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2013年2月

2013年2月28日 (木曜日)

220.のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(32)資産売却額の見積り

2013/2/28

3回連続で割引率をテーマにしたが、少々細かいところに深入りしすぎたかもしれない。しかし、今回もう一度細かいところに立ち入りたい。それは将来キャッシュフローを見込むときの資産(資金生成単位)の売却額(最終処分価額)の算定だ。ここで僕が強調したいのは、視点を変えることの重要性だ。普通、社内部門(資金生成単位)を売却するなんて考えもしないが、敢えてそれを想定することで、色々経営に役立つことに気づくことが多いのではないかと思う。

 

 

将来キャッシュフローを見込むには、「最長5年間の見積り+その期間経過後の対象資産の処分価額の見積り」を計算して割引率で現在価値評価する(2/15の記事)。「最長5年間の見積り」については、中長期経営計画等の策定対象期間内で、“過去”の範囲に注意しながら(=改善案を排除し)、現状の延長線上になるように調整し見積る。しかし、最終処分価額の見積りはどのようにやれば良いか。以下の方法が考えられる。

 

 ① そういう市場があればその市場価格を参照する。(・・・普通は市場がない。)

 ② 処分を想定した時点以降の将来キャッシュフローを見積って割引く。

 ③ 競合先等が買うなら、いくら出すかを推定してみる。

 ④ 同様の部門(物も人も仕組みも顧客も)をゼロから起ち上げるコストを見積る。

 

「机上の空論だ!」と思われるかもしれない。特に③と④は。しかし、そこが面白いところだ。①は可能性が低いし、②は成長率さえ決まれば計算できてしまうので面白くない(くどいが、事業のライフ・サイクルを意識しないと適切な成長率は決められない。ご注意願いたい)。②なら、経理部門や企画部門でも可能なので決算作業の一部になってしまう可能性があるが、③や④は現場を巻き込むと面白い(事業部門に役立つから)。

 

ただ、③や④は、定性的な議論はできても“合理的な見積り”までやろうとすると難易度が上がる。③は競合先等の事情を詳細に知らないとできないし、④は例えば顧客の獲得・維持の歴史を簡単に金額にできない(社外顧客が関係する部門の場合)。結局実務的には、②をベースにしつつも、③や④の検討・分析の結果を加減算していくことになると思う。

 

 

さて、③や④を検討すると何が分かるか。

 

③は競合先の強みや弱みを分析・理解しようとすることだし、引いては自社の強み・弱みを把握することにつながる。“(競合先等が)この部門をいくらで買うか”という視点を変えた具体的な問い掛けは、“自社の強み・弱みの把握”という抽象的な問題設定より、より客観的で具体的な分析情報を提供してくれると思う。

 

監査でも、クライアントの経営層、事業管理者層に“自社の強み・弱み”を質問することがあるが、その自社側からの視点に依存した主観的な答えが返ってくることが多かった。しかし、競合先等の立場で見てみると、自社部門をより客観的に見ることが可能となり、ありがちな思い込みを避けられるのではないか。また、競合先等の経営戦略や戦力に興味を持つ機会になるかもしれない。

 

④も、思わぬ発見をもたらしてくれることがある。現状を再構築することは意外に難しいと、隠れた価値に気が付くことができたり、逆に、今やるなら全く別の簡単な方法があるなどと、大胆な発想へ誘導してくれるかもしれない。

 

要するに、③と④をやると「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という状況に近付くことができる。経営上は、当たり前のことだが、それだけに忘れがちだ。③や④は、それを思い出させ実践させる機会として打って付けではないだろうか。減損の兆候がある場合にだけやるなんてもったいない気もする。

2013年2月26日 (火曜日)

219.のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(31)客観的に検証できる割引率

2013/2/26

このシリーズの前回(2/21の割引率は、実務で想像がつかないとか、現実的でない、といったご批判があると思う。ん~、そうかもしれない。ここはもっと具体的なアイディアを提示することが必要だ。そこで、ここまでは、IAS第36号の本体規程を読んできたが、今回は付属文書の「結論の記載」も読んでみよう。

 

 

(復習と問題提起)

 

前回(2/21)の記事では、投資の意思決定時に使用される割引率は、経営者が感じる我慢と不安を上回る成果が期待できる投資案を選別するもの(=一定レベルを超えるかどうかを判定するものであり、投資案を順位付けするものではない)であり、割引率の高さは、経営者が求める投資案の革新性の高さと関連すると記載した。革新性を求める企業姿勢は、投資家の重要な判断材料として株価に反映される。投資家が要求する利回りは、この逆の経路で経営に利用される割引率に反映されていく(と考えたいが、現実には株価がそこまでのプレッシャーになっていないかもしれないし、割引率は経営的に重要と認識されていないし活用されていない)。

 

また、割引率は資産(投資案)に固有のものなので一律でないことや、投資のシュミレーション(投資計画)は、その後の実績によってフォローされるべきものとも書いた。しかし、そもそも、固有のリスクを反映させるため、投資案にどれぐらいの高さの割引率を適用したらよいか分からないし、フォローするといっても、割引率は固定で良いか、それともその後の状況の変化に応じて変えるべきものかも分からない。このままでは実務にしようがない。

 

 

(IAS第36号の結論の根拠)

 

上記の問題提起に関連しそうなところを抜き出すと・・・。(BCZ253BCZ255

 

  • 割引率はヒストリカル・レートではなく、現在の状況を反映するカレント・レート(実勢レート)。

 

  • 論理的に、使用価値算定のための割引率は、企業自身の評価を基礎とすべき。しかし、客観的に検証できないため、できる限り「市場のリスク・フリー・レート+市場が要求するリスク・プレミアム」を反映すべき。

 

  • しかし、資産ごとの市場レートが殆ど存在しないので、できる限りリスク・プロファイルが類似する資産の市場割引率を出発点に調整する。

 

 

「カレント・レート」と「リスク・プロファイル」。どうやら、この辺りが肝になりそうだ。

 

前者は、リスク管理の観点からは当然の発想だが、割引率にとどまらず、将来キャッシュフローについても現状を反映させる見直しが必要なので、手間がかかる。こういうものは、決算のためだけにやろうとしても、とてもできるものではない。今まで何度か書いているように、事業計画策定や予算管理の中に組込んでいく必要がある。

 

しかし、すべての資金生成単位で使用価値の見積りを毎年見直す必要はない。目的は事業のリスク、経営上のリスクを把握し対応するためだから、順調に経過している事業は任意の扱いでも良いと思う。これを強制するか否かは、減損会計でいえば“減損の兆候”の有無をチェックすることに相当する。IAS第36号では“減損の兆候”に関する規定が7項~17項にあるが、これは例示であって、本来は企業自らが、事業のライフ・サイクルも踏まえた長期的な観点で自ら具体的なラインを設けるべきだと思う。もし、これが経営管理のプロセスに組込まれていれば、「減損会計の規程に当たらないから経営上考慮すべきリスクはない」などと考える企業はないだろう。むしろ、減損会計の規程は最低線であり、それに当たる前に改善策を実施すべく、より厳しいラインを設定するのではないか。

 

例えば、投資意思決定時に10%のリスク・プレミアムを割引率に見込んでいたのであれば、10%のキャッシュフローの減少は、計算上、想定内ということになるかもしれない。そういう判断が有効な状況もあると思うが、みなさんも、このような形式的な判断には感心しないのではないか。経営的に重要なのは、直近のそのような状況が将来にわたってどのように影響するかを検討することだ。状況によって、対応策を考案する必要がでてくる。このようなステップを踏んで、使用価値を最新の状況に更新する。即ち、割引率や将来キャッシュフローの見直しを行う。

 

 

その際に検討されるのが、後者の「リスク・プロファイル」だ。普通にプロファイルといえば、例えば人物紹介のようなものを連想するが、「リスク・プロファイル」も、その事業や資金生成単位のリスクを拾い出して、事業継続の観点から整理したものという意味だと思う。経営的には、より積極的に「利益を逃すリスク」もプロファイルへ含める場合があると思うが、減損会計としてはそこまで考慮しない。

 

もし、将来の不確実性が増し、不安が大きくなっているようなら、その内容によって、割引率を高く引き上げる必要がある。不安の内容としては、販売市場によるもの、生産技術上の問題、原材料の調達の問題、人的な問題、新たな規制など色々あると思うが、一時的なものか、永続的なものか、対応は容易か、などが、評価分析されると思う。それが「リスク・プロファイル」になる。

 

しかし、僕のイメージでは、「改善策のリスク・プロファイル」がより重要ではないかと思う。改善策があるのか、ないのか。あるとすれば、それは容易に実現できるのか、それとも研究開発を伴うのか。自らの努力のみで成果に結び付くのか、それとも顧客や仕入先などの外部の反応に依存するのか等々。そして、減損会計では、改善策がすでに着手され期待通りの成果が上がっているとすれば、将来キャッシュフローに見込むことができるし、不安も大きくなっていないので、割引率のリスク・プレミアムを引上げる必要はなくなる。一方、改善策がないとか、あるが、その実現可能性が低そうだということであれば、不安なので割引率を引上げることになるだろうと思う。

 

このような割引率の調整方法は、投資案のシュミレーションに使用される割引率にも応用できる。ただ、投資の意思決定時は新規性のあった案件でも、事業化されその経験を積めば、将来への不安が低くなる可能性がある。したがって、事業開始後は割引率を低下させるケースもあると思う。

 

 

さて、みなさんはお気づきかもしれないが、僕は一つ大きなポイントを避けている。それは、「市場割引率を出発点に調整する」件だ。上記の「リスク・プロファイル」のような細かいところまで類似する上場会社、市場割引率を探すのは困難だ。探すなら、事業のライフ・サイクルの段階が同じぐらいとか、為替、原材料単価の変動、販売市場の変化のスピードなど、大きな不安要因の類似性に注目することになると思う。

 

だが、経営としては、自らの目標収益率、或いは、将来キャッシュフローの成長率も重要なので、そういうものも考慮してみてはどうか、と思う。IAS第36号にはそう書いてないが、僕はこれが一番合理的な気がする。単に上場会社のデータなら客観的で検証しやすいというのも、対象会社の選択に恣意性が入る余地があるので、どうだろうか。IFRSにしては、若干短絡的な気がしないではない。

2013年2月24日 (日曜日)

(218) TPP、自民党、そして会計基準諮問フォーラム(Accounting Standards Advisory Forum:ASAF)

2013/02/24

どうやら、今回の安倍首相の訪米で、日本もTPP交渉参加へ向けた動きとなりそうだ。23日の日経電子版は次のように伝えている。

 

日米首脳会談で環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加について、すべての関税撤廃を前提にしないと確認したことを受け、与党は今後の対応を首相に一任する方向で調整に入る。

 

僕にとっては、総選挙の自民党のこれほどの大勝は全くの予想外だったが、東日本大震災の時にさえ円高に動いた為替が円安になったり、株高になって繁華街が明るくなったなどという報道を聞くと、アベノミクスが不況から脱する“期待”を高めることに成功したことは明らかだ。公共事業予算の使い方に不安はあるものの、第3の矢である成長戦略に直結する規制緩和、その試金石であるTPPの行方には大きな期待と関心を抱いていた。みなさんも同様と思う。

 

だが、これでTPP参加が決まったわけではなさそうだ。自民党はTPP参加に反対して選挙を戦ったのだから、党内に多くの反対者がいる。もし、すんなりまとまるとすれば、嬉しい誤算だ。

 

僕は、これから暫く、自民党の動きに興味津々だ。というのは、ここに自民党が下野していた3年間に学んだことが現われてくると思うからだ。相変わらず個別の利害関係に裾を取られて、変化を拒もうと執行部の足を引っ張る人がたくさん現れるのか。それとも、本当に今の日本の置かれた危機的状況を大局から理解して、変化することで痛む利害関係者を説得する方へ向かうのか。そして説得するとすればその引き換えにまた予算を上積みしてばら蒔くのか、それとも新しい成長の機会があるからガンバレ、と励まし導くのか。

 

いずれにしても、参加しなければ変化に取り残される。参加しなければ現状を維持できると思ったら大間違い。また違った変化が良からぬ方向へ向かって起こるだろう。しかし、参加すればルール作成に加わることができる。ルールをより有利にできる可能性があるだけでなく、そこには多くの有益な情報があり、主体的に変化を先取りしやすくなるに違いない。

 

ところで、先のG20では、アベノミクスが通貨切下げ戦争の引き金を引くと非難されるかどうかが注目された。しかし、ご存じの方も多いと思うが、実はIFRSに関してもコメントされている(IASBとFASBの、特に金融商品会計基準に関するコンバージェンス・プロジェクトの遅れを懸念するもの)。世界は、オックスフォード・レポートの批判などモノともせず、相変わらず、「高品質な単一の基準の達成」をIASBとFASBに求めている。

 

一方、IASBとFASBの両審議会は、IFRSとUS-GAAPの全面的なコンバージェンスは諦めたようだ。ご存じの方も多いと思うが、IFRS財団が「会計基準諮問フォーラム(ASAF)」の創設を提案し(JICPAのHP)、現在、そのメンバーの推薦を受付けている(PWCのHP)。

 

このフォーラムは、従来のIASBとFASBが基準開発をリードする体制から、多数国が参加する体制への移行を目的としているという(IASBメンバー鶯地氏の会計・監査ジャーナル3月号の記事)。このフォーラムへ参加できるのは、ASBJ(財務会計基準機構)のような会計規準セッターや財務報告に関心を有する地域団体だが、席は12しかない(アジア・オセアニア席は3)。日本のASBJがこれに入れるかどうかは分からない。多くのアジア・オセアニアの国がIFRSをアドプションしているのに、日本はようやく十数社が任意適用の状況だから、ドキドキさせられる。最初の会議は4月に予定されているそうだから、早々にメンバーが決まるだろう。

 

さて、IFRS導入にブレーキを掛けた国民新党自見氏は、自民党に復党したい意向のようだが、果たしてどうなるか。そしてTPPはすんなり参加へ進むのか。さらにIFRS導入の動きはリスタートできるのか。一体、日本はこのフォーラムに入れるのか。単なる興味に過ぎないものから、ハラハラ・ドキドキのものまで色々あるが、暫く、目が離せない。

 

ちなみに、IFRSとUS-GAAPが全面的なコンバージェンスをしないとすれば、日本はUS-GAAPについた方が良いかも、と考える人はいらっしゃるだろうか。FASBは米国の会計基準セッターだから、そこに日本が口を出すわけにはいかないが、IASBに対しては、もちろん日本の姿勢次第だ。また、訴訟社会である米国の細かい規程は、意外と日本人好みかもしれないが、今の日本がなすべき方向には合わないと思う。僕には、無駄が多いように感じられる。

2013年2月21日 (木曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(30)投資者の要求する割引率

2013/2/21

前回(2/19の記事)は、「割引率は“我慢”と“不安”で構成される」と書いたが、ご納得いただけただろうか。“我慢”だけで割引く場合はリスク・フリーの割引率、“不安”も込めればリスク・プレミアム込の割引率となる。読んでる方の反応が分からないので不安だが、今回は、その割引率がIAS第36号「資産の減損」でどのように扱われているか、というテーマだ。55項には次のような規定がある。

 

割引率は、次のものに関する現在の市場評価を反映した税前の利率でなければならない。

 (a) 貨幣の時間価値

 (b) 当該資産に固有のリスクのうち、それについて将来キャッシュ・フローの見積りを調整していないもの

 

(a)は、そのキャッシュフローが実現する将来まで“我慢”する分で、(b)が、予想したキャッシュフローが実現できるかどうかの“不安”に相当する分の割引のことだが、この規定は、それ以外に次のことも言っている。

 

 ① 市場評価の反映

 ② 税前の利率

 ③ 当該資産固有のリスク

 ④ 見積りを調整していない

 

これらについて、みていこう。

 

 市場評価の反映、③ 当該資産固有のリスク

 

「市場評価」というと、ぱっとイメージできるのは(a)の方だが、この規程は(b)を含めて言っている。そんな割引率が市場にあるのか?

 

(a)は国債など、最も信用力の高い債券の利率と言われており、償還までの期間の長さによって利率が異なるので、見積り期間に対応した債券の利率が使われる。一般に、債券の利率には、時間的価値と発行体の信用力が含まれるとされるが、信用力が高い債券の場合は、発行体の信用力部分が少ないので、ほぼ時間的価値のみで構成されると考えられている。そのため、信用力の高い債券の利率が(a)に当たるとされる。

 

ただ実際には国債にも信用力の部分があるのは、ギリシャやスペイン、イタリアの例を見ても明らかだ。確かに、5年間ギリシャで生活するのは、同じ期間日本で生活するより我慢が必要かもしれないが、これらの国々の国債利子率には、明らかに「貨幣の時間価値」以外の要素が入っている。僕は実際のところを知らないが、恐らくこういう国々では、自国の国債の利率は使われていないのかもしれない。

 

債券の市場利子率には、発行市場における新発債の利率と、流通市場における既発債の利率の2種類があると言われるが、両者にどういう差があるのか、僕には分からない。ただ、発行期間とか償還までの期間には注意が必要だ。また、日本でも元本がインフレ率に連動するような物価連動国債の発行も検討されているようだし、変動利率、固定利率、割引債などといった商品内容にも注意が必要だ。この場合に適しているのは、シンプルな固定利率で一括償還条件のもののなかで、残存期間が将来キャッシュフローの見積り期間と近いものになる。これらは統計データが公表されているので、あまり問題はない。

 

一方で、(a)(b)を加えた割引率については、(b)の部分があるので、適切な市場を見つけるのが一般には困難だと思う。IFRSは原則主義なのでこのような書き方をしているが、実務では臨機応変に対応していくしかない。例えば、賃貸物件などの将来キャッシュフローを比較的確実に見積りやすい物件の利回り統計などがもしあれば、それと対象資産(資金生成単位)に係る見積もりの不確実性を比較しながら、割引率を見積る方法が考えられる。だがこの方法も、不確実性の違いによる割引率の調整をどのように行えばよいかが難しい。

 

そこでもう少し読み進むと、次の56項に、「対象資産(資金生成単位)の事業と同種の事業(=潜在用役およびリスクの類似する事業)を所有する上場会社の資本の加重平均コスト」が“例示”されている。これも原則主義の書き振りなので、なにがなんでもそういう上場企業をがんばって探して・・・などという必要はないと、僕は思う。それより、56項の記述で気になる、重要だ、と思うのは、「投資者が要求する利回り」という表現だ。

 

例えば、「GoogleAppleAmazonなどからして、IT関係ならこれぐらいの収益率(=利回り)を投資家が要求している」などと読み取ったとしたら、厳しいことになる。IT系の投資は軒並み却下されてしまうかもしれない。(当然ながら、“利回り”なので、利益相当分が含まれる分だけ、割引率が大きくなり、現在価値は小さくなる。)

 

実際に、M&Aやその他の投資の意思決定をする際には、選択肢から最上のものを判断するのであって、GoogleAppleの収益性が経営者の基準になるとは限らないし、そうしないと間違いだとも言えない。それを踏まえてこの文言を理解する必要がある。

 

通常、大きな利益を生むのは、野心的で、革新的で、将来の大きなイノベーションを見込んだ計画だ。だが、それは野心的で、革新的で、大きなイノベーションを期待する分、実現に不安がある。投資者としては、そういう大きな不安を抱えながら、長い時を我慢して過ごさなければならない。だから、それを打消せるような期待、楽しみ、即ち、利益を要求する。それを「投資者の要求する利回り」と言っているのだと思う。したがって、「IT関係だから・・・」などという大雑把な括りではなく、個別案件ごとに異なると思った方が良い。55項で「当該資産に固有のリスク」と表現しているのは、これを踏まえてのことと思う。

 

随分前のことになるが、利益率が低いのに過剰にキャッシュを溜めこんでいる会社に対し、外国人株主が「配当にして株主へ金を返せ」と強硬に要求したことが話題になった。当時は、なんて横暴な要求なんだ、と思ったが、このように考えてみるとその正当性が理解できる。株式会社制度で、折角、所有と経営の分離をして経営をプロに任せたのに、経営者が高い利益率を求めてチャレンジしないなら、株主が自分でチャレンジした方がマシ、世の中のためになる、だから金を株主に返せ、という意味があったのだろう。即ち、経営者に対して不適格の烙印を押したに等しい。強硬になるわけだ。

 

おかげで、いまでは株主総会で要求される前に、増配したり、自社株買いが行われるようになったが、本来は、チャレンジして新しいイノベーションを起こして事業を拡大することが経営者に求められている。もはや、強硬な外国人株主の話題はなくなって久しいが、その代り最近は、「大企業が内部留保を溜めこんで不景気になっている」と別の角度から批判されている。両者は全く違う批判のようだが、実は根は同じ。どちらも、企業が、経営者が、チャレンジしていない、イノベーションを起こしていないと責められているのだと思う。

 

ところで、みなさんの会社で、投資の採算シュミレーションを行う際に、資本コスト(=割引率)は、どのようなものが使われているだろうか。「良く分からないけど10%」とか、「随分前から同じ率を使ってる」という状況であれば、じっくり見直した方が良い。本来そこには、経営者が、我慢や不安を乗り越えられるだけの期待、楽しみ、利益が反映されていなければならない。それがチャレンジ精神の基礎になる。

 

また、「どんな案件でも同じ率」で、「現在価値の大きさで投資案件の良否を決定している」状況であれば、これも見直した方が良いと思う。資本コスト(=割引率)には、個々の投資案件の革新性の高さを反映させなければならないから、「革新性が高いから、成功すれば利益が大きい」案件の場合、割引率が大きくなる分、現在価値は大きくならない。したがって、現在価値の大きさでは適切な投資判断はできない。DCFなどによる試算は、その投資案件が、経営者が要求する一定のレベルを超えるかどうかを判定するだけのものであり、その一定レベルを超えた投資案件なかでの良否は、それとは別に、投資案件の中身で判断されるものだと思う。

 

話は逸れたが、このように、実は経営上使用される資本コスト(=割引率)には、経営上の重要な意味、役割があると思う。そして、このような意味での期待、楽しみ、利益を尊び、したがってそれに注目する企業文化、そして“会計文化”の中で、「投資者の要求する利回り」は理解される必要があると思う。決して、形式的なものではない。

 

 税前の利率

 

投資家は、税引後の利益から配当を受けるのだし、税引後利益が純資産になって企業価値につながるのだから、「投資者の要求する利回り」は、税引後の割引率を設定すべきでないかと思われるかもしれない。

 

しかし、これは単なる計算技術の問題で、あまり深い意味はないと思う。将来キャッシュフローの見積りに、税金の支払い(キャッシュ・アウト・フロー)を含めるのであれば、その考え方で良いが、税金の支払いを含めないので(その方が楽。というか、できないかも。)、その分割引率も大きくしておく必要がある。即ち、税引前の割引率が適用される。

 

 見積りを調整していない

 

見積り(=将来キャッシュフローの見積り)に、リスクを考慮しているなら、そのリスクは割引率で考慮する必要はない。逆に、見積りに考慮されていないリスクは、割引率で考慮する必要がある。重要なのは、リスクを漏らさないことだ。そして、上記の期待、楽しみ、利益を尊び、注目する企業であれば、計画に対する実績を一貫してフォローし、分析するはずだ。そうすると、どのリスクを将来キャッシュフローで見積り、割引率には何を含めるか、という問題は、その企業で日常的に行われる管理方法と整合してくると思う。

 

 

さて、日経電子版の経営者コラム(有料会員限定)では、日本のインターネット事業の草分けであるインターネットイニシアティブ(IIJ)創業者の鈴木幸一氏が2/19に、「過去の延長線上には、未来はない」と大胆なイノベーションの必要性を強調し、翌日2/20は伊藤忠商事の前会長で、前中国大使の丹羽宇一郎氏が、「50年先は無理としても、せめて10年、20年先の日本のあるべき姿、イメージを持ち、じっくりと議論する必要がある」と、長期的思考の必要性を説いた。もし、企業内でこのような検討をするなら(というか、大きな投資案件とはこういうものだと思う)、まじめに割引率に向き合う必要がありそうだ。

2013年2月19日 (火曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(29)直感的な割引率

2013/2/19

みなさんは、事業投資の承認を得るためのプレゼンテーションや、ベンチャー企業経営者による投資や支援を得るためのプレゼンテーションをご覧になられたことがあるだろうか。僕はある。もちろん、玉石混交なわけだが、思いもよらぬ事実と分析、そして発想を提示され、ぐぐっと心を動かされることがある。僕は投資を承認する立場になったことはないし、もちろん、資力がないので投資したこともない。しかし、もしできるとしたら、いくら出せるか大いに悩むに違いない。しかし、企業経営者、特に自分で起業し成功した人は、かなり直感的にイメージが湧くようだ。いくらかかるか、問題点は何か、自分が支援できることは何か。もちろん、分野によって得手・不得手もあるし、複数の経営者の見立てが一致するとは限らないが、判断が早い。

 

さて、今回は、使用価値を算定する「割引率」をテーマにしたいと思う。2/15の記事では「成長率」についても記載したが、成長率と割引率は裏腹の関係にある。例えば、高い成長率を見込んで将来キャッシュフローの見積りを大きくしても、その実現可能性を低く見積り(=リスク・プレミアムを高く見積り)、割引率を高く設定すれば、現在価値に割引くと大差ないことになってしまう。成長率は事業の成長性やライフ・サイクルを表象するものとしてイメージしやすいのだが、その裏腹の割引率とはなんだろうか?

 

「割引率」といえば経済学のものだと思うが、会計でも管理会計分野には昔から「割引率」があった。DCF法(Discounted Cash Flow)などの投資の経済性計算に利用されていた。それが財務会計の分野に入ってきたのは会計ビックバンのとき、即ち、将来要素を資産や負債の測定・評価に利用し始めた時だ。

 

割引率の説明としてよく用いられるのが、次のような説明だ。

 

100円を今もらうのと、1年後にもらうのでは、今の100円の方が価値があるでしょう。もし1年後の105円が今の100円と釣り合うとすれば、現在価値への割引率は5%になります。

 

正直言って、ピンとこない。1年後の約束なんて信じられるだろうか。忘れられないか? 嘘じゃないか? 相手は1年後まで生きてるか? (余談だが、もらう側の僕が忘れるリスクもある。特に最近は。) 直感的には150円ぐらいに増えないと釣り合わない気がする。だが、あまり良い話だと逆に疑いたくなる。すると、現在と将来の比較は成り立たず、常に現在が選択される。これでは割引率なんてなくなってしまう。しかし、それが庶民感覚というものではないだろうか。

 

こういうピンとこないものが、我々の直感力を鈍らせる。直感力が効かないものは、正直言って敬遠したい。もっと良い理解の仕方はないだろうか?

 

 

そこで僕が考えるのは、ちょっと毛色の違う説明だ。すでに割引率を理解している、という方も、頭を真っ新にしてお読みいただきたい。それは3つの会社があって、それぞれ次のような労働条件だとする。就職先として、どの会社を選ぶか、という問題だ。今と違って売手市場ということで、お考えいただきたい。

 

・がんばってもがんばらなくても、この先2年間100円給料がもらえるA

・成果を上げられると1年後に105円に上がるB

・より高い成果を求められるが、同様に110円に給料が上がるC

 

たくさんもらおうと思えばC社を選ぶが、がんばっても成果を出せなければ据え置きで、がんばり損だ。がんばらなかったら、賃下げもあるだろう。それが嫌ならB社ぐらいが適当かも知れない。A社は、モチベーションを維持するのに辛いかもしれないが、楽は楽だ。また、デフレの今ならA社でもよいと考える人もいるだろうし、これからインフレになるかもしれないからA社はないと思う人もいるだろう。

 

さて、どの会社に入るか。以下の要素が判断のエッセンスになると思う。

 

 ① 物価上昇率

 ② モチベーションを維持できる最低の賃上率

 ③ 払う努力の大きさと成果を出せる見込みが釣合う賃上率

 

そして僕が考える割引率とは・・・

 

 ①+②  = リスク・フリーの割引率

 ①+②+③= リスク・プレミアム込の割引率

(売手市場なので、給料をもらえるならどこでもよい、という選択は想定していない。)

 

なんじゃ、こりゃ。余計分からなくなった、と思われた方にはごめんなさい。割引率は時間的価値の減価を表すものなのに、時間的な要素がはっきりしないじゃないか、というご批判もあるだろうと思う。ただ、僕の割引率に対するイメージは、会社勤めのモチベーションを維持“継続する”ことに対する犠牲、即ち、我慢とか忍耐だ。その“継続する”というところに、時間の要素を込めている。

 

上記の、100円、105円という話も、1年間我慢を続ければ5円の対価が得られますよ、ということのように僕には思える。だから、1年先より5年先の方が我慢の期間が長いので、報酬が大きくなければ釣り合わない。その結果、割引の程度も大きくなる。

 

また、払う努力の大きさは自分でコントロールできるものの、成果は先に行けばいくほど予測が難しくなる。そのために、リスク・プレミアムも、期間が長くなればなるほど大きく作用し、割引の程度が厳しくなる。リスク・プレミアムとは、将来の不確実性を表している。自分の成果を出すことに自信があれば低くてよいが、不安がどれくらいあるかに目を向けなくては、適切な会社を選択できない。

 

 

ということで、僕の考える割引率とは、継続することへの我慢と、成果を出すことへの不安で構成される。(それに物価上昇率が加味されている。) 単に仕事を継続するだけなら低い割引率で良いが、成果を出すことへの不安を加味すると高い割引率になる。上記の問題でいえば、その高いレベルの不安を克服する自信があれば、C社が選択される。

 

「リスク・フリーの割引率は、国債の・・・」などという説明を期待されていた方には申し訳ない。しかし、その説明だと僕には直感力が働かない。分かり難い。それに冒頭の経営者たちも、きっとそんなことは考えてないだろう(失礼!)と思って、代わりの説明を試みた。それが成功したか不安なので、みなさんが我慢が続いているうちに今回は終える。IFRSの関連規程については次回に。

2013年2月16日 (土曜日)

【番外編】政府事業の効率

2012/2/16

先月、東日本大震災の復興予算の積み増しが報道された。1/22の日経新聞電子版(有料会員限定の記事)には、次のような記載がある。

 

政府は2013年度予算案で、東日本大震災からの復興予算枠を3兆円上積みする。民主党政権がつくった「11年度から5年間で19兆円」という予算枠を使い切り、13年度分だけで道路や港湾の補修を軸に4.5兆円を投じる。

 

そうか、5年分の予算を前倒してもう使い切るところまで来てるのか(多分発注ベース)。じゃあ、復興まではいかないまでも、復旧はかなり進んでいるのかな? しかし、未だにテレビのニュースには避難所や仮設住宅が映し出されるし、そこで生活している方々の精神面の問題が話題になったりする。どういうことだろうか?

 

そこで、復興庁のホームページの資料「所在都道府県別の避難者等の数(平成25年2月7日現在)」を見てみると、避難所にいるのは139人だが、住宅等(公営、仮設、民間、病院含む)に30万人、その他(親族、知人宅等)に1万5千人、合計31万5千人が仮住まい状態であるようだ。ただ、恐らくこれには原発事故の避難者も含まれていると思うが、それが何人なのかは分からない。

 

そこでちょっと古いが、同じく復興庁のホームページ(上記とは別のページ)の資料「東日本大震災からの復興の状況に関する報告(概要)」を見てみると、昨年9月末時点で、仮設住宅等の入居者は約32万7千人、福島県全体の避難者数は約16万人(うち避難指示区域等からの避難者数は約11万人)とされている。約半数が原発事故避難者だ(多分、仮設住宅等の入居者32万7千人に原発事故避難者も含まれていると思う)。

 

あれっ、避難者数が9月末から今月の数字までほとんど減ってない!!

19兆円が発注だけでなく、完全に消化されると本当に避難者がいなくなるのだろうか? そもそも、最初の避難者はどれぐらいだったのか?

 

ということで、また復興庁のホームページ(上記2つとは別のページ)の資料「東日本大震災からの復興状況 (平成24年12月版)[平成24年12月28日]」を見ると、目次の次のページに発災3日目の避難者等の数は約47万人とされている。それが、今月の数字では31万5千人に減ったということか。

 

いやまて、避難者の家屋が損壊したら、それは自分で建て直すのだろう。19兆円は主にインフラ整備や産業振興に使われているってことか。そういえば、このブログの2011/7/22の記事では、(原発関連を除く)社会インフラ損害額の内閣府の推計が16.9兆円となっている(当時ネットで検索して入手した情報)。19兆円はそれに産業振興を加えた分と考えると、なんとなくそんなものか、という気がする。

 

すると避難者等がゼロになるためには、避難者が住居費等も含めて自分で稼げるようになる必要がある。最近の避難者の減り方が少ないのは、稼ぎが十分でない人がたくさんいるということではないのか。しかも、高齢者の比率が高そうだ。たとえ、アベノミクスで景気が良くなったとしても、いったん生活の基盤を失った人々には、まだまだ大変な困難がありそうだ。

 

そこで、ちょっと簡単な思考実験をしてみよう。仮に、19兆円を47万人に均等に配ると、一人当たり4千万円ちょっとになる。凄い大金だ。4人家族なら1億6千万円だ。やはり19兆円というのは凄い。さて、それだけあったら、みなさんならどうしますか?

 

故郷を捨てて新しい土地に生活基盤を築くこともできる。原発事故の避難者は、そういう選択をするかもしれない。或いは、社会インフラに問題があっても故郷に残って、今までの生活を復活させる選択肢もありえるだろう。水は不自由するが、エネルギーは太陽光、風力、燃料電池、灯油とプロパンガスで何とかなるかもしれない。高台移転などと言われなくとも、多くの人々は安全な土地に住まいを構えるに違いない。地域のつながりを大事にしたければ、みんなで相談すればよい。どうしても社会インフラが欲しければ、それもみんなで相談すればよい。すると、意外とそれなりの復興ができるかもしれない。経済もまわる。仮設住宅からもどんどん退去していける。復興庁もいらない。

 

今回、3兆円増額をするわけだが、そうすると均等割り額が一人当たり4千7百万円ほどになる。増々大金だ。単純にお金を配った場合より良い結果が出るよう、有効活用してほしい。

2013年2月15日 (金曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(28)長期志向の使用価値

2013/2/15

東アジアは、何とも複雑な情勢になってきた。日本は中国・韓国・ロシアから領土を巡って挑発され、北朝鮮はミサイルに核実験。アメリカは心強いことを言ってくれるが、イランなど中東問題に比べれば距離を置いた感じだし、ヨーロッパはそもそも関心が薄い。イタリアやスペインなど欧州債務問題とアルジェリアやマリなどお膝元の火消しで精一杯だ。

 

そんな中、安倍首相は、昨年末の衆議院選挙期間中から日中関係は大局的にとか、長期的観点でとか、東アジアの地図を引いて眺めてなどと言っていた。そうすれば解決策が見えてくると。そして、首相に就任するとアセアン諸国へ訪問し中国を牽制する一方で、公明党の山口代表経由で習近平氏へ親書を渡した。そして、火器管制レーダー照射事件については公表の上強く抗議したものの、マスコミが「これで日中首脳会談は遠退いた」と書く中で、対話を閉ざさないと言い添えた。しかし、北朝鮮が核実験を行うと、敵基地攻撃能力装備の可能性に言及するとともに、アメリカとの連携を印象付けるようオバマ大統領と電話協議を行った。中国にはプレッシャーだろう。日本が本気で攻撃能力を増強するのをアメリカが容認する姿がチラついたかもしれない。しかしその一方で、近日中に日中対話への動きを具体的に示すのではないか。

 

次々と東アジア情勢の混迷が深まるなか、色々な事件への対応を迫られながらも、なにか一貫した姿勢を安倍首相には感じるのだが、みなさんはいかがだろうか。

 

僕は、その一貫性は、「大局的」とか「長期的観点」とか「地図を引いて眺めて」というのと関係しているような気がする。言葉だけでなく、本当にそういう観点でのあるべき姿が安倍首相には見えており、それを横目で見ながら個別問題へ対処しているような感じがする。あるべき姿は、たまたま到達するものではなく、到達しようとする強い意志(とそれを体現する具体的な行動)によって実現するものだ、という信念というべきか。

 

 

ん、使用価値の算定と何の関係が? とみなさん思われたと思う。これ以上書いてると呆れられそうなので本題に入ることにしよう。今回は、使用価値がどのような要素と手順によって算定されるかをIAS第36号の規程から見てみようという趣旨だ。

 

(使用価値見積りの将来要素)

 

資産は、期末日の状況(過去の事象)について、将来志向的要素で評価される。それに密接に関連する使用価値の“将来要素”とは、以下のものだ。(30項)

 

・その資産の使用から期待する将来キャッシュフローの見積り

・将来キャッシュフローの金額、時期への期待について、起こりえる変動

・貨幣の時間価値

・リスク・プレミアム

・その他、一般的に想定しうる要因(処分する際に買い手が見つかり難くすぐには売れない、など)。

 

手順は次の通り。(31項)

 

・その資産の継続使用と最終処分の関する将来キャッシュフローを見積る

・将来キャッシュフローに割引率を適用して現在価値に割引く。

 

ちなみに、リスク・プレミアムやその他の要因は、将来キャッシュフローに見込んでもよいし、割引率に含めてもよい(状況によってどちらが合うかを判断して使用する)。(32項)

 

 

これを読んで、少々がっかりした方もいらっしゃると思う。重要なのはどうやって将来キャッシュフローを見積るかであって、こんな形式的なことではないと。もちろん、それについての規程もある。だが、ご期待に沿えるものかどうかは、みなさんがそれぞれでご判断戴きたい。それでは、次は将来キャッシュフローの見積り方を見てみよう(33項~)。

 

(将来キャッシュフロー)

 

といっても、具体的な見積り方法がIFRSに規定されているわけではない(但し、計算例が付録についているので一応参考にはなる)。むしろ、適切な見積りであれば、こういう状況になっているはずですよ、という条件というか、属性というか、性質といったものが記載されていると思った方が良い。だが、強いて「見積り方法」挙げればこれだろうか。

 

一連の経済的状況に関する経営者の最善の見積りを反映する、合理的で裏付け可能な仮定を基礎としなければならない。

 

いや、これでは全く具体性がない。だが、以下の、その適正な見積りの条件、属性、性質で多少は補えるかもしれない。

 

・外部証拠により大きな重点が置かれている。

・経営者が承認した直近の財務予算・予測を基礎としている。

・但し、リストラや資産の機能改善、拡張の予定は除外する(見積りに入れてはいけない)。

・例外はあるが、最長5年。

・直近の予算・予測期間以降の将来については、普通は低減する成長率を用いている。

・しかも、その成長率は、普通は市場の長期平均成長率を超えていない。

 

これを見ると、IFRSに保守主義・慎重性がないと宣伝している人の気がしれない。非常に保守的ではないか! 特に、原則5年分しか見積もれないというのは、逆に保守的過ぎると思われるだろう。だが、ご心配の方は担当の監査人とよく相談されると良い。より長い期間を正当化できる良い解決策か、5年後のその資産(或いは事業)の最終処分価額(=処分費用控除後の公正価値)を見積ることで解決できることが多いはずだ。

 

ちなみに、IFRSが5年としているのは、それ以上先のことに関する見積りに信頼性があるか、という疑問をIASBが持っているためだ。そういえば、スティーブ・ジョブズ氏も、5年先のことは分からないと、クローズアップ現代のインタビューで言っていた(2012/10/4の記事の最後の方)。したがって、実は、より重要なのは成長率に何を使うかということだ。

 

 

(成長率)

 

もちろん、この規定があるから5年の計画を作らなければいけないということではない。だが、通常大きな設備投資をするには、より長期間にわたる投資の採算性や回収のシュミレーションが行われ、投資の意思決定が行われる。問題は、これが実績でフォローされているかどうかだ。もし、フォローされ、シュミレーションで使用される成長率の決定方法が検証され、補正されているのであれば、その方法で算定された成長率は、将来キャッシュフローの見積りをするための成長率として、有力な選択肢となりえる。5年計画がなくてもよい。

 

また34項では、使用価値の算定に使用した将来キャッシュフローを実績で検証し、差異分析しなさいといっているので、そこでも成長率が検証することができる。やはり、このために5年計画は不要だ。だが、減損会計のためだけにこの差異分析や検証作業を行わなければならないのだろうか?

 

そうではない。通常は、資金生成単位は、管理上のプロフィット・センター等に結び付いているから、日常の管理活動の中で行えるはずだ。ただ、事業のライフ・サイクルなどといった大きな図面を意識せずに、その時々の状況だけで、即ち、目先の要因だけで分析・管理をしていると、こういう大きな発想と結びつきにくい。損益管理だけだと、小さな発想に陥りやすい(これは2/11の記事にも書いた)。一方、減損会計の前提には、事業のライフ・サイクルをも意識した長期志向の経営がある。長期志向の経営では、事業の成長率とかライフ・サイクルは当然意識されるはずだ。そういう分析を日常の管理活動の中で行うなら、この34項の規定に当てはまるし、将来キャッシュフローの見積りに使用可能だ。

 

 

(長期志向のリスク管理)

 

僕もそうなのだが、ついつい、短期的な対応と長期的な対応の違いを意識しないことが多い。しかし、これをしないと、いつの間にか変な所へ辿り着いてしまう。企業であれば、顧客への存在感を増すこと、顧客がお金を払ってもよいと思う良いイメージを持つこと、顧客から一番に選ばれることなどが、長期的な目標となるだろうが、短期的な業績目標を達成するためにそれと正反対のことをしてしまうかもしれない。それは「のれん」へのダメージになる。そして、それが事業のライフ・サイクルを縮めてしまうかもしれない。困難な時こそ長期的な観点を見失ってはならない。

 

将来キャッシュフローの見積りで、安易にコストを少なく見積ってはならない。むしろ、事業の価値を顧客に理解してもらい、末永く選んでもらえるように考えなければならない。使用価値を甘く見積もっても事業の改善には役立たないどころか、甘いリスク管理の蔓延に繋がってしまう。事業経営は、時々の状況に対応しなければならないのはもちろんだが、一方で、一貫した方針を貫くことも必要だ。ここは安倍首相の姿勢が良いお手本になるかもしれない。

2013年2月13日 (水曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(27)改善策は使用価値の対象?(“過去”の範囲)

2013/2/13

会計・監査ジャーナル2月号に大変興味深い記事があったので、その一部を紹介したい。この号は統合報告や公的部門の会計基準に関しても記事があって面白いが、紹介するのはそれらではなく、「IFRS解釈指針委員会報告」(日本からの委員である湯浅一生氏がIFRS解釈指針委員会の議論を紹介した記事)だ。ちなみに、IFRS解釈指針委員会とは、IFRSの解釈がばらついている事案について指針を作成する役割を担っている。

 

この記事のテーマは負債の期間帰属だが、IFRSの資産・負債の定義はパラレル(借方か貸方か、入金か出金かが違うだけで、形式も内容もほぼ一緒)であり、これは資産の期間帰属を考えるうえでも大変参考になる。

 

そして、同時に使用価値算定に利用する将来キャッシュフローの見積りの範囲にも直結する(と僕は思っている)。例えば、下記の負債がB/Sに計上されるのであれば、同じタイミングの資産を発生させる取引についても資産計上すると考えるだろうし、同じタイミングの事業改善策も将来キャッシュフローの見積り対象に含められると考えられるわけだ。事業改善策の効果が将来キャッシュフローの見積りに含まれるということは、その効果が資産の評価額の一部となる可能性があるので、事業改善策が財務情報として扱われたということになる。

 

では、この記事を見ていこう。以下に使用価値の見積り対象に含めるか否かに関連しそうな部分を抜き出す。

 

IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の下での以下の取引をどのように解釈するかが議論の対象となっている。

 

(取引)フランスの鉄道税は以下の条件で課税される。

A.1/1時点の事業者に対して課金

B.金額は前年度の売上高の比率に基づく

 

(実は、さらに売上が一定額、ある閾値を超えると課金されるという条件がある。それが、例えば第1四半期や中間では超えないが、第3四半期や下期で超えるようになる場合、四半期や半期報告へ与える影響が問題になるとされていて、湯浅氏の報告はそこの議論がメインとなっている。即ち、第1四半期や中間で未払い計上するか否かがメインの論点だ。しかし、そこは、このブログのテーマへあまり関連しないし、単純化を考慮して省略する。)

 

(論点)上記のAとBの条件で、12月決算の会社は、この賦課金をいつ負債計上するか。

1/1が属する事業年度に支払義務が発生するので、その期に負債計上する。

 義務の発生を見越して売上高が発生した期に負債計上する(①より1年早く負債計上する)。

 

この委員会の結論は①となった。

理由には、IAS第37号14(a)に、負債を計上する条件として、「過去の事象の結果として」という表現があることを挙げている(この表現は、概念フレームワークの資産や負債の定義と同じ)。即ち、1/1を迎えないと「過去の事象」と言えないということだ。

 

ちなみに、全く同じではないが、日本でも似たような議論が必要になる事案があると思う。例えば固定資産税だ。

 

固定資産税は、1/1現在の固定資産とその所有者に対して、次の4月以降の期間に納税義務が生じる。3月決算会社は、その期に全額未払い計上するのか、それとも1月から3カ月分のみ未払い計上するか、或いは、4月以降費用・負債認識を行うか。現在は会社によって処理が分かれているから、上記と同様、統一すべく議論する価値がある。(上記の結論をそのまま踏襲すれば、1/1に「過去の事象」となるので全額未払い計上になると思うが、そのまま費用認識するかどうかは別問題。これは面白いテーマだが、また別の機会に。)

 

ポイントは次の点だ。

 

1/1を明日に控え、運行スケジュールは公表しているし、駅や軌道の撤去は不可能だし、どう考えても鉄道事業から撤退するはずのない会社で、債務額の計算も可能であっても、たった一日前に過ぎない12/31時点では債務認識しないという。

 

では、これを使用価値の基礎になる将来キャッシュフローの見積りに当てはめて考えてみよう。

 

決算日時点において、ある資金生成単位の実績をそのまま引き延ばして将来キャッシュフローを見積ると、回収可能額が資産の簿価に満たない(=減損が生じている)とする。しかし、翌期の計画でそれを改善させる施策が組まれており、その影響を見込めば回収可能額が簿価を上回る。このような状況に於いて、その計画に盛込まれた改善策の効果を、使用価値の基礎となる将来キャッシュフローに見込むか否か。

 

上記の例を踏まえれば、答えは「否」となる。単なる改善策の段階では、まだ「過去の事象」とはいえないので、将来キャッシュフローの見積りに含められない。(改善策が期末日時点ですでに実行されていれば「過去の事象」に含まれる可能性がある。)

 

前回も記載しているのでくどくなるが、重要なので改めて記載すると、将来キャッシュフローの見積りには、単なるアイディアや計画は見込むことができない。その理由は、財務情報が長期目標に対する現状の実態開示、或いは目標に対する進捗を表現するものであり、未着手の単なるアイディアを見込んでは、期末日時点の実態の開示にならないからだ(と僕は思う)。未着手のアイディアや計画は、将来情報であり、現状説明や実績情報としての財務情報ではない。非財務情報だ。これらを将来キャッシュフローの見積りの対象にしては、期末日時点の実態を開示するという財務情報の意味がなくなる。(将来情報が重要でないといっているのではなく、単に財務情報に含めるか否かを論じている。)

 

これについて具体的なIFRSの規程はあるだろうか。実は次のような規定がある。IAS第36号「資産の減損」の44項だ。

 

将来キャッシュ・フローは、資産の現在の状態において見積らなければならない。将来キャッシュ・フローの見積りには、次男項目から発生すると予想される見積もり将来キャッシュ・インフロー又はアウトフローを含めてはならない。

 

(a) 企業がいまだコミットしていない将来のリストラクチャリング

(b) 当該資産の機能を改善または拡張するもの

 

但し、修繕費など、現在の水準を維持するための費用は見込む(49項)。リストラ計画はコミットされていれば見込むが、リストラの効果は会社の意思でコントロールしやすい、実現しやすいものであるため、「意思決定=着手」とみなしているのだと思う。それに対して、改善や拡張は、それによって顧客満足が増加し収益の増加につながらなければならず、そこは不確かなので、計画だけでは「期末日時点の実績」とは言えないという判断だと思う。

 

恐らく、日本基準に慣れている方々にとっては、厳しい、保守的なルールに感じられるかもしれない。日本基準では、減損の“兆候”を判定する時に、「2年連続赤字+翌年の黒字が明らかでない場合」という条件があって、そこでは「翌年に実施する効果が確実な対策は見込んで判定する」会社が多いと思う。その流れで、将来キャッシュ・フローの見積りにも、未実施の改善策を見込むイメージを持たれるケースもあるのではないだろうか。

 

ここには注意が必要だ。日本では、期末にかけて減損テストを行い、問題のある資金生成単位については、翌年の予算に改善策を盛り込むというパターンがとられやすいが、それだとIFRSでは減損を免れないのだ。じゃあ、どうすればよいのか。こういうケースでは、すべて減損することになるのか?

 

基本的にはそういうことになるが、それでは芸がない(=会計が経営に役立ってない)。

 

僕が思うに、やはり、当期に問題を識別したら、すぐに(=当期中に)改善に着手するということに尽きるのではないか。予算制度をより柔軟に運用し、当期の結果が出てから来年どうするかを考えるのではなく、当期のことをやりながら次の改善の手を打っていく。期末時点では、もう改善が行われ、できればその結果も見えてきている。そういう方向に事業運営を持って行くことになるのではないかと思う。

 

しかし、もし、その改善に多額の投資が必要で、年度予算管理の柔軟な運用だけでは対応できず、全社的な資金バランスを考慮して翌年以降の事業計画全体の中でなければ意思決定ができないようなものであるならば、期末までに改善の着手ができない。そういうものは、どうなるだろうか。恐らく資金生成単位の収益性の低下は著しいものであり、もはや減損もやむを得ない。

 

或いは、事業改善のための効果的なアイディアが出ない状況であれば、事業の根本的な見直しに伴って、減損も行われることになるだろう。

 

このように書くと、非常に厳しいことに聞こえるかもしれない。しかし、誤解をしないでいただきたいのは、本来投資の意思決定時に採算性や回収期間によるシュミレーションを企業は行っており、その際は、マージンを見込んだり、マージンを含んだ大きな割引率、資本コストを使ったもっと厳しい条件で検討をしているはずだ。上記の減損に使う使用価値は、マージンを含んでいない分、そのシュミレーションより優しい基準になっている。

 

しかし、経営上は、当然マージンを含めて投資が回収できるようにすべきなので、そういう本来の管理をしていれば、十分IFRSの減損会計にも対処できる、問題はない。IFRSの減損会計にも対処できるような早いタイミングで事業の不調を認識し、対処できる。簡単に減損にならないよう対応・対策を考えられる。

 

問題があるとすれば、そういう投資の意思決定時のシュミレーションをフォローしていないことではないだろうか。意思決定時からの一貫した管理をしていないと問題になる。問題を感じた時は、その点を見直してみると良いと思う。

 

さて、このシリーズでは、のれんの減損を検討しているのだが、M&A投資の管理も上記と同じだ。投資時に見込んだシナジー効果などをどのように発現させるか、のれんを含む投資が回収される見込みが維持できているかがポイントだ。即ち、M&Aの意思決定時のシュミレーションを実績でフォローしていくという発想が基本になる。そしてその実績とは、改善をタイムリーに実施している状態における期末日の状況を将来に延長した場合の回収可能額で測ることになる。

2013年2月11日 (月曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(26)使用価値の精神

2013/2/11

前回(2/5の記事)では、IFRSの減損会計の手続を概観した。そして今回は回収可能額だ。回収可能額は、公正価値(処分費用控除後)か、使用価値のどちらか大きい方とされている。世間一般では「公正価値」の方が「使用価値」よりずっと有名だ。しかし僕は、公正価値にはあまり興味はない。もっぱら、使用価値に興味がそそられる。使用価値にこそ、会計が経営に役立つヒントがあると思うからだ。今回はそれについて書いてみたい。

 

回収可能額の測定は、IFRSの概念フレームワークの資産の定義に見受けられる「過去の事象を将来要素を考慮して測定」という財務情報の性質のうち、「将来要素を考慮して測定」に当たる。「過去の事象を」というところは昔の取得原価主義と同じだが、ジェンキンス・レポート等以降、「将来要素による測定」が重要となり、取得原価主義に修正が加えられてきた(これらについては、2012/12/23の「非償却派の意見」1/8の統合報告に関する記事などを参照)。したがって、「将来要素による測定」が行われる回収可能額は、ジェンキンス・レポート以降の会計の変化の本質的・根源的な部分といってもよいのではないだろうか。

 

 

(回収可能額)

 

繰返しになるが、前回も記載した通り回収可能額とは、公正価値(処分費用控除後)と使用価値のどちらか大きい方だ(IAS第36号の6項)。これは、公正価値が対象となる資産を第三者へ売却したときに回収できる金額であり、使用価値が事業で使った時に生み出す価値の見積金額なので、企業は、その資産の用途について、売却か、使用か、どちらか高い方を選択するだろうとIASBが想定していることによる(結論の根拠BCZ23項)。仮に、「売却できない事情がある」とか、「使用できない事情がある」といった場合は、公正価値や使用価値は算定できないから、それらはゼロということになり、前者であれば使用価値が、後者であれば公正価値が、回収可能額となる(20項、21項)。

 

 

(公正価値と使用価値)

 

「公正価値」とか「fair value」というと何やら格好がいいが、僕にとっては断然「使用価値」の方が興味をそそる。公正価値は、市場価格のあるものはそれだし、ないものは、類似の市場取引を参考にしたり、評価要素になるべく市場由来のものを使用して、疑似市場価格を算定する。一般的に客観性が高いと言われるが、これは公正価値が単なる計算テクニックに過ぎないことの裏返しでもある。(ちょっと誇張してます。専門家の方、ごめんなさい。)

 

それに比べると使用価値は凄い。特に将来キャッシュ・フローの見積りは、事業の将来を予測するのだから。例えるなら、公正価値の算定が漢字の練習帳のように、点線をなぞれば結果が出るのに対し(これも誇張してます)、使用価値は白紙の半紙に習字を描くような芸術性がある。こちらの方がずっと難易度が高い。但し残念ながら、テレビCMの事業計画のように、「予測することではなく、なりたい姿を描くものだ」というわけではない。そういう意味では「芸術性がある」とは言えるほどの自由さはないかもしれない。

 

(使用価値の意味)

 

いやいや、制約があるところにこそ芸術は生まれる。絵画でも音楽でも、みんな制約がある。使用価値の場合は、墨を使わなければならない、という制約がある。即ち、色付けして薔薇色に描いてはいけないということだ。このことは33項の(a)に次のように記載されている。

 

キャッシュ・フロー予測は、当該資産の残存耐用年数にわたり存在するであろう一連の経済的状況に関する経営者の最善の見積りを反映する、合理的で裏付け可能な仮定を基礎としなければならない。

 

これのどこが墨で、何が薔薇色なのか。みなさんは疑問に思われると思う。だが、概念フレームワークの資産の定義(=財務情報の範囲)の書き振りである「過去の事実を将来要素で測定」のパターンを思い出してほしい。そして、そうなる理由が、財務情報の目的適合性のある実態の忠実な表現とは、企業が目指す将来像(非財務情報)に対して現状はどうかを示すこと、即ち、目標に対する進捗具合を示すことだった(1/8の記事1/10の記事など)。

 

これを踏まえて、もう一度33項の(a)を読んでみると、「一連の経済的状況」とは、すでに発生している、或いは、動き出している事象のことであり、それが経営者の見積り対象であるとご理解いただけると思う。単なるアイディアは(仮にそれに「~計画」や「~予算」という立派な名前がついていたとしても)、将来キャッシュフローの見積り対象にはならない。そのようなものは、楽観的で不確実なものになりやすく、将来キャッシュ・フローの見積りに含めると、期末日時点の状況や目標に対する進捗状況を示せなくなる。

 

 

(管理上の意味)

 

多くの企業で行われている予算管理は、ほとんど損益管理を意味するといってよい。僕のイメージでは、損益管理に、関連する資産項目を絡めた指標を現場で利用している会社は、まだ進んでいる会社だと思う。しかし、損益管理が中心にあると、月単位、年度単位の狭い発想を脱しない。例えば、競合の販売政策がどうだとか、人員の配置がどうだとか、原材料の価格が変動したとか。“コスト・セーブ”とか“節約”はできても、行き詰ってしまう。その結果、達成できないと予算に無理があると考えがちだ。

 

もちろん、こういうことは大事なので、担当者やそれに近いレベルでは頭を悩ませなければならない。しかし、大きな違いを結果に出すには、もっと大きな発想も必要になる。新しい需要を今までにない用途で開発するとか、機能をそぎ落としてよりシンプルな製品やサービスの提供を行うとか提供方法を変えるとか、逆にシナジー効果が高い機能を加えて顧客の効用を高めるとか、原材料の調達方法を根本的に変えるとか。

 

「そんなことは分かってますよ」と多くの方は思われると思うが、もし、分かっているのにできないとすると、その原因はなんだろうか。企業の経営管理は、本当に大きな発想を持たせる仕組みになっているだろうか。損益管理にその仕組みが備わっているだろうか?

 

結果に大きな違いを出すには、それなりに時間がかかるから早い動きだしと長い忍耐が必要だ。果たして損益管理はそれを促すだろうか。月単位や年度単位に意識が集中していては無理だろうと思う。将来像、例えば金額的には、投資額に目標マージンを乗せて、どれだけ将来キャッシュフローを稼がなければならないという長期目標があって、それと現状とのギャップを認識させるような管理手法が必要ではないだろうか。早い段階で、「今のままではこれぐらいしか将来キャッシュフローを稼げない。だからもっと発想を変え、工夫しなければ。」と思わせる仕組みだ。

 

もうお分かりだと思うが、それが使用価値の基礎になる将来キャッシュフローの見積りだ。もし、この将来キャッシュフローの見積りが楽観的であれば、経営的に意味がないとお分かりいただけると思う。経営としては、将来のリスクをいち早く察知し対処したいのに、それを隠すことになるからだ。

 

したがって、使用価値の算定には保守主義が関わらなければならない。企業のリスク管理を働かせなければならない。そうやって算定されたものが、減損会計で利用される。あれっ、以前も似たようなことを書いたような・・・、そうそう、2012/9/4の「脱線4~保守主義の本質はリスク管理?」あたりがそうだ。ご興味が湧いた方は、ご一読されると有難い。

 

それはともかく、損益管理ではない、いやでも長期を意識せざるえない管理手法がもっと一般的になるべきだと思う。一般的には、企業組織の階層を登るほど権限も責任も大きくなって、人も長期志向になるといわれるが、昇進すると自然に長期志向になれるわけではないし、若い人が長期志向で悪いということもない。それより、早くから長期志向に慣れていくことが重要だと思う。それにはIFRSがちょうど良い道具になる。ということで、次回はもう少し具体的に規定を見ていこう。ん? それはまだ先かな。もう1回ぐらい足踏みさせていただくかもしれない。

2013年2月 5日 (火曜日)

のれん ー 毎期規則的に減損するのはどう?(25)「のれんの減損」の概要

2013/2/5

今回はIFRSのIAS第36号「資産の減損」から、のれんの減損関係の規程を概観する。以下に記す段落番号は、断りのない限り、IAS第36号のものとご理解いただきたい。(久しぶりにこのブログの本来の趣旨に戻ってきたような気がする。)

 

のれんはちょっと特殊な資産なので、その前に一般的な資産(主に有形固定資産を想定。無形資産には例外がある)に関する減損の概略を記載しよう。その後で、のれんの減損が一般的な資産の減損と異なる点を記載する。

 

(減損の目的)

 

企業が資産に回収可能価額を超える帳簿価額を付さないことを保証するための手続きを定めること。(1項)

 

これについては、過去に色々記載しているが、「資産は金を生むもの」であるならば、回収できない部分は資産ではないから評価を引下げるのは当然のことと理解できる。

 

(主な用語)(6項)

 

帳簿価額:

取得価額から減価償却累計額、減損損失累計額を控除した金額。

 

資金生成単位:

概ね独立したキャッシュフローを生成させる資産又は資産グループの最小内部管理単位。最大でも事業セグメント以下の単位となる。

 

全社資産:

本社や管理部門の資産のように、それ単独でキャッシュフローを生成しない資産又は資産グループ、或いは、複数の資産単位グループにまたがって関連する資産又は資産グループ。但し、のれんは除く。

 

回収可能額:

資産又は資金生成単位の公正価値(処分費用控除後)と使用価値のいずれか高い金額。

 

公正価値と使用価値:

IAS第36号の表現とはだいぶ異なるラフな説明になるが、公正価値はいわゆる時価であり、使用価値は企業がその資産や資金生成単位によって将来獲得できると期待するキャッシュ・フローの現在価値。即ち、企業の見積り額。

 

両者は、一見同じように見える場合があるが、言葉が違うということは内容も相違する。その相違は、公正価値が市場取引とか第三者の評価といった客観的な装い、イメージを醸し出させよう、強調しようとする概念なのに対し、使用価値は当事者である企業の予測に依存し、その企業の事情を考慮する主観的な要素を内包する。また細かいが、公正価値は処分費用を控除する前の概念なので、回収可能額を説明する場合は、一々「処分費用控除後」と記載されるが、使用価値は、処分費用は控除済みの概念なので、その記載は不要。

 

とはいっても、会計(=財務情報)は、「過去事象を将来要素を考慮して測定する実績、或いは、目標に対する期末日時点の進捗具合」を示すものなので、見積り時点で影も形もない単なるアイディアや計画を、使用価値の見積りに盛込むことはできない。

 

 (減損会計の手続)(9項)

 

① 減損の兆候の有無を検討(期末日現在)。

② 減損の兆候がある場合は、資金生成単位ごとに回収可能額を見積り減損テストを行う。

③ 帳簿価額が回収可能額を超過する場合は、その超過額を減損する(59項)。

④ 全社資産の減損テスト、減損損失の計上を行う(102項)。

 

 

以上について、「のれんの減損」には以下の異なる定めがある。

 

(資金生成単位)

 

のれんは、のれん単独で資金生成単位となることはできないため、関連する資金生成単位に配分して、その単位で減損テストを実施する(80項)。シナジー効果の及ぶ範囲にのれんを配分する(80項)。したがって、複数の資金生成単位に配分することが必要な場合がある(81項)。

 

「のれんが単独で資金生成単位になれない」とは、のれんは転売することができず、のれんを直接使用して製品の生産をしたりサービスの提供ができないし、決済の手段にもならないことから来ている。土地や建物など、一般的に減損の対象となる資産は、上記のいずれかを行える能力を持っているので、資金生成単位となりうる。

 

うむむ、そうだった。のれん単独で減損テストができないとは。これは僕の意図(=のれんの規則的な減損)を達成するには問題だ。一つ壁が見つかった。

 

(減損テスト)

 

減損テスト(=回収可能額を算定し、帳簿価額と比較すること)は、減損の兆候の有無に関わらず毎期実施(96条)。但し、特定の場合は、以前の詳細な計算を当期の減損テストに流用できることもある(99項)。

 

減損テストのタイミングは、期末でなくてもよいし、資金生成単位ごとに違っていても構わないが、毎期同じタイミングで行う(96項)。なお、減損の兆候を認識した場合は、このタイミングに関わらず、いつでも減損テストを行わなければならない(90項)。

 

のれんの減損テストは配分される資金生成単位で行われるが、それとは別に配分される側の資金生成単位の減損テストが必要(のれんを配分する前の状態での減損テストが必要。のれんに関連しないその資金生成単位特有の減損事由がある場合は、予めそれを減損してからのれんを含めた減損テストを行う趣旨。97項)。

 

(減損損失の計上)

 

上述のように、のれんはそれが配分された資金生成単位の減損テストとして行われるが、その減損テストで帳簿価額が回収可能額を超過した場合は、まず、のれんの帳簿価額から減額する(104項)。

 

(減損損失の戻入れ)

 

のれんは減損損失の戻入れができない(124項)。IFRSでは、減損となった要因が今後再度発生するとは考えられない異常な性質の特定の外部事象によって発生したものであり、かつ、その事象の影響を覆す状況となった場合には、減損損失の戻入れを強制しているが、のれんについては例外的に禁止している。

 

 

ということで、前回記載した目的、即ち、IFRSの現行規程でも「のれん=人の評価」を前提とするような会計処理を達成するには、のれんが配分された資金生成単位で、毎期規則的な減損が、しかも、M&A時点で関わった人々の在籍数に関連して行えなければならない。これは難問だ。だが、まだ諦めるのは早い。次回はヒントを求めて、回収可能額の計算について突っ込んでみたい。

2013年2月 3日 (日曜日)

【番外編】がんばれっ、田中さん!

2013/02/03

僕は昨日(2/2)、日本公認会計士協会の地域会の研究発表大会へ行ってきた。午前は、テーマごとに小さな会議室に分かれたが、午後は大会場で統一テーマによるパネル・ディスカッションが行われた。そのテーマは、不正対応、現場力アップ等で、監査法人時代が思い出されて懐かしかった。

 

ところで、このパネラーのなかに、妙に僕と波長の合う人がいた。僕は大会場の後ろの方に座っていたので、演壇上のパネラーの名前は見えなかったが、ここでは仮に「田中さん」としておこう。田中さんは次のような話をされていた(違っていたらごめんなさい)。

 

・監査の限界を小さくするための努力を我々はすべき。

・具体的には反面調査ができるような働きかけをする。

・監査調書作成に追われて現場が疲弊している。

・監査の価値を社会に認めてもらおう。

 

田中さんは、「監査の限界を主張してもマスコミは取上げてくれず、逆に責任を追及される。我々は、監査の限界を言い訳にしないで、積極的に限界を減らす努力しようじゃないか」という趣旨のことを言われて、僕は、思わず拍手するところだった。そして暫くして、反面調査の話が出てきた。

 

僕も以前、「・・・監査は完全、万能ではない。強制調査権がないから、不正に加担する外部協力者がいる場合はつらい。」(2011/11/10の記事)と書いたが、田中さんのいうように、監査の限界を言い訳にするのではなく、それを乗り越えていく意思が重要だと思う。

 

ところが意外なことに、田中さんの反面調査の意見は、他のパネラーの方々にはあまり歓迎されなかったようだ。「監査制度の枠」とか「契約の範囲内で」などという言葉で、押しのけられ、すーっと消えてしまったのだった。

 

これで思い出したことがある。僕の担当していた会社の未成工事支出金の評価のことだ(評価損の計上か、引当の追加か)。その仕掛物件に下請けとして絡んだある会社(A社とする)に、別の、その監査先とは無縁の工事で起こった事件から飛び火した信用問題が浮上し、未成工事支出金(前渡金)の評価が適切かどうかが問題となった。A社には監査先から多額の前渡金、工事の進捗状況を大幅に上回った金額が支給されていたが、資金繰りが破綻し、その仕掛工事の業務を遂行できなくなる可能性がでてきたのだ。そのとき、僕は上記の枠とか契約とかを、ちょっと踏み越した。

 

とても田中さんの主張を後押しできるような、自慢できる話ではない。むしろ、やってはいけないことだったのだが、僕は監査報告書にサインするために、どうしてももう一段深く確かめたかった。

 

A社は規模の小さな会社だった。零細と言ってもよい。だがそこに監査先は、不釣り合いに大きな発注をしていた。監査先からは、A社との契約、資金のやり取りや業界での評判、噂などが提出された。しかし、それだけでA社の財政状態が分かるわけではなかった。前途金の評価を維持するにも落とすにも、どちらにも決め手を欠いていた。そこで、管理担当役員の方に直接A社の社長へヒアリングをしてもらい、経営状況、当面の資金繰りなどを聞いてもらった。しかし、それでも決め手に欠いた。それに時間がなくなっていた。

 

そこで信用調査会社のレポートを入手してみたが、どうも信用できない(妙に良いタイミングで社長にヒアリングしており、まるで、A社側が信用調査会社にレポート作成を申し込んだかのようだったし、内容も、それを疑わせる感じがした)。最終的には、そのA社社長に(監査先経由で)面談を申し入れ、直接ヒアリングをし、手形帳などの資料を見せてもらった。ある意味これは反面調査だ。

 

なんだ、反面調査できるじゃないか、とみなさんは思われるかもしれない。でも違うのだ。

 

A社社長には僕に対して何の義務もないから、嘘をついても何の咎めもない。いや、A社にしてみれば、この監査先との取引を失えば倒産するだろうから、悪い話をするはずがない。というより、悪いことがあれば嘘をついて隠す可能性が高い。だから、良い話を聞けたとしてもそれを信じることはできないし、悪い話を聞ける可能性は低かった。それなら、面談する必要はないではないか。むしろ面談することはリスクになる。

 

だから、通常、こういうことはやってはいけないこととされている。監査法人の審査部門に相談すれば止められることは知っていた。具体的な監査証拠は監査先から入手する、という監査制度の枠からも外れている。(確認状は監査人が出すじゃないか、と言われる方もいるかもしれないが、監査人が勝手に送るわけではない。) でも会った。若かったんだな、と今は思う。

 

やはりA社社長からは、業務を遂行できなくなりそうだというような悪い話は聞けなかった。しかし、この方は良い話もしなかった。僕が良い話がしたくなるように話を向けると、目をギロっとさせて「何を言わせようっていうんだ、こいつ」という顔をして、「そんなことは分からない」と言った。結局話の内容からは、決め手は得られなかった。ただ、この顔がとても印象に残って、僕は未成工事の評価についての監査先の主張(=評価を落とさない、引当を追加しない)を認めることにした。そして、この面談のことは監査調書にしなかった。枠を踏み外していたから。

 

何を言いたいかというと、監査人が個人でやると、やはり効果のある反面調査はできない。むしろ、危険だ。しかし、田中さんは、個人ではなくみんなで足並みをそろえてやろうと提案した。みんなでやれば事情が変わる。反面調査でも、もっとちゃんとチェックができるようになる。これは注目されてよい意見だと思う。

 

例えば、監査約款、監査契約に「監査人が反面調査できるような環境作りを監査先が努力する」と入れられるよう努力ができないだろうか。最初はなかなか難しいし、できても反面調査ができるのは仕入先だけかもしれない。だが、会社によっては取引基本契約書に、必要な場合と、その会社との取引に関連する事項に限定してだが、(内部)監査を行うことができると入れることもある。それに外部監査も便乗させてもらうことは可能だろう。会計士協会が社会に(企業会計審議会等で)逆提案して、連動して個々の監査人がみんな動き出せば、そういう方向性を作り出すこともできるのではないだろうか。そして、将来、そういう慣習が醸成されれば、循環取引など相当ハードルが上がって、やり難くなる。

 

みなさん、覚えてらっしゃるだろうか。昨年末に公表された企業会計審議会監査部会の不正リスク対応監査基準(案)では、その前の公開草案では入っていた「取引先企業の監査人との連携」が外された。このパネル・ディスカッションの前に行われた基調講演によると、これを言い出した金融庁事務方の意図は、「こんなことも含めて議論したらどうか」という提案つもりだったのだという。なるほど面白いアイディアだ。この田中さんの提案もそうなのだ。議論する価値がある。しかも、金融庁の案では、相手も監査を受ける上場企業でなければならないが、田中さんの案なら、どんな会社が相手でもよいから抜け道は少ない。監査先にしても、いざというとき、取引先が調査に協力してくれるという環境が一般的になれば、メリットがある。今までできなかったことが、監査人の努力が起点となってでできるようになる、というのは、監査の社会的貢献にもつながる。

 

金融庁の提案のようなものがいきなり基準化されても、確かに実務は追いつかない。じゃあ、どうするのか。基準化が見送られて、ホッとして、放っておくのか? それはない。今度は、監査人が逆提案するのが順番ではないだろうか。いきなり監査基準に入れるのではなく、監査人が個々の監査先へ相談を持ちかけて、徐々に慣行を変えて、流れを作り出していくのだ。

 

監査人は(=会計士協会は)、自ら監査制度を良いものにしていかなければ先はない。これは共通認識だと思う。監査基準任せにして監査調書ばかり分厚くしても、監査先は、そして社会は、監査に価値を感じないと思う。実際に、監査調書が分厚くなると監査先のためにもなる、と考える人は多くはあるまい。それに、監査基準が与えられたらそれをこなせば良いとか、言われてから考えよう、という姿勢では、指示待ちのダメな人たちと思われてしまう。だから田中さんの提案は実に時宜にかなっている。

 

さあ、田中さん、がんばれっ! 僕は陰ながらエールを贈る。

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