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2013年4月

2013年4月29日 (月曜日)

241.【製造業】自主耐用年数の必要性(逆サイドで壁パス)

2013/4/29

いよいよ、ゴールデンウィークが始まった。最近は経理関係部署でもゴールデンウィークを休める会社が多いが、僕が会計士になった頃は、かなり多くの方が、決算作業や監査対応のために出勤されていた。もちろん、会計士も出勤していた。ある同期は、ゴールデンウィークや土日を含めて3週間、休みが一日もなかったと言っていたほどだ。

 

あの当時の会計処理は、今よりずっと税務会計に近く単純だったし、連結財務諸表は単体より1カ月遅れの開示でよかった。有価証券報告書とは別冊の連結情報というものを7月に財務局へ提出していた。注記も全然少なかった。しかし、今より経理部関係部署の人員はたくさんいた。

 

今は、当時より多くの子会社・関連会社を持つ企業が増え、それでも連単同時開示、会計処理の複雑化、注記の増加、決算発表の早期化を少人数でこなせるようになり、かつ、ゴールデンウィークを休めるというのは、決算業務の合理化・効率化が相当進んだことの証だと思う。これは素晴らしいことだ。

 

しかし、(会計)情報の有用性は高まっただろうか? 特に経営に対する有用性は? 合理化は素晴らしいが、会計本来の目的が蔑にされたままなのではないだろうか。会計情報は企業の進むべき方向を示し、かつ、それと現状の乖離を把握するために、以前より経営にしっかり利用され企業統治に組込まれたと言えるだろうか。この点については疑問を禁じ得ない。そう思うに至ったのは、税法耐用年数への執着がなかなか消えないことにある。なぜ、自主耐用年数の設定が進まないのだろうか。

 

自主耐用年数を設定することのメリット、ディメリットを大雑把に書けば次のようになると思う。

 

(メリット)

 事業計画や実績が経営戦略・戦術と整合することで、事業の方向性と現状が見え、経営が行いやすくなる。

 

これについては、前回(4/25前々回(4/22、そしてその前(4/19あたりの記事の半導体製造装置の例や、スープ製造工程の話をご覧いただきたい。

 

(ディメリット)

 固定資産台帳(=減価償却台帳)の二重帳簿化による管理の難しさ、手間の増加。

 

具体的には次のようなものが考えられる。

 

  1. 二重に記帳するコスト・手間
  2. 両帳簿の整合性を保つ管理コスト・手間
  1. 加算項目の金額増加(短い耐用年数を設定した場合)による繰延税金資産の回収可能性の複雑化・不安定化

 

 

以下、ディメリットについて考えてみよう。

 

僕が思うに、12は確かに面倒な話だが、システムや業務手順、内部統制の工夫で影響を軽減できる問題だし、冷静に、企業全体にとって考えてみると、メリットの大きさに比べてあまりに“ディメリット”が小さい。本来、比較するのもおかしいぐらい。特に、昔々の新規事業でも成功する確率が高かった時代、事業が容易に継続できた古き良き時代と、今の経営環境は大きく異なっている点に注意が必要だ。今は、事業計画をより深く掘り下げて策定し、より精緻に実績を把握する必要性がぐっと増している。これについては、上記のメリットのところに記載した記事に詳しく説明した。

 

僕は、加えて、税制側のサポートによって、企業の手間が削減できるようになることを期待したい。例えば、納税するための減価償却制度がもっとシンプルになれば、二重帳簿になっても管理は楽になる。僕は以前、「このような問題を見越してイギリスでは耐用年数が一種類しかない」という話を聞いたことがあったが、どうやら本当らしい(財務省のホームページ)。この財務省の資料では良く分からないが、他国は日本よりもっとシンプルなのではないだろうか。みなさんもご存じのように、財務省としては機械装置等の耐用年数をすでにシンプルなるよう見直しを行っている。しかし、それで十分かどうか。イギリスの他、フランスや韓国でも自主耐用年数を前提とした、或いは、尊重した制度になっているようだ。これなら、二重帳簿さえも解消されるかもしれない。少なくとも、13の問題は大幅に軽減される。

 

このように書くと、日本の税法の「課税の公平性」、「負担能力主義」との兼ね合いが問題になる。これらは国の財政を支える重要な原則だが、しかし、それより前に重要なことがある。それは、「日本において、企業や個人が事業活動を行いやすい」ことだ。インターネット時代は、企業がどこに本拠地を置くかさえも競争だ。事業環境は業種によっても、また、同業種でも直面している市場によって異なる(国内・海外の別や、海外でも国によって異なる)。何をもって公平というかは、実は非常に難しい。これらを深く掘り下げ、課税の公平性、負担能力主義の両者のバランスを再検討することで、逆に、イギリスのようにもっと割り切ったシンプルな税務上の耐用年数にならないか、フランス・韓国のように、企業に裁量を認める税務上の減価償却制度ができないか。このような考え方の整理ができないか。

 

例えば、課税の公平性について、より資金的な負担能力寄りの観点から整理することが考えられる。減価償却項目は、すでに支出済みで手持ち現金はその分減少しているので、税負担能力も減っていると考えることができないか。ならば、現在のように公平性について発生主義ベースの期間損益に厳密に拘る必要もない。もしそういう整理ができるなら、減価償却制度において、もっと企業や個人に自由を与えてもよいのではないか。或いは、耐用年数をシンプルにしてもよいのではないか。徴税額の総額が変わるわけではない。タイミングが変わるだけだ。租税特別措置法のような特例扱いでもよい。ただ、恒久的な制度でないと困るが。

 

この減損戻入シリーズの最初(3/19の記事)に、「例の時代遅れのトライアングル体制にも関連する大問題になるはずだ。」と書いたのは、実は、このことを想定していた。現在の「IFRS導入の再検討」は、2011/6/21の自見金融担当大臣(当時)の会見、同年6/30の企業会計審議会から始まった。そのときの自見氏の挨拶(金融庁のHP)にもある通り、その趣旨は「日本経済が心底元気になるように自由で活発な議論」であり、その議論の項目には「税法等との関わり」も挙げられている。したがって、如何に日本経済を活性化するか、即ち、日本企業の経営がよりスムーズに行えるよう税務当局へ要請する内容を、企業会計審議会が議論するのは、テーマに合っている。

 

さらに調子に乗って、3に関して“夢”を述べると、「減価償却費は、会社が倒産しない限り、必ず減算できる(=課税所得がマイナスなら還付を当てにして未収計上できる)」ようにすることはできないだろうか。もしできれば、減価償却費の加算額に関する繰延税金資産は未収金に振替わるから、継続企業の前提に重大な不確実性が生じない限り、常に回収可能と判断できる。製造業などに限定してもよい。或いは、機械装置に限定してもよい。そして、減損損失を損金にできるようにするのもよい。

 

日本では、企業(や個人)がリスクを取りやすくなる社会へ変わることが求められている。これは、4/27のアベノミクスに関するNHKの討論番組「グローバルディベート WISDOM(ウィズダム)」でも、最終盤に改めて述べられていた。企業が事業投資に失敗しても、償却資産分の税金を取り戻せるというのは、現政権の政策に照らしても、とても、前向きの話になると思う。

 

ちょっと税制の話に偏り過ぎたが、今回のテーマは、経営戦略・戦術に沿った自主耐用年数の必要性だ。「自主耐用年数は面倒くさい」というのが“常識”だが、今の経済環境では、その“常識”によって経営面で損しているかもしれない。日本企業の競争条件を不利にしているかもしれない。これは意外に日本経済全体にとっても重要な問題のように思う。

 

みなさんも、それぞれの環境において経営者になったと仮定して、本当に自主耐用年数が有用でないか、一度疑ってみてはいかがだろうか。もちろん、僕と同じ考えになる必要はない。しかし、みなさんのそれぞれの環境において、自主耐用年数設定が有用な場面がどれぐらいあるかを考えてみることは、きっと今後の何かの改善の役立つに違いない。

 

ということで、今回は、ちょっと長過ぎて逆サイドにまで来てしまったセンタリングを拾い、みなさんにボールを預けた(=壁パスをした)。もし、みなさんからパスが戻ってくれば、ゴールへ向かうチャンスは広がる。次回は、戻ってきた(=自主耐用年数はディメリットを超えて有用とみなさんも思われた)と仮定して、話を進めようと思う。

2013年4月25日 (木曜日)

240.【製造業】減損後の減価償却(センタリング)

2013/4/25

我社の製品は、お湯を注ぐだけで美味しいポタージュ・スープになるのだが、残念ながら計画通りには売れなかった。それだけならまだよいが、どうやらこのままでは投資を半分しか回収できないらしい。肉のうまみを凝縮したエキスの生産を内製化し、製品をよりおいしく改良する計画があるが、残念ながら、味の問題で売れなかったのか、広告に問題があったのか、営業活動に問題があったのか、或いは、生産に問題があったのか、原因が解明されていないので、その効果のほどは未知数だ。

 

4/9の記事で僕が書いた例は、4/19の記事を経て、いま、こんな感じになっている。今回は下記のように3つ(積極的に梃入れ、消極的に事業継続、撤退)に場合分けをして、減損後の減価償却の話を進めていきたい。これを見ていくポイントは、減価償却単位をグループ化し、複数の個別資産をまとめて計算できるかどうかだ。IFRSでも、減損後の減価償却計算のために「減損損失を個別資産に比例的に配分する」とされているが、計算結果が同じ(或いは近似する)ならば、個別資産をグループ化した単位を減価償却単位にすることができる(4/16の記事)。そうすれば、減損損失の配分はそのグループ化した減価償却単位に行えばよく、個別資産にまで配分しなくてよいと考えられそうだ。

 

 

(a) 梃入れパターン

 

先のことなど分からない。しかし、もしこの製品に相応の価値があるとすれば、売れない理由があるはずだ。その分析を十分に行って、結論に一定の自信があれば、追加投資をしてでも事業を継続するだろう。ただ、減損の発生に気付くのが遅れ、期末時点でその結論(新しい事業計画に基づく見積もり)が実績で多少でも検証できる状況になければ、減損損失の計上は免れないだろう。その場合のスープ製造設備の減損後の減価償却は・・・

 

・耐用年数に変更なし(但し、追加投資分について後述)

・減価償却方法に変更なし

・減価償却単位も変更なし(但し、そもそもあまり細かい単位である必要性は薄い。理由は後述。)

 

例えば、売上不振の原因分析の結果、お湯をかけた時の粉末スープの溶け方がイマイチだったのが最も重要な欠陥だったという結果が得られたとする。そして、それを克服するために、小麦由来の澱粉と、とうもろこし由来の澱粉の配合を変更し、お湯に溶けやすくしながら、それで味の落ちる分は内製化したエキスの旨味で補う戦略を立てたとする。広告は美味しいのに溶けやすい特徴を強調するために、スープ発売初年度並みの予算を追加する。製造工程は、基本的には原料の配合を変更するだけなので追加投資は不要とも考えたが、一層厳密に温度・湿度を管理し品質を安定させるために、より高性能のセンサーを導入し、かつ、より少ない要員で管理できるよう積極的に管理精度アップ及び合理化の投資を行う。

 

期末時点で、これらの新しい製品の売れ行きが好調であるなど新しい戦略の実現可能性が検証できれば、これらの製品を前提とした将来キャッシュフローで減損が判定される。もしかしたら、減損は不要かもしれないし、事前の試算より減損損失が減少するに留まるかもしれない。後者のケース、減損損失を計上する場合は、追加投資した製造設備についても減損損失が計上される。

 

また、期末時点でまだ新しい計画の有効性を検証できない状況であれば、既存設備を対象にした事前の試算ベースの将来キャッシュフローで減損損失が計上される。

 

当初のスープ事業の事業計画の主要な前提(ライフ・サイクルなど)を変更していないし、生産体制の変更も大きくないので、減価償却の前提(耐用年数等)も変更が見込まれない。ただ、追加投資したセンサー等の製造設備についてはちょっと注意が必要だ。

 

即ち、センサー等の耐用年数は、恐らく、スープ事業開始当時から使用しているタンク等の製造設備の残存耐用年数を超えられない。もし、税法の耐用年数が10年であったとしても、タンク等の残存耐用年数が7年しか残っていなければ、今回の追加投資分も7年で償却することになる。なぜなら、耐用年数は事業のライフ・サイクルの想定とリンクしており、減損が検討されるような状況で、事業のライフ・サイクルが延ばせるとは思えないからだ。事業が順調であれば、当初計画した事業年数(=ライフ・サイクル)を超えて事業を継続することはあり得るし、事業が軌道に乗った段階で、ライフ・サイクルの想定を外すこともあり得ると思うが、この状況でそれはない。

 

ところで、このシリーズ「減損戻入」で重要なのは「減損損失(累計額)」を個別資産に配分するか否かだ。配分しないで済むなら、手間のかかる固定資産台帳(=減価償却台帳)の修正を行わずに済ませられる。もちろん、それが可能なら、減損戻入が生じた場合もこの台帳の修正を不要にできる。この追加投資分の耐用年数については、ここに関係してくる。製造装置等の“残存”耐用年数がそろっている点が重要だが、詳細は後述する。

 

(b) とりあえず事業継続パターン

 

先のことは分からないから、売上不振の原因分析もあまり手間をかけない。そのため抜本的な対策なしで営業施策の工夫とコスト・セーブで対応することとする。スープ事業の事業計画の前提に大きな変更はないから、減価償却に係る前提(見積り)も変わらない。即ち、・・・

 

・耐用年数に変更なし

・減価償却方法に変更なし

・減価償却単位も変更なし

 

そもそも、こういう会社は事業計画(特に個別投資案件の実績フォロー)にあまり重きを置かないから、減損の発生が見込まれる事態になってもライフ・サイクルなど事業の前提を見直さないだろう。いったん始めた事業は永遠に続けるとの前提の下、耐用年数も、税法基準に依っている可能性が高い。

 

税法の耐用年数は、製造設備(機械及び装置)に関しては何を製造するかで概ね決められている。例えば、「食料品製造設備」は10年、「フラットパネルディスプレイ、半導体集積回路又は半導体素子製造設備」は5年などと。したがって、事業を開始して3年目に取得したものは、事業開始時点から使用しているものに比べて、耐用年数が3年長い。確かに、事業を廃止することがなく、永遠に続けられるのであれば、それでも障害にならない。しかし、新規事業を起ち上げたり、選択と集中が重要となる経営環境では、事業のライフ・サイクルを想定し、その範囲で耐用年数を設定することが必要なことが多いはずだ。

 

例えば、居酒屋やコンビニ、その他小売業では、各社の戦略に基づき店舗の立地条件を見直し、移転したり、定期的な改装の時期・期間を想定して投資を行う。製造業も製品寿命の短命化や技術基盤の大幅な変化、グローバル化を反映した適地生産などの戦略・戦術的要因で、製造ライン改造から工場の新設・統廃合に至るまで、変化の頻度が上がっていると感じている会社は多いはずだ。

 

だが、事業のライフ・サイクルを考慮せず、税法の耐用年数を利用していれば、いざという時に多額の減損損失や除売却損に悩まされて経営判断に雑念が入り込むに違いない。大事なのは将来キャッシュフローをどれぐらい稼げるかであって、すでに支出したものに対する減損損失や除売却損ではない。表現は悪いが、それを気にするのは亡くした子の歳を数えるようなものだ。

 

さて、これがメイン・テーマの固定資産台帳の個別修正にも多いにかかわってくる。税法の耐用年数を適用している場合、各製造設備の“残存”耐用年数は取得時期によってバラバラなのだから、その後の減価償却計算も大変だ。例えば、“残存”耐用年数7年の製造設備は減損後の償却可能額を7年で除して、或いは、7年の償却率を乗じて減価償却を計算する。“残存”耐用年数10年のものには、10年用の計算が必要だ。その結果、“残存”耐用年数の異なるごと、それぞれに減損損失を配分し、減価償却方法に対応した個別の計算を行わざるえない可能性が高い。

 

(c) 撤退パターン

 

スープ事業を儲からないと見切って、撤退を決めるパターン。できるだけ早く事業を畳むのが良いか、それとも損益は赤字でもキャッシュフローは当面黒字なので数年継続させるかは状況次第だが、いずれにしても撤退までの多少の期間は設備が稼働するだろう。このようなケースで減価償却はどうなるか・・・

 

・耐用年数は撤退予想時期まで短縮。“残存”耐用年数は基本的にはみな同じ年数に短縮される。

・減価償却方法は予想される減損後の製造パターンに合うものを選択。

・減価償却単位は、物理的な個別資産ごとである必要性が著しく減少。

・最終処分額を見積りなおすことで償却可能額も変わるかも。

 

ここで注目していただきたいのは、減価償却単位だ。計算としては、“残存”耐用年数がみな同じで償却方法も同じであるならば、個別に計算しようが、まとめて計算しようが、結果は変わらない。あとはコストセンターに減価償却費を計上できるとか、資産の種類(勘定科目)ごとに減価償却費を計上できるとか、その程度のことを考慮すれば、物理的に複数の資産についてまとめて減価償却費を計算しても、IFRSでは、多分、問題ない(4/16の記事の、「計算結果が重要で、計算プロセスはあまり重要ではない」との“僕なりの”検討結果を思い出していただきたい)。

 

 

実は、この撤退パターンを理解することがとても重要だ。事業のライフ・サイクルを想定した事業計画を策定するとは、この撤退パターンを事業計画の終わりに組込むことに他ならないからだ。(a)のパターンで、もしそういう事業計画になっていれば、そして事業開始後の事業運営もそれに従っていれば、「残存耐用年数がみな同じ」というこの撤退パターンの特徴は、(a)のパターンでも成立っている可能性が高い。或いは、事業が順調なためにライフ・サイクルを想定していなかった事業でも、減損発生の可能性を認識した時点で、耐用年数の見積りを変更し、残存耐用年数を揃えることが考えられる。

 

そして、この特徴が成立つのであれば、減価償却単位も物理的な個別資産ごとである必然性が薄くなる。個別資産をまとめてグループとして計算が可能だ。であれば、減損損失累計額を各個別資産に配分する必要はなくなる。(資産移動時にどうするかなど、3/26の記事に上げた問題点への対応は別途検討する。)

 

 

おやおや、困ったものだ。今回も長文になってしまった。おまけに・・・

 

減価償却単位を個別資産をまとめたグループにしてしまうことに執心するあまり、固定資産台帳の耐用年数を変更するという面倒な作業を新たに作り出してしまったようだ(順調なためにライフ・サイクルを想定していなかった事業に減損発生の可能性を認識した場合)。確かに、減損損失を個別資産に配分し、固定資産台帳の簿価を修正する作業よりは、単純で間違えにくく、手間も少ないが、耐用年数を直すのも面倒だ。やはり、面倒は避けられないのか。

 

どうやら、ゴール方向にセンタリングを上げようとして力み、ボールがゴールを越えて逆サイドまで行ってしまったようだ。これでは次のラスト・パスは逆サイドから出さなければなるまい。ふぅ~、いったい、いつになったらラスト・パスを出せるのか・・・。

 

今でしょ、いや、次回でしょ。いやいや、ゴールデン・ウィーク明けかも知れない。

 

2013年4月22日 (月曜日)

239.【製造業】損益管理より投資回収管理(フェイント)

2013/4/22

減損した事業はどうなるか。

 

投資額を回収できない見込みになった事業は、投資が失敗する見込みの事業ということになる。ただ、減損会計の評価単位は、一般的にイメージされる事業の単位より小さな単位、“資金生成単位”、或いは、“資産グループ”と呼ばれる単位なので、事業全体の失敗とはならない。ただ、その小さな単位は、企業の管理単位となっているはずなので、管理責任者はいる。担当部門もある。では、そこの部門及び責任者の失敗となるだろうか。

 

こんなふうに、「減損 ⇒ 担当部門の失敗・責任の発生」と連想する方は意外に多いと思うが、僕にはちょっと違和感がある。確かに、減損の発生はどこかの誰かの失敗(=自己創設のれんの毀損)を強く示唆するものではあるが、どこの誰がどんな失敗をしたかを直接示すものではない。担当部門の人ではない人々、例えば、計画を作成した人、承認した人、関連する他の部署の失敗によるものかもしれない。或いは、不可抗力的な外部要素の変化によるものかもしれない。原因分析が必要だ。

 

そもそも、この原因分析は日常的な管理活動の中で行われるべきものであって、減損したから行うという性質のものではない。そんなことでは遅すぎるからだ。しかし、多くの企業では、この日常的な管理活動が“損益管理”を中心に行われており、何度か記載したように「損益管理=投資回収管理」ではないため、この原因分析が日常的に行われていない。損益管理という狭い観点でしか管理が行われていない。

 

そこに減損損失という“損益”が見えてきたときに、驚いて、ようやく原因分析に取り掛かる。しかし、外部環境はどんどん変化するし、すでに計画時の前提が忘れられたり、計画が検証に値するほど根拠が残ってなかったりして、原因分析は中途半端に終わる。したがって、減損後の事業も十分な改善が期待できない。或いは改善に時間がかかってしまう。失敗から学べるものが少ない。

 

僕が“損益管理が狭い”と思う理由は2つある。一つは上記の事業の実績評価に関わるもので、事業のライフサイクルとか、成長率とか、大きな外部環境の変化、特に顧客に関連する計画時の前提の変化を検証し、理解する機会が少ない。

 

もう一つは事業の改善に関わるもので、損益管理だと追加投資が行いにくい。

 

投資回収管理の発想であれば、すでに行われた支出にはあまり注意が向かず、これからのキャッシュ・イン・フローを如何に増やすかを考えるので、今後投資額以上の回収が見込めるのであれば追加投資も検討される。しかし、損益管理だと資産計上された支出の減価償却費がそれを邪魔する。追加投資がしにくくなる。したがって、大胆な発想による現状打破が行われにくいと思う。

 

本当の失敗の原因が分からず、かつ、大胆な改善策が打ちにくい。こういう状態で減損をすればその事業の行く末は暗い。このところ、相次いで多額の減損損失を計上した家電メーカーなどがこういうパターンではないこと願う。事業環境が正確に把握されないまま、それが耐用年数や減価償却方法に反映されることもなく、単純に会計的に減損損失を計上しただけになってしまう。例えば、事業のライフサイクルが短くなっているとか、製品開発の方向性が顧客のニーズに合っていないのにそれが認識されなければ、また減損を繰返す可能性が高まる。即ち、(減損)会計が経営に役立たない。会計が経営に気付きを与えられていない。或いは、気付きを与えるタイミングが遅い。

 

とにかく、減損後の減価償却がどうあるべきかを考えるには、損益だけの発想ではダメで、投資回収の原点に戻って事業全体を見直す必要がある。そして本当は“減損”というタイミングだけでやることではなく、もっと日常的な管理活動の一環として繰返し行われるべきことだと思う。

 

ちょっと話が暗いので、今回はここまでにして、短く終わりにしたい。ゴール方向(=減損会計)には方向を変えたのだが、ディフェンダーの目先を変えるためにフェイントをかけた、ぐらいの感じだろうか。しかし、減損後の減価償却がどうあるべきかを考えるには、このフェイントによる方向転換、発想の転換が重要だ。センターリングを上げるタイミングは、いつになるか。まだであるが、着実に近づいている。

2013年4月19日 (金曜日)

238.【製造業】減価償却単位を決める重要性(ゴールラインをえぐるドリブル)

2013/4/19

減損の戻入は手間がかかる。それで日本基準では戻入が禁止されている。しかし、既存の損益管理から脱してリスク管理を強化するには、より経営の原点に近づき、投資の回収に着目せざるえない。即ち、減損会計の活用を考えざるえない。しかし、それには固定資産台帳(=減価償却台帳)を個別修正する手間を避け、機動的に減損会計を使えるようにする必要がある。

 

ということで、この手間を省くことはできないかと検討を重ねてきた。すると減損は、本来、個別資産を評価する手続ではなく、その資産を利用した「ビジネスの評価」であることが分かった。ならば、減損損失を個別資産に配分しなくても良いではないか、ビジネスの単位(資金生成単位)以上に細かくする必要はないではないか、と言いたいが、IAS第36号「資産の減損」には個別資産に比例的に配分せよとされている。どうやら、減損会計というより減損後の減価償却にその理由があるらしい(4/9のポストプレー)。

 

そこでサイドに振って、IAS第16号「有形固定資産」の減価償却の規程からの攻撃を試みた。即ち、どうすれば適正な減価償却といえるかを探ることだ。それで分かったことは、日本では計画的・規則的な手続を継続することで減価償却が適正になると考えられているが、IFRSでは、そのような計算プロセスではなく、資産の使用パターンを反映する計算“結果”を得ることだった(4/16のサイド攻撃の記事)。ならば、使用パターン、即ち経済実態が反映された計算結果になっているという説明ができれば、個別資産の簿価を固定資産台帳まで修正する必要ない。但しIAS第16号でも、償却計算の単位である、固定資産台帳への記帳単位は、“重要なもの以外”のグループ化は認められていたものの、重要なものは個別記帳が必要となっている。では、その“重要性”とは一体何か、というのが今回のテーマだ。

 

 

“減価償却単位”とタイトルに記載したが、これは固定資産台帳(=償却台帳)に記帳する資産の単位、即ち、個別資産のこと。通常は、この単位で取得価額と残存価額(=償却可能額)、耐用年数、償却方法が決められ、あとはそれに従って規則的(=機械的)に各期へ減価償却費が計上される。

 

非上場会社などでよくみられるのは、ど~んと多くの資産を1つにまとめて固定資産に登録する実務だ。このメリットは、固定資産台帳に登録する手間が省けること。しかし、多くの場合、一部除却時に除却資産の簿価をうまく分離できないとか、減価償却費をコスト・センターなど管理単位へ配分することができないとか、資産を他の場所(=管理単位)に移動するとき困るとか、本当は耐用年数や減価償却方法が異なるものまでまとめられているなど色々弊害があって、監査人は、もっと細かい単位で登録するよう指導する。

 

しかし、指導するのは良いが、それを実務にするのは意外と難しい。

 

ここで、4/9のポストプレーの記事に出てきた小麦粉や調味料を混ぜるタンクと攪乱設備に戻って考えてみよう。このタンクに原材料を投入し、温度や湿度に注意しながら攪乱し、粉末スープがダマ(塊)にならず均一に混ざり、かつ、お湯をかけただけでスムーズに溶けるように混合するのだが、この機械の見た目はタンクが1つ、ど~んとあるだけだ。タンクの中にある攪乱設備は直接見えない。それなら、このタンクをまるごと1つとして“減価償却単位”として固定資産台帳に登録すればよいだろうか?

 

タンク自体は金属製で、何十年でも使用可能だ。しかし、内部の攪乱設備はモーターあり、羽あり、ヒーターや加湿器があり、もちろん、温度計や湿度計のセンサーもある。これらの耐用年数は明らかにタンクより短い。では、これらをバラバラにして個別に固定資産台帳に登録するか?

 

ここまでを読んで、「IFRSでは飛行機のエンジンを機体と別に認識することがある」という話題が数年前にあったことを思い出された方もいらしたと思う。実は、これと同じ議論だ。別にIFRSだから“特別”という話ではなく、日本基準においても昔からある伝統的なテーマだ。ただ、見た目に一体に見える物をさらに細かく分割する可能性について“大きく取り上げた”点には新味があった。

 

1つで登録するか、それとも分けて登録するか。前回(4/16)の記事で見たように、これをIFRSでは“重要性”で判断せよ、ということになっている。ところが、この“重要性”(=significant part of an item of property, plant and equipment)がなんであるかが、詳細に説明されてない。ということは、原則主義的に、趣旨を生かすよう細目は各々が判断せよ、ということになる。経営者が、或いは、実務の中の判断で、各社の事情に合うように決めていくことができる。

 

 

では、各社の事情に合うように決めるとは、具体的にどういうことだろうか。

 

それにはまず、「◯○設備の耐用年数は、すべての会社で一律10年」では“ない”ということを理解することが重要だ。◯○設備の耐用年数は、国税局などが一律に決めるものではなく、各社が直面している経営環境の変化に対応するための経営戦略・戦術等で決まるものだからだ。大袈裟な物言いに思われるかもしれないが、決してそうではない。

 

極端だが、典型例を一つ。- 半導体製造装置

 

2006年時点では、半導体製造装置の経済耐用年数は3年(法定耐用年数は5年)と言われていたようだ(野村総研のレポート)。ご存じのように、半導体の集積密度は1824カ月で倍増するという「ムーアの法則」なるもの(≒経営環境の変化)があって、短期間で性能を向上させるために、製造装置のライフサイクルも短くなる。したがって、3年で投資を回収できる戦略を描く。だが、中には、4年目以降も生産規模を縮小しても生産を続けられるような市場を開拓するという戦略を採用した会社があったかもしれない。すると、耐用年数や償却方法は、前者と異なってくるはずだ。また、どちらにしても税法基準に合わせて5年で償却するのでは、経営戦略と会計が分かれてしまい、会計を見ても事業の実態、業績が分からないことになる。

 

また4/9のポストプレーの記事の例に戻って話を作ってみる。

 

その会社では、従来の小麦やとうもろこしの澱粉が入ったポタージュ系のスープに加え、新製品としてコンソメ系の透き通ったスープも発売しようという話が持ち上がった。コンソメ系スープを生産するには、澱粉質の代わりに鶏肉や牛肉などからエキスを抽出する生産工程を新たに加え(新規設備投資)、従来以上に豊かな風味と旨味を引出す必要がある。加えて、このエキスを使えば、既存のポタージュ製品がもっと美味しくなり、売れ行きが良くなる可能性があった。しかし、既存ポタージュ製品に使用するこのエキスの量は、コンソメ製品に使用する量に比べ少量であり、それだけではこの新規投資を20%しか回収できない。

 

そこで、問題は残りの80%を回収する道筋、戦略だ。A案とB案の2つが提案された。A案は、オーソドックスな息の長いコンソメ商品にじわじわと育てようという案。B案は、それでは既存メーカーと正面からぶつかるので勝ち残るのが難しいから、ちょっと特徴のある味にして、飽きられたとしてもブーム的に短期間でなるべく多くの投資を回収しようという案。そこで、市場調査(一般顧客や流通業者に対する試飲会など)をしたところ、次のことが分かった。

 

  • A案の製品は、やはり競合他社製品との味や包装デザイン等での差別化が難しく、その結果、価格競争が厳しくなりそう。また、じわじわ売るのはスーパーの棚にスペースを確保することが難しいので、流通業者が歓迎しない。

 

  • B案の製品は、記憶に残る味との評価があり、流通業者も好意的。

 

そこで、B案の戦略を採用することにした。春・秋の新製品発売シーズンごとに手を変え品を変え工夫すれば、3年間はコンソメ系製品を維持できそうということで、80%については、3年で償却する方法を採用することにした。もちろん、もし4年目も行けそうなら行く。

 

仮に、エキス製造工程設備の法定耐用年数が10年だとすると、それを理由に10年で投資を回収する事業計画を作成すれば、それは製品市場を無視した画餅になってしまう。法定耐用年数で償却することより、直面している経営環境、特に製品市場を優先するのは当たり前だが、当たり前が当たり前でないことがあるのも当たり前なので、注意が必要だ。みなさんの会社はいかがだろうか。「先のことは分からないから、取敢えず法定耐用年数で」というのはよく聞く話だが、それでは投資の回収が意識されているとは言えない。投資を回収するにはもっと経営環境を深く掘り下げて理解することが必要だ。

 

 

ちなみに、耐用年数や減価償却方法は会計上の“見積り”であり、経営者の判断によるものとされている。では、今回のテーマである“減価償却単位”はどうだろうか。僕はこれも“見積り”だと思う。一律に決められるものではない。上述した耐用年数や減価償却方法のように、各社の事情で経営者や実務の中で判断され決められる。

 

仮に、3年間後に飛行機を売却する、即ち、3年間しか飛行機を使わない事業計画があったとすれば、エンジンと機体を区分する必要はあるだろうか。物理的にエンジンの方が先に寿命が来るが、使用期間が3年では、その物理的な差はない。エンジンを区分することに重要性はなくなる。したがって区分も必要ないだろうと思う。やはり、“減価償却単位”は、すべての会社に共有されるような普遍的な共通基準があるのではなく、各社の事情(経営戦略・戦術等)に基づく“見積り”の一部と考えて良いと思う。“見積り”であるならば、状況が変化すれば変更される。例えば、減損損失が計上されるような事態になれば、見直されるべきものということになる。

 

 

さて、以上の結果、減価償却単位を決める重要性のルールは、各社の事情(経営戦略・戦術等)に依存すると考えてよさそうだ。例えば、上記A案を採用する会社があれば、コンソメ用エキス製造装置は一塊として固定資産台帳に登録されるかもしれないが、B案を採用する会社では、少なくとも20%80%に区分して記帳されるに違いない(それぞれに異なる耐用年数が設定されるから)。

 

これで一応今日のテーマは結論が出たが、これでセンタリングを上げられるだろうか。いや、残念ながら、まだ早い。

 

これは一般的な減価償却のケースであって、このシリーズの目的である減損された資産の減価償却の話には至っていない。即ち、サイドをドリブルで駆け上がりゴールラインまで来たものの、もう一度中央(=減損会計)に向かって切り返えし、ゴールに近づかないとセンタリングを上げられない。そこで次回は、減損された資産の適切な減価償却とはどういうものか、というテーマを考えてみたい。

 

今回は久しぶりに長いドリブル(長文)になってしまった。サッカーならサイドを駆け上がる長いドリブルには、お客さんが歓声を上げる。しかし、ブログはそうはいかない。それは分かっているが、相手ディフェンスが強力なので、ご勘弁願いたい。

2013年4月16日 (火曜日)

237.【製造業】減価償却からサイド攻撃

2013/4/16

一昨日(14日)は、北朝鮮をジョークにしようと思案していたが、ついに良いアイディアは浮かばなかった。例えれば、タラちゃんがなぜか泣き止まず、サザエさんやマスオさんを困らせているとか、或いは、マジンガーZのドクター・ヘルが突然テレビに現われて「襲うぞ~」と予告するが、実は襲わせる機械獣がない。こんな状況と思うが、どうも面白くない(懐かしくはあるが)。そんなこと考えながら、久しぶりに裏山登りをしたらひどい筋肉痛を起こし、今は不自由でしょうがない。北朝鮮から思わぬダメージを受けた感じでちょっと悔しい。

 

 

さて、今回のテーマは「減損後に適正な減価償却を行うには、減損損失を個別資産ごとに配分する簿価修正が必要か」という観点で、IAS第16号「有形固定資産」の減価償却関連の規程を眺めて見ることだった。前回(4/9の記事)のポスト・プレーを受けて、ちょっとメイン(=減損会計)から逸れるが、サイド攻撃を試みてみよう。

 

それでは、早速、IAS第16号から関連しそうな規程を拾うことにする。いつものように、青字は引用、黒字は僕の加筆。(規定を読むのが嫌な方は、下にポイントを記載しますので、飛ばしていただいても結構です。)

 

  1. 償却可能額とは、資産の取得原価(又は取得原価に代わる他の金額)から残存価額を控除した額をいう。6項;用語の定義)
             
  2. 帳簿価額とは、資産が減価償却累計額及び減損損失累計額の控除後で認識されている価額をいう。(同上)
             
  3. 減価償却とは、資産の償却可能価額を規則的にその耐用年数にわたって配分することをいう。(同上)
             
  1. 資産として認識した後、有形固定資産項目は、取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額で計上しなければならない。30項;原価モデル)
             
  1. ある有形固定資産項目の取得原価の総額に対して重要な各構成部分は、個別に減価償却しなければならない。43項;減価償却)
             
  2. 有形固定資産項目の重要な構成部分には、同じ項目のその他の重要な構成部分に係る耐用年数および減価償却方法と同じ耐用年数と減価償却方法を有しているものがある。当該部分については減価償却費を算定する際にグループ化することができる。45項;同上)
             
  1. ・・・。企業がこれらの部分(=個々には重要でない構成要素)について異なる予測を行っている場合には、当顔構成部分の消費パターン又は耐用年数若しくはその両方を忠実に表現する方法で残存部分(=個々には重要でない構成要素のグループ)の減価償却を行うために、近似値法が必要となる場合がある。46項の一部;同上)
             
  1. 使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予想されるパターンを反映するものでなければならない。60項;減価償却方法)
             
  1. 資産の償却可能価額を耐用年数にわたって規則的に配分するために、種々の減価償却方法が用いられる。そうした方法には、定額法、定率法及び生産高比例法がある。・・・(62項の一部;同上)

 

 

以上から、僕が重要と思ったポイントは以下のとおり。“屁理屈”と思われるかもしれないが・・・

 

1.簿価は、減価償却と直接関係ない。

 

確かに、帳簿価額(=簿価)は、取得価額から減価償却累計額と減損損失累計額を控除したものとされているが、それはB/S開示を意識したものであって、減価償却とは関連付けられていない(上記4)。減価償却は償却可能額と直接関連し、償却可能額を規則的に期間配分する手続とされていて(上記39)、簿価と減価償却は直接関連付けられていない(上記13)。ならば、減損後の簿価修正は、(理論上)必須ではない可能性が考えられる。

 

2.減価償却の“計算手続”はあまり重要ではない。

 

しかし、一部の方は、「それがなんなの。例えば、定率法を採用してたら、当然(期首)簿価が関係してくるでしょ。」と言われるかもしれない。

 

日本語で「定率法」と翻訳されている英語は「The diminishing balance method」だが、直訳すれば「残高が先細っていく方法」であり、日本語の「定率法」からイメージされる「期首簿価に一定率を乗じる方法」はその一つに過ぎない。

 

これについて突き詰めていくとそれだけで一日分の記事の長さになるので、ちょっとだけ書く。例えば、昨年12月に公表された公開草案「減価償却及び償却の許容される方法の明確化」の日本語訳(IASBのHP)の8ページを見ると、上記の9(=62項の一部)は(英文は変わってないのに、なぜか)次のように書き換えられている。

 

「・・・さまざまな減価償却方法が使用できる。こうした方法には、定額法、定率法及び生産高比例法が含まれる。」

 

(書き換わったことは別に良いのだが、こちらの方が)例示された減価償却方法が、認められる方法の一部に過ぎないことをより明確に表現している(なお、「含まれる」の英文は「include」で、「例示」をする際によく用いられる)。IFRSにおいて重要なのは、「資産の消費パターンを反映する規則的方法か否か」であって(上記89)、「期首簿価に一定率を乗じるかどうか」というような計算手続ではない。

 

このことは、定率法や定額法の説明にも良く表れている。62項の上記引用を省略した部分にそれがあるが、「一定額の費用が計上される」とか、「逓減的な費用が計上される」といった計算結果で説明しており、「耐用年数で除する」とか「一定率を乗じる」といった計算手続に関する記述はない。重要なのは計算結果であり、計算手続ではない。したがって、「定率法なら(期首)簿価と関係する」と計算手続で決め付けない方が良い。

 

3.“個別資産ごとかグループでも良いか”(=計算単位)には拘らない(但し、重要でないものに限る)。

 

減価償却費の計算結果が同じになるならば、複数の「重要でない構成要素」をグループ化してまとめて計算することができる(上記6)。耐用年数や償却方法の異なる資産をまとめて減価償却計算することも、計算結果が近似するなら、容認される(上記7)。ということは、個別資産ごとの簿価修正が不要なケースもありえる!?

 

 

さあ、これでIFRSの考え方がより明確になってきた。“屁理屈”と思われた方も、「もしかしたら」という気になってこないだろうか。

 

IFRSでは、プロセス(計算過程や計算単位)の厳格さより、適切な計算結果(=消費パターンの反映)が得られることの方が重要だ。お気づきだろうか。これは計算手続の厳格さを重視する伝統的日本基準と大きく違う、というより、正反対の考え方だ。この辺りは、日本基準に精通した方ほど先入観や固定観念を持ちやすいので、お気を付けを。(これは以前(2012/2/8の記事などに)書いた「継続性の原則のゆっくり滑り」にも共通するものがあるような気がする。)

 

これで僕は、減損後の個別資産ごとの簿価修正が必須かどうかという問題について、ちょっと希望が見えてきたような気がするが、みなさんはいかがだろうか。

 

但し、計算単位をまとめることについては、まだ「重要でない構成要素(≒個別資産)」という縛りがあるから、決定的なセンタリングを上げられるほど十分に相手ディフェンダーを崩せてない。次回は「何をもって重要と考えるか」を明確にすべく、さらに深くドリブルしてサイドをえぐってみよう。

 

ただ、筋肉痛が直らないとドリブルにキレがでない。北朝鮮め。

2013年4月12日 (金曜日)

236.【番外編】温泉旅行

2013/4/12

ちょっと減損から離れて全く趣向の違う話題を。実は昨日まで、両親を連れて一泊の温泉旅行へ行ってきた。その宿は、監査法人時代の僕とあるクライアントの縁が切れるきっかけになった、僕にとってはいわく付きの宿だ。その経緯は今も書けない、というか書く気がしない。しかし、ごく一部をちょっとだけ紹介しよう。

 

 「・・・を見せてください。」

 

 「おまえは、人のパンツの中まで見るつもりかっ!」

 

 「・・・、見たい!」

 

もちろん、これは小指とか親指を立てる類の話ではない。誤解なく。

 

このやり取りの前に、その経営者に図面を見せてもらいながら、事業計画を聴かせてもらっていた。それは全く新しいコンセプトの温泉宿のプラン。その会社の3つ目の事業になる。いつものことだが、その経営者のプランは顧客目線で斬新かつ具体的。そして、寂れゆく温泉町を復興させたいという思いが込められていた。しかし、残念ながら、ここから縁が切れていく。僕にパンツの中まで見せたいと思わせるほどの魅力がなかった、そこまでの信頼感がなかったのだ。監査人には、法律や制度など理屈だけではない、相手を垂らしこむような、いわゆる「(男)芸者」の側面も必要なのだが、その芸がなかった。そんなことをふっと思い出し、だいぶ前に完成したと聴いていたその温泉宿に行ってきたのだが・・・

 

素晴らしかった。温泉はもちろんだが、しかしそれ意外に、もっと感慨深い体験をした。

 

ウィーク・デイというのに、たくさんお客さんが入っていた。従業員の方に、「良く入ってますね。」と聞くと、「いえ、今日は少ないですよ。つい最近まで大変でしたが、春休みが終わったせいでしょうか、今日は一段落したようです。」という、ちょっと自慢げな答えが返ってきた。またすれ違いざまに、「外人客もいるけど、日本の温泉がみんなこうだと勘違いするんじゃないかな。」なんていうお客さん同士の、これも聴きようによってはちょっと誇しげな会話も聞こえてきた。もちろん、僕の両親も大喜びだ。

 

これをやりたかったんだな。経営者が夢を語り、それを実現する。たくさんの人々が新しい価値に触れて楽しみ、満足して帰っていく。多くの従業員が元気に働ける場ができている。事業を起こし、経営することの素晴らしさに接し、体以外にも何かが温まるようだった。

2013年4月 9日 (火曜日)

235.【製造業】減損はビジネス評価(ポストプレー)

2013/4/9

先週土曜日にとても嬉しいことがあった。やっと、清水エスパルスが今シーズンの初勝利を飾ったのだ。実は、昨シーズンの終盤から、公式戦ではずっと勝ててなかったので、半年ぶりの勝利といってもよい。先月23日はジュビロ磐田とのダービーマッチ(ヤマザキナビスコカップ)をヤマハ・スタジアムで観戦したが、帰る道すがらその大敗ぶり(5-1)に、つい「減損だっ!」と、監督批判まで口にしてしまった(今は恥ずかしく思っている)。先週土曜日はテレビ観戦だったが、先月とは違って攻守の切り替えが早く、球際の厳しい溌剌としたプレーに、今シーズンの巻き返しへ期待が膨らんだ。減損戻入だ。

 

 

さて、前回(4/4の縦パスまでの復習をざっと。

 

IFRSには、減損損失を、減損認識単位である資金生成単位(=資産グループ)に属する個別資産にまで配分して、個別資産の簿価修正をするよう要求している。これは固定資産台帳の修正を意味すると理解できるが、それを回避できないか。その突破口を探す手掛かり(=縦パス)となるのが次のポイントだ。

 

1.減損の認識単位(資産グループであり、個別資産の評価ではない)

2.減損はビジネス評価(直接には資産ではなく、ビジネスの評価をしている)

3.減損後の損益計算-償却方法や耐用年数の見積りの見直し(前提条件の見直しが必要)

 

今回は具体的例(粉末スープの製造工程)を想定して、上記の1と2を検証してみたい。

 

 

例えば、原料をタンク内で特別なノウハウと共に撹乱し、お湯を入れるだけで美味しい粉末スープを製造する工程(=資金生成単位)を考えてみよう。製造工程としては非常にシンプルな想定だが、もう少し具体的に書くと次のようになる。

 

この工程は、原料(とうもろこしや小麦の澱粉、その他調味料)を、倉庫からフォークリフトなどでタンクの投入口に運搬し、袋を裂いてレシピの比率で投入するところから始まり、温度や湿度に注意を払いながらタンクの中の攪乱状況を管理する。そして、出てきた粉末にダマ(塊)がないことや細菌の状況をチェックして、次の包装工程(粉末スープを小袋へ封入し、箱詰め、段ボール箱詰め、製品倉庫へ入庫する工程)へ受け渡すとする。

 

■資産グループ

 

単純な工程でも、次のような固定資産がありそうだ。

 

 ・タンクと撹拌設備

 ・フォークリフト

 ・秤

 ・仕掛品(この工程の完成品)の保管設備

 ・細菌量の検査・測定設備

 ・これらを格納する建物と土地、空調、給排水、衛生設備

 

これらは個別に(中古品やスクラップとしての)転売価格を求めることもできる。しかし、それは不幸な試算だ。なぜなら、粉末スープを販売して利益を得るための生産設備として、性能やサイズ、形、組合わせ、配置まで検討を重ねて購入・設置されたものなので、一連のつながりを持ったグループであるときこそ最も価値がでるはずだから。

 

ところが、残念なことに計画通りの生産ができず、この資産グループの簿価の半分に相当する減損が発生している状況を考えてみよう。

 

 

■計画通りの生産ができなかった理由

 

いかなる理由があったとしても、資産グループの簿価を回収可能価価額が下回れば減損が発生していると判断される。だから、理由は関係ないと思われるかもしれない。しかし、敢えて、この理由と減損との関係を考えて見よう。「計画通りの生産ができなかった」理由は、色々想定できる。例えば・・・

 

A.計画通りの販売ができなかった場合

 

・大口の見込み客から正式な受注がとれず、それに代わる顧客を獲得できる見込みがない。

・製品の評価が悪かった(もっと美味しい他社品の存在、価格、品質、納期管理)。

・営業部門が粉末スープに力を入れなかった(他にもっと売りたい製品があった)。

・市場規模予測の失敗、広告宣伝の失敗、・・・

 

B.受注は計画通りだったが生産ができなかった場合

 

・設備の不備でダマ(塊)が多く、正常品が少なかった(製造歩留りが悪かった)。

・設備の不備でしばしば細菌量が基準値を超えた(同上)。

・熟練した工程管理者、作業者、設備技術者の確保が行えなかった(同上)。

・生産計画の変更が予想より頻繁で(予定コストでの)対応が困難だった。

 

C.原材料の調達が計画通りに行えなかった場合

 

・原材料価格が高騰し計画価格での調達ができなかった。

・品質条件に見合う原材料の調達が困難になった。

 

などが考えられる。実際にはこれらの理由は複数が絡み合って、容易に改善できない形で現われたときに、減損が発生する。それにしても、上記に挙げた固定資産グループの資産と直接関係のない理由が多い。個別資産との関連はさらに希薄だ。むしろ、関連部門も含めた“人”の要素の多さ(経営環境の変化への対応能力を含む)に驚かされる。それにもかかわらず、この製造工程(=資金生成単位)の“資産(=資産グループ)”の評価が減損会計によって切下げられる。

 

 

■減損会計による“資産評価”とは

 

なぜなら、減損会計による評価は、個別の資産ではなく、ビジネスの良し悪し(=自己創設のれん)について行われているからだ。であれば、ビジネスとしてのまとまりの単位である資産グループとしての評価を切下げればよいのであって、個別資産の簿価まで修正する必要はない。したがって、IFRSが、減損損失を個別資産に配分し、個別資産の簿価を修正する理由は、減損会計の目的(=簿価が回収可能価額を超えないことを保証する)と直接関係があるとは思えない。一般繰入率による貸倒引当金のように、対象資産グループに対して間接控除する形で簿価を実質的に減額させれば用は足りるはずだ。

 

それで済ませない理由は、減損会計とは別のところからきていると思う。即ち、「減価償却費(=期間損益計算)の適正性を確保する目的」によるものだろう。ということで、今度はIFRSの減価償却費についての規程(IAS第16号)を見てみよう。(なんか理屈っぽくなって申し訳ないが・・・)

 

 

やはり、今回はここまでにしたい。理屈っぽいうえに長くなってきたから。しかし、みなさんにはもう少しこの理屈っぽさにお付き合い願いたい。次回は、IAS第16号「有形固定資産」が適正に減価償却費を計算する条件として、どのようなことを定めていて、それがIAS第36号「資産の減損」の減損損失の個別資産への配分を要求する規定と関連するかどうかを検討したい。それによって、何か突破口が見えてくるかもしれない。

 

ということで、今回は、縦パスをちょっとサイドに振ってみた。

2013年4月 5日 (金曜日)

234.【金融緩和】ゴールを決めるのは企業

2013/4/5

新しい日銀は凄い。「量的・質的金融緩和」で、3週間も続いた調整局面を一挙に円安に引戻した。4日、円相場は、92円/ドル台から一挙に96円/ドル台(ニューヨーク市場)まで下落した。

 

僕は、総選挙の直後の2012/12/21の記事で、「重要なのは本当にインフレになることではなく、“インフレ期待”が実際の経済成長に繋がること。それにはチーム日本(政府・日銀・国民・企業)が、チームワーク良く、強敵の海外プレイヤーと戦おう。」みたいなことを書いた。

 

安倍政権がかけた号令に対し、今回、新しい日銀が応えて見せた。そして、最近の調査では、国民は1年後のインフレを信じると答えた人が多かったようで、インフレ期待が浸透してきたようだ(或いは、信じた振りをしている)。

 

しかし、肝心の企業が慎重だ。この1日に発表された日銀短観では、今後1年の想定為替レートを8522銭/ドルとするなど、今一つこの動きに乗りきれていない。チーム日本のチームワークは今一つだ。

 

「インフレ期待」政策は、錯覚を利用して経済が上向く弾みをつけようとするものなので、(仮に錯覚と分かっていても)みんなが流れに乗ってかないと、効果が薄くなる。いや、効果が薄まるというより、副作用が先に出てきてリスクが高まる。リスクとは経済成長が実現しないままに金利が上昇し、国債償還が危うくなることであり、日本経済全体がひどい状況になる。

 

企業が見せた慎重さは、株高や円安が“錯覚”に過ぎないと見抜く優秀さを証明するものではあるが、今やるべきことはなんだろうか。本当に避けるべきリスクは企業の視野のもっと先、或いは、企業の視野の外側にあるようだ。しかし、政府も、日銀も、国民も、既にそれを見ている。あとは企業が変化へチャレンジするだけだ。

 

2013年4月 4日 (木曜日)

233.【製造業】減損の個別簿価修正要求を切崩す縦パス

2013/4/4

みなさんもご存じの通り、米大リーグレンジャーズのダルビッシュ有投手が、9回2アウトまで完全試合という離れ業をやってのけた。先月は、マンチェスター・ユナイテッドの香川真司選手のハット・トリックが、プレミア・リーグでのアジア人初という快挙だったが、いずれにしても日本人の国際舞台での活躍は大変うれしい。最近は、「アベノミクス」や「クロダ(新しい日銀総裁)」などという日本語名称が、国際政治・経済の分野でよく聞かれるらしい。以前は「エコノミック・アニマル」などと言われ(懐かしい!)、企業ばかりが目立っていた日本だが、今はその他の分野が存在感を出している。そうそう、ASBJ(企業会計基準委員会)のASAF(会計基準諮問フォーラム)・メンバー入りもその一つかもしれない。

 

もちろん、日本企業にこそガンパってもらいたい。そのために「より顧客志向に」とか、「製品でなく物語・体験を売る」とか、色々一般に言われている。しかし、我々会計に携わる者ができることは、よりシンプルで、ツボを押さえた管理上の視点を経営や現場に提供すること。根源的な問題にもっと早く気付いてもらえるようにサポートすることだろうと思う。

 

果たしてゴールできるかどうかは分からないが、志はそういうことに貢献したいと思っている。ダルビッシュ投手の活躍に接して、そんなことを思った。

 

さて、僕は、減損会計は投資とその効果を長期的視点で評価できる、従来の損益管理では果しえない重要な役割を担える管理手法と思っている。投下した資本以上のキャッシュを獲得することこそ、経営の根源的なテーマだ。だが、その減損会計をより経営に役立つ実用的、機動的なものにするには、固定資産台帳を修正する手間を何とかしなければ難しい。IFRSにおいても「個別の簿価修正」が求められているので、固定資産台帳の修正に手間をかけざるを得ない。しかし、これをどうにかできないか。

 

ただ、普通に考えれば、固定資産システムに減損損失を比例配分して簿価を修正したり、或いは、逆に減損の戻入に備えて復活させる機能を組込んでしまえばよいということになる。だが、それでは手間の問題を解決することにはなっても、「管理上の視点を経営や現場に提供する」ことにはまではつながらない。もっと、減損の意味をよく考えなくては。

 

 

ということで、実は、減損の意味をちょっと考えてみると、「個別資産の簿価修正」は、本来は、不要ではないかという話をこれからしたい。(しかし、基準にあるものを無視することはできない。念のために申し添える。) これには次のようなポイントがある。

 

  1. 減損の認識単位

 

通常の事業資産の減損は資金生成単位(≒資産グループ)で認識・測定するものであり、個別資産の簿価修正はその後の損益計算のために行う。ならば、個別資産の簿価修正以外の方法で損益計算が適正にできれば、本来は問題ないはず。

 

  1. 減損はビジネス評価

 

回収可能額を算定するために、資金生成単位ごとに将来キャッシュフローを見積るが、実際には「資産が生み出す価値」というより、むしろ「資産を使って人がビジネスで生み出す価値」を見積っている。しかし、「人がビジネスで生み出す価値」は自己創設のれんであり資産計上されないので、減損の対象にできない。そこで資産計上されている事業資産をグルーピングした資金生成単位が減損の対象となっている。したがって、個別資産と減損損失の関連は、本来薄く、直接的なものではない。

 

  1. 減損後の損益計算-償却方法や耐用年数の見積りの見直し

 

減損を識別したということは、当初の投資計画がかなり下振れしたことになるので、事業の前提に重要な見込み違いや予想外の事象が発生した可能性が大きい。その結果、資産の利用方法を含めた見直しが行われ、償却方法や耐用年数が変更されることは自然。(“必要”とは言ってない。)

 

また、「簿価=回収可能価額」になるまで簿価を切り下げるという減損損失の計算上、減損後の損益は、回収可能価額の見積り通りなら、概ね、トントンになっていくはず。(これは当然のことならが、その後の追加投資によって事業を立て直し、利益を上げられるようにしようとする経営努力を否定するものではない。) このような観点から償却方法や耐用年数が変更されることも自然。(これも“必要”とは言ってない。)

このような観点での減価償却計算の見直しは、個別資産の状況に照らしたものというより、ビジネスの状況に照らしたものなので、資金生成単位(≒資産グループ)ごとの総額で考えるべきかもしれない。即ち、固定資産台帳を個別に修正すべきではないかもしれない。

 

さて、みなさんから見て上記は、頑強な個別簿価修正への要求を切崩す有効な縦パスと思えただろうか。1 が総論で、2 3 1 の要素を個別に説明した形になっている。次回は、その 2 3 について、具体的な例を示して有効性を検証してみたい。そして、3/26の記事に記載した僕の奇策の問題点が解決できるか、トライしてみたい(次々回になるかも)。

2013年4月 2日 (火曜日)

232.【製造業】減損戻入~ちょっとボール回し

2013/4/2

早いもので、3月決算会社は新年度入り。アベノミクスで政府と日銀が賭けに出たので、今期は日本企業も勝負の年になりそうだ。これからは、どうやってイノベーションを起こすかが重要で、政府には規制緩和、民間にも新発想が求められる。しかし、会計に携わる者はどうやって、イノベーションに参加したらよいのだろうか。まさか、会計で太陽エネルギーの利用効率が上げられたり、蓄電技術を発展させられるわけはない。

 

こんな時こそ、引いて眺めて原点に立ち返ってみることが必要だ。会計とはそもそもなんだろうか。

 

みなさんもご存じの通り、会計は、経営に実態を見せる道具だ(教科書的な書き方ではないが、投資家より、まず経営の利用が先なのは当然の前提)。いままで、何を見せ、何を見せてこなかったか。見せてこなかった中に重要なものがなかったか、或いは、見せたものの中に誤解を生じさせるようなものはなかったか。

 

ある、ある。僕はそれを、例えば、減損会計の中に見ている。

 

日本基準では「減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識及び測定する(固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書)」とあるが、僕は「もっと早く、手の打ちようがある段階で」減損すべきと思ってる。手の打ちようがあるのだから、うまくいけば減損の原因が除去されて戻入が行われることもある(必ずしもそうなるわけではないが)。

 

このもっと早く減損を認識するメリットは、経営者が事業の内部・外部環境変化に敏感になること。企業のリスク管理能力の向上。即ち、意思決定を迅速にし、外部利害関係者がびっくりするような多額の減損が発生する前に対策を打てること。要するに損失の発生を減らしたい。もっと大事なところに目を向けられるように。ディメリットは、このシリーズで書いている手間の多さだ。製造設備が多額になる製造業には顕著に影響する。だが、メリットは大きい。やはり、ディメリットを軽減させなければ。

 

ということで、前回(3/28の記事)はIFRSでも固定資産台帳(=減価償却台帳)の修正は不可避になりそう、としたが、それを避けて、僕の奇策(前回の記事)が使える可能性を再度追及してみたい。

 

 

これに関連して、次の点が重要であることを前回確認した。

 

 (減損会計の目的)  資産価額が回収可能額を上回らないこと。

 (クリアすべき条件) 減損後の原価の期間配分(=減価償却)が適正に行われること。

 

そして、減価償却を適正に行うため(IAS36.63)、減損損失を個別資産に比例配分すべきこと(IAS36.104(b))を、IFRSは規定している。

 

減損後の減価償却のために、固定資産台帳の修正という手間が発生している。ただ、固定資産台帳を直せと直接書いてあるわけではない(これは日本基準も同じ)。しかし、個別資産に減損損失を比例配分せよ、減損後も適正な減価償却をせよ、と書いてあるから当然の帰結として固定資産台帳を直すと理解できる。(日本基準だと、事務負担に言及しているから、より固定資産台帳の修正を想定していることが印象付けられている。)

 

では、もし、固定資産台帳を直さなくても適切な減価償却ができるならば、直さなくてもよいか。そう、比例配分したのと同じ結果が得られるならば問題はないはずだ。いや、加えて、前々回(3/26の記事)に記載した僕の奇策の問題点も一つ一つクリアする必要がある。

 

と、改めて、進行方向を示したところで今回は終えたい。

 

どうも、サッカーの試合でいえば、攻めあぐねて、ディフェンス・ラインか中盤の底あたりでボール回しをしているように決め手に欠いた展開になっているが、相手は世界基準の名プレーヤーだからディフェンスも強い。あちこちボールを回して色々な角度で見なければ。しかし、次回こそは、ゴールに向かって決定的なスルーパスを出したい。(そしてゴールにつながるか・・・)

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