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2013年2月 3日 (日曜日)

【番外編】がんばれっ、田中さん!

2013/02/03

僕は昨日(2/2)、日本公認会計士協会の地域会の研究発表大会へ行ってきた。午前は、テーマごとに小さな会議室に分かれたが、午後は大会場で統一テーマによるパネル・ディスカッションが行われた。そのテーマは、不正対応、現場力アップ等で、監査法人時代が思い出されて懐かしかった。

 

ところで、このパネラーのなかに、妙に僕と波長の合う人がいた。僕は大会場の後ろの方に座っていたので、演壇上のパネラーの名前は見えなかったが、ここでは仮に「田中さん」としておこう。田中さんは次のような話をされていた(違っていたらごめんなさい)。

 

・監査の限界を小さくするための努力を我々はすべき。

・具体的には反面調査ができるような働きかけをする。

・監査調書作成に追われて現場が疲弊している。

・監査の価値を社会に認めてもらおう。

 

田中さんは、「監査の限界を主張してもマスコミは取上げてくれず、逆に責任を追及される。我々は、監査の限界を言い訳にしないで、積極的に限界を減らす努力しようじゃないか」という趣旨のことを言われて、僕は、思わず拍手するところだった。そして暫くして、反面調査の話が出てきた。

 

僕も以前、「・・・監査は完全、万能ではない。強制調査権がないから、不正に加担する外部協力者がいる場合はつらい。」(2011/11/10の記事)と書いたが、田中さんのいうように、監査の限界を言い訳にするのではなく、それを乗り越えていく意思が重要だと思う。

 

ところが意外なことに、田中さんの反面調査の意見は、他のパネラーの方々にはあまり歓迎されなかったようだ。「監査制度の枠」とか「契約の範囲内で」などという言葉で、押しのけられ、すーっと消えてしまったのだった。

 

これで思い出したことがある。僕の担当していた会社の未成工事支出金の評価のことだ(評価損の計上か、引当の追加か)。その仕掛物件に下請けとして絡んだある会社(A社とする)に、別の、その監査先とは無縁の工事で起こった事件から飛び火した信用問題が浮上し、未成工事支出金(前渡金)の評価が適切かどうかが問題となった。A社には監査先から多額の前渡金、工事の進捗状況を大幅に上回った金額が支給されていたが、資金繰りが破綻し、その仕掛工事の業務を遂行できなくなる可能性がでてきたのだ。そのとき、僕は上記の枠とか契約とかを、ちょっと踏み越した。

 

とても田中さんの主張を後押しできるような、自慢できる話ではない。むしろ、やってはいけないことだったのだが、僕は監査報告書にサインするために、どうしてももう一段深く確かめたかった。

 

A社は規模の小さな会社だった。零細と言ってもよい。だがそこに監査先は、不釣り合いに大きな発注をしていた。監査先からは、A社との契約、資金のやり取りや業界での評判、噂などが提出された。しかし、それだけでA社の財政状態が分かるわけではなかった。前途金の評価を維持するにも落とすにも、どちらにも決め手を欠いていた。そこで、管理担当役員の方に直接A社の社長へヒアリングをしてもらい、経営状況、当面の資金繰りなどを聞いてもらった。しかし、それでも決め手に欠いた。それに時間がなくなっていた。

 

そこで信用調査会社のレポートを入手してみたが、どうも信用できない(妙に良いタイミングで社長にヒアリングしており、まるで、A社側が信用調査会社にレポート作成を申し込んだかのようだったし、内容も、それを疑わせる感じがした)。最終的には、そのA社社長に(監査先経由で)面談を申し入れ、直接ヒアリングをし、手形帳などの資料を見せてもらった。ある意味これは反面調査だ。

 

なんだ、反面調査できるじゃないか、とみなさんは思われるかもしれない。でも違うのだ。

 

A社社長には僕に対して何の義務もないから、嘘をついても何の咎めもない。いや、A社にしてみれば、この監査先との取引を失えば倒産するだろうから、悪い話をするはずがない。というより、悪いことがあれば嘘をついて隠す可能性が高い。だから、良い話を聞けたとしてもそれを信じることはできないし、悪い話を聞ける可能性は低かった。それなら、面談する必要はないではないか。むしろ面談することはリスクになる。

 

だから、通常、こういうことはやってはいけないこととされている。監査法人の審査部門に相談すれば止められることは知っていた。具体的な監査証拠は監査先から入手する、という監査制度の枠からも外れている。(確認状は監査人が出すじゃないか、と言われる方もいるかもしれないが、監査人が勝手に送るわけではない。) でも会った。若かったんだな、と今は思う。

 

やはりA社社長からは、業務を遂行できなくなりそうだというような悪い話は聞けなかった。しかし、この方は良い話もしなかった。僕が良い話がしたくなるように話を向けると、目をギロっとさせて「何を言わせようっていうんだ、こいつ」という顔をして、「そんなことは分からない」と言った。結局話の内容からは、決め手は得られなかった。ただ、この顔がとても印象に残って、僕は未成工事の評価についての監査先の主張(=評価を落とさない、引当を追加しない)を認めることにした。そして、この面談のことは監査調書にしなかった。枠を踏み外していたから。

 

何を言いたいかというと、監査人が個人でやると、やはり効果のある反面調査はできない。むしろ、危険だ。しかし、田中さんは、個人ではなくみんなで足並みをそろえてやろうと提案した。みんなでやれば事情が変わる。反面調査でも、もっとちゃんとチェックができるようになる。これは注目されてよい意見だと思う。

 

例えば、監査約款、監査契約に「監査人が反面調査できるような環境作りを監査先が努力する」と入れられるよう努力ができないだろうか。最初はなかなか難しいし、できても反面調査ができるのは仕入先だけかもしれない。だが、会社によっては取引基本契約書に、必要な場合と、その会社との取引に関連する事項に限定してだが、(内部)監査を行うことができると入れることもある。それに外部監査も便乗させてもらうことは可能だろう。会計士協会が社会に(企業会計審議会等で)逆提案して、連動して個々の監査人がみんな動き出せば、そういう方向性を作り出すこともできるのではないだろうか。そして、将来、そういう慣習が醸成されれば、循環取引など相当ハードルが上がって、やり難くなる。

 

みなさん、覚えてらっしゃるだろうか。昨年末に公表された企業会計審議会監査部会の不正リスク対応監査基準(案)では、その前の公開草案では入っていた「取引先企業の監査人との連携」が外された。このパネル・ディスカッションの前に行われた基調講演によると、これを言い出した金融庁事務方の意図は、「こんなことも含めて議論したらどうか」という提案つもりだったのだという。なるほど面白いアイディアだ。この田中さんの提案もそうなのだ。議論する価値がある。しかも、金融庁の案では、相手も監査を受ける上場企業でなければならないが、田中さんの案なら、どんな会社が相手でもよいから抜け道は少ない。監査先にしても、いざというとき、取引先が調査に協力してくれるという環境が一般的になれば、メリットがある。今までできなかったことが、監査人の努力が起点となってでできるようになる、というのは、監査の社会的貢献にもつながる。

 

金融庁の提案のようなものがいきなり基準化されても、確かに実務は追いつかない。じゃあ、どうするのか。基準化が見送られて、ホッとして、放っておくのか? それはない。今度は、監査人が逆提案するのが順番ではないだろうか。いきなり監査基準に入れるのではなく、監査人が個々の監査先へ相談を持ちかけて、徐々に慣行を変えて、流れを作り出していくのだ。

 

監査人は(=会計士協会は)、自ら監査制度を良いものにしていかなければ先はない。これは共通認識だと思う。監査基準任せにして監査調書ばかり分厚くしても、監査先は、そして社会は、監査に価値を感じないと思う。実際に、監査調書が分厚くなると監査先のためにもなる、と考える人は多くはあるまい。それに、監査基準が与えられたらそれをこなせば良いとか、言われてから考えよう、という姿勢では、指示待ちのダメな人たちと思われてしまう。だから田中さんの提案は実に時宜にかなっている。

 

さあ、田中さん、がんばれっ! 僕は陰ながらエールを贈る。

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