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2013年1月12日 (土曜日)

IASBフーガーホースト議長の語る「五つの誤解」

2013/1/12

フーガーホースト氏は、昨年11月のIFRS財団アジア・オセアニア事務所(東京)の開所式の講演で四つ、および、その講演の後のプレ・カンファレンスで一つ追加して、合わせて五つの誤解があると述べている。

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(IASBの活動に関して誤解されていること)

 1.公正価値にしか関心が無い。

 2.バランスシート(貸借対照表)にしか関心が無い。

 3.製造業に合わない。

 4.アングロ・サクソンが支配している象牙の塔。

 5.『慎重性の原則』の採用を止めた。

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昨日(1/11)の日経電子版に「国際会計基準は黒船ならず? 日本企業の負担軽く」という記事(有料会員限定)が載り、講演で取上げられた4つが触れられていた。それで今回このテーマを取り上げる気になった。ただ、残念ながらこの記事は有料会員限定記事で、多分、引用は歓迎されないので、内容はこれ以上紹介しない。しかし、「五つの誤解」については既に日経BP社のITproが2012/11/16付でより詳しく報じている(無料会員登録でどなたでも読むことができる)。そこで上記は、こちらから引用した。

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このブログのオックスフォード・レポート・シリーズや製造業シリーズをお読みの方は、4を除いて、このブログのテーマと重なっていると思われただろう。4については、言い始めた人が個人的にアングロサクソンによほどの恨みがあるか、逆に宴席などの軽い場で使われるたちの悪い表現なので、中身があるとも思えず、このブログでは取上げる予定はない。(フーガーホースト氏はなぜ取上げたのだろうか?)

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さて、フーガーホースト氏は、「どれも神話(myth)であり、事実とフィクションを混同している」としているが、細かく根拠を挙げて反論したわけではなさそうだ。IFRS財団初の海外事務所設立の開所式の講演だから、そういう場ではないと判断したのか、或いは、揚足取り程度の取るに足りない中傷だと判断したのか。だが、重要なのはそんなことではなく、IASB議長が公式の場で「誤解だ」と主張したことだろう。これで「誤解を解く」努力を双方が行う対話の段階に入ることができる。

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参考までに、このブログでの検討結果(および途中経過)、主張は以下のとおり。

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 1.公正価値にしか関心が無い。

オックスフォード・レポートにも記載があるように、事業性の固定資産など、多くが公正価値会計ではない「取得原価主義会計+減損会計」によっている(2012/8/232011/12/14など)。IASBが公正価値に時間をかけるのは、そこに問題が多いからだろう。しかし、取得原価主義会計にも問題が多いから、それを補うために減損会計にも相当な時間をかけてきた。現在の金融商品のプロジェクトでも償却原価や減損について多くの論点が検討されている。よって、この主張は事実誤認。

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 2.バランスシート(貸借対照表)にしか関心が無い。

これは、全くの誤解とは言えないと思う。損益計算書よりは貸借対照表を重視しているのは間違いないからだ(2012/11/2)。ただ、それにしか関心がないということはない。

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これは「投資家の関心が将来キャッシュフローにある」というところからIFRSが組み立てられていることに起因すると僕は思っている。(過去の)損益は、将来キャッシュフローの見通しを推測するために重要だが、(過去の)損益から直接、投資や融資、業績見通しの良し悪しの判断をするわけではないということだ(2012/1/20)。言われて見れば、その通りだと思う。

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 3.製造業に合わない。

これについては、現在、オックスフォード・レポートの主張を参考に検討中(2012/9/14~)。残る課題は、現在検討している「のれん」、「再評価モデル」、「減損戻入」、「非上場株式の公正価値評価」だけになった。

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現時点で、IFRSに問題を感じるのは、のれんの償却が否定されていること(例えば2012/12/18)や、M&A先の研究費の一部が資産計上されること(2012/12/11)、M&Aで発生するのれんに不純物が含まれること(2012/11/29)だ。ちなみに、上記のITproの記事によれば、『フーガーホースト議長はのれんについては「日本基準のやり方に共感している」、研究開発費についても「日本基準のやり方は一理ある」と語った。』とされている。

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この検討の過程で、逆にIFRSの問題ではなく、日本での解釈がおかしいのではないかと思われることが見えてきた。有給休暇引当金だ。僕は日本では、かなり多くの会社で計上不要になると思う(2012/11/6)。また、IFRSは投資回収という日本的経営の特徴を阻害するというが、「投資回収」という発想は、IFRSにこそあるのであって、むしろ日本の会計制度に欠けている。さらに、経営面でもその発想が具体的な管理手法と結びついていない会社が多いと思う。IFRS導入でレベルを上げたい項目だ(2012/10/2)。

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 5.『慎重性の原則』の採用を止めた。

概念フレームワークの「有用な財務情報の質的特性」(企業会計原則の一般原則のようなもの)から、慎重性とか保守主義がなくなったが、単純にそれを保守主義の否定と捉える必要はない。というか、基準の文言から消えても経営にとって重要なものは重要だ。会計のみならず、経営全般に(リスク管理のために)、保守主義は必要だ(2012/9/18など)。そんな単純に経営がIFRSの規程に支配されることはない。そういう誤解は、経営を、或いは、企業を知らない人が、起こし、広めたものではないかと思う(というのは書き過ぎか?)。

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僕の希望としては、これをきっかけに、企業会計審議会がちゃんと理屈の通った議論を行って、早く報告をまとめて欲しい。日本は、のれんの償却などの主張を、IFRSを受入れる条件、或いは、IFRSを受入れられない理由などとして、IASBにぶつけ、対話を始めるべきだ。そうすれば、のれんの償却問題は、ASBJとIASBの合同プロジェクトになるかもしれない。ついでに、アドプションした場合の、個々のIFRSの受入承認手続も議論してほしいと思う。今は、金融庁が(ASBJと相談して?)省令発行手続で決めているに過ぎない。

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