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2013年3月19日 (火曜日)

227.【製造業】減損戻入は面倒だが・・・

2013/3/19

みなさんはキプロスの債務危機問題をご存じだったろうか。僕は昨日、月曜の朝に知ってびっくりした。なんと銀行預金が凍結され、そこから税金(課徴金)が強制的に徴収されるという(19日に議会で承認されれば)。詳しくはこのページ(ロイター)をどうぞ。これはEUがキプロスに財政支援する条件というが、いくらキプロスがEUの中で小さな国といっても、預金から強制徴税するなど直感的に「あり得ない」と感じる異例の措置だ。これではマーケットが驚くのも無理はない。

 

マーケットが驚くと言えば、“多額の”減損損失もそうだ。そして、「そんなに悪くなるまで分からなかったのか?」「(経営者の)打つ手が遅れたのではないか?」「経営者に責任はないのか?」などといった方向の話題になる。次の総会で経営者が交代することもあれば、そうでないこともある。

 

確かに経営者は結果責任を負っている面は免れない。しかし、あまりに急激な外部環境の変化は誰が経営者であっても悪影響を避けるのは困難だ。これを経営者の責任にするのは酷だ。一方で、環境変化を察知する能力に欠け、ずるずると事業内容が悪化していたにもかかわらず適切な組織運営ができず、最後にドカ~ンと減損を出す経営者は責められるべきだ。(しかし、そうなってからでは株主にとっても経営者にとっても遅い。僕ごときが僭越だが、ニュースを見てそういう日本企業がかなりあるように感じる。)

 

この、外部環境か、経営者の責任か、を見分けるにはどうしたら良いだろうか。

 

 

問題は“多額の”減損を出す場合だ。少額であれば、経営の軌道修正の結果通常発生しうる前向きのものと考えられる思う。いや、「減損を出してあればよい」という趣旨でなく、「減損を出したんだから、何か今までと違う対応がとられるに違いない。じゃあ、何をするのか。」とスムーズに思考が前向きに展開できる。しかし、突然多額の減損損失を突き付けられるとびっくりして思考が止まってしまう。そして「じゃあ、(株を)売ってしまおう」ということになりかねない。会社内でも前向きな議論の前に、内向きの責任論へ目が向きがちだ。

 

見分けるより、“多額の”ドカ~ンは、外部環境が著しく変化した場合にのみ発生する、というイメージが定着する方が望ましい。即ち、それだけ経営に信頼感があるという状況だ。まさか、兆候を見逃したりはしないだろうと。(理想主義過ぎるだろうか・・・。でもそれを目指さなければ進歩がない。)

 

 

僕が思うに、ドカ~ンと減損損失が計上されるケースというのは、次のような場合ではないかと思う。(もちろん、これらは複合的に絡まって減損に至るのであり、それぞれが単独に減損に結び付くという趣旨ではない。)

 

A.外部環境の急激な変化

B.減損の兆候に気付かず、或いは、見て見ぬ振りして真の対応が遅れたケース

C.資金生成単位が大きな括りになっているケース

 

Aはやむを得ないとして、BとCに関連する要因の発生をなるべく防ぎたい。それには経営層は当然のこと、それより下の階層、さらに若い人にも、より将来志向的な、長期的なリスク管理を浸透させることだと思うが、これは最近では「のれんシリーズ」の「使用価値」や「割引率」のところ、その前は脱線シリーズなどで何度も触れたので、ここでは止めにする。(僕は、Bを突き詰めていけば、Cも解決できると思う。即ち、大きな資金生成単位を設定している会社が、「資金生成単位をもっと分割できる」と思えるようになると思う。)

 

ところで、「長期的思考」というと、過去だけ振返って済ませてしまう方がいるが、そういう「長期志向」はあまり役に立たない。投資回収という「将来志向」と結びつけてこそ価値がでる。それと、計画を実績が下回る場合に、“不安が高まった”として割引率を引上げることは不思議なことではない。早めの減損に役立つ。こういう将来志向のスタンス、リスクに対する感覚が議論の共通の土壌にならないと、組織決定のタイミングが遅れる。もちろん、この共通の土壌作りに会計の果たす役割は大きい。

 

要は減損の兆候に対する感度を上げて、早めにリスクを識別し対応しましょうということだが、それには日本基準よりIFRSの方が合っている、やりやすい、という話も今まで折に触れて書いてきた。

 

そうすると必然的にちょこちょこ減損が出てくる。そしてIFRSであれば、その戻入が発生する可能性が出てくる。早めに対処することで、減損の原因となった事象が取り除かれ、改善されるケースが増えるからだ。ところが、減損戻入は帳簿管理など事務作業が面倒だ、という話になっている。じゃあ、やっぱり早めの減損は止めよう、戻入が生じる可能性が十分低下してから、即ち、減損が確定するところまで認識するのをやめよう、ということになりかねない。現に、日本基準はそういう発想だ。しかし、それでは本来の経営が求めるスピードには遅い。このままIFRSが導入されたとしても、会計が、IFRSが、経営に役立つ機会は失われてしまう。

 

これはまずい。対処し解決すべき問題だ。何が問題で、それを克服するためにはどうしたらよいだろうか。事務作業の煩雑さが日本企業の経営の進化を阻害するなんて、これこそ国益につながる重要なテーマだ。ということで、こういうテーマが企業会計審議会で議論されたら面白いと思う。例の時代遅れのトライアングル体制にも関連する大問題になるはずだ。

 

ところで、3/12の記事で予告した「僕の工夫」は次回に。済みませんが、たいしたものではありません。

 

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