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2013年4月19日 (金曜日)

238.【製造業】減価償却単位を決める重要性(ゴールラインをえぐるドリブル)

2013/4/19

減損の戻入は手間がかかる。それで日本基準では戻入が禁止されている。しかし、既存の損益管理から脱してリスク管理を強化するには、より経営の原点に近づき、投資の回収に着目せざるえない。即ち、減損会計の活用を考えざるえない。しかし、それには固定資産台帳(=減価償却台帳)を個別修正する手間を避け、機動的に減損会計を使えるようにする必要がある。

 

ということで、この手間を省くことはできないかと検討を重ねてきた。すると減損は、本来、個別資産を評価する手続ではなく、その資産を利用した「ビジネスの評価」であることが分かった。ならば、減損損失を個別資産に配分しなくても良いではないか、ビジネスの単位(資金生成単位)以上に細かくする必要はないではないか、と言いたいが、IAS第36号「資産の減損」には個別資産に比例的に配分せよとされている。どうやら、減損会計というより減損後の減価償却にその理由があるらしい(4/9のポストプレー)。

 

そこでサイドに振って、IAS第16号「有形固定資産」の減価償却の規程からの攻撃を試みた。即ち、どうすれば適正な減価償却といえるかを探ることだ。それで分かったことは、日本では計画的・規則的な手続を継続することで減価償却が適正になると考えられているが、IFRSでは、そのような計算プロセスではなく、資産の使用パターンを反映する計算“結果”を得ることだった(4/16のサイド攻撃の記事)。ならば、使用パターン、即ち経済実態が反映された計算結果になっているという説明ができれば、個別資産の簿価を固定資産台帳まで修正する必要ない。但しIAS第16号でも、償却計算の単位である、固定資産台帳への記帳単位は、“重要なもの以外”のグループ化は認められていたものの、重要なものは個別記帳が必要となっている。では、その“重要性”とは一体何か、というのが今回のテーマだ。

 

 

“減価償却単位”とタイトルに記載したが、これは固定資産台帳(=償却台帳)に記帳する資産の単位、即ち、個別資産のこと。通常は、この単位で取得価額と残存価額(=償却可能額)、耐用年数、償却方法が決められ、あとはそれに従って規則的(=機械的)に各期へ減価償却費が計上される。

 

非上場会社などでよくみられるのは、ど~んと多くの資産を1つにまとめて固定資産に登録する実務だ。このメリットは、固定資産台帳に登録する手間が省けること。しかし、多くの場合、一部除却時に除却資産の簿価をうまく分離できないとか、減価償却費をコスト・センターなど管理単位へ配分することができないとか、資産を他の場所(=管理単位)に移動するとき困るとか、本当は耐用年数や減価償却方法が異なるものまでまとめられているなど色々弊害があって、監査人は、もっと細かい単位で登録するよう指導する。

 

しかし、指導するのは良いが、それを実務にするのは意外と難しい。

 

ここで、4/9のポストプレーの記事に出てきた小麦粉や調味料を混ぜるタンクと攪乱設備に戻って考えてみよう。このタンクに原材料を投入し、温度や湿度に注意しながら攪乱し、粉末スープがダマ(塊)にならず均一に混ざり、かつ、お湯をかけただけでスムーズに溶けるように混合するのだが、この機械の見た目はタンクが1つ、ど~んとあるだけだ。タンクの中にある攪乱設備は直接見えない。それなら、このタンクをまるごと1つとして“減価償却単位”として固定資産台帳に登録すればよいだろうか?

 

タンク自体は金属製で、何十年でも使用可能だ。しかし、内部の攪乱設備はモーターあり、羽あり、ヒーターや加湿器があり、もちろん、温度計や湿度計のセンサーもある。これらの耐用年数は明らかにタンクより短い。では、これらをバラバラにして個別に固定資産台帳に登録するか?

 

ここまでを読んで、「IFRSでは飛行機のエンジンを機体と別に認識することがある」という話題が数年前にあったことを思い出された方もいらしたと思う。実は、これと同じ議論だ。別にIFRSだから“特別”という話ではなく、日本基準においても昔からある伝統的なテーマだ。ただ、見た目に一体に見える物をさらに細かく分割する可能性について“大きく取り上げた”点には新味があった。

 

1つで登録するか、それとも分けて登録するか。前回(4/16)の記事で見たように、これをIFRSでは“重要性”で判断せよ、ということになっている。ところが、この“重要性”(=significant part of an item of property, plant and equipment)がなんであるかが、詳細に説明されてない。ということは、原則主義的に、趣旨を生かすよう細目は各々が判断せよ、ということになる。経営者が、或いは、実務の中の判断で、各社の事情に合うように決めていくことができる。

 

 

では、各社の事情に合うように決めるとは、具体的にどういうことだろうか。

 

それにはまず、「◯○設備の耐用年数は、すべての会社で一律10年」では“ない”ということを理解することが重要だ。◯○設備の耐用年数は、国税局などが一律に決めるものではなく、各社が直面している経営環境の変化に対応するための経営戦略・戦術等で決まるものだからだ。大袈裟な物言いに思われるかもしれないが、決してそうではない。

 

極端だが、典型例を一つ。- 半導体製造装置

 

2006年時点では、半導体製造装置の経済耐用年数は3年(法定耐用年数は5年)と言われていたようだ(野村総研のレポート)。ご存じのように、半導体の集積密度は1824カ月で倍増するという「ムーアの法則」なるもの(≒経営環境の変化)があって、短期間で性能を向上させるために、製造装置のライフサイクルも短くなる。したがって、3年で投資を回収できる戦略を描く。だが、中には、4年目以降も生産規模を縮小しても生産を続けられるような市場を開拓するという戦略を採用した会社があったかもしれない。すると、耐用年数や償却方法は、前者と異なってくるはずだ。また、どちらにしても税法基準に合わせて5年で償却するのでは、経営戦略と会計が分かれてしまい、会計を見ても事業の実態、業績が分からないことになる。

 

また4/9のポストプレーの記事の例に戻って話を作ってみる。

 

その会社では、従来の小麦やとうもろこしの澱粉が入ったポタージュ系のスープに加え、新製品としてコンソメ系の透き通ったスープも発売しようという話が持ち上がった。コンソメ系スープを生産するには、澱粉質の代わりに鶏肉や牛肉などからエキスを抽出する生産工程を新たに加え(新規設備投資)、従来以上に豊かな風味と旨味を引出す必要がある。加えて、このエキスを使えば、既存のポタージュ製品がもっと美味しくなり、売れ行きが良くなる可能性があった。しかし、既存ポタージュ製品に使用するこのエキスの量は、コンソメ製品に使用する量に比べ少量であり、それだけではこの新規投資を20%しか回収できない。

 

そこで、問題は残りの80%を回収する道筋、戦略だ。A案とB案の2つが提案された。A案は、オーソドックスな息の長いコンソメ商品にじわじわと育てようという案。B案は、それでは既存メーカーと正面からぶつかるので勝ち残るのが難しいから、ちょっと特徴のある味にして、飽きられたとしてもブーム的に短期間でなるべく多くの投資を回収しようという案。そこで、市場調査(一般顧客や流通業者に対する試飲会など)をしたところ、次のことが分かった。

 

  • A案の製品は、やはり競合他社製品との味や包装デザイン等での差別化が難しく、その結果、価格競争が厳しくなりそう。また、じわじわ売るのはスーパーの棚にスペースを確保することが難しいので、流通業者が歓迎しない。

 

  • B案の製品は、記憶に残る味との評価があり、流通業者も好意的。

 

そこで、B案の戦略を採用することにした。春・秋の新製品発売シーズンごとに手を変え品を変え工夫すれば、3年間はコンソメ系製品を維持できそうということで、80%については、3年で償却する方法を採用することにした。もちろん、もし4年目も行けそうなら行く。

 

仮に、エキス製造工程設備の法定耐用年数が10年だとすると、それを理由に10年で投資を回収する事業計画を作成すれば、それは製品市場を無視した画餅になってしまう。法定耐用年数で償却することより、直面している経営環境、特に製品市場を優先するのは当たり前だが、当たり前が当たり前でないことがあるのも当たり前なので、注意が必要だ。みなさんの会社はいかがだろうか。「先のことは分からないから、取敢えず法定耐用年数で」というのはよく聞く話だが、それでは投資の回収が意識されているとは言えない。投資を回収するにはもっと経営環境を深く掘り下げて理解することが必要だ。

 

 

ちなみに、耐用年数や減価償却方法は会計上の“見積り”であり、経営者の判断によるものとされている。では、今回のテーマである“減価償却単位”はどうだろうか。僕はこれも“見積り”だと思う。一律に決められるものではない。上述した耐用年数や減価償却方法のように、各社の事情で経営者や実務の中で判断され決められる。

 

仮に、3年間後に飛行機を売却する、即ち、3年間しか飛行機を使わない事業計画があったとすれば、エンジンと機体を区分する必要はあるだろうか。物理的にエンジンの方が先に寿命が来るが、使用期間が3年では、その物理的な差はない。エンジンを区分することに重要性はなくなる。したがって区分も必要ないだろうと思う。やはり、“減価償却単位”は、すべての会社に共有されるような普遍的な共通基準があるのではなく、各社の事情(経営戦略・戦術等)に基づく“見積り”の一部と考えて良いと思う。“見積り”であるならば、状況が変化すれば変更される。例えば、減損損失が計上されるような事態になれば、見直されるべきものということになる。

 

 

さて、以上の結果、減価償却単位を決める重要性のルールは、各社の事情(経営戦略・戦術等)に依存すると考えてよさそうだ。例えば、上記A案を採用する会社があれば、コンソメ用エキス製造装置は一塊として固定資産台帳に登録されるかもしれないが、B案を採用する会社では、少なくとも20%80%に区分して記帳されるに違いない(それぞれに異なる耐用年数が設定されるから)。

 

これで一応今日のテーマは結論が出たが、これでセンタリングを上げられるだろうか。いや、残念ながら、まだ早い。

 

これは一般的な減価償却のケースであって、このシリーズの目的である減損された資産の減価償却の話には至っていない。即ち、サイドをドリブルで駆け上がりゴールラインまで来たものの、もう一度中央(=減損会計)に向かって切り返えし、ゴールに近づかないとセンタリングを上げられない。そこで次回は、減損された資産の適切な減価償却とはどういうものか、というテーマを考えてみたい。

 

今回は久しぶりに長いドリブル(長文)になってしまった。サッカーならサイドを駆け上がる長いドリブルには、お客さんが歓声を上げる。しかし、ブログはそうはいかない。それは分かっているが、相手ディフェンスが強力なので、ご勘弁願いたい。

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