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2013年2月28日 (木曜日)

220.のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(32)資産売却額の見積り

2013/2/28

3回連続で割引率をテーマにしたが、少々細かいところに深入りしすぎたかもしれない。しかし、今回もう一度細かいところに立ち入りたい。それは将来キャッシュフローを見込むときの資産(資金生成単位)の売却額(最終処分価額)の算定だ。ここで僕が強調したいのは、視点を変えることの重要性だ。普通、社内部門(資金生成単位)を売却するなんて考えもしないが、敢えてそれを想定することで、色々経営に役立つことに気づくことが多いのではないかと思う。

 

 

将来キャッシュフローを見込むには、「最長5年間の見積り+その期間経過後の対象資産の処分価額の見積り」を計算して割引率で現在価値評価する(2/15の記事)。「最長5年間の見積り」については、中長期経営計画等の策定対象期間内で、“過去”の範囲に注意しながら(=改善案を排除し)、現状の延長線上になるように調整し見積る。しかし、最終処分価額の見積りはどのようにやれば良いか。以下の方法が考えられる。

 

 ① そういう市場があればその市場価格を参照する。(・・・普通は市場がない。)

 ② 処分を想定した時点以降の将来キャッシュフローを見積って割引く。

 ③ 競合先等が買うなら、いくら出すかを推定してみる。

 ④ 同様の部門(物も人も仕組みも顧客も)をゼロから起ち上げるコストを見積る。

 

「机上の空論だ!」と思われるかもしれない。特に③と④は。しかし、そこが面白いところだ。①は可能性が低いし、②は成長率さえ決まれば計算できてしまうので面白くない(くどいが、事業のライフ・サイクルを意識しないと適切な成長率は決められない。ご注意願いたい)。②なら、経理部門や企画部門でも可能なので決算作業の一部になってしまう可能性があるが、③や④は現場を巻き込むと面白い(事業部門に役立つから)。

 

ただ、③や④は、定性的な議論はできても“合理的な見積り”までやろうとすると難易度が上がる。③は競合先等の事情を詳細に知らないとできないし、④は例えば顧客の獲得・維持の歴史を簡単に金額にできない(社外顧客が関係する部門の場合)。結局実務的には、②をベースにしつつも、③や④の検討・分析の結果を加減算していくことになると思う。

 

 

さて、③や④を検討すると何が分かるか。

 

③は競合先の強みや弱みを分析・理解しようとすることだし、引いては自社の強み・弱みを把握することにつながる。“(競合先等が)この部門をいくらで買うか”という視点を変えた具体的な問い掛けは、“自社の強み・弱みの把握”という抽象的な問題設定より、より客観的で具体的な分析情報を提供してくれると思う。

 

監査でも、クライアントの経営層、事業管理者層に“自社の強み・弱み”を質問することがあるが、その自社側からの視点に依存した主観的な答えが返ってくることが多かった。しかし、競合先等の立場で見てみると、自社部門をより客観的に見ることが可能となり、ありがちな思い込みを避けられるのではないか。また、競合先等の経営戦略や戦力に興味を持つ機会になるかもしれない。

 

④も、思わぬ発見をもたらしてくれることがある。現状を再構築することは意外に難しいと、隠れた価値に気が付くことができたり、逆に、今やるなら全く別の簡単な方法があるなどと、大胆な発想へ誘導してくれるかもしれない。

 

要するに、③と④をやると「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という状況に近付くことができる。経営上は、当たり前のことだが、それだけに忘れがちだ。③や④は、それを思い出させ実践させる機会として打って付けではないだろうか。減損の兆候がある場合にだけやるなんてもったいない気もする。

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