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2013年3月22日 (金曜日)

228.【製造業】減損戻入の大変さ

2013/3/22

前回(3/19)の記事で触れたキプロスの預金税は、月曜日に東京やアジアの株式市場に激震をもたらしたものの、欧州では、初報の入った16日から時間が経過していたせいか、比較的冷静に受けとめられたようだ。僕はロシアとキプロスの関係を知らなかったので驚いたが、この機会にキプロスの悪弊を正そうというドイツやIMFの気持ちも分かる気がする(もしご存じない方は、ロイターのコラムをどうぞ)。ただ、月曜(18日)時点の日本から見れば、このような奇策に対するEUの説明(或いは報道)が十分でなかったし、遅かったと思う。

 

さて、面倒な減損の戻入れにどう対処するか、というのが今回のテーマだ。実は僕の提案は、誰でも思いつくありふれた案だ。それが実務にならなかったのはそれなりの理由があってのこと。それなのに、あえて提案しても、奇策とか、邪道とか、そんな評価にしかならず、僕は、色々な方々から冷笑を浴びせられるかもしれない。しかし、言いたい。「減損会計の目的はなんでしょう。それを実現できればよいではないですか。」と。

 

ということで、僕の奇策は次の通り。

 

減損損失(累計額)は、減損案件ごとの総額で、償却(戻入)スケジュールと減損理由を管理しよう(但し、償却資産に限る。)

 

 

 

ではまず、なぜ戻入が面倒なのか、そうなる理由を考えてみよう。

 

 ・そもそも減損の帳簿管理が面倒

 

減損したら、減損後の減価償却計算に備えて、固定資産台帳(=減価償却計算の台帳)の帳簿価額を減損後の状況に修正しなければならない(或いは、別の計算システムを使うか)。資産グループには通常数多くの個別資産がある。特に製造業にその傾向が強いと思う。減価償却計算は台帳に登録している個別資産単位で行われるため、減損損失を個別資産に配分計算したうえで、システムに修正入力(或いは、新規入力)する作業は、手間がかかる。

 

システムによっては、年度繰越処理前にこの作業を終わらせないと余計な作業が発生するし、そうでなくても、翌月の月次決算は減損後の減価償却費を反映させたい。だが、決算発表や招集通知、有価証券報告書の作成で忙しいので後回しにしたくなる。それでも、株主総会、税務申告ぐらいまでには終わらせないと、翌期の第1四半期の作業が入ってくる。こうして忙しい時に追加の作業に追われる。(ただ、システムの減損会計への対応状況によって、作業の難易度と量は雲泥の差といって良いほど異なるようだ。)

 

こうなる理由は、減損会計の意見書「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(企業会計審議会)」などの日本基準にあると思う。例えば、この意見書はわざわざ減損処理後の減価償却について触れ、

 

  • 減損処理を行った資産についても、減損処理後の帳簿価額をその後の事業年度にわたって適正に原価配分するため、毎期計画的、規則的に減価償却を実施する

 

  • 減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識及び測定することとしていること、また、戻入れは事務的負担を増大させるおそれがあることなどから、減損損失の戻入れは行わない

 

としている(四、3.減損処理後の会計処理)。即ち、「事務作業の大変な減損戻入をしないから、減損については固定資産台帳を個別資産ごとに修正して、その後の減価償却してください」と読める。

 

また、減損損失は税務上の損金にならないため、上記とは別に減損なしの税務上の減価償却計算を行わなければならない。そして、その差額は一時差異であり、税効果会計の対象となる。この結果、減損された資産グループの固定資産は、その後延々と二重の個別管理が必要になる(いわゆる「二重帳簿」状態)。

 

 

 ・戻入にも同様以上の作業が必要

 

戻入を行うには、固定資産台帳から以前減損対象となった資産を拾い上げる作業に加え、減損時と同様の(但し、評価増し)作業が必要になる。それだけでなく、IFRSでは、減損自体がより頻繁に行われるはずなので、上記の減損の作業も頻度が増えることになる。したがって、減損とその戻入の両方の頻度が増え作業が増える。いわゆる往復ビンタを喰らう状況だ。(なお、戻入は、減損がなかった場合の簿価が上限となるが、そこまで戻るとは限らない。もし戻れば、二重管理は解消され、税効果会計の一時差異項目も減るので、救われる面もあるのだが。)

 

 

 ・加えて自主設定耐用年数になると・・・

 

以上は、「税務上の耐用年数=自主耐用年数」の前提で記載してきたが、両者が異なればそれだけで二重管理が必要だから、さらに減損した資産グループの帳簿は、減損ありの台帳、減損なしの台帳、税務上の台帳の三重管理になる。もし、そういうことに対応したシステムでなく表計算ソフトなど手作業でやろうとした場合は、もはや悪夢でしかない。

 

 

ということで、個別資産の単位で簿価と償却計算を管理するのが大変な作業になっている。これでは減損戻入を敬遠したくなるのも良く分かる。そこで、減損案件ごとの総額で管理する僕の奇策が出てくるというわけだ。

 

ところで、上記に「日本基準のせいで作業が煩雑になっている」ように記載したが、IFRSならこれを避けられるだろうか。実は、IFRSにも、日本基準とあまり変わらない次のような記載がある(IAS第36号「資産の減損」63項)。

 

減損損失を認識した後には、当該資産の減価償却(償却)費は、資産の改定後の帳簿価額から(もしあれば)残存価額を控除した金額を残存耐用年数にわたって規則的に配分することにより、将来の期間にわたって調整しなければならない。

 

これでは、IFRSでも個別資産ごとに減損後の簿価を計算し管理しなければならないのではないか? う~ん、そうかもしれない。だとすれば、僕の提案は、奇策というより駄策かもしれない。みなさんは、きっとがっかりされただろう。しかし、お菓子でも駄菓子にはそれなりの良さがある。好きな人は好きだ。そこで、駄策を味わってみたい方は次回をお楽しみに。

 

 

 

・・・と、本来はここで終わりにしたかった。みなさんはお気づきでないかもしれないが、最近は、特にのれんシリーズ以降長文になっていたので、短くしようと努力している。しかし、今回は、もう一つ話題を付け加えさせてもらいたい。

 

上記の減損とその戻入作業の煩雑さについて書きながらふと思ったのだが、キプロスの預金税は、キプロス議会が受入れたとしても実現可能なのだろうか。僕が気になったのは預金の名寄せ作業と、徴税する伝票(銀行内で使用する振込依頼書みたいなもの)の起票・チェック・入力作業だ。

 

最近は、マネー・ロンダリングを防止するために、システム的に名寄せができることが銀行に求められている。しかし、キプロスではそのマネー・ロンダリングが盛んに行われているという。名寄せは大丈夫だろうか。当初案では免税点も低く、累進性もそれほど高くなかったから、最悪、名寄せをしなくても不公平は大きくなかったかもしれない。しかし、免税点が上がり、より累進性の高い案へ関心が移っているようだ。そうなると、名寄せをやる、やらないで、かなり徴税額が変わるし(EUに課せられたノルマに不足したり、多過ぎたり)、課税の公平性にも影響がでる可能性がある。

 

また、キプロスは週明け(25日が休日で26日)から銀行の営業を再開するとしている一方で、21日も課税案の採決をしない見込みだ。果たして、伝票処理は間に合うだろうか。預金課税はシステム化などされていないだろうから、伝票処理に関してかなり手作業が多いのではないか。預金者の数、或いは預金口座の数だけ作業があるのだから、まるで減損対象となった製造業の資産のように大変だと思う。余計なことだが気になる。

 

でも、IFRSの減損戻入れに慣れたEUの銀行なら大丈夫?

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