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2013年2月 5日 (火曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(25)「のれんの減損」の概要

2013/2/5

今回はIFRSのIAS第36号「資産の減損」から、のれんの減損関係の規程を概観する。以下に記す段落番号は、断りのない限り、IAS第36号のものとご理解いただきたい。(久しぶりにこのブログの本来の趣旨に戻ってきたような気がする。)

 

のれんはちょっと特殊な資産なので、その前に一般的な資産(主に有形固定資産を想定。無形資産には例外がある)に関する減損の概略を記載しよう。その後で、のれんの減損が一般的な資産の減損と異なる点を記載する。

 

(減損の目的)

 

企業が資産に回収可能価額を超える帳簿価額を付さないことを保証するための手続きを定めること。(1項)

 

これについては、過去に色々記載しているが、「資産は金を生むもの」であるならば、回収できない部分は資産ではないから評価を引下げるのは当然のことと理解できる。

 

(主な用語)(6項)

 

帳簿価額:

取得価額から減価償却累計額、減損損失累計額を控除した金額。

 

資金生成単位:

概ね独立したキャッシュフローを生成させる資産又は資産グループの最小内部管理単位。最大でも事業セグメント以下の単位となる。

 

全社資産:

本社や管理部門の資産のように、それ単独でキャッシュフローを生成しない資産又は資産グループ、或いは、複数の資産単位グループにまたがって関連する資産又は資産グループ。但し、のれんは除く。

 

回収可能額:

資産又は資金生成単位の公正価値(処分費用控除後)と使用価値のいずれか高い金額。

 

公正価値と使用価値:

IAS第36号の表現とはだいぶ異なるラフな説明になるが、公正価値はいわゆる時価であり、使用価値は企業がその資産や資金生成単位によって将来獲得できると期待するキャッシュ・フローの現在価値。即ち、企業の見積り額。

 

両者は、一見同じように見える場合があるが、言葉が違うということは内容も相違する。その相違は、公正価値が市場取引とか第三者の評価といった客観的な装い、イメージを醸し出させよう、強調しようとする概念なのに対し、使用価値は当事者である企業の予測に依存し、その企業の事情を考慮する主観的な要素を内包する。また細かいが、公正価値は処分費用を控除する前の概念なので、回収可能額を説明する場合は、一々「処分費用控除後」と記載されるが、使用価値は、処分費用は控除済みの概念なので、その記載は不要。

 

とはいっても、会計(=財務情報)は、「過去事象を将来要素を考慮して測定する実績、或いは、目標に対する期末日時点の進捗具合」を示すものなので、見積り時点で影も形もない単なるアイディアや計画を、使用価値の見積りに盛込むことはできない。

 

 (減損会計の手続)(9項)

 

① 減損の兆候の有無を検討(期末日現在)。

② 減損の兆候がある場合は、資金生成単位ごとに回収可能額を見積り減損テストを行う。

③ 帳簿価額が回収可能額を超過する場合は、その超過額を減損する(59項)。

④ 全社資産の減損テスト、減損損失の計上を行う(102項)。

 

 

以上について、「のれんの減損」には以下の異なる定めがある。

 

(資金生成単位)

 

のれんは、のれん単独で資金生成単位となることはできないため、関連する資金生成単位に配分して、その単位で減損テストを実施する(80項)。シナジー効果の及ぶ範囲にのれんを配分する(80項)。したがって、複数の資金生成単位に配分することが必要な場合がある(81項)。

 

「のれんが単独で資金生成単位になれない」とは、のれんは転売することができず、のれんを直接使用して製品の生産をしたりサービスの提供ができないし、決済の手段にもならないことから来ている。土地や建物など、一般的に減損の対象となる資産は、上記のいずれかを行える能力を持っているので、資金生成単位となりうる。

 

うむむ、そうだった。のれん単独で減損テストができないとは。これは僕の意図(=のれんの規則的な減損)を達成するには問題だ。一つ壁が見つかった。

 

(減損テスト)

 

減損テスト(=回収可能額を算定し、帳簿価額と比較すること)は、減損の兆候の有無に関わらず毎期実施(96条)。但し、特定の場合は、以前の詳細な計算を当期の減損テストに流用できることもある(99項)。

 

減損テストのタイミングは、期末でなくてもよいし、資金生成単位ごとに違っていても構わないが、毎期同じタイミングで行う(96項)。なお、減損の兆候を認識した場合は、このタイミングに関わらず、いつでも減損テストを行わなければならない(90項)。

 

のれんの減損テストは配分される資金生成単位で行われるが、それとは別に配分される側の資金生成単位の減損テストが必要(のれんを配分する前の状態での減損テストが必要。のれんに関連しないその資金生成単位特有の減損事由がある場合は、予めそれを減損してからのれんを含めた減損テストを行う趣旨。97項)。

 

(減損損失の計上)

 

上述のように、のれんはそれが配分された資金生成単位の減損テストとして行われるが、その減損テストで帳簿価額が回収可能額を超過した場合は、まず、のれんの帳簿価額から減額する(104項)。

 

(減損損失の戻入れ)

 

のれんは減損損失の戻入れができない(124項)。IFRSでは、減損となった要因が今後再度発生するとは考えられない異常な性質の特定の外部事象によって発生したものであり、かつ、その事象の影響を覆す状況となった場合には、減損損失の戻入れを強制しているが、のれんについては例外的に禁止している。

 

 

ということで、前回記載した目的、即ち、IFRSの現行規程でも「のれん=人の評価」を前提とするような会計処理を達成するには、のれんが配分された資金生成単位で、毎期規則的な減損が、しかも、M&A時点で関わった人々の在籍数に関連して行えなければならない。これは難問だ。だが、まだ諦めるのは早い。次回はヒントを求めて、回収可能額の計算について突っ込んでみたい。

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