247.【製造業】「減損はビジネス評価」と問題点の B、D、E
2013/5/22
5/16のラストパスの記事に記載した奇策(改定版)で、3/26の記事にある当初の奇策の問題点が解決されるのかについて考えてみたい。解決できるのであれば、減損時、或いは、減損戻入時の事務負担が大幅に軽減される可能性がある。5/10の振返りの記事に問題点の箇条書きを再掲したが、そのうち、今回対象とする B、D、E をもう一度下記に転記する。
(奇策の問題点)
B. 除却、移動時に減損損失累計額の個別資産ごとの明細が必要だが、奇策ではその明細がない。
D. 減損は資産評価手続だから、個別資産ごとに評価額を持つことが自然だが、奇策だとそれがない。
E. 奇策では、減損損失累計額は、明細不明で管理不能の危ない勘定になる可能性がある。
勘の良い方は、どのように解決していくか、もう見当がついたかもしれない。しかし、諄くて申し訳ないが、引続き、下記をお読みいただけるとありがたい。
(B、D、E の共通点)
これらは、「減損損失累計額が個別資産ごとに配分されず、明細がない」ために生じる問題であることが共通点だ。これに対しては、「減損はビジネス(≒資産グループ)の評価手続である」(4/9の記事)ことが、ポイントになる。即ち、そもそも、減損は“個別資産”の評価手続ではないから明細は不要ということだ。
(まず、D と E について)
ご注意いただきたいが、減損会計は、会計基準上、あくまで対象資産を評価する(=回収可能額を超えないことを確認する)ために行われる。そして減損損失は、(IFRSでも日本基準でも素直に読めば)個別資産に配分され、個別資産の簿価が修正されるから、減損会計は“個別資産”の評価手続のように思われる方もいるだろう。しかし、その計算プロセスを見る限り、その認識は正しくない。評価対象は、固定資産台帳(=減価償却台帳)上の個別資産ではなく、“一定単位のビジネス”に必要な資産の集合である資産グループだ。この“グループ”である点が重要だ。
減損会計は、その“一定単位のビジネス”からの将来キャッシュフローの見積りを利用するために、その資産グループに直接関係のない(もちろん、間接的には関係がある)外部環境、内部環境の変化や見込み違いなどが、評価額(=回収可能額)に影響を与える。例えば、“新興国の予想を超える生産力・技術力の向上による当社製品の競争力低下”、“東日本大震災を機会に顧客が調達を多様化し、当社製品需要が減少”、“顧客ニーズの調査・把握が不十分で売上予想を読み違え”といったことが、生産設備等の評価額に影響を与える。
この影響は、個別資産ごとに、それぞれ別個にあるのではなく、ビジネスの単位である資産グループ全体としての影響だ。したがって、減損損失を個別資産に直接関連付けられないので、IFRSでも減損損失の個別資産への配分は、個別の因果関係に基づくのではなく、“比例配分”によるとされている(IAS36.104(b))。だとすれば“比例配分”されたあとの個々の資産の評価額にたいした意味があるとは思えない。
ただ、同じような“比例配分”は、原価計算でも行われる。では原価計算の“比例配分”もあまり意味がないのだろうか。例えば、固定費を、製品と何らかの関係を見出して、その比率で配賦する。しかし、減損と異なるのは、原価計算の場合は製品が個別に販売されていく、即ち、原価を配賦される製品がそれぞれ独立していることだ。それに対して減損の場合は、資産グループとしてのまとまりがあってビジネスとしての価値があるのであり、バラバラにしたら“別もの”になってしまう。(ビジネスとしての価値には自己創設のれんとしての価値が含まれるが、バラバラの個別資産には“もの”の価値しかない。)
ということで、減損損失(累計額)は、資産グループごとの金額に意味があるのであって、比例配分された後の金額は機械的な計算上のものでしかない。したがって、D は減損について“個別資産の評価手続”という誤解に基づく問題認識であり、また、E のような明細は、そもそも必要ない。・・・と僕は思う。
(次に B について)
但し、減損損失(累計額)を、資産グループより細かくする場合がある。
例えば、B/Sへ表示する際に、建物や機械設備といった勘定科目ごとの減損損失累計額が欲しいとか、利益・原価管理上、プロフィット・センターやコスト・センター単位に分かれていないと困る、といったケースがある。そういう時は“比例配分”することになる。
また、資産グループの中核を担う資産とか、その資産を欠くとビジネスが変わってしまうような重要な資産を移動させ、別の事業で利用するケースもある。或いは、除却するケースもある。そのような場合は、資産グループが変質するので、減損損失(累計額)をそのままにしておく理由はなくなる。そういう場合、“比例配分”が必要になる。
例えば、例のスープ製造工程(4/9の記事)で言えば、小麦粉などの原料を倉庫から工程へ運搬するフォークリフトの所属を倉庫課へ移動して、スープ製造工程と関係のない原料や資材の運搬にも使う場合を考えてみよう。スープの生産量が見込みほどでないため減損になったということは、原料の運搬量も見込みより少ないので、スープ製造工程直属のフォークリフトは必要ないかもしれない。すると、フォークリフトの所属を変更してもスープ製造工程のビジネスは何も変わらない。ビジネス評価の結果としての減損損失累計額も変える必要はない。僕は、このような個別資産の移動であれば、フォークリフトに対応する減損損失累計額を動かさなくてもよいと思う。固定資産台帳だけの移動処理を行えばよい。
その結果、このフォークリフトは減損の対象から外れるので、フォークリフトの簿価が減損前の簿価に戻ってしまい、評価益を計上することにならないかと心配される方がいると思う。しかし、それは倉庫課だけを見ているからで、スープ製造工程を含めた全体で見れば問題ない。
また、減損対象となったフォークリフトでも、フォークリフトとしての機能が劣るわけではない。だから、フォークリフトの減価償却費は、減損前の簿価をベースに計算され、倉庫課で計上される。そして倉庫課の原価は製造間接費としてスープ製造工程やその他の工程へ配賦される。これで良いのではないだろうか。
一方、タンクや撹拌設備、温度管理、湿度管理の機能を失うと、もう、スープを製造できないか、品質の低い製品しか製造できなくなる。これらの資産にはビジネスが変わってしまうほどの重要性がある。であれば、ビジネス評価の結果である減損損失累計額をそのまま維持する理由はない。このようなビジネス上の大きな方針変更を伴う移動、除却をするなら、減損損失累計額も“比例配分”して、個別資産と一緒に動かさざるえないと思う。
また、このようなケースでは、スープ製造用に特注された設備であることが多いと思うので、そのまま他の用途に転用するのは困難だ。余分なコストがかかる。即ち、価値が低いので、減損損失累計額を伴って移動させる意味がある。(仮に汎用性の高い設備の一部が遊んでいて、現状の生産量を減らさずに、他の工程へ容易に転用・移動できる場合がもしあれば、ビジネスに影響ないので重要性がないと判断すると思う。)
ということで、B については、ビジネス上の重要性のない個別資産であれば、普通に固定資産台帳上の移動・除却だけ行って、減損損失累計額はそのままで良い。・・・と僕は思う。よって、減損損失の明細は必要ない。
但し、“比例配分”を行う場合、明細がない状態でどうやって適正に“比例配分”するか、については別途検討する。即ち、いったん減損した後に、例えば数年後に移動・除却をする場合、固定資産台帳上の個別資産はそれぞれの耐用年数と償却方法等に基づいて減価償却が進んでいる。減損後に新規に取得された資産や除却された資産もあるかもしれない。そのような状況では、固定資産台帳上の簿価比率では適切な“比例配分”ができない可能性がある。そこで、何の比率を使うのが良いかについて、別途検討する。(これが「償却可能額」だ!)
(マイナスの減価償却費)
ところで、個別資産を移動・除却しても減損損失累計額を動かさない場合は、ちょっと妙なことが起こる可能性がある。その後の期で、減損損失累計額の戻入額が減価償却費を上回ってしまい、その資産グループの減価償却費がマイナスになってしまうかもしれない。例えば、備忘価額まで減損したあとで個別資産を移動した場合など。このようなマイナスの減価償却費は“あり”だろうか。
やや込入ってきたので、この話の続きと残りの問題点 A と C については、次回以降に繰り越す。
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