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2013年5月 2日 (木曜日)

242.【製造業】自主耐用年数と経営戦略(再度、壁パス)

2013/5/2

3/3の記事に記載した齋藤精一郎氏の近著「デフレ突破~第三次産業革命に挑む」をこのゴールデンウィークに読んでいる。あれほどべた褒めした齋藤氏の本だが、購入してから暫く放ってあった。立派なハードカバーの本というのは中々開く気になれない。しかし、読み始めてみると、「そうそう、そういうこと」とか、「ああ、そうだったのか」とか、「じゃあ、どうするんだ」などと、興味が湧いてきて、苦しいし、休み休みだが、何とか最後まで読み切れそうな感じだ。

 

本の概要は、3/3の記事に記載したURL(日経BPネット)をご覧いただきたいが、一つ、今のテーマである「自主耐用年数の設定」に関連しそうな話題に当たったので、今回は、そこだけ下記に抜き出した(P169の最後の段落~P170。太字は僕が強調したいところ)。

 

マイケル・ポーターは著作の中で「日本企業には戦略はない」と指摘する。競争戦略は消極的な側面と積極的な側面を持つが、日本企業は消極的な競争戦略に強く偏向しているとポーターは診断する。筆者が消極的側面と呼ぶものをポーターは「オペレーショなるな効率化」と呼び、それは戦略ではないと強調する。

・・・

筆者が「積極的な競争戦略」(ポーター説では、本来の「戦略」)と呼ぶのは、事業構造が鋭い歯を備え、それによって製品の開発・企画を行い、他社と差別化する独創的な戦略ポジションを持つことである。

 

一瞬、思った。マイケル・ポーターという人は、なんて失礼なんだろう。世界に冠たる日本企業に戦略ないなんてひどい物言いだ、と。でも、P171には次のようにある。

 

1996年時点でポーターは、「戦略を持つのはソニー、キャノン、セガくらいで、彼らはあくまで例外だ」と言う。

 

ん~、確かに、この3社はユニークかもしれない。「戦略を持つ」とはそういうことか・・・。

 

 

「どういうこと?」って、みなさんは思われたかもしれない。

 

これら3社に対する僕のイメージは、「業界横並び」とか「他社がやるからうちもやる」とか、そういう感じがしない会社だ。みなさんはいかがだろうか。

 

ただ、こういう会社は他にもある。例えば任天堂もそうだろうし、僕が監査人として関与していたいくつかの会社も、そうだと思う。顧客のニーズやその変化を、時には顧客が気付く前に察知し、どうやって製品・サービスを提供するかを真剣に考え、必要なら事業計画に落し込んで体制を整えていた。単なるセールス・トークでなく、同業他社と異なるオリジナリティにこそ自信を持ち、価値があると考えているようだった。同業他社より顧客(市場)を、しかも自分本位でなく客観的に見ていた。恐らく、外部(≒顧客)からもそのように見えることが、ポーターの言う「独創的な戦略ポジションを持つこと」なのだろう。確かに、日本企業には少なそうだ。

 

 

ここでふっと頭に浮かんだのが、「戦略のない事業計画」という言葉だ。

 

現状を引き延ばしただけの事業計画。現場に行かなくても机に座ったままで作れる事業計画。「どんな会社になりたい」という意図とやる気のない事業計画。冒険をしない、したがって真剣に事業リスクを考えない事業計画。そして、市場環境より法定耐用年数を優先した事業計画。即ち、少なくとも法定耐用年数分は事業を継続できるという安易な前提を置いた事業計画。これらの多くは、ちょっと外生的な環境変化を見込んで係数をいじっただけの“損益計画”として作成される。

 

こういう計画は、作成は楽だが、経営に重要な意味をもたらさない。でも意外に社内の評価は悪くないことが多い。恐らく、痛む人があまりいないうえに、一定の成長が見込まれているからだろう。意外と、こういう事業計画で満足している会社が多いのではないか? しかし、国内市場が縮小し、海外企業との競争が激しくなっている今の日本の環境では経営が危ない。こんな事業計画ではリスク管理ができない。

 

 

自主耐用年数の設定は、経営と意外に重要なつながりがある。

 

現在の厳しい経営環境においては、横並びの経営では、市場の縮小と一緒に、同業他社と一緒に、その会社も縮小せざるえない。ユニークな戦略ポジションを持った外国企業との競争にも勝てない。だから日本企業も戦略ポジションを持つ必要があるが、それには長期的な視点が必要だ。事業のライフ・サイクルを見据えることも必要だろう。それがたまたま法定耐用年数に一致するなら法定耐用年数を利用すればよいが、そうでない場合も多いに違いない。「手間がかかるから自主耐用年数を使わない」という日本の常識は、経営のあるべき姿とはかなり遠い。

 

さらにいえば、会社法、法人税法、会計基準のトライアングル体制維持のために法定耐用年数を維持・尊重せよなどというのは、いったい誰のための議論なのだろうか? このブログを始めたころの2011/7/12の記事にもあるように、トライアングル体制や確定決算主義の要の一つは、法人税法の減価償却制度、特に耐用年数にある。日本企業の繁栄なしに日本経済の繁栄はあり得ない。であれば、企業会計審議会は是非この問題を取り上げて欲しい。税法の減価償却制度と企業会計を切離すか、税法が企業会計を受入れるかだ(これについては前回4/29の記事に記載した)。

 

 

ところで、日本的経営は長期志向と言われるが、戦略のない経営は長期志向の経営といえるだろうか。ポーターの言うとおり、日本企業に戦略がないとすれば、多くの日本企業の経営は長期的な視点を持っていないのか。いや、そうではない。別の面の長期性を持っている。

 

この製造業シリーズを始めたころの2012/9/22の記事にも関連事項を記載しているが、日本的経営は従業員や取引先、さらに地域社会との長期・継続的関係を基礎にしている面が、今でも大きいと思う。しかし、その一方で、戦略性という意味での長期性は薄い。なぜ、そうなのだろうか。もしかしたら、この2つの長期性は相容れないものだろうか。両立させることはできないか?

 

例えば、戦略性を優先させれば、工場を海外移転させることへの必要性が高まる可能性が高い。すると国内が空洞化するので、前者の長期性が損なわれることになる。或いは、「タイの人件費が上がったらミャンマーへ移転する」のでも同じだ。タイの雇用が減少し、その地域社会との縁が切れる。確かに、トレード・オフ関係の一面がありそうだ。

 

 

このバランスを、みなさんはどのように考えられるだろうか。

 

このテーマはあまりに大き過ぎて、僕の手には負えない。だが、仲間、人の縁を大事にする日本的経営も、事業があってこそ成り立つものなので、事業、そして企業の存続自体が危うくならないよう、戦略性を持たなければならないと思う。この辺りに関しては、2012/10/15の記事の末尾にも記載したように、日本の製造業は、現状や既成概念の捉われず、もっと投資家のように大胆な発想をもってよいのだと思う。

 

但し、過去の欧米諸国、或いは欧米企業のように、進出先を植民地のように扱う強欲な振る舞いは、日本的経営には合わない。2012/12/15の記事にも書いたように、欧米企業の一部は今もそのような振る舞いをしている。一方で、例えばフェア・トレードなど、サプライ・チェーン全体について、“持続可能性”をキー・ワードにしたガバナンス体制の構築にも動き出しているが、それは国内顧客向けの“演出”の域を出ないとの見方もできる。日本及び日本企業のように、現地とWin-Winの関係を築くことを目指していると、欧米企業の場合は、素直に言えないかもしれない。

 

日本も過去に、朝鮮半島や中国で悪事を行ったが、そういう例外的な時期と地域を除けば、国際的に良いイメージを持たれている。この部分、そしてそれを生み出す現在の日本人や日本企業の気質は、欧米企業との差別化が可能なので、ポーターの言う戦略ポジションを持つための重要な資源になるに違いない。

 

残念ながら、僕にはこれ以上のことを書く能力がない。あとは、個々の企業やこのブログを読んでくれるみなさんにボールを預けるほかはない(ということで、再度、壁パスをさせていただく。みなさん、がんばってください!)。ただ、最後に一つだけ、強調させていただきたい。是非、日本企業も、経営戦略を持つとともに、自主耐用年数を設定してください。

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