239.【製造業】損益管理より投資回収管理(フェイント)
2013/4/22
減損した事業はどうなるか。
投資額を回収できない見込みになった事業は、投資が失敗する見込みの事業ということになる。ただ、減損会計の評価単位は、一般的にイメージされる事業の単位より小さな単位、“資金生成単位”、或いは、“資産グループ”と呼ばれる単位なので、事業全体の失敗とはならない。ただ、その小さな単位は、企業の管理単位となっているはずなので、管理責任者はいる。担当部門もある。では、そこの部門及び責任者の失敗となるだろうか。
こんなふうに、「減損 ⇒ 担当部門の失敗・責任の発生」と連想する方は意外に多いと思うが、僕にはちょっと違和感がある。確かに、減損の発生はどこかの誰かの失敗(=自己創設のれんの毀損)を強く示唆するものではあるが、どこの誰がどんな失敗をしたかを直接示すものではない。担当部門の人ではない人々、例えば、計画を作成した人、承認した人、関連する他の部署の失敗によるものかもしれない。或いは、不可抗力的な外部要素の変化によるものかもしれない。原因分析が必要だ。
そもそも、この原因分析は日常的な管理活動の中で行われるべきものであって、減損したから行うという性質のものではない。そんなことでは遅すぎるからだ。しかし、多くの企業では、この日常的な管理活動が“損益管理”を中心に行われており、何度か記載したように「損益管理=投資回収管理」ではないため、この原因分析が日常的に行われていない。損益管理という狭い観点でしか管理が行われていない。
そこに減損損失という“損益”が見えてきたときに、驚いて、ようやく原因分析に取り掛かる。しかし、外部環境はどんどん変化するし、すでに計画時の前提が忘れられたり、計画が検証に値するほど根拠が残ってなかったりして、原因分析は中途半端に終わる。したがって、減損後の事業も十分な改善が期待できない。或いは改善に時間がかかってしまう。失敗から学べるものが少ない。
僕が“損益管理が狭い”と思う理由は2つある。一つは上記の事業の実績評価に関わるもので、事業のライフサイクルとか、成長率とか、大きな外部環境の変化、特に顧客に関連する計画時の前提の変化を検証し、理解する機会が少ない。
もう一つは事業の改善に関わるもので、損益管理だと追加投資が行いにくい。
投資回収管理の発想であれば、すでに行われた支出にはあまり注意が向かず、これからのキャッシュ・イン・フローを如何に増やすかを考えるので、今後投資額以上の回収が見込めるのであれば追加投資も検討される。しかし、損益管理だと資産計上された支出の減価償却費がそれを邪魔する。追加投資がしにくくなる。したがって、大胆な発想による現状打破が行われにくいと思う。
本当の失敗の原因が分からず、かつ、大胆な改善策が打ちにくい。こういう状態で減損をすればその事業の行く末は暗い。このところ、相次いで多額の減損損失を計上した家電メーカーなどがこういうパターンではないこと願う。事業環境が正確に把握されないまま、それが耐用年数や減価償却方法に反映されることもなく、単純に会計的に減損損失を計上しただけになってしまう。例えば、事業のライフサイクルが短くなっているとか、製品開発の方向性が顧客のニーズに合っていないのにそれが認識されなければ、また減損を繰返す可能性が高まる。即ち、(減損)会計が経営に役立たない。会計が経営に気付きを与えられていない。或いは、気付きを与えるタイミングが遅い。
とにかく、減損後の減価償却がどうあるべきかを考えるには、損益だけの発想ではダメで、投資回収の原点に戻って事業全体を見直す必要がある。そして本当は“減損”というタイミングだけでやることではなく、もっと日常的な管理活動の一環として繰返し行われるべきことだと思う。
ちょっと話が暗いので、今回はここまでにして、短く終わりにしたい。ゴール方向(=減損会計)には方向を変えたのだが、ディフェンダーの目先を変えるためにフェイントをかけた、ぐらいの感じだろうか。しかし、減損後の減価償却がどうあるべきかを考えるには、このフェイントによる方向転換、発想の転換が重要だ。センターリングを上げるタイミングは、いつになるか。まだであるが、着実に近づいている。
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