232.【製造業】減損戻入~ちょっとボール回し
2013/4/2
早いもので、3月決算会社は新年度入り。アベノミクスで政府と日銀が賭けに出たので、今期は日本企業も勝負の年になりそうだ。これからは、どうやってイノベーションを起こすかが重要で、政府には規制緩和、民間にも新発想が求められる。しかし、会計に携わる者はどうやって、イノベーションに参加したらよいのだろうか。まさか、会計で太陽エネルギーの利用効率が上げられたり、蓄電技術を発展させられるわけはない。
こんな時こそ、引いて眺めて原点に立ち返ってみることが必要だ。会計とはそもそもなんだろうか。
みなさんもご存じの通り、会計は、経営に実態を見せる道具だ(教科書的な書き方ではないが、投資家より、まず経営の利用が先なのは当然の前提)。いままで、何を見せ、何を見せてこなかったか。見せてこなかった中に重要なものがなかったか、或いは、見せたものの中に誤解を生じさせるようなものはなかったか。
ある、ある。僕はそれを、例えば、減損会計の中に見ている。
日本基準では「減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識及び測定する(固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書)」とあるが、僕は「もっと早く、手の打ちようがある段階で」減損すべきと思ってる。手の打ちようがあるのだから、うまくいけば減損の原因が除去されて戻入が行われることもある(必ずしもそうなるわけではないが)。
このもっと早く減損を認識するメリットは、経営者が事業の内部・外部環境変化に敏感になること。企業のリスク管理能力の向上。即ち、意思決定を迅速にし、外部利害関係者がびっくりするような多額の減損が発生する前に対策を打てること。要するに損失の発生を減らしたい。もっと大事なところに目を向けられるように。ディメリットは、このシリーズで書いている手間の多さだ。製造設備が多額になる製造業には顕著に影響する。だが、メリットは大きい。やはり、ディメリットを軽減させなければ。
ということで、前回(3/28の記事)はIFRSでも固定資産台帳(=減価償却台帳)の修正は不可避になりそう、としたが、それを避けて、僕の奇策(前回の記事)が使える可能性を再度追及してみたい。
これに関連して、次の点が重要であることを前回確認した。
(減損会計の目的) 資産価額が回収可能額を上回らないこと。
(クリアすべき条件) 減損後の原価の期間配分(=減価償却)が適正に行われること。
そして、減価償却を適正に行うため(IAS36.63)、減損損失を個別資産に比例配分すべきこと(IAS36.104(b))を、IFRSは規定している。
減損後の減価償却のために、固定資産台帳の修正という手間が発生している。ただ、固定資産台帳を直せと直接書いてあるわけではない(これは日本基準も同じ)。しかし、個別資産に減損損失を比例配分せよ、減損後も適正な減価償却をせよ、と書いてあるから当然の帰結として固定資産台帳を直すと理解できる。(日本基準だと、事務負担に言及しているから、より固定資産台帳の修正を想定していることが印象付けられている。)
では、もし、固定資産台帳を直さなくても適切な減価償却ができるならば、直さなくてもよいか。そう、比例配分したのと同じ結果が得られるならば問題はないはずだ。いや、加えて、前々回(3/26の記事)に記載した僕の奇策の問題点も一つ一つクリアする必要がある。
と、改めて、進行方向を示したところで今回は終えたい。
どうも、サッカーの試合でいえば、攻めあぐねて、ディフェンス・ラインか中盤の底あたりでボール回しをしているように決め手に欠いた展開になっているが、相手は世界基準の名プレーヤーだからディフェンスも強い。あちこちボールを回して色々な角度で見なければ。しかし、次回こそは、ゴールに向かって決定的なスルーパスを出したい。(そしてゴールにつながるか・・・)
« 231.【番外編】キプロスの実験 | トップページ | 233.【製造業】減損の個別簿価修正要求を切崩す縦パス »
「企業会計審議会(IFRS)」カテゴリの記事
- 463.【収益認識'14-04】“顧客との契約”~収益認識モデル(2015.04.22)
- 396.【番外編】会計の本質論と公認会計士の立場(2014.09.14)
- 394.CF-DP67)純損益とOCI~まとめ~益出し取引はどうなる?(2014.09.09)
- 393. JMISに対するIASBの反応と日経のスクープ(2014.09.07)
- 383.修正国際基準(JMIS)の公開草案~OCIリサイクリング(2014.08.06)
「IFRSの前提となる内部統制」カテゴリの記事
- 463.【収益認識'14-04】“顧客との契約”~収益認識モデル(2015.04.22)
- 415.【QC02-09】その他の内部統制(2014.11.06)
- 412.【番外編】小売世界第2位の英テスコで粉飾?(2014.10.30)
- 410.【QC02-08】リスク管理ーIFRSの保守主義(2014.10.21)
- 408.【QC02-07】リスク管理-リスクへの備え(日本の保守主義)(2014.10.16)
「IFRS個別基準」カテゴリの記事
- 579【投資の減損 06】両者の主張〜コロンビア炭鉱事業(ドラモントJV)(2016.09.13)
- 578【投資の減損 05】持分法〜“重要な影響力”の意図(2016.09.06)
- 577【投資の減損 04】持分法〜関連 会社、その存在の危うさ(2016.08.23)
- 576【投資の減損 03】持分法〜ドラマの共有(2016.08.16)
- 575【投資の減損 02】検討方針(2016.08.02)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント