235.【製造業】減損はビジネス評価(ポストプレー)
2013/4/9
先週土曜日にとても嬉しいことがあった。やっと、清水エスパルスが今シーズンの初勝利を飾ったのだ。実は、昨シーズンの終盤から、公式戦ではずっと勝ててなかったので、半年ぶりの勝利といってもよい。先月23日はジュビロ磐田とのダービーマッチ(ヤマザキナビスコカップ)をヤマハ・スタジアムで観戦したが、帰る道すがらその大敗ぶり(5-1)に、つい「減損だっ!」と、監督批判まで口にしてしまった(今は恥ずかしく思っている)。先週土曜日はテレビ観戦だったが、先月とは違って攻守の切り替えが早く、球際の厳しい溌剌としたプレーに、今シーズンの巻き返しへ期待が膨らんだ。減損戻入だ。
さて、前回(4/4)の縦パスまでの復習をざっと。
IFRSには、減損損失を、減損認識単位である資金生成単位(=資産グループ)に属する個別資産にまで配分して、個別資産の簿価修正をするよう要求している。これは固定資産台帳の修正を意味すると理解できるが、それを回避できないか。その突破口を探す手掛かり(=縦パス)となるのが次のポイントだ。
1.減損の認識単位(資産グループであり、個別資産の評価ではない)
2.減損はビジネス評価(直接には資産ではなく、ビジネスの評価をしている)
3.減損後の損益計算-償却方法や耐用年数の見積りの見直し(前提条件の見直しが必要)
今回は具体的例(粉末スープの製造工程)を想定して、上記の1と2を検証してみたい。
例えば、原料をタンク内で特別なノウハウと共に撹乱し、お湯を入れるだけで美味しい粉末スープを製造する工程(=資金生成単位)を考えてみよう。製造工程としては非常にシンプルな想定だが、もう少し具体的に書くと次のようになる。
この工程は、原料(とうもろこしや小麦の澱粉、その他調味料)を、倉庫からフォークリフトなどでタンクの投入口に運搬し、袋を裂いてレシピの比率で投入するところから始まり、温度や湿度に注意を払いながらタンクの中の攪乱状況を管理する。そして、出てきた粉末にダマ(塊)がないことや細菌の状況をチェックして、次の包装工程(粉末スープを小袋へ封入し、箱詰め、段ボール箱詰め、製品倉庫へ入庫する工程)へ受け渡すとする。
■資産グループ
単純な工程でも、次のような固定資産がありそうだ。
・タンクと撹拌設備
・フォークリフト
・秤
・仕掛品(この工程の完成品)の保管設備
・細菌量の検査・測定設備
・これらを格納する建物と土地、空調、給排水、衛生設備
これらは個別に(中古品やスクラップとしての)転売価格を求めることもできる。しかし、それは不幸な試算だ。なぜなら、粉末スープを販売して利益を得るための生産設備として、性能やサイズ、形、組合わせ、配置まで検討を重ねて購入・設置されたものなので、一連のつながりを持ったグループであるときこそ最も価値がでるはずだから。
ところが、残念なことに計画通りの生産ができず、この資産グループの簿価の半分に相当する減損が発生している状況を考えてみよう。
■計画通りの生産ができなかった理由
いかなる理由があったとしても、資産グループの簿価を回収可能価価額が下回れば減損が発生していると判断される。だから、理由は関係ないと思われるかもしれない。しかし、敢えて、この理由と減損との関係を考えて見よう。「計画通りの生産ができなかった」理由は、色々想定できる。例えば・・・
A.計画通りの販売ができなかった場合
・大口の見込み客から正式な受注がとれず、それに代わる顧客を獲得できる見込みがない。
・製品の評価が悪かった(もっと美味しい他社品の存在、価格、品質、納期管理)。
・営業部門が粉末スープに力を入れなかった(他にもっと売りたい製品があった)。
・市場規模予測の失敗、広告宣伝の失敗、・・・
B.受注は計画通りだったが生産ができなかった場合
・設備の不備でダマ(塊)が多く、正常品が少なかった(製造歩留りが悪かった)。
・設備の不備でしばしば細菌量が基準値を超えた(同上)。
・熟練した工程管理者、作業者、設備技術者の確保が行えなかった(同上)。
・生産計画の変更が予想より頻繁で(予定コストでの)対応が困難だった。
C.原材料の調達が計画通りに行えなかった場合
・原材料価格が高騰し計画価格での調達ができなかった。
・品質条件に見合う原材料の調達が困難になった。
などが考えられる。実際にはこれらの理由は複数が絡み合って、容易に改善できない形で現われたときに、減損が発生する。それにしても、上記に挙げた固定資産グループの資産と直接関係のない理由が多い。個別資産との関連はさらに希薄だ。むしろ、関連部門も含めた“人”の要素の多さ(経営環境の変化への対応能力を含む)に驚かされる。それにもかかわらず、この製造工程(=資金生成単位)の“資産(=資産グループ)”の評価が減損会計によって切下げられる。
■減損会計による“資産評価”とは
なぜなら、減損会計による評価は、個別の資産ではなく、ビジネスの良し悪し(=自己創設のれん)について行われているからだ。であれば、ビジネスとしてのまとまりの単位である資産グループとしての評価を切下げればよいのであって、個別資産の簿価まで修正する必要はない。したがって、IFRSが、減損損失を個別資産に配分し、個別資産の簿価を修正する理由は、減損会計の目的(=簿価が回収可能価額を超えないことを保証する)と直接関係があるとは思えない。一般繰入率による貸倒引当金のように、対象資産グループに対して間接控除する形で簿価を実質的に減額させれば用は足りるはずだ。
それで済ませない理由は、減損会計とは別のところからきていると思う。即ち、「減価償却費(=期間損益計算)の適正性を確保する目的」によるものだろう。ということで、今度はIFRSの減価償却費についての規程(IAS第16号)を見てみよう。(なんか理屈っぽくなって申し訳ないが・・・)
やはり、今回はここまでにしたい。理屈っぽいうえに長くなってきたから。しかし、みなさんにはもう少しこの理屈っぽさにお付き合い願いたい。次回は、IAS第16号「有形固定資産」が適正に減価償却費を計算する条件として、どのようなことを定めていて、それがIAS第36号「資産の減損」の減損損失の個別資産への配分を要求する規定と関連するかどうかを検討したい。それによって、何か突破口が見えてくるかもしれない。
ということで、今回は、縦パスをちょっとサイドに振ってみた。
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