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2013年3月29日 (金曜日)

231.【番外編】キプロスの実験

2013/3/30

先週月曜の朝に「キプロスで預金課税」のニュースを見た僕は、強烈に興味をそそられた。

 

「キプロスってどこ?」「預金課税って何?」

 

しかし、第一印象はこんなところだった。キプロスについては、内戦のイメージと世界史の最初の方に名前が出てきたなあ、という程度。恥ずかしながら、ユーロ圏にいたことも知らなかった。

 

ただ、「預金に課税」は、非常に驚きだった。

 

みなさんもご存じのように、預金は銀行事業の根幹資産(会計上は負債)であり、預金なしに銀行業は成り立たない。製鉄業でいえば鉄鉱石のようなもの。その預金を突然封鎖して税金を徴収することは、預金者の信用を失わせ、取付騒ぎによって銀行を崩壊させかねない。そうなれば経済活動には大打撃だ。それをユーロ圏(財務相会合)はキプロスに強いたのだ。きっと、何か訳があるに違いない。

 

しばしば、金融は経済の血液と称される。預金課税はそれを途中で抜き取るのだから、まるで吸血鬼の所業だ。当初預金課税の対象とされた58億ユーロは、GDPが170億ユーロのキプロスにとっては巨額で、抜き取られたら生死にかかわる量だ。そんな吸血鬼が正当化される理由とはなんだろうか。

 

これが、僕の最初の興味だった。しかし、次第に違うところに関心が移って行った。というのは、途中で、やはり正当化できないと分かったからだ。むしろ、そういう困難に直面しても目的を達成しようとする姿勢や手法と、一方で、その難しさが印象的だった。

 

 

では、僕の視点からキプロス危機の現在までの経過をざっとまとめてみよう。

 

3/16(土) 預金封鎖、預金課税を公表(ユーロ圏とキプロス政府の合意)

3/18(月) アジアのマーケットに動揺・懸念が広がるが、ヨーロッパは比較的に落着いていた。

3/19(火) ユーロは下落、主要株式市場で株価下落。キプロス議会による預金課税法案否決観測で。 

     (夜)キプロス議会が賛成ゼロで預金課税を否決。

3/20(水) 代替案の協議入りやロシアの支援報道で、懸念後退

3/22(金) ECBによる流動性支援が25日までと報じられ、懸念復活。

     (夜)キプロス議会代替案(銀行整理、資本規制など)を可決。やや懸念後退。

3/24(日) 可決案では不足との報道。ユーロ圏との協議再開。再び預金課税案協議と報道。懸念復活

3/25(月) 未明にユーロ圏と銀行破綻処理案で合意。懸念後退。円安、株高。

     (夜)ユーロ圏高官の「キプロスはテンプレート(ひな型)」発言でまた懸念復活

3/26(火) 円高、株安基調続く。

3/28(木) キプロスの銀行営業再開。預金引出等は制限。

 

赤い太字は「預金課税⇒懸念」となっており、青い太字は「代替案⇒懸念後退」となっている。したがって、基本的にマーケットは、預金課税に対して良いイメージを持っていないと考えることができる。

 

但し、18日の時点でヨーロッパのマーケットは「預金課税」に対して比較的落ち着いたのに、19日に預金課税案がキプロス議会で否決されそうだという観測が流れてリスク・オフとなった。このことから、マーケット(特に欧州)は、預金課税に良いイメージを持っていないが、それ以上に、キプロスとユーロ圏の合意がより重要という反応を示したといえると思う。

 

但し、オレンジの太字はまた観点が異なっていて、合意はされていてもその内容に対する評価、即ち、預金者に負担を強いるやり方に対する積極的な評価をユーロ圏の高官が与えたらしい、と懸念している。

 

さて、預金課税、特に当初の少額預金者にも負担を強いる方法には、キプロス国民及び議会が強い拒否反応を示した。僕は、18日のアジア・マーケットの動揺と共に、これは正常な反応だと思う。

 

むしろ、落ち着いていたヨーロッパの18日の反応が気になった。そうなったきっかけは、イタリアやスペインの長期債利回りが、いったん上昇したものの直ぐに下げに転じたことだという。即ち、イタリアやスペインの投資家は、「俺たちはキプロスとは違う」と意地を示し、それを他の投資家たちも「なるほどそうだ」と納得したと見ることができる。では、何がキプロスと違ったか?

 

これはみなさんもご存じの通り、キプロスの大口預金はロシアの地下資金(課税逃れの資金)が多く、それを保護するために貴重な血税が使われることを(ドイツなどが)嫌ったという解説がなされていた。ロシア首相が、ユーロ圏にクレームをつけたのも、逆にちょうど良いサポートになったが、どうやらこれはユーロ圏(特に北の諸国)の本音とは違ったらしい。それは後にオレンジのところで表出してくるが、この時点では隠していた。隠しながら協議していた代替案は、最初に少額預金より大口預金に傾斜して課税する案、そして最終的には、大手銀行を整理し、銀行の債権者という意味で預金者に貸倒損失を負担させる案(10万ユーロ以下は全額保護)となっていく。

 

ここでみなさんは、次の2点に気付かれただろうか。

 

「課税」ではなく、「会社整理」にしたことで、

 

  • 普通の企業倒産になった。

 

  • 10万ユーロ以下の預金は自動的にEUの預金保険制度の対象になった。

 

報道によれば、整理されるのはキプロス第2位の銀行で、第1位の銀行へ優良資産を移したうえで、第1位の銀行の大口預金もカットされるという(第2位の銀行をバッド・バンク、第1位をグッドバンクとして整理)。しかし、程度の差こそあれ、第1位の銀行もギリシャ国債で痛んでいた。実際には両方の銀行を整理したのだ。

 

なんだ、それじゃ、全然普通の破綻処理じゃないか。なぜ最初からこの案を採用しなかったのか?

 

みなさんは、そう思われないだろうか。僕は思った。だって、現代に吸血鬼を呼び起こすなんて・・・。もともと、この案が本命だったのだ。そこに戻ってきたに過ぎない。しかし、何か事情があって、預金課税案という吸血鬼が公になったのだろう。

 

さて、ここで僕が想像するユーロ圏の本音を披露しようと思う。その“事情”に関連する。

 

その国にとって大き過ぎて潰せない名門銀行でも遠慮なく潰します。
(そして、株主、債権者に、応分の負担をしてもらいます。)

 

これを公言すればナショナリズムに火がつきかねない。銀行、特にその国を代表するような名門行というのは、国の誇りであり、国民にも非常に馴染んだ存在だ。それが破綻処理されてなくなってしまうのは、かなり耐え難いことだと思う。特に緊縮策に音を上げている南の諸国にとっては素直に受け入れにくいと思う。

 

恐らくキプロスも、金融業を主産業にしていることもあって、今回の騒動になる前段階の交渉で、銀行整理案に激しく抵抗し、やむなく預金課税案を受入れたのだと思う。当初の小口預金にも課税する案はキプロス側が提案したらしいという報道があったが、僕はもしかしたら、預金課税案自体が、キプロス側の提案だった可能性もあると思う。それほど、キプロス政府は、一国の経済インフラである名門銀行を潰したくなかったと思うのだ。これが、上述した“事情”ではないだろうか。

 

また、この本音の薬が効きすぎると、リーマン・ショック後のユーロ危機のように疑心暗鬼を生み、銀行間取引さえ不自由になるような状況にも発展しかねない。もちろん、ユーロ圏の銀行が厳しく資産査定していればそんな心配はいらないと思うので、これは書き過ぎかもしれないが。(しかし、IFRSの金融減損は認識が遅すぎると批判を受けたのに、改正作業が遅れ気味で先日公開草案が出たばかり。)

 

ところが、上記のオレンジの「テンプレート」発言は、ちょっとポイントのずれた波紋を生んでいる。

 

上述したユーロ圏の本音は、政治的にはリスキーでも、経済的には極めて普通の発想だ。しかし、僕の知る限りは、「預金課税が一般化されるのではないか」とか、「シニア債(=リスクの低くおさえた債券)をもカットすることが一般化されるのではないか」といった報道がされている。これはちょっとポイントがずれている。預金課税案は吸血鬼だし、シニア債云々は、通常は、個別の破綻状況による、というのが当たり前だろう。

 

仮に本音が公表されたとしても、マーケットは動揺するだろう。それなら、ずれたポイントで「一般化されるのか」「いや、キプロスは特殊だ」とやりあっていた方が平和だ。恐らく、銀行監督権限がユーロ圏に統合されるまでは、ナショナリズムなどの政治リスクを抑えるために、この本音は隠され続けるのではないだろうか。しかし、それなのに、この「テンプレート」発言が出てしまった。このユーロ圏の高官、オランダの高官は、裏で相当責められているだろう。本来はなくてもよい騒動を引起したのだから。

 

EUがノーベル平和賞をもらうほど、かつてヨーロッパは戦乱の絶えない地域だった。というか、ついこの間まで酷い内戦をしていた地域がいくつもある。それが経済統合を進め、いずれは政治的な統合も目指すという。そんななかで、今回のように一国の経済インフラである大銀行が破綻してなくなってしまうのは、その国の国民にとっては大ショックだ。しかし、ユーロ圏レベルで見れば、大銀行といっても数多くの1行に過ぎない。そこには、国単位の感覚とユーロ圏レベルの感覚の大きなギャップがある。しかし、こういう実績を積上げながら、少しずつ慣れながら、このギャップを乗り越えていくのだろう。

 

一方、ドイツなど常に血税を他国に使われてしまう立場の国にとって、安易な援助には強い抵抗感がある。しかし、日本でも東京など大都市の税収を地方に分配しているが、大都市の税収も地方があってこその利益から生み出されるとの認識があるので、そこまでの抵抗感はない。経済統合を勧め、政治統合にまで進めていくには、この抵抗感を弱める必要があるだろう。ここにも国単位の感覚とユーロ圏レベルの感覚のギャップがある。しかし、報道を眺めていてもこの感覚的なギャップは、なかなか埋めるのが難しそうだ。とはいえ、今回のケースでもキプロスへ100億ユーロは提供される。ドイツ等は負担を受入れているのだ。こうやって、一歩ずつ歩みを進めている。

 

そう考えると、キプロスで起こっていることは、ナショナリズムを抑え、ユーロリズムに置き換える凄い実験だと改めて感じさせられる。日本もアベノミクスは先例のない実験といわれるが、特に第三の矢である成長戦略については、既存概念にとらわれない果敢なトライをしなさい、と後押しされるようだ。

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