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2013年2月11日 (月曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(26)使用価値の精神

2013/2/11

前回(2/5の記事)では、IFRSの減損会計の手続を概観した。そして今回は回収可能額だ。回収可能額は、公正価値(処分費用控除後)か、使用価値のどちらか大きい方とされている。世間一般では「公正価値」の方が「使用価値」よりずっと有名だ。しかし僕は、公正価値にはあまり興味はない。もっぱら、使用価値に興味がそそられる。使用価値にこそ、会計が経営に役立つヒントがあると思うからだ。今回はそれについて書いてみたい。

 

回収可能額の測定は、IFRSの概念フレームワークの資産の定義に見受けられる「過去の事象を将来要素を考慮して測定」という財務情報の性質のうち、「将来要素を考慮して測定」に当たる。「過去の事象を」というところは昔の取得原価主義と同じだが、ジェンキンス・レポート等以降、「将来要素による測定」が重要となり、取得原価主義に修正が加えられてきた(これらについては、2012/12/23の「非償却派の意見」1/8の統合報告に関する記事などを参照)。したがって、「将来要素による測定」が行われる回収可能額は、ジェンキンス・レポート以降の会計の変化の本質的・根源的な部分といってもよいのではないだろうか。

 

 

(回収可能額)

 

繰返しになるが、前回も記載した通り回収可能額とは、公正価値(処分費用控除後)と使用価値のどちらか大きい方だ(IAS第36号の6項)。これは、公正価値が対象となる資産を第三者へ売却したときに回収できる金額であり、使用価値が事業で使った時に生み出す価値の見積金額なので、企業は、その資産の用途について、売却か、使用か、どちらか高い方を選択するだろうとIASBが想定していることによる(結論の根拠BCZ23項)。仮に、「売却できない事情がある」とか、「使用できない事情がある」といった場合は、公正価値や使用価値は算定できないから、それらはゼロということになり、前者であれば使用価値が、後者であれば公正価値が、回収可能額となる(20項、21項)。

 

 

(公正価値と使用価値)

 

「公正価値」とか「fair value」というと何やら格好がいいが、僕にとっては断然「使用価値」の方が興味をそそる。公正価値は、市場価格のあるものはそれだし、ないものは、類似の市場取引を参考にしたり、評価要素になるべく市場由来のものを使用して、疑似市場価格を算定する。一般的に客観性が高いと言われるが、これは公正価値が単なる計算テクニックに過ぎないことの裏返しでもある。(ちょっと誇張してます。専門家の方、ごめんなさい。)

 

それに比べると使用価値は凄い。特に将来キャッシュ・フローの見積りは、事業の将来を予測するのだから。例えるなら、公正価値の算定が漢字の練習帳のように、点線をなぞれば結果が出るのに対し(これも誇張してます)、使用価値は白紙の半紙に習字を描くような芸術性がある。こちらの方がずっと難易度が高い。但し残念ながら、テレビCMの事業計画のように、「予測することではなく、なりたい姿を描くものだ」というわけではない。そういう意味では「芸術性がある」とは言えるほどの自由さはないかもしれない。

 

(使用価値の意味)

 

いやいや、制約があるところにこそ芸術は生まれる。絵画でも音楽でも、みんな制約がある。使用価値の場合は、墨を使わなければならない、という制約がある。即ち、色付けして薔薇色に描いてはいけないということだ。このことは33項の(a)に次のように記載されている。

 

キャッシュ・フロー予測は、当該資産の残存耐用年数にわたり存在するであろう一連の経済的状況に関する経営者の最善の見積りを反映する、合理的で裏付け可能な仮定を基礎としなければならない。

 

これのどこが墨で、何が薔薇色なのか。みなさんは疑問に思われると思う。だが、概念フレームワークの資産の定義(=財務情報の範囲)の書き振りである「過去の事実を将来要素で測定」のパターンを思い出してほしい。そして、そうなる理由が、財務情報の目的適合性のある実態の忠実な表現とは、企業が目指す将来像(非財務情報)に対して現状はどうかを示すこと、即ち、目標に対する進捗具合を示すことだった(1/8の記事1/10の記事など)。

 

これを踏まえて、もう一度33項の(a)を読んでみると、「一連の経済的状況」とは、すでに発生している、或いは、動き出している事象のことであり、それが経営者の見積り対象であるとご理解いただけると思う。単なるアイディアは(仮にそれに「~計画」や「~予算」という立派な名前がついていたとしても)、将来キャッシュフローの見積り対象にはならない。そのようなものは、楽観的で不確実なものになりやすく、将来キャッシュ・フローの見積りに含めると、期末日時点の状況や目標に対する進捗状況を示せなくなる。

 

 

(管理上の意味)

 

多くの企業で行われている予算管理は、ほとんど損益管理を意味するといってよい。僕のイメージでは、損益管理に、関連する資産項目を絡めた指標を現場で利用している会社は、まだ進んでいる会社だと思う。しかし、損益管理が中心にあると、月単位、年度単位の狭い発想を脱しない。例えば、競合の販売政策がどうだとか、人員の配置がどうだとか、原材料の価格が変動したとか。“コスト・セーブ”とか“節約”はできても、行き詰ってしまう。その結果、達成できないと予算に無理があると考えがちだ。

 

もちろん、こういうことは大事なので、担当者やそれに近いレベルでは頭を悩ませなければならない。しかし、大きな違いを結果に出すには、もっと大きな発想も必要になる。新しい需要を今までにない用途で開発するとか、機能をそぎ落としてよりシンプルな製品やサービスの提供を行うとか提供方法を変えるとか、逆にシナジー効果が高い機能を加えて顧客の効用を高めるとか、原材料の調達方法を根本的に変えるとか。

 

「そんなことは分かってますよ」と多くの方は思われると思うが、もし、分かっているのにできないとすると、その原因はなんだろうか。企業の経営管理は、本当に大きな発想を持たせる仕組みになっているだろうか。損益管理にその仕組みが備わっているだろうか?

 

結果に大きな違いを出すには、それなりに時間がかかるから早い動きだしと長い忍耐が必要だ。果たして損益管理はそれを促すだろうか。月単位や年度単位に意識が集中していては無理だろうと思う。将来像、例えば金額的には、投資額に目標マージンを乗せて、どれだけ将来キャッシュフローを稼がなければならないという長期目標があって、それと現状とのギャップを認識させるような管理手法が必要ではないだろうか。早い段階で、「今のままではこれぐらいしか将来キャッシュフローを稼げない。だからもっと発想を変え、工夫しなければ。」と思わせる仕組みだ。

 

もうお分かりだと思うが、それが使用価値の基礎になる将来キャッシュフローの見積りだ。もし、この将来キャッシュフローの見積りが楽観的であれば、経営的に意味がないとお分かりいただけると思う。経営としては、将来のリスクをいち早く察知し対処したいのに、それを隠すことになるからだ。

 

したがって、使用価値の算定には保守主義が関わらなければならない。企業のリスク管理を働かせなければならない。そうやって算定されたものが、減損会計で利用される。あれっ、以前も似たようなことを書いたような・・・、そうそう、2012/9/4の「脱線4~保守主義の本質はリスク管理?」あたりがそうだ。ご興味が湧いた方は、ご一読されると有難い。

 

それはともかく、損益管理ではない、いやでも長期を意識せざるえない管理手法がもっと一般的になるべきだと思う。一般的には、企業組織の階層を登るほど権限も責任も大きくなって、人も長期志向になるといわれるが、昇進すると自然に長期志向になれるわけではないし、若い人が長期志向で悪いということもない。それより、早くから長期志向に慣れていくことが重要だと思う。それにはIFRSがちょうど良い道具になる。ということで、次回はもう少し具体的に規定を見ていこう。ん? それはまだ先かな。もう1回ぐらい足踏みさせていただくかもしれない。

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