても“目標”が重要だが、これには以下のような問題がある。

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  • 買収時に設定される目標は、必ずしも明確にされないケースがある。もしかしたら存在しないのかもしれないし、あっても経営者や少数の人々の頭の中にあるだけで公式なものにされず、そのうち忘れ去られる可能性がある。

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このケースは、特にシナジー効果に関する目標が該当する。買収された企業の目標は、その後の事業計画で明らかにされるから、まだ分かる(買収時の目標とは違うものかもしれないが)。しかし、シナジー効果は買収する側の企業にも現われるものなのに、それが明示されるとは限らない。

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  • 設定される目標が、投資額(=買収額)の回収と、明確に関連付けされているとは限らない。

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「まさか!」と驚かれたみなさんは、非常にM&A慣れしている会社の方か、大学等の研究者・学生の方だろう。僕が関係した事案では、こちらから話を向けて初めて、そういう資料を会社が作り出すことが殆どだったし、その資料が会社の事業計画と整合しているとは限らなかった。『「のれんを償却してもなお利益が出ている」状態で、のれんの償却が終われば、結果的に投資額が回収されたことになる。』 そういうイメージのようだった。

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確かにそうだが、買収直後からのれん償却後も黒字になるような買収事案は当たり前にあるわけではない。それに、のれんの償却は、通常、単体決算ではなく通常連結で行われるので、月次決算に基づく管理会計とは結びついていないことが多い。即ち、のれんの回収は経営上意識されていない、或いは意識が薄いことになりやすい。

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  • 買収後の環境変化や買収後に判明した事実により、買収時の目標が変更される。

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より高い目標になったのなら良いが、低い目標に改定された場合は、のれんが回収できるか確認する必要がある。しかし、経営管理上、これが連動して確認されているケースは多くないように思う。その結果、決算時に決算担当部署が騒ぎ始めてから慌てたりする。

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また、事業内容に大きな変更があった場合は、金額的な目標に大きな変更がなくても、のれんが有効かどうか確認する必要がある。買収時に在籍していた人々の判断や行動が生きる事業であれば、そのままでよいが、再教育が必要とか、人を大幅に入替える必要がある場合は、もう、のれんは買収時ののれんではないかもしれない。

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上記は、「のれん=人の評価」という僕の妄想の世界の話であり、現実のIFRSや日本の会計基準の話ではない。でも、意外と現実との共通点が多いのではないだろうか。

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重要なことは、のれんがなんであるかが明確になると、償却や減損の意味もその分はっきりしてくるということだ。その結果、償却期間(=耐用年数)や償却方法をどのように決めるか、減損の兆候が発生しているかどうかといった判断が、より適切に行えるようになる。ということで、次回以降も、妄想の続き、償却期間や償却方法の決め方、減損の方法等について検討していく。

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ついでに、現実の世界で参考になりそうなことを、最後に少し挙げてみる。

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上記で問題にした“目標”だが、統合報告に関連する記載(例えば1/8の記事)を思い出してほしい。経営者にとって「主」として重要なのは、これからどうするかという将来情報、非財務情報であり、財務情報は、正しい方向へ向かっているかを確認する「従」としての重要性しかない。しかし、M&Aに関しては、その「主」が欠けていることが多い。そのために、突然監査人や決算担当部署からのれんの減損を突きつけられて大慌てになる。これが改善されないと、M&Aの経営管理、のれんの減損会計は向上しない。

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関連してもう一つ。日本基準でもIFRSでも、のれんの減損テストを行う際に、シナジー効果を考慮しているだろうか。特に、買収された側の企業から生じる将来キャッシュフローだけで、のれんが回収できるかどうかを検討している場合は、シナジー効果を考慮し漏らしている可能性がある。これはIFRSではのれんの構成要素にシナジーを含めているので当然の考えだと思うが、日本基準でも(暗に)許容されているように思う。

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しかし、このような個別企業の枠を超えた減損テストを行うには、日ごろから、そういう連結ベースの経営管理を行っている必要があるので注意が必要だ(日本基準では「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第75項を参照のこと。セグメント基準の「マネジメント・アプローチ」が経営管理と整合していること、そして、それにのれんを含めた投資回収管理が組込まれていて欲しい)。もちろん、決算のためだけの理屈では、監査人が認めないだろう。

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コメント

会計士受験生です。
試験勉強が煮詰まった時このサイトを見て気分転換にさせていただいております。
非常に勉強になることばかりです、ありがとうございます。

tkm0810 さん、どうもありがとうございます。とても励みになります。
当たり前ですが、僕にも受験時代がありました。とても不安が大きいと思いますが、勉強したことは必ず生きてきますから、がんばってください。

はみだし会計士さん、こんにちわ。(o^-^o)
「のれん」についての多数の記事、ごくろうさまです。
その筆力に触発されて、ついコメントを残そうと言う気になりました。

以下、私見を。
基本的に、「のれん」は企業買収において認識されますね。
ざっくりと、のれん=取得価額-対象企業の純資産簿価。です。
企業買収とは、本質的には株式投資であります。
ここで、株式投資で考えてみます。
たとえば私がトヨタ自動車の株式を、株価4000円で買ったとします。
買ったということは、だれかが私に売ったわけです。
仮に、売った相手がかつて2500円で取得していたとします。
相手の売却益は1500円になりますね。

この1500円が、企業会計では「のれん」として認識される。
(資本金2500万円で会社を設立し、直後に4000万円で売ったと考えてください。買った側は、1500万円の「のれん」を認識することになりますね)

したがって、のれんとは、単なる差額概念であり、その意味といっても、ほとんどない。
2500円で買ったものを4000円で売ろうが、6000円で買ったものを4000円で売ろうが、わたしにとっては意味が無い。
わたしにとって意味があるのは、4000円と言う取得原価だけ。
4000円以上になったらいいな、と思って買ってるわけです。
つまり4000円以上の価値があると思って買っている。

・のれんとは、もはやどうでもいいほどの過去情報であり、もちろん財務情報である。

と、わたしは考えてます。

しかしながら連結BSを作るときに、支払った金額と、取得した資産との差額が出てしまうので、それをやむなく「のれん」という名前で資産計上しているにすぎない。
これを償却するか否か、というところで、学者がいろいろと理屈をつけてきたにすぎない。

と、このように考えてます。

BSをできるだけ企業価値を表すようなものにしたい、というのがIFRSの考え方だと理解してますが、その場合は、償却や減損だけでなく、「含み益」も資産化しなければ正確とは言えないでしょう。

・償却についていえば、相手の株式売却益をこちらで認識し、定期的に償却していくというのは意味が不明。「のれん」を取得した固定資産等に配分したと仮定して償却計算する、というならまだわかる。が、全額を償却性資産に配分したと仮定するのはおおざっぱすぎる。
・上場有価証券以外のもので「含み益」を認識するのは、粉飾の余地が大いに入ってしまう。
・なので、土地のようにとりあえず取得原価のまま載せておき、投資の失敗が明らかになったらそのつど減損したらいいかな。
というのが、IFRS的な考え方だと思ってます。なので、できるだけ「のれん」じゃなくてなんらかの無形資産として認識させたい。

私としても、償却せずに減損テストするという方法が、正確ではないけどまだマシ、だと思います。

のれんというのは、そのくらい意味のない扱いにくいものではないのでしょうか。
はみだし会計士さんのおっしゃる「将来の期待値」的なものは、取得価額の4000円を超えるかどうかであり、相手の売却益であるところの1500円ではないですよね。
つまり、買収側の期待している金額は、まだ数値化されていない。5000円だったり、6000円だったりするわけです。そことの差額を会計上認識して、「のれん2500円」とやるのは、もはや粉飾ですよね。

以上です。長々と失礼しました。誤解している部分などあるかもしれません、ご容赦ください。

頭の体操の機会をいただき、感謝してます。
また読みに来ますね。

トミーさん、ありがとうございます。初めて内容についての具体的なご意見を頂戴しました。
トミーさんは、IFRSにおけるのれんの考え方を正確に理解されており、僕の意見についても同様で、とても嬉しく感じました。ただ2点、僕の意見について気になるところがありましたので、それについて説明させていただきます。


1.4000円以上は財務情報ではありません。

コメントの最後の方にある『そことの差額を会計上認識して、「のれん2500円」とやるのは、もはや粉飾ですよね。』というところです。もしかしたら僕が支出額4000円を超える部分までをのれんにすべきと主張しているように理解されたかもしれませんが、僕も4000円以上の部分を資産計上する意図はありません。仮に、買収側がその価値は6000円と考えたとしていても、支出したのは4000円ですから「過去情報(=財務情報)」なのは4000円までです。僕の意見でも、4000円を超える部分は非財務情報です。

2.「のれんは意味のないもの」を打破したい。

僕は、「のれんは、買収者が純資産額を超えても支払いたいと思わせる何かである」と思いました。なんだか分からないけど、間違いなく価値のある何かがあるのです。そうでないと、資産計上できません。しかし、それがなんだか良く分からない、古くは(日本では今でも)超過収益力だと言われてましたが、現実の買収事案を見ればそれは違う。IFRSでは「コアのれん」として2つの構成要素が示されていますが、それでも内容がはっきりしない。そのために、トミーさんが言われるような感じで非償却で減損のみという会計処理が採用されているのだと思います。
でも僕は、のれんの内容は、まだ「言葉」にされていないだけで、実はちゃんとあると思いました。それは買収される企業(とシナジー効果)の将来性です。トミーさんが言われるように2500円以上になるという期待です。その期待の究極の根源は、事業に関わる人の評価なのではないかというのが僕の意見です。
このシリーズは、IFRSが日本の製造業に合わない理由を探る目的で始めたのですが、その中でこののれん問題を考えるには、のれんの内容がなんであるかを明確にする必要があると思ったのです。その結果、もし、のれんが償却すべき内容のものということになれば、この点では日本基準の方が良いということになるし、逆なら、IFRSが製造業に合わないとする意見は、この点では正しくないことになります。
オックスフォード・レポートにものれんについて得体のしれないもの、というような記載がありましたが、のれんが何かについてもっと明確にしていく努力が実を結ばない限り、償却・非償却の問題は決着つかないでしょう。したがって、「意味のないもの」のままにしておかないことが、これから重要だと思っています。
トミーさんは、「意味のない扱いにくいもの」と言われますが、その通りです。でもそこが何とかならないかなあ、と思って書いたということです。


コメントをどうもありがとうございました。また是非お願いします(^O^)/

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。

投資の初心者さん、コメントをありがとうございます。
お褒め頂いてとても励みになります。是非またいらしてください。

この記事へのコメントは終了しました。

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