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2013年4月25日 (木曜日)

240.【製造業】減損後の減価償却(センタリング)

2013/4/25

我社の製品は、お湯を注ぐだけで美味しいポタージュ・スープになるのだが、残念ながら計画通りには売れなかった。それだけならまだよいが、どうやらこのままでは投資を半分しか回収できないらしい。肉のうまみを凝縮したエキスの生産を内製化し、製品をよりおいしく改良する計画があるが、残念ながら、味の問題で売れなかったのか、広告に問題があったのか、営業活動に問題があったのか、或いは、生産に問題があったのか、原因が解明されていないので、その効果のほどは未知数だ。

 

4/9の記事で僕が書いた例は、4/19の記事を経て、いま、こんな感じになっている。今回は下記のように3つ(積極的に梃入れ、消極的に事業継続、撤退)に場合分けをして、減損後の減価償却の話を進めていきたい。これを見ていくポイントは、減価償却単位をグループ化し、複数の個別資産をまとめて計算できるかどうかだ。IFRSでも、減損後の減価償却計算のために「減損損失を個別資産に比例的に配分する」とされているが、計算結果が同じ(或いは近似する)ならば、個別資産をグループ化した単位を減価償却単位にすることができる(4/16の記事)。そうすれば、減損損失の配分はそのグループ化した減価償却単位に行えばよく、個別資産にまで配分しなくてよいと考えられそうだ。

 

 

(a) 梃入れパターン

 

先のことなど分からない。しかし、もしこの製品に相応の価値があるとすれば、売れない理由があるはずだ。その分析を十分に行って、結論に一定の自信があれば、追加投資をしてでも事業を継続するだろう。ただ、減損の発生に気付くのが遅れ、期末時点でその結論(新しい事業計画に基づく見積もり)が実績で多少でも検証できる状況になければ、減損損失の計上は免れないだろう。その場合のスープ製造設備の減損後の減価償却は・・・

 

・耐用年数に変更なし(但し、追加投資分について後述)

・減価償却方法に変更なし

・減価償却単位も変更なし(但し、そもそもあまり細かい単位である必要性は薄い。理由は後述。)

 

例えば、売上不振の原因分析の結果、お湯をかけた時の粉末スープの溶け方がイマイチだったのが最も重要な欠陥だったという結果が得られたとする。そして、それを克服するために、小麦由来の澱粉と、とうもろこし由来の澱粉の配合を変更し、お湯に溶けやすくしながら、それで味の落ちる分は内製化したエキスの旨味で補う戦略を立てたとする。広告は美味しいのに溶けやすい特徴を強調するために、スープ発売初年度並みの予算を追加する。製造工程は、基本的には原料の配合を変更するだけなので追加投資は不要とも考えたが、一層厳密に温度・湿度を管理し品質を安定させるために、より高性能のセンサーを導入し、かつ、より少ない要員で管理できるよう積極的に管理精度アップ及び合理化の投資を行う。

 

期末時点で、これらの新しい製品の売れ行きが好調であるなど新しい戦略の実現可能性が検証できれば、これらの製品を前提とした将来キャッシュフローで減損が判定される。もしかしたら、減損は不要かもしれないし、事前の試算より減損損失が減少するに留まるかもしれない。後者のケース、減損損失を計上する場合は、追加投資した製造設備についても減損損失が計上される。

 

また、期末時点でまだ新しい計画の有効性を検証できない状況であれば、既存設備を対象にした事前の試算ベースの将来キャッシュフローで減損損失が計上される。

 

当初のスープ事業の事業計画の主要な前提(ライフ・サイクルなど)を変更していないし、生産体制の変更も大きくないので、減価償却の前提(耐用年数等)も変更が見込まれない。ただ、追加投資したセンサー等の製造設備についてはちょっと注意が必要だ。

 

即ち、センサー等の耐用年数は、恐らく、スープ事業開始当時から使用しているタンク等の製造設備の残存耐用年数を超えられない。もし、税法の耐用年数が10年であったとしても、タンク等の残存耐用年数が7年しか残っていなければ、今回の追加投資分も7年で償却することになる。なぜなら、耐用年数は事業のライフ・サイクルの想定とリンクしており、減損が検討されるような状況で、事業のライフ・サイクルが延ばせるとは思えないからだ。事業が順調であれば、当初計画した事業年数(=ライフ・サイクル)を超えて事業を継続することはあり得るし、事業が軌道に乗った段階で、ライフ・サイクルの想定を外すこともあり得ると思うが、この状況でそれはない。

 

ところで、このシリーズ「減損戻入」で重要なのは「減損損失(累計額)」を個別資産に配分するか否かだ。配分しないで済むなら、手間のかかる固定資産台帳(=減価償却台帳)の修正を行わずに済ませられる。もちろん、それが可能なら、減損戻入が生じた場合もこの台帳の修正を不要にできる。この追加投資分の耐用年数については、ここに関係してくる。製造装置等の“残存”耐用年数がそろっている点が重要だが、詳細は後述する。

 

(b) とりあえず事業継続パターン

 

先のことは分からないから、売上不振の原因分析もあまり手間をかけない。そのため抜本的な対策なしで営業施策の工夫とコスト・セーブで対応することとする。スープ事業の事業計画の前提に大きな変更はないから、減価償却に係る前提(見積り)も変わらない。即ち、・・・

 

・耐用年数に変更なし

・減価償却方法に変更なし

・減価償却単位も変更なし

 

そもそも、こういう会社は事業計画(特に個別投資案件の実績フォロー)にあまり重きを置かないから、減損の発生が見込まれる事態になってもライフ・サイクルなど事業の前提を見直さないだろう。いったん始めた事業は永遠に続けるとの前提の下、耐用年数も、税法基準に依っている可能性が高い。

 

税法の耐用年数は、製造設備(機械及び装置)に関しては何を製造するかで概ね決められている。例えば、「食料品製造設備」は10年、「フラットパネルディスプレイ、半導体集積回路又は半導体素子製造設備」は5年などと。したがって、事業を開始して3年目に取得したものは、事業開始時点から使用しているものに比べて、耐用年数が3年長い。確かに、事業を廃止することがなく、永遠に続けられるのであれば、それでも障害にならない。しかし、新規事業を起ち上げたり、選択と集中が重要となる経営環境では、事業のライフ・サイクルを想定し、その範囲で耐用年数を設定することが必要なことが多いはずだ。

 

例えば、居酒屋やコンビニ、その他小売業では、各社の戦略に基づき店舗の立地条件を見直し、移転したり、定期的な改装の時期・期間を想定して投資を行う。製造業も製品寿命の短命化や技術基盤の大幅な変化、グローバル化を反映した適地生産などの戦略・戦術的要因で、製造ライン改造から工場の新設・統廃合に至るまで、変化の頻度が上がっていると感じている会社は多いはずだ。

 

だが、事業のライフ・サイクルを考慮せず、税法の耐用年数を利用していれば、いざという時に多額の減損損失や除売却損に悩まされて経営判断に雑念が入り込むに違いない。大事なのは将来キャッシュフローをどれぐらい稼げるかであって、すでに支出したものに対する減損損失や除売却損ではない。表現は悪いが、それを気にするのは亡くした子の歳を数えるようなものだ。

 

さて、これがメイン・テーマの固定資産台帳の個別修正にも多いにかかわってくる。税法の耐用年数を適用している場合、各製造設備の“残存”耐用年数は取得時期によってバラバラなのだから、その後の減価償却計算も大変だ。例えば、“残存”耐用年数7年の製造設備は減損後の償却可能額を7年で除して、或いは、7年の償却率を乗じて減価償却を計算する。“残存”耐用年数10年のものには、10年用の計算が必要だ。その結果、“残存”耐用年数の異なるごと、それぞれに減損損失を配分し、減価償却方法に対応した個別の計算を行わざるえない可能性が高い。

 

(c) 撤退パターン

 

スープ事業を儲からないと見切って、撤退を決めるパターン。できるだけ早く事業を畳むのが良いか、それとも損益は赤字でもキャッシュフローは当面黒字なので数年継続させるかは状況次第だが、いずれにしても撤退までの多少の期間は設備が稼働するだろう。このようなケースで減価償却はどうなるか・・・

 

・耐用年数は撤退予想時期まで短縮。“残存”耐用年数は基本的にはみな同じ年数に短縮される。

・減価償却方法は予想される減損後の製造パターンに合うものを選択。

・減価償却単位は、物理的な個別資産ごとである必要性が著しく減少。

・最終処分額を見積りなおすことで償却可能額も変わるかも。

 

ここで注目していただきたいのは、減価償却単位だ。計算としては、“残存”耐用年数がみな同じで償却方法も同じであるならば、個別に計算しようが、まとめて計算しようが、結果は変わらない。あとはコストセンターに減価償却費を計上できるとか、資産の種類(勘定科目)ごとに減価償却費を計上できるとか、その程度のことを考慮すれば、物理的に複数の資産についてまとめて減価償却費を計算しても、IFRSでは、多分、問題ない(4/16の記事の、「計算結果が重要で、計算プロセスはあまり重要ではない」との“僕なりの”検討結果を思い出していただきたい)。

 

 

実は、この撤退パターンを理解することがとても重要だ。事業のライフ・サイクルを想定した事業計画を策定するとは、この撤退パターンを事業計画の終わりに組込むことに他ならないからだ。(a)のパターンで、もしそういう事業計画になっていれば、そして事業開始後の事業運営もそれに従っていれば、「残存耐用年数がみな同じ」というこの撤退パターンの特徴は、(a)のパターンでも成立っている可能性が高い。或いは、事業が順調なためにライフ・サイクルを想定していなかった事業でも、減損発生の可能性を認識した時点で、耐用年数の見積りを変更し、残存耐用年数を揃えることが考えられる。

 

そして、この特徴が成立つのであれば、減価償却単位も物理的な個別資産ごとである必然性が薄くなる。個別資産をまとめてグループとして計算が可能だ。であれば、減損損失累計額を各個別資産に配分する必要はなくなる。(資産移動時にどうするかなど、3/26の記事に上げた問題点への対応は別途検討する。)

 

 

おやおや、困ったものだ。今回も長文になってしまった。おまけに・・・

 

減価償却単位を個別資産をまとめたグループにしてしまうことに執心するあまり、固定資産台帳の耐用年数を変更するという面倒な作業を新たに作り出してしまったようだ(順調なためにライフ・サイクルを想定していなかった事業に減損発生の可能性を認識した場合)。確かに、減損損失を個別資産に配分し、固定資産台帳の簿価を修正する作業よりは、単純で間違えにくく、手間も少ないが、耐用年数を直すのも面倒だ。やはり、面倒は避けられないのか。

 

どうやら、ゴール方向にセンタリングを上げようとして力み、ボールがゴールを越えて逆サイドまで行ってしまったようだ。これでは次のラスト・パスは逆サイドから出さなければなるまい。ふぅ~、いったい、いつになったらラスト・パスを出せるのか・・・。

 

今でしょ、いや、次回でしょ。いやいや、ゴールデン・ウィーク明けかも知れない。

 

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