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2013年6月 2日 (日曜日)

251.ちょっと寄り道~市場価格

2013/6/2

東京株式市場では株価が暴落している。ちょうど良い機会なので、市場価格なるものが一般に思われているほど頼りがいのあるものではないことを書いてみたい。しかし、僕は市場価格や会計における時価評価を否定しようというのではない。頼りがいはなくても現時点では市場価格がベストなので、頼りないということをみんなが理解しながら、使えるところに使っていくのが良いと思っている。

 

さて、日経225を見ると5/22終値に対し5/30終値では13%の下落となり、5/31は持ち直したものの、まだ調整は続くらしい。これからどうなるかが多くの人たちの関心事だ。そんな時に、今後の株価の動向について、予想めいたものを書く。但し、それは株価という市場価格の特徴を示すためのものであり、僕には株価を読む能力などないので、上がる・下がるについては、あまり気にされないようご注意いただきたい。

 

 

みなさんも、新聞等でご存じのように、昨年11月末からずっと円安・株高がほぼ一本調子で続いてきた。外国為替にしても株価にしても、市場価格の変動には解説が必ず必要で、解説で正当化できない場合は、行き過ぎた相場であるとか、バブルなどと言われる。では、今回の円安・株高を正当化してきた理由とは・・・

 

 ◆ 日本経済の構造的変化(貿易収支・経常収支に現われている)

 ◆ 日銀の金融緩和(アベノミクス、インフレ期待の高まり)

 ◆ 米国経済離陸の兆候(FRBQE3縮小のタイミング)

 

貿易収支の赤字、経常収支の黒字縮小が定着してきて、そろそろ円相場の方向が変わるのではないか、という雰囲気があったところへ、米国失業率改善の兆しや野田首相による衆院議員解散がショックを与え、一気に、円安へ、そして円安なら輸出企業の業績回復が日本経済全体に良い影響をもたらすとして、株価も上昇を始めた。総選挙は自民党が勝利し、アベノミクスも次々に矢が放たれ、黒田緩和とか、黒田バズーカと呼ばれる日銀の質的・量的緩和も行われた。この間、米国失業率の低下は、FRB(米連邦準備理事会)のQE3(量的緩和第3弾)の終了時期を早めることから米国金利の上昇を引起すとされ、円安・日本の株高をサポートするものとされてきた。

 

5/23に東京株式市場の株価が暴落したということは、これらの要因が変化したのだろうか?

 

 

きっかけは、HSBC(英国系金融グループ)の公表する中国製造業購買担当者景気指数(PMI)が7か月ぶりに49.6と、市場予測を下回り50を切ったことだった。それが香港市場経由で東京市場へ入ってきた。特に、東京では株価大暴落。しかし、その後は(中国のPMI50を少し切ったぐらいで東京の株が暴落するはずがないから、)日本時間の前夜に行われたFRBバーナンキ議長の議会証言が理由だとする解説が増えた。

 

しかし、バーナンキ氏の議会証言には、2つの見方があるようだ。1つは従来と何も違うことは言ってないという見方、もう一つは9月ごろからQE3の縮小を始める可能性を示したという見方。僕のイメージでは、前者の見方をする人は議会証言の一言一句を正確に見ていて、後者の見方をする人は、最近の比較的良好な米国の経済指標や他のFRBメンバーの最近の講演から独自の“読み”を加えたり、米国の有名解説者の意見などを伝えている気がする。

 

まあ、どちらであっても、本来はバーナンキ発言で東京の株が暴落するはずはない。なぜなら、前者の何も新しいことを言ってない、ということなら相場に影響ないはずだし、後者の金利上昇の可能性を示唆した、ということであったとしても、それなら円安になるのではないか。むしろ、株価の上昇をサポートするはずだ。

 

では、なぜ暴落? どうやら理由は2つあるらしい。

 

一つ目は、この数週間の東京株式市場の上がり方が異常であり、そこにバブルがあったというもの。もう一つは、バーナンキ発言が投資家の弱気(リスク・オフ)を惹き起こしたというもの。この2つが重なり合って、東京だけ株価が暴落したということらしい。(欧米市場等はそれほど下落してない。)

 

今後についての大勢の見方は、上記の3つの円安・株高の理由に変化はなく、日本経済のインフレ率、成長率が高まるという期待が維持されているので、暫く株価は乱高下するものの、そろそろ落着くはず。その後はより緩やかな上昇軌道が回復する、というものだ。但し、アベノミクス第三の矢である成長戦略がその期待を支えているので、6月半ばに取り纏められるものに注目が集まっている、という。

 

 

さすが、マーケットは金融緩和だけでなく成長戦略も見ていたのか! やはりそれが大事だな!! と共感するし、感心もするが、ちょっと待て、という気もする。確かに、日本中心に見ていればそうなるが、もっと引いて眺めて見た方が良いのではないか、という見方もちらほらある。

 

米国の投資家は、日本の成長戦略よりFRBQE3の行方の方が気になっているのではないか。レバレッジをかけて多額の負債を調達して投資を行っている投資家にとって、金利の上昇はコストになる。また、米国市場はこのところ史上最高値を更新してきたが、企業業績改善という実態を伴う上昇ではなく、金融緩和によるカネ余りの株価上昇だった。そのためQE3の縮小が見込まれると、米国の株価が崩れるのではないか。米国で損失を抱えるか、抱えそうな投資家の資金は、急速に日本市場から流出していくのではないか。いま、ちょうど投資資金の巻き戻しの途中にあるのではないか。

 

来週発表される米国の失業率は、この意味で大変注目される。改善される、或いは、比較的良好な状況を維持する、と予想する人が多いようだ。しかし、問題は失業率の良否ではない。良い失業率が円安・株高につながるのか、それとも逆に円高・株安になるのか、だ。

 

もし、従来の「米国失業率改善⇒円安・株高」が継続しているなら、今の大勢の見方のように、日本の株価も、早々に調整局面を脱することができるかもしれない。

 

しかし、米国失業率が改善されると、QE3の縮小観測による金利上昇がより強く意識され、従来とは逆に円高・株安に強く振れるかもしれない。即ち、「米国失業率改善⇒円高・株安」だ。今度は日本より米国の株価の方が下げがきつくなるかもしれないが、日本でも煽りを食ってまだ下げるかもしれない。すると、調整局面は継続される。

 

注目の第三の矢である成長戦略も、今のところ参議院選挙前は痛みの少ないものしか取上げられないと予想されているので、マーケットの評価は低く、6月中旬以降も調整局面が継続する、とも考えられる。

 

 

さて、みなさんはどちらのストーリーを支持されるだろうか。或いは、もっと違うストーリーを予想されているかもしれない。しかし、考えれば考えるほど分からない、先のことは。

 

分からないけど、一つ僕の印象に残るのは、市場価格って信頼していいの? という疑問だ。みなさんはそう思われなかっただろうか。こんなに乱高下していても、そのとき、そのときの企業価値として正しいのだろうか? 企業価値ってそんなに上がったり下がったりするものなのか?

 

市場価格には、バブルを含むなど完全でないと批判があることは、以前このブログでも石川教授の意見として紹介した(2011/7/10の記事)。今回の大暴落プロセスを辿っていくと、大暴落したからバブルがあったと分かるのであり、5/23以前は、「グレート・ローテーション」などと言って、債券市場から株式市場へ資金がシフトして株価上昇が加速したとか、企業が業績予想の前提となる為替レートを慎重に見過ぎているので、それを補正すれば急上昇の株価を正当化できるなどという解説もされていた。しかし、これらの解説は、暴落後は聞かれなくなった。僕はこれらの解説が間違っていると言っているのではない。むしろ、今もリアリティのある説明だと思っている。ここで大事なのは、事前に分析・解説されていた内容とは全く違う要素で、5/23の株価が大変動したことだ。

 

なぜ、5/23に限って、QE3の縮小観測が株価の下落を引起したのか。それまでQE3の縮小は、円安・日本の株高の支援材料だったのに。そもそも、QE3と企業価値がこんなに強い相関関係を持って良いのだろうか? それは、米国投資家の気の迷いとか懐事情に過ぎないではないか。多くの個別の企業とは何の関係もない。

 

 

 

しかし、こんな怪しい市場価格でも、会計上の見積りとして他に勝るものはない。なぜなら・・・

 

 ◆ 市場の価格形成の仕組み(客観性)

 

市場価格の形成に、特定のプレーヤー(例えば経営者)が大きな影響力を行使できる状況でない限り、市場価格には客観性がある。市場には、様々な考え方の投資家が参加しており、それらの意見・期待・予想が集約されて価格形成される。例えば、株式市場であれば、主に企業研究で投資先を決める長期投資家、マクロ経済指標の変化に着目する短期投資家、単に値動きに反応するだけの超短期投資家など、色々な見方をもった投資家が市場に参加する結果、様々な要素が考慮されて価格形成される。

 

 ◆ キャッシュ・イン・フローを実現できる価格(確実性)

 

もし、そのとき売りに出していれば、恐らく市場価格付近で売却できていただろうから、キャッシュ・イン・フローを見積るのに、最も的確、可能性の高い価格である。

 

要するに、株価は、その時々の需給の結果決まるものであり、ときどき激しく変動する。したがって、必ずしも企業価値を正確に反映したものでないが、客観性と確実性の点で他に勝る方法がないので、市場価格のあるものは優先してそれが使用されている、ということだと思う。

 

したがって、株価があまりに企業価値とかけ離れ、客観性・確実性というメリットをディメリットが超えるような場合や、市場の価格形成に問題があってメリットであるはずの客観性・確実性が十分でない場合は、会計上、株価に修正を加えることもあり得るはずだ。

 

しかし、それは極めて限定的な場合のみであり、IFRSを逸脱するほどの覚悟が必要になる。いや、実際にはこのような問題の存在を客観的に証明することは困難だから、理屈上はあり得ても、現実は無理かもしれない(監査人もOKしない)。例えば今回の株価の大暴落の前後に決算日を迎えたとしても、修正・調整された株価が株式評価に使用されることはないだろう。

 

むしろ、財務諸表の読み手に、市場価格による評価は完全ではないし、時には大きく外れることさえあると普段から教育しておいた方が良いと思う。評価損益は有益な情報ではあるが、事業利益の情報とは、自ずと価値が異なる。「事業損失を評価益でカバーした」などという財務諸表の読み方は、正しくない。

 

或いは、本当に、一国の経済全体に影響するほどの重大な問題があれば、いち早くASBJやIFRS財団の東京事務所が動いて、IFRSの解釈や運用を明確化する体制も整えておくべきかもしれない。リーマン・ショックのときは、サルコジ大統領がIASBにプレッシャーを与え、IASBが正式な基準改定手続に依らず金融商品の評価規程を変更したことがあるが、今後も、そういう要求がなされるかもしれない。これはIASBのガバナンス問題として取り沙汰されているが、市場価格が完全ではないことを踏まえ、事前に対応方法を整えておくことの方が、適切な対処かもしれない。例えば、最近の世界的な金融緩和は、そういう要求を起こさせる可能性を高めているかもしれないし。

 

 

さて、5/28の記事では、株式市場価格を見積りと書き、日経225のその時点での下落幅10%程度なら見積りの精度としては良い方、とも書いた。市場価格の中にはもっと変動の激しいものもある。例えば、レアメタルの一種は、中国の輸出制限で価格が数倍に高騰し、その後は需要の低下から逆に暴落したという。株式の個別銘柄の変動幅が、日経225より大きいこともざらにある。今回は、そんなことに対する私見を書いてみた。

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