237.【製造業】減価償却からサイド攻撃
2013/4/16
一昨日(14日)は、北朝鮮をジョークにしようと思案していたが、ついに良いアイディアは浮かばなかった。例えれば、タラちゃんがなぜか泣き止まず、サザエさんやマスオさんを困らせているとか、或いは、マジンガーZのドクター・ヘルが突然テレビに現われて「襲うぞ~」と予告するが、実は襲わせる機械獣がない。こんな状況と思うが、どうも面白くない(懐かしくはあるが)。そんなこと考えながら、久しぶりに裏山登りをしたらひどい筋肉痛を起こし、今は不自由でしょうがない。北朝鮮から思わぬダメージを受けた感じでちょっと悔しい。
さて、今回のテーマは「減損後に適正な減価償却を行うには、減損損失を個別資産ごとに配分する簿価修正が必要か」という観点で、IAS第16号「有形固定資産」の減価償却関連の規程を眺めて見ることだった。前回(4/9の記事)のポスト・プレーを受けて、ちょっとメイン(=減損会計)から逸れるが、サイド攻撃を試みてみよう。
それでは、早速、IAS第16号から関連しそうな規程を拾うことにする。いつものように、青字は引用、黒字は僕の加筆。(規定を読むのが嫌な方は、下にポイントを記載しますので、飛ばしていただいても結構です。)
- 償却可能額とは、資産の取得原価(又は取得原価に代わる他の金額)から残存価額を控除した額をいう。(6項;用語の定義)
- 帳簿価額とは、資産が減価償却累計額及び減損損失累計額の控除後で認識されている価額をいう。(同上)
- 減価償却とは、資産の償却可能価額を規則的にその耐用年数にわたって配分することをいう。(同上)
- 資産として認識した後、有形固定資産項目は、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額で計上しなければならない。(30項;原価モデル)
- ある有形固定資産項目の取得原価の総額に対して重要な各構成部分は、個別に減価償却しなければならない。(43項;減価償却)
- 有形固定資産項目の重要な構成部分には、同じ項目のその他の重要な構成部分に係る耐用年数および減価償却方法と同じ耐用年数と減価償却方法を有しているものがある。当該部分については減価償却費を算定する際にグループ化することができる。(45項;同上)
- ・・・。企業がこれらの部分(=個々には重要でない構成要素)について異なる予測を行っている場合には、当顔構成部分の消費パターン又は耐用年数若しくはその両方を忠実に表現する方法で残存部分(=個々には重要でない構成要素のグループ)の減価償却を行うために、近似値法が必要となる場合がある。(46項の一部;同上)
- 使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予想されるパターンを反映するものでなければならない。(60項;減価償却方法)
- 資産の償却可能価額を耐用年数にわたって規則的に配分するために、種々の減価償却方法が用いられる。そうした方法には、定額法、定率法及び生産高比例法がある。・・・(62項の一部;同上)
以上から、僕が重要と思ったポイントは以下のとおり。“屁理屈”と思われるかもしれないが・・・
1.簿価は、減価償却と直接関係ない。
確かに、帳簿価額(=簿価)は、取得価額から減価償却累計額と減損損失累計額を控除したものとされているが、それはB/S開示を意識したものであって、減価償却とは関連付けられていない(上記4)。減価償却は償却可能額と直接関連し、償却可能額を規則的に期間配分する手続とされていて(上記3、9)、簿価と減価償却は直接関連付けられていない(上記1~3)。ならば、減損後の簿価修正は、(理論上)必須ではない可能性が考えられる。
2.減価償却の“計算手続”はあまり重要ではない。
しかし、一部の方は、「それがなんなの。例えば、定率法を採用してたら、当然(期首)簿価が関係してくるでしょ。」と言われるかもしれない。
日本語で「定率法」と翻訳されている英語は「The diminishing balance method」だが、直訳すれば「残高が先細っていく方法」であり、日本語の「定率法」からイメージされる「期首簿価に一定率を乗じる方法」はその一つに過ぎない。
これについて突き詰めていくとそれだけで一日分の記事の長さになるので、ちょっとだけ書く。例えば、昨年12月に公表された公開草案「減価償却及び償却の許容される方法の明確化」の日本語訳(IASBのHP)の8ページを見ると、上記の9(=62項の一部)は(英文は変わってないのに、なぜか)次のように書き換えられている。
「・・・さまざまな減価償却方法が使用できる。こうした方法には、定額法、定率法及び生産高比例法が含まれる。」
(書き換わったことは別に良いのだが、こちらの方が)例示された減価償却方法が、認められる方法の一部に過ぎないことをより明確に表現している(なお、「含まれる」の英文は「include」で、「例示」をする際によく用いられる)。IFRSにおいて重要なのは、「資産の消費パターンを反映する規則的方法か否か」であって(上記8、9)、「期首簿価に一定率を乗じるかどうか」というような計算手続ではない。
このことは、定率法や定額法の説明にも良く表れている。62項の上記引用を省略した部分にそれがあるが、「一定額の費用が計上される」とか、「逓減的な費用が計上される」といった計算結果で説明しており、「耐用年数で除する」とか「一定率を乗じる」といった計算手続に関する記述はない。重要なのは計算結果であり、計算手続ではない。したがって、「定率法なら(期首)簿価と関係する」と計算手続で決め付けない方が良い。
3.“個別資産ごとかグループでも良いか”(=計算単位)には拘らない(但し、重要でないものに限る)。
減価償却費の計算結果が同じになるならば、複数の「重要でない構成要素」をグループ化してまとめて計算することができる(上記6)。耐用年数や償却方法の異なる資産をまとめて減価償却計算することも、計算結果が近似するなら、容認される(上記7)。ということは、個別資産ごとの簿価修正が不要なケースもありえる!?
さあ、これでIFRSの考え方がより明確になってきた。“屁理屈”と思われた方も、「もしかしたら」という気になってこないだろうか。
IFRSでは、プロセス(計算過程や計算単位)の厳格さより、適切な計算結果(=消費パターンの反映)が得られることの方が重要だ。お気づきだろうか。これは計算手続の厳格さを重視する伝統的日本基準と大きく違う、というより、正反対の考え方だ。この辺りは、日本基準に精通した方ほど先入観や固定観念を持ちやすいので、お気を付けを。(これは以前(2012/2/8の記事などに)書いた「継続性の原則のゆっくり滑り」にも共通するものがあるような気がする。)
これで僕は、減損後の個別資産ごとの簿価修正が必須かどうかという問題について、ちょっと希望が見えてきたような気がするが、みなさんはいかがだろうか。
但し、計算単位をまとめることについては、まだ「重要でない構成要素(≒個別資産)」という縛りがあるから、決定的なセンタリングを上げられるほど十分に相手ディフェンダーを崩せてない。次回は「何をもって重要と考えるか」を明確にすべく、さらに深くドリブルしてサイドをえぐってみよう。
ただ、筋肉痛が直らないとドリブルにキレがでない。北朝鮮め。
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