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2013年3月14日 (木曜日)

226.【製造業】再評価モデルの存在意義~社会背景と会計処理

2013/5/29 追記

この記事に、「本社ビルを建てると会社が傾く」というジンクスがあると記載しましたが、同様のジンクスは米国にもあるようです。参考までにロイターの記事『アングル:米IT大手4強の新社屋、「転落ジンクス」回避なるか』を紹介します。

 

2013/3/14

前回(3/12)の記事でこの半年間のまとめを行ったが、今回はそこで未検討とされた「再評価モデル」を検討したい。まあ、検討といっても、オックスフォード・レポートも認めているように、製造業が採用しなければよいだけなので、もともとたいした問題ではないかもしれないが、しかし、なぜこんな、固定資産を時価評価する会計処理が認められているのか、と疑問に思う人がたくさんいると思う。今回は、それについて考えてみたい。

 

 

(再評価モデルの概要)

 

再評価モデルに関してIAS第16号「有形固定資産」の31項は、次のように規定している。

 

資産として認識した後、公正価値が信頼性をもって測定できる有形固定資産項目は、再評価実施日における公正価値から、その後の減価償却累計額及びその後の減損損失累計額を控除した評価額で計上しなければならない。再評価は、帳簿価額が報告期間の末日における公正価値を用いたならば算定されたであろう金額と大きく異ならないような頻度で定期的に行わなければならない。

 

注意していただきたいのは、再評価モデルは原価モデル(通常の減価償却するだけの会計処理)と、IFRSにしては珍しく選択適用が認められており(29項)、「公正価値を測定できるものはすべて再評価モデルが強制される」わけではないということだ。また、再評価モデルを選択した資産については、その資産が属する種類全体についても再評価モデルが適用されなければならず(36項)、その種類とは、企業活動に於いて性質と使用目的の類似した資産のグループとされている(37項)。

 

 

(英国などヨーロッパの影響?)

 

僕は、この会計基準を初めて知った時、その遙か昔、十数年前に読んだ記事を思い出した。それは「会計・監査ジャーナル」の前身である「JICPAジャーナル」のコラム欄にあったと記憶している。イギリスで活躍されている日本人が寄稿されたものと思うが、そのコラムは、世界統一の会計基準であるIFRSとは逆に、「ところ変われば会計も変わる」という内容だったと記憶している。

 

当時日本は、例のトライアングル体制による法人税法の縛りが強い時代だったから、会計は税法規程に、今以上に、非常に強い影響を受けていた。しかし、しばしばそれが実態を歪めていたことは、僕の恥ずかしい体験を以前に書いた(2012/9/25の記事)。「(税法等の)規程通りに処理することではなく、実態を反映することが会計の役割」と思いながらも、実際にはそうならない現実を見ていた僕には、我が意を得たりの面白いコラムで、印象深かった。

 

記憶によれば、(その当時の)イギリスでは数年おきに固定資産を評価増しする会計処理が行われている、とされていた。この再評価モデルと同じ感じだ。そのときは強い違和感を感じたが、コラムを読み進めていくと次のような社会的背景があることが分かった。

 

みなさんもご存じのように、ヨーロッパには百年以上前に建設された古い建物がたくさん残っている。例えば、ロンドンにもゴシック調の古そうな建物がたくさん残っている(第二次世界大戦の空襲を免れたり再建されたもの)。日本にも寺社仏閣など木造建築を中心にたくさん残っているが、ロンドンに於いて注目すべきは観光資源というより、実際に使用されている建物が多かったということだ。もちろん、企業が所有しビジネスに使われているものもある。

 

日本では建物を、例えば法人税法の規定により、淡々と45年で償却してしまうが、イギリスではそうしなかった。減価償却はするのだが、ときどき、時価を見積って再評価していたのだそうだ。なぜなら、イギリス社会では古いものに価値があるとされており、実際に不動産取引は、古いものほど高額となっていたようだ。(古い建物に需要がある。)

 

もちろん、放っておけば価値が出るというものではなく、常に十分なメンテナンスをして外観にも気を付け、空調や電気設備などなるべく時代に合わせるような改修もある程度はしていた。そのための支出もかなり多かったようだ。それでも古いものは使いにくかったと思うが、古いものに価値を感じる度合いが日本と違うので、価値が上がってしまう。その結果、ときどき再評価をしないと実態と大きく乖離した過小評価が発生してしまう。そういう社会的背景や価値観とマッチしているので、この会計処理が正当化されるというのだ。

 

当時、「なるほど~、価値観が違うと固定資産(建物)の評価増しまで正当化できるんだ。発想が柔軟だなあ~。」と妙に感動した。しかし、今考えると「発想が柔軟だな~」という感想はおかしい。現地の人にとっては、古いものに価値を感じるのが当たり前なのだから、これが当然の会計処理なのだろう。

 

恐らく、他のヨーロッパ諸国でも、程度の差こそあれ同様の社会背景と会計慣行があっただろうと思う。それが、IFRSにも再評価モデルとして残ったのだろう。この会計基準を初めてみた時にそう思った(し、今もそう思っている)。

 

 

(再評価モデルの存在する意味)

 

では、これは、古い建物にそれほど価値を感じない、或いは、そういうメンテナンスや改修をしない日本には役に立たない会計処理だろうか。役立たないなら関心をもってもしょうがないが・・・

 

最近、インフラ危機が叫ばれて、橋やトンネルの維持管理が社会問題として認識されている。これが「作り直すより適切に維持管理して長く使う方が良い」という発想への転換につながるなら、いずれこの会計処理も役立つかもしれない。

 

そういえば、東京駅丸の内駅舎も、免震機能など時代に合わせた改造を加えて大正時代の創建当時の姿に復元された。日本でも歴史的な建造物、特に最初から“価値”を考慮して建築されたものにはとても価値がある。三菱一号館は美術館になってしまったが、こういうものがオフィスや店舗として使い続けられるようになるならば、街の景観としても、中で働いたり買い物をする人々にとっても、とても贅沢、良いことに違いない。もし、社会としてそういう方向を目指す場合には、役立つ会計処理だ。

 

ただ、日本では、本社や間接部門に金をかけるのは良くないとする考え方がある。店舗や工場も、機能とコストは重視するが、資産価値を考慮して建設するイメージはあまりない。実際、「本社ビルを建てると会社が傾く」というジンクスがあって、これは侮れない。ちょうどバブル崩壊とタイミングが重なったからか、僕は何社もそういう関与先を見た。すると日本の固定資産は、これからも再評価モデルの対象外であり続けるだろうか。

 

この問題については、どちらが正しいのか良く分からない。しかし、「会計は実態を反映するし、社会背景が違えば会計処理も変わりうる。IFRSにもそういう面がある。」ということを、この再評価モデルが示しているのは明らかだ。そこで重要になるのは、日本やアジアの社会背景や価値観で世界に紹介すべきものを識別し、それを分かりやすくIASBに伝える役割を担う人が必要ということだ。だからこそ、日本がIASBで重要な位置を占め続ける必要がある。

 

 

ところで、2/24の記事に記載した「IFRS財団の会計基準諮問フォーラム(ASAF)のメンバーに日本のASBJ(会計基準委員会)が入れるかどうか」について、「入れそう」という記事が日経電子版に掲載された(「国際会計基準づくり、企業会計基準委が参加 4月発足の新組織」3/13有料会員限定記事)。今までASBJが地道に行ってきた国際基準作りへの貢献が評価されたのかもしれない。上記の趣旨に照らしてとても良かったと思うし、素直に嬉しい。

 

また、TPPも、自民党のTPP対策委員会が交渉参加を事実上容認する決議をしたという。しかも、「国家百年の計に基づく大きな決断をしてほしい」と訴える内容が盛り込まれたそうだ(3/13日経電子版「TPP交渉入り容認を決議 自民対策委」)。そして、今週中にも安倍首相が参加表明するらしい。まだ安心するのは早いが、ちょっとホッとしている。このまま順調にアベノミクスの3本目の矢の1段目のロケットに点火されることを願う。(ちなみに、自見氏はまだ自民党に復党する見込みが立たないらしい。まあ、これはどうでもよいことだが。)

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