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2013年1月 8日 (火曜日)

統合報告のインパクト~将来情報と実績情報

2013/1/8

昨日の統合報告の内容要素(1/7の記事)については、みなさんはかなり驚かれたのではないだろうか。「こんなことを開示するのか!?」と。まるで事業計画発表会資料だと。いや、事業計画発表会など行われていない会社もあるし、行われていても事業計画が1年分しか示されなかったりするから、この例えではピンとこない方も多いかもしれない。もしかしたら、多くの日本企業にとって現実味が薄く、このような開示を行うようになるとは到底思えないかもしれない。

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しかし、このような統合報告が本当に制度化されるか、という問題は脇に置き、包括的に企業情報を開示しようとすると、その会社が長期的に目指す目標やそれに至る計画と能力、そして計画の達成状況という位置づけの実績情報が求められる、ということにはご理解いただけると思う。そして主役は将来情報で、実績情報は将来情報の確からしさを推測する材料の一部でしかない。

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1990年代のジェンキンス・レポート等で、財務諸表を含む事業報告書が企業の利害関係者が最も関心を持っている無形資産の情報を開示していないと批判したことから始まったこの動きは、ついに、その無形資産こそが主役で、従来主役であった実績情報を脇役へ追いやるところまで止まらないことになりそうだ。すると会計の位置づけは、一体どうなってしまうのだろうか。そしてその監査は・・・。

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  • 会計が将来情報をも扱い、主役の座をキープする

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  • 監査人は将来情報も監査の対象とし、統合報告全体(或いは相当の範囲)をサポートする

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  • 会計は実績情報の中に閉じこもり、脇役の一部となる

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  • 監査人は実績情報のみを監査の対象とし、脇役の裏方となる

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  • 会計および監査は、将来情報との関わりを一切拒絶し、配当限度額と税金計算へ特化する(包括的な企業情報の開示への関わりを止める)

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もしみなさんが企業買収を行う立場、或いは、上場会社株式へ投資する立場でもよいが、それらの立場になったことを想像していただきたい。そのときみなさんが注目するのは、その会社の将来だろうか、それとも過去の実績だろうか。

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実績情報を重視される方は「会計上の純資産が投資額に見合っているか」という観点で、その会社の現状が投資額に相応しいかどうかを考えるだろう。そして、将来情報を重視される方は「投資額が将来キャッシュフローに見合うか(投資額を回収できるか)」を考えるだろうと思う。実際の企業買収や株式投資はというと、圧倒的に後者へ重点を置くことが多い。極端にいえば、過去はどうあれ、これから稼いでくれれば良い、将来株価が上がれば良いのだ。ということは、すでに実績情報は実質的に主役ではなくなっている。即ち、すでに投資者は将来情報を最重視しているのに、開示制度がそれに追いついていないということだ。統合報告はこの問題へ対処しようとしている。

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さあ、大変なことになった。我々企業情報開示に関係する者は、制度があるからといって、的の外れた情報をせっせと世に送り出していたことになる。この的外れを直そうとしている統合報告に、我々は付いていけるか?

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日本の家電メーカーは、ブラウン管から薄型TVへの技術革新に乗り遅れ、今の業績に陥ったといわれる。IBMは1990年代のダウンサイジングについていけず、マイクロソフトにIT業界の主役の座を奪われた。そのマイクロソフトも、モバイル化・タブレットへの対応が遅れて冴えない。マイクロソフトと共にIT業界の主役だったインテルも、省電力化という新しい技術分野で躓いて、英アーム、米クアルコムなどに揺さぶられている。IT業界のみならず、産業界では「破壊的技術革新」で当たり前のように勢力図が塗り替わる。会計業界にもその「破壊的技術革新」は起こりえる。実績ベースの会計の地位が大きく揺らぐ可能性がある。

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「顧客の要望」に応えない製品はいずれ淘汰される。会計も同様の危機感を持つ必要があると思う。しかし、会計の場合は制度に規制されるので、制度が変わってくれないとどうしようもない。だが、ちょっと考えてみよう。「顧客の要望」に応えることは、実は経営の要望に応えることでもある。経営者も、会社が目指す方向に向いているのか、その進捗はどうか、そして目指している方向は社会のニーズに合っているのかをいつも気にしている。それを可能な限り客観的に評価・測定できる将来志向的な手段が欲しいのだ。

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ここで会計基準改正の動きを振返ってみよう。

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会計ビックバン以前の取得原価主義のころは、過去情報の財務諸表とほぼ過去情報の注記で構成されていた。それが会計ビックバン以降、減損会計や公正価値会計といった会計上の見積りが財務諸表に取り入れられた。後発事象も修正後発事象という考え方が取り入れられ、機械的に期末日以前か以後かで会計上の取引の期間帰属や見積りの対象期間が決まる時代ではなくなった。

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会計ビックバン以前は、財務情報作成者が作りやすい情報を開示していたともいえる。「確定した事実」だけを開示することは、「情報の信頼性を高めている」という言い方もできるが、基本的に集計・分類で情報を作成できるので楽だった。だが、財務諸表の利用者は、上述のように将来情報をより重視しているのに、そのニーズを汲み取っていなかった。

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会計ビックバン以降は、「期末日時点、或いは、開示時点の最善の見積り」という枠内で、将来情報を会計処理や注記へ取り入れるようになった。それが会計上の見積りであったり、修正後発事象となっている。財務情報作成者からみれば、見積りに判断が要求されるので、より高度なスキルが求められたり、実務上の困難を伴うが、その分、財務諸表の利用者の要望に近づいている(目的適合性)。

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監査人にしても、過去の確定した事実を検証することは比較的楽だが、判断という人の頭の中で行われていることの良し悪しを検証することは難しい。過去の確定した事実の検証は、1つ又は少数の証拠の有無で検証できることが多いので、年次の低いスタッフに任せても安心できた。しかし、将来情報を含む見積りを検証するには、関連する多くの状況やその判断プロセス(ビジネスモデルや内部統制)、その判断の結果の開示上の影響までも考慮する必要があるケースが多い。経験の浅いスタッフには任せられないから、少数のスキルの高い者が多くの業務量をこなす必要が出てくる。

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ということで、会計基準は、「長期的に企業が創造する価値」という利用者の要求水準には遠く及ばないものの、利用者の要求に向かって少しだけ歩を進めている。だが、このままで利用者の要求水準まで辿り着けるだろうか? みなさんも予想されていると思うが、これの答えは否だろう。きっと別の枠組みが用意されるに違いない(統合報告のフレームワークがそこまで進化するかも)。しかし、その別の枠組みは、会計関係者(会計基準設定者、会計研究者、財務諸表作成者、監査人など)がその能力を大いに発揮できる分野だと思う。特に作成者は、制度が変わるより先に、エッセンスを取り込んで経営に貢献することができる。もし、この流れに逆走し、将来情報との関わりを嫌って(昔の取得原価主義へ)逃げてしまうと、会計はいずれ存在意義が低下し、社会で、会社内で、肩身の狭い思いをすることになるかもしれない。

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さて、IFRSは、このような動きにどう対処していくのだろうか。

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実はIASBは、この統合報告の内容要素に似た感じの項目を記載した「経営者による説明(Management Commentary)についての実務ステートメント」を2010/12に公表している(統合報告のフレームワークよりは控えめな感じ)。これは、財務諸表と一緒に開示される財務諸表以外の項目を対象としているためIFRSを構成しない任意規定だが、IFRSが統合報告と同じ方向を向いている一つの証になる。この内容を知りたい方には、監査法人トーマツのHPに掲示されている資料を紹介する。翻訳であるためかちょっと読みづらいが、短いし、恥ずかしながらこのブログよりは良いのではないかと思う。

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そしてさらに付け加えると、国際監査基準(ISA)もこれらの動きに呼応するように、「720 監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」の改定作業を進めている(財務諸表以外の、経営者による財務分析などの一定の開示(定性的な表現を含む)についても、従来の通読以上の“監査人の目”を入れることを義務付けようとしている。但し“保証”するわけではない)。統合報告に直接関連したものではないが、会計同様、控えめな歩みであっても方向性は合っている(非財務情報への関心を高めている)。

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ということで、次回は今回を踏まえたうえで「のれん」シリーズに戻り、将来情報・実績情報という観点から、非財務情報(のれん)と財務情報(純資産)の境界を探りたいと思う。

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