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2013年6月 4日 (火曜日)

252.【製造業】減損後の減価償却方法~IASB公開草案「減価償却及び償却の許容される方法の明確化」の観点から

2013/6/4

今夜は、サッカー日本代表のオーストラリア戦。2014年ブラジルW杯への出場を決める大事な一戦だ。勝敗表を見る限り日本のW杯出場はほぼ決まりなのだが、ブルガリア戦の敗戦を踏まえ、ザッケローニ監督も選手も慢心を戒め結束を固め、士気を高めているようだ。期待が高まる。

 

 

さて、このところず~っと、減損や減損戻入の事務負担を如何に軽減するかということで、減損損失累計額勘定を上手に利用すれば、減損資産の個別簿価を修正しないことも考えられるのではないか、という提案について書いている。今回は、減損後の減価償却方法をどのように決めるかについて検討してみたい。

 

ここまで読んで、「減損で、減価償却方法が変わる?」と思われた方も多いかもしれない。しかし、減損の兆候がある状況とは、将来キャッシュフローで投資を回収できない恐れが生じているということだ。即ち、企業が投資回収管理に基づく事業管理をしているなら、事業の先行きに赤信号や黄色信号がともっていると認識した状況だ。ここで事業の立直しを図るなら、事業全般を基本に戻って再検討し、新しい事業計画を策定することになるだろう。だから、事業ライフ・サイクルの想定や、事業資産の使い方も変わる可能性がある。すると、耐用年数や償却方法も見直される可能性があるはずだ。

 

そして減損が発生していると認識された場合は、事業環境やその運営能力等々の重要な経営要素に、想定していなかった変動や不備があったという可能性がさらに高いはず。単なる兆候の場合より、見直しが入る可能性が高まっても不思議ではないと思う。

 

ところで、「減価償却方法」といえば、公開草案「減価償却及び償却の許容される方法の明確化」が公表され、4/2までコメント募集されていた(2013年の第4四半期にIAS16「有形固定資産」とIAS38「無形資産」の修正という形で、IFRSへ反映される予定)。ちょうど良いので、この公開草案を参考にしながら考えてみようと思う。

 

 

この公開草案のテーマは、「IFRSは収益ベースの減価償却方法を許容していないと、明確に表現すること」だった。その裏には、「収益ベースの減価償却方法」が誤解により使用されている状況があるとか、「収益ベース」と「消費ベース」の違いが分からない、といった問題提起があったのだろう。僅か数ページの短い公開草案だが、ポイントは2つだと思う。

 

 

 1.収益ベースの減価償却方法はNG

 

身近な例を挙げると、日本でしばしば見かける注記の書き方だが、「収益費用対応の原則により、定率法を定額法へ変更する」という表現は微妙な感じだ。例えば賃貸資産などで、「賃貸料収入が平均的・安定的に発生することを考慮し」などと記載されていたら、かなりヤバイ。収益ベースの減価償却方法と誤解される恐れがある。しかし、賃貸資産の使用状況が平均的・安定的に見込まれるということであれば、OKだろうと思う。

 

 2.定率法が妥当となるケースの明示

 

将来の販売価格の下落を予想している場合に、それが技術的・経済的陳腐化によるものであれば、定率法が妥当となる可能性がある。一方で、将来の販売数量の減少を見込んでいる場合は、生産高比例法がイメージされているようだ。

 

1の方については「なるほど」と思えても、2の方については、ちょっと違和感を感じられる方が多いかもしれない。実は僕もそうだ。例えば・・・

 

販売価格の下落も、販売数量の減少も、いずれも陳腐化が原因となりうるから、価格面と数量面をこのように区分する理由などなく、どちらも定率法で良いではないか。

 

日本では、生産高比例法は総生産量が合理的に見積り可能な、例えば埋蔵量が推定できる鉱山とか、飛行距離を限定できる飛行機やヘリコプター、走行距離による車両などにしかイメージされない方法だ。あまり使う機会は少ないように思う。そもそも、通常の製造設備など、総生産量を見積れるのか? 或いは、見積らなければならないのか?

 

実はこういうところに、微妙な、でも、重要なIFRSと日本基準の差があると思う。なぜなら、投資回収計画とリンクした事業計画であれば、販売価格や販売数量の推移の他に、総生産量などの予想もなされているはずだからだ。即ち、IFRSには、事業計画を眺めれば減価償却方法を決めることができるという前提があるように思える。

 

しかし、日本で良く見受けられる損益計画だけの事業計画であれば、そうならない。そういう事業計画なら総生産量の想定は不要だろうが、それでは投資回収は管理できない。そういう企業では投資回収管理がなされていない。(ただ、欧米企業が生産高比例法を多用しているかというと、僕も知らない。正直言って、実態は分からないし、理想論・規範論的なところもあるように思う。)

 

またその話か、と厭きられそうだが、僕には大事なところに思える。投資回収管理が、戦略的経営のベース、必要不可欠な経営インフラの一部と思うからだ。

 

この公開草案の結論の根拠(BC4BC5)を見ると、収益ベースの減価償却方法が容認されうる稀なケースとして、映画放映権(無形資産)が例示されている。映画放映権は、当初は多くの人に視聴されるが急速に需要が減少し、「広告収益が、視聴者数と直線的な関係を有する範囲で、視聴者数と同等のものとして役立つ可能性がある。」と書かれている。要するに、収益ベースの減価償却方法であっても、視聴者数による生産高比例法(=消費ベースの減価償却方法)と同じような結果をもたらすなら、容認しうるということだ。このように販売予想数量の変化は生産高比例法がイメージされている。

 

また、映画放映権は無形資産なので、最大生産量に物理的な制約はない。しかし、それを想定しなければ投資できない典型例だ。本質的には製造業の設備投資も同じで、一定規模以上の新規投資案件では想定されているはずだ。(但し、色々な製品を生産できるフレキシブルな製造組立ラインへの投資のように、現実は単純に生産量で表現できないことも多いとは思うが。)

 

そしてその直後(BC6)で、「予想される将来の販売単価の下落は、技術的又は経済的陳腐化・・・の結果として・・・、定率法を適用する場合に関連性を有する可能性があることを明確にする提案をしている。」としているので、予想販売数量と予想価格の変化の影響を、減価償却方法の選択において区別していることが見て取れる。

 

では、数量と価格の両方が減少・低下する場合は、どの減価償却方法を適用すればよいのか? それについては記載がない。記載のないことは、企業の実情に合わせて(=どちらの要素が資産の消費パターンに重要な影響を与えるかとか、より明確に予想可能なのはどちらか、などで)判断することになる。

 

 

さて、以上は、この公開草案による減価償却方法の決め方の一般論だが、この記事のテーマは、減損後の減価償却方法の決定方法だった。でも、その場合も大差ないと思う。むしろ、すでに数年間事業を行い、色々苦労をしてる分、新規設備投資案件より具体的な想定をしやすいのではないだろうか。

 

一つ注意が必要なのは、テール・ヘビーな(=後へ行くほど生産量が増えるような)事業計画は想定しにくいことだ。いや、現状を大きく改善するための事業計画だから、追加的な投資によって良い将来像が描かれることも当然ありえる。しかし、償却方法が適用されるのは、その追加投資が行われてない現状の資産だ。しかも、減損テストの見積りには、現状の機能を改善又は拡張するような追加投資を見込むことはできないから(IAS36.44)、それと整合させるのが合理的だ。したがって、事業計画から追加投資のような“将来事象”を取り除き、消費パターンを認識することになると思う。その結果、定額法か、定率法か、或いは、徐々に逓減するような生産高比例法といったものが選択されると思う。

 

 

もし、この公開草案に興味を感じて読んでみたいと思われた方は、次の言葉遣いに注意されると読みやすいと思う。

 

 ◆「経済的便益が資産から創出されるパターンを反映するもの」

これが上記の「収益ベース」であり、減価償却方法としては否定されている。

 

 ◆「経済的便益の予想消費パターン」

これが上記の「消費ベース」であり、これによって、減価償却方法を決めるべきとされている。

 

日本語版も、IFRS財団のHPに掲載されている。ちなみに、以前(4/16の記事)も書いたが、日本語で「定率法」と訳されているものの原語は、「The diminishing balance method」であり、日本でいう「定率法」より幅が広いように思われる(但し、英文会計に詳しい人からは、一笑に付されるかもしれない)。

 

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