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2013年1月26日 (土曜日)

【番外編】3x2はマルだけど、2x3はペケ?

2012/1/26

これは、すでにネットなどでも話題となっていて、ご存じの方も多いと思うが、僕は、次の記事で初めて知った。小学校の先生によっては、掛け算の順番に拘るのだという。

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小学校のかけ算 えっ?順序が違うと「バツ」(朝日新聞デジタル版1/25

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上記はID登録が必要なので、面倒という方は、こちらのブログも面白い。

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6×8は正解でも8×6はバッテン?あるいは算数のガラパゴス性(ITmedia社ブログ、白川克氏、2011/12/21)

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僕は、行き付けの喫茶店でこの記事を読んでいて、思わず椅子から滑り落ちそうになって、ガタン、と物音を立てた。いつも物静かにこのブログを書いたり、Twitterを読んでるだけなので、この店のお姉さんはびっくりしたと思う。掛け算の答えの「6」が合っていればどちらでもいいのではないか、と思ったのだが、上記の記事やブログを読んでみると、教育上の見地からは、結果だけでなくプロセスに拘ることも重要だという意見がある。そうなのかなあ。

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今回は、この問題の是非を問おうというのではない。実は、これらを読んで、先週受けた日本公認会計士協会のリスクアプローチの研修を思い出したのだ。リスク・アプローチは、コストを最小にコントロールしながら成果を出す手法として監査制度に採り入れられ、監査基準の改定のたびにその緻密さを増している。僕は現在監査に従事してないので、このテーマの研修は不要なのだが、僕が監査法人を辞めた直後に、実質的な監査基準である監査基準委員会報告が一新されたこと(クラリティ版の発行)もあり、どう変わったのか気になって受けてみた。

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結論としては、僕が監査をやっていたころと(最近公開草案が出た不正対応関係を除いては)、違いはないのだが、気になっていたのは、クラリティ版と同時期に公表された監査基準委員会研究報告第1号「監査ツール」だ。「監査ツール」とは、監査調書の様式集と考えてもらえれば良い。即ち、「この様式を利用して監査調書を作成すれば、リスク・アプローチに沿った監査をやったと主張できる」という有難いものなのだ。

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その様式の根底にあるのは、あの内部統制報告制度のRCM(Risk Control Matrix)のお化けのような、ばかでかい表のイメージだ。このRCMは、識別したリスクを単位として、内部統制の整備・運用状況を検討するものだが、この監査ツールは、会社の於かれた環境、事業の理解から、リスクの識別、内部統制の整備状況の把握(以上までがリスク評価手続)、内部統制の運用状況、財務諸表項目の実証的検証(以上がリスク対応手続)、さらに監査証拠の評価までを含む監査一連のプロセスを表現するイメージなので、“お化け”といえるほどにデカい。それを局面ごとにばらして様式化したものが、この「監査ツール」といえると思う。

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実は、僕のいた監査法人では、クラリティ版の大元である国際監査基準準拠の監査マニュアルが適用されていて、すでに同じ様な様式があった(実際にはこの「監査ツール」よりもっとデカいというか細かい)。その様式に沿って作ると、膨大な監査マニュアルのかなり細かい規程にも対応できるのだが、それが大変な作業なのだ。“コストを最小に”というリスク・アプローチの趣旨を見失いそうだった。

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そうか、あの手のものを使うのが会計士協会の標準の考え方になったのか。それでは、是非、木を見て森を見ずにならないよう注意を願いたい。即ち、様式を埋めることに一生懸命になり過ぎて、何をやっているかを見失わないように注意していただきたいと願うのだ。というのは、導入時に、監査マニュアル担当者とこんなやり取りがあったからだ。

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会社のリスクには様々な様態のものがあって、一律の表形式で表現できるものではない。その証拠に、様式に入れようとすると「該当なし」ばかりになってしまうリスクとか、その様式では適当な記入欄のない重要事項が出てくる。

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該当する記入項目がなければ「該当なし」と記入すればよい。用意された枠では表現しきれないなら、別に調書を作成し添付して、一番関連しそうな表の枠に添付調書の番号を入れてくれ。

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それでは作成に手間がかかるばかりでなく、一覧性がなく、表にした意味がなくなる。調書レビュー(作成者の上司が何段階か、調書をチェックすること)の手間もかかる。もっとリスクの実際に合わせた自由様式を許容したらどうか。

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様式を多少崩してもよいが、最低でも監査マニュアルの規程と整合させてくれなくては困る。

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それはそうだ、ということになったが、良く考えてみると、様式を崩すには、膨大な監査マニュアルから関連しそうなところをあちこち読込み、より厳密に様式を考案しなければならない。会計士協会の品質管理レビューもあるし、会計士監査審査会の検査もあって、標準フォームと違う様式を使っていれば、理由を説明しなければならないだろう。しかも、監査マニュアルや様式はしょっちゅう改定されるので、そのたびにカスタマイズした部分に影響がないか検討しなければならなくなる。それには様式をカスタマイズしたもののリストと、カスタマイズの詳細の記録も必要になる。そして、これらを後任に引継いでいかなければならない。これらの作業と、少々強引でも枠に書き込むのとどちらがコスト・パフォーマンスが良いか・・・。

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結局、様式を崩すことは実質的にできないという結論になった。しかし、これは細則主義の弊害であると内心怒り、ますます、僕は原則主義が好きになった。

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んっ、これと、冒頭の掛け算と何の関係が? と思われたかもしれない。それは、「たとえ、答えは同じでも、その経過を一定の形に当てはめないといけないことがある」ということだ。しかし、僕は納得できない。掛け算も、この様式も、もっと結果重視で良いのではないか。

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そこで、喫茶店のお姉さんに聞いてみた。「ねぇ、3x2と2x3に拘る?」と。このお姉さん、江戸っ子ではないが、しゃきしゃきした切れの良い性格だ。きっと「どっちでもいいんじゃない」っていうだろうと期待して。しかし、意外な答えが返ってきた。「ん~、やっぱり順番が大事だと思う」と。

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「えっ、どうして?」って聞くと、「教育上必要という人がいてもいいでしょ。ケース・バイ・ケースよ」という。僕は、不意を突かれてゴールを許してしまったゴール・キーパーのような気持ちだ。振り向くとゴール・ネットにボールが転がっている・・・。ん~、確かに決め付けるべきことではないか。僕は転がっているボールを思いっきりネットにけり込みたいと思ったが、お姉さんの笑顔にその気も鎮まった。たいしたお姉さんなのだ。もしかして、密かに監査のことまでお姉さんに解決してもらおうとした僕の企みも、見透かされていたか。

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